思いの果てに

 

             眠れない夜が続く。

             気が付くと朝になっていた。
             中で寝ている者を起こさないように注意を払い、高耶は外に出た。

 

             外は完全に明るくなったわけではない。しかも霧が薄っすらと出ていて見通しが悪かった。
             高耶は川沿いをゆっくりと歩きはじめる。
             目的地があるわけではないが一人でじっとしているのが妙に苦痛だった。
             しばらく歩いたところで岩に腰を下ろす。川の流れを感じながら高耶はそっと目を伏せた。
             と、その時、後ろから不意にガサッと音がした。驚いて高耶が振り返る。

             そこに居たのは…・・千秋だった。
             二人の間に一瞬緊迫した空気が流れたが、

             「よぉ、何してんだよ」

             拍子抜けなおど気軽に話しかけてきた。
             千秋は敵意も警戒もしていない様子だったが高耶の方は違った。
             敵意をむき出しにして千秋を睨んでいる。憎しみと悲しみに満ちた目で・・・。
             しかし千秋はその瞳の真意を探る事なくこう言った。

             「そんなに睨むなって、別に今は戦おうと思ってるわけじゃないんだからさ」

             千秋は落ち着いた様子だった。―静寂が続く。どちらも何も話そうとしない。
             どれくらいの時間が流れただろうか、それは時間にしてみたらものの1、2分なのだろうけど、
             体感時間にしたら
1時間いや、もっと長い時間に感じた。

             「知ってるのか」

             ふいに千秋が口を開いた。高耶がはっとして顔を上げる。

             「やっぱりな。それで気落ちしてんのか」

             知っていると言う事は高耶の・・・景虎の魂の終わりが近いと言う事。直江にこの間聞かされた。

             「おまえには…関係ないだろ」

             吐き捨てるような言い方。

             「関係ない・・・か。まったく、それが400年も一緒に居てやった俺に言う言葉かよ」

             しばしの時間をあけて高耶がぼそりと呟いた。

             「織田に寝返ったくせに」

             千秋は何も言わない。顔色さえも変えなかった。それが何だか高耶の中で不快に感じた。
             ひょっとしたら何か訳があって織田にいるのではないかという甘い期待を抱いていたのかも
             しれない。 しかし、その淡い想いも打ち消されてしまったたしい。

             「・・・・ぬな」

             千秋が急に立ちあがって高耶に近寄ってきた。
             高耶の目線と同じ高さに目線を持ってきて高耶を見つめる。
             高耶も見つめ返した。憎しみを込めて。が、ふと千秋の眼差しが柔らかくなったかと思うと
             手が伸びてきた。
             気が付くと高耶は千秋に抱きしめられていた。わけがわからずに高耶は動けない。

             「・・・・ぬなよ」

             (え?)

             高耶は何を言われたのか聞き取れなかったが、次の言葉はしっかりと高耶の耳に届いた。

             「死ぬな景虎。俺達置いていくなよ」

             その声が涙混じりになっていたことに高耶は気がついた。

             (千秋が……泣いている?)

             千秋は高耶を抱きしめる手に力を込める。まるで逃がしはしないというように。

             「おまえが・・・・おまえが一番知ってるだろう?愛する者を失う痛み。耐えられなかったんだろ。
             だから小太郎を直江だと思いこんだんだろ。俺達にもお前と同じ気持ち味合わすのかよ!!」

             最後は言葉にならない声で千秋は叫ぶ。
             そのまま千秋は高耶を自分の胸に抱いて涙をかみ締めている。
             微かな震えが高耶にも伝わってきた。

             「……千秋」

             高耶は千秋の腕に手を回すとそっと千秋の頭をなでた。千秋が驚いて高耶を見る。

             「・・・・・大丈夫。お前達を残しては居なくならないから」

             ポンポン、と千秋の頭をたたいて高耶は千秋を落ちつかせる。
             だが、二人は知っていた。こんな事を言っていても何の解決にはならない事。
             そしてまた確実に終という扉が近づいていていることを・・・・・知ってはいても、
             言わずにはいられない。想わずにはいられない。

             

             400年間の想いは簡単に消せないものだから。

 

 

                                             END


  う〜ん。ちょっと終わりがイマイチかなぁ〜とか思いつつUPしてしまいました。(苦笑)
  これを書く上で一番悩んだのは呼び方。「千秋」を「千秋」と呼ぶか「長秀」とするかでものすごく悩みました。
  でも結局「千秋」で書くことにしたのは私のワガママかな〜。
  高耶(景虎)と千秋のやりとり?はどうしても長秀てのには違和感感じてしまってダメなんですよ。
  (ある意味こだわり?/笑)

  いつもなら千秋におされぎみの高耶を書く私ですが、今回は逆にしてみました。
  たまには千秋も頼らないとやってけないと思うんですよ。←力説/苦笑

  これ、朝食食べながらぼーっとしてたら「俺達に同じ気持ち味合わすのかよ!」って
  千秋の叫びが聞こえてきて出来た話です。
  (なんでそんなの聞こえたのかなぁ。寝てないから?/爆)

  あ、そういえばこれって初シリアス・・・・だよねぇ?(誰に同意を求めてるのだろうか・・・・)

                               19990710 沙良