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燃えろ燃えろよ
明いロウソク・・・
どこの戯曲の一節だったか・・・
ハイランドの豪奢な宮殿の一室、天蓋付きのベットのある自室で執務をとりながら、ふと、ジョウイは我知らず口ずさんでいた。
マントルピースで炎に薪のはぜる音がする。
深夜もとうに過ぎているためか、暖炉の中の薪は残り少ない。だが、炎は最後の足掻きとばかりに赤々と室内を照らし、皇王の一室を暖め続けていた。
己が身の養分として残り少ない薪を喰らいつくし、最後の光輝で燃えさかる炎・・・。
それはまるで今の自分の命のようだと思う。まもなく尽きるだろう自分の命の炎と同じだと。
パチッ
ひときわ大きく薪のはぜる音がした。
その音でジョウイは我に返る。
そうして、自らの考えを追い払うように軽く頭を振り、手元の書類に目を落とすと、目前に迫る問題に頭を切り替えていった。
時間がない。
暖炉に薪がともされる頃、北方に近いハイランドはもうじき冬将軍が到来する。
急がなければ・・・。
壮丁とよばれる成人男子を徴兵できるのは収穫の終わったこの時期から冬までの間だけだった。
ハイランドの国力を支える穀倉地帯の労働力を収穫期に徴収することはできない!。
貴族達の反対を押し切って皇王であるジョウイがそう決断を下したのは、ほんの数週間前。
収穫期の労働力を失えば、農村地帯の収穫高は激減する。それは、とりもなおさずハイランド皇国の屋台骨までもが危うくなる事態だった。
ジョウイはまた、手元の書類に目を通し始める。
ジョウイには時間も人材も無かった。
レオンもシードもグルガンもそれから、ほんの少数だが自分に心を寄せ、ジョウイを助け、補佐し、助言をし、手足となっ働いてくれるものはいる。
だが、結局、ジョウイはハイランドで心から信頼できる人物を見つけられずにいた。
ジョウイは一人だった。
ここのところ、連日のように深夜を過ぎても執務を止めようとせず、まるで自らの身体と精神を削るようなジョウイの仕事ぶりに、レオンをはじめ側近達は眉をひそめ、若き皇王の身を心配していろいろと手を尽くしている。
が、ジョウイにとって、そんなことはどうでもいいことだった。
自分の身体は、自分が一番よく知っている。
自分の身体も精神も、もはや限界に近いのだ。
獣の紋章を押さえ、ここに至ってもまだ特権意識の抜けない貴族達を支配し、疲弊する一方の国力を支えていくのは並大抵のことではなかった。
加えて・・。
・・・・・シャオロン・・・・・。
この世で唯一心を許し、信頼しあい、仮の妻といえども伴侶を持った身でありながら、いまだ、己が心に激情ともいえる感情を呼び覚ましてしまう人間。
我が身の全てを捧げて守りたいと思っていたただ一人の彼。
・・・・・シャオロン・・・・・。
彼への想いが、疲弊した精神にますます亀裂を加える。
同盟軍のリーダーなんてやめるんだ。
ナナミとともに逃げてくれ。頼むから逃げてくれ。
かつて、そう何万回、何億回願ったことだろう。たとえ、それが己の自分勝手な感情だと知っていても。
だが、その感情は、もうジョウイの心の中には残っていなかった。
かわりに、病んだ精神とともにジョウイの心を支配し始めたのは・・・・・・、
・・・・・・・・・・どんなことをしても君を手に入れる・・・・・・・・・・
そんな暗く深い決意にも似た感情。
この戦いは、もはやどちらかが倒れなければ終わらない。
ならば・・・・
もし、君が倒れたときは、僕が、この手で君を殺してあげよう。
たとえようもなく優しく、たとえようもなく愛しそうに。そして、君が少しも苦しまないように・・・。
殺してまでも君を手に入れたかったのだと耳元でささやいて、最後の瞬間まで口づけを交わし、君の血の一滴までも他人にくれてやるつもりはないと、全て僕がこの身に君の血を受けて・・・。そうして、息絶えた君をだきながら、君の血を吸ったナイフで僕も永遠に命を絶つのだ。君とともに・・・。
だが、もし君が道を進むときは・・・・。
僕は君の手で殺されよう。誰にも僕を殺させはしない。君の手で、君の刃で、僕は血肉を引き裂かれ、君に命を絶たれよう。最後に紋章を君に渡しながら・・・。
なんて甘美な瞬間。
傲慢な夢。
どちらにしろ、君は永遠に僕のものになる・・・・・。
この考えが芽生えたとき、ジョウイは身震いするほどの幸福を味わった。それは、未だかつて無いほどの陶酔。
いまとなっては、ジョウイを支えているのはこの感情だけだった。
シャオロン・・・。
そっと、愛しい人の名をつぶやいてみる。
早くおいで、ルルノイエへ。
最後の決戦のこの地へ。
だけど、僕と君にとってのほんとうの最後の時は・・・・・。
パチパチと暖炉の炎が揺れる。その炎を見ながらジョウイは甘美な笑みをその秀麗な顔に浮かばせる。
あといくらも持たないであろう己が命の炎と甘美な己が考えの結末にその思考を委ねて・・・。
「あなた」
ノックの音とともに赤いドレスの少女が入ってきた。
「ジル。まだ、休まなかったのかい?」
「あなたこそ。もう、お休みになりませんと。ミルクをお持ちしましたわ。」
「ありがとう。もうちょっとしたら休むよ。君こそ、もうお休み。」
ニッコリと微笑むジョウイの笑みは、どこから見ても妻を思いやる優しい夫のそれだ。
不思議なことに、ジョウイの精神と身体が病むほどに、彼の外見の演技は完璧なものになっていった。
皇王として。有能な為政者として。勇敢な将軍として。そして、新妻をいたわる優しい夫として・・・。
「わかりました。あなたも、どうかあまりご無理なさらないで」
そう言って、ドアを開けて去ろうとするジルの後ろ姿の黒髪にふと目が止まる・・・。
彼も、北方のハイランドにあって、珍しい黒髪をしていた。
しかし、ジルの黒髪が雪に閉ざされた北国を思わせるのに比べて彼の黒髪は明るい南国を思わせる。
同じ黒髪でも、ずいぶんと印象の違うものだ・・・。
ドアの閉まる音を背にしながら、ジョウイはそんなことを考えながら、長く会っていない友のことを思った。
風が冷たく窓を叩く・・・。
ジョウイ・・・。
その風にのって、声がしたような気がした。
窓を開けバルコニーに出ると、いつの間にか空には下弦の月がかかっている。
「たしか・・・臥待月というのだったっけ。」
臥して待つ月。
まるで君を待ち焦がれる今の自分のようだ・・・。
寒さも気にとめず、しばらくその月を見ていたジョウイだったが、やがて、思いだしたように部屋に戻ると、再び書類に目を通し始めた。
今宵も、甘美な想いに浸りながら・・・。
この暗い道の果てに、君を手に入れる夢に焦がれながら・・・・。
FIN
はははははは・・・・滝汗。か・・・書いてしまいました。壊れてるジョウイです。文字置き場の最初の文章がコレとは・・・。私、ストレスのたまってる時って、すんごい暗いものか、ギャグしか出てこない体質のようです。へたれな文章ですが、ご・・・・ご感想いただけると嬉しいなあ・・・・とか(殴)。遁走。
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