LAST UPDATE 1999.6.15
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■8力-STRENGTH-
躯が燃えるように熱い。 体温はとっくに限界を超えている。 体内のありとあらゆる水分は蒸発し、 細胞の抜け殻だけが 辛うじてかつての姿を保っている。 眸を開くと、 深紅の炎を纏っていた。 熱い筈だ。 濃い闇の反射を受けて 炎はなお一層赫く深く蠢く。 意志を持つ一個の存在のように。 そして、炎に恐怖し 逃げ惑い混乱する 生命達の気配。 炎が明るすぎて その数は把握しきれない。 だが間近に迫った生命の鼓動に 動揺する。 「近づくなッ!!」 振り払った腕から 風に煽られた炎が飛び出し 周囲の生命を焼き落とした―――実感。 一瞬のうちに 骨も、灰すら残さず飲み込む 無差別な炎。 慌てて飛びずさる。 その軌跡を追って 炎が虚空を舐める。 だがこちらが退いても 恐慌状態の生命が 炎に吸い寄せられては散って往く。 「離れていろッ!!」 叫ぶ声にも炎が混じる。 ぼうっ、と燃え上がる紅蓮の炎。 またひとつ、小さな生命が弾け飛ぶ。 駄目だ。 これではマイナスにしか作用しない。 炎そのものを どうにかしなければ。 この世界で唯一 炎に触れても焼けないものは ―――――俺だ。 ならば。 躯の中に取り込めば好い。 方法? そんなもの、知っている訳がない。 それでも。 無駄に暴れるな。 無闇に恐怖を植え付けては いけない。 この器の中ならば どれ程荒れ狂おうと構わない。 全部俺が引き受けてやる。 『来いッ!!』 深呼吸をするように 猛る炎を体内に封じ込む。 体温が更なる高さへと跳ね上がる。 耐え切れなくなった細胞が 崩れ始める。 これはもはや人間の温度ではない。 喉、皮膚、眼窩、 全てを焦がし、焼き削りながら 収まるべき場所を求めて咆哮する炎。 同化が始まる。 灼熱の火塊が 新たな細胞へと変化する。 躯中を炎が駆け巡り 血液の代わりを果たしてゆく。 未知なる力が そこかしこに蓄積されてゆく。 コントロールできるか。 競り勝った者が意志を支配する。 そして―――負ける訳にはいかない。 喩え破壊の炎でも 他のカタチに生かす事はできる。 この力で もうこれ以上 他の何物をも傷つけないように。 コントロールしてみせる。 この存在が 恐怖ではなく慈の糧となるように…
突然 両の掌から二柱の焔が噴き出し 鮮やかな青を残して消えた。 なんだ、エールでも送ったつもりか? …おかしな奴だ。 ま、これから先は一蓮托生。 宜しく頼むぜ。 そうだ、名前が要るな。 これからお前をこう呼ぼう。 ――――――――と。
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