春の祭り


ことの起こりは、ナナミの持ってきた三枚の招待状と一抱えもある大きな箱の包みから。



「ただいまー」
そんな明るい声とともにナナミが帰ってきた。
「お帰り〜、ナナミ」
「お帰り、春祭りの準備はもう終わったのかい?」
そう口々に答えて、シャオロンとジョウイは彼女の帰宅を迎える。

彼女は数日前から、この村で行われる春祭りの準備のために、僕たちが今住んでいる家の大家さん、
つまり、この村の村長さんでもある人の家に泊まり込みで手伝いに行っていたのだ。

グラスランドに近いこの村では、年に三回、春と夏と秋にお祭りがあるらしい。
その祭りの準備を手伝うというのが、この家の家賃を破格に安くしてくれるという条件で、
あみだで決まった順番は、春がナナミだった。


「終わり?う〜ん。準備はもうだいたいOKね。でも、明日からが本番じゃない?
ナナミちゃんは、明日から春祭りが終わるまでお手伝いをするわよ」

「え?約束は前日の準備までだろう?」
「そうだよ。どうして、ナナミが明日からも手伝いに行っちゃうんだよ。
ぼくたち三人で春祭りに行こうって言ってたのに」


僕の問いに追加するように、シャオロンが幾分不満そうにナナミに問いただす。
僕もちょっと残念だけど、シャオロンと二人だけで参加するのも悪く無いなあ・・・と思っていたりして・・・(笑)。
が、さすがにそんなことは口には出せない。
それより、僕が気になるのは、彼女に頼んでおいたことの方・・・。
ちゃんと、約束を果たしてくれたろうか・・・。


「う〜ん。ごめんね。実は私の働きぶりが村の奥さん達に認められちゃって、実行委員を仰せつかることになっちゃったのよ」
そう答えるナナミは、その口調とは裏腹にすごく楽しそうだ。
日頃、同じ年頃の女性達とおしゃべりできない彼女は、村祭りの準備で、同じ年頃の少女達や年輩の奥様達に混じって仕事をするのが、楽しくて仕方がないらしい。


「そうそう、それでね。祭りの前夜祭の招待状がここにあるんだ。」
「招待状?」こう聞いたのはシャオロン。
「うん。あのね、村の広場で薪を囲んで男女が一晩中踊り明かすんだって」
「へえ。」
人一倍身体を動かすのが好きな君がさっそく瞳を輝かす。
なかなかいい感じだ。



「ところでナナミ、その包みはなに?」
「あ・・・そうそう。これはね、その時に着る民族衣装だよ。大家さんがね三人分貸してくれたんだ」
そういって、大きな包みをほどきナナミは箱を開ける。

中から出てきたのは、白地に金と緑の幾何学模様の刺繍が施されている騎馬民族風の男物の衣装と、赤と白の布地に黄色や緑オレンジなど、色とりどりの刺繍が施されている女物の民族衣装。

「わあ・・・」
僕とシャオロンは思わず歓声をあげる。
僕は話には聞いていたが、これほどのものとは思わなかった。

「この白い衣装はきっと、すごくジョウイに似合うね。ナナミにもこの赤いのはとっても可愛いと思うよ」
シャオロンは無邪気に衣装を手に取りながら感想を述べている。
が、その手が、ふと止まった。


「あれ?」
「どうしたんだい?シャオロン」
「男物が一着しかない・・・後は二着とも女物だよこれ。ナナミ・・・村長さん間違えちゃったのかな?」
そう、不審そうに問い返すシャオロンにナナミは意外な答えを返した。
「ああ、いいのよ。それで」
「え?だ・・だって、これ」
「いいんだよ。シャオロン。僕が頼んだんだから」
「なんだ、ジョウイが・・・・・って、な・・・なななななななななに〜〜っっ
叫びながら一気に部屋の隅まで後ずさり、シャオロンは一瞬にしてパニック状態になる。

ジョウイが・・・

ジョウイが・・・!!!!

ジョウイがああああ・・・!!!!!?????


ジョウイ、君って、君って・・・そういう趣味があったのか!!!!。
気が遠くなりかけるシャオロン・・・。
そりゃあ、ジョウイは綺麗な顔をしているし、ブロンドの髪は長くてサラサラだ。
すらっとした細身の身体は、大きめの女物のドレスなら充分に似合うだろうし、女装すれば、きっと、とびっきりの美人になるに違いない・・・。



でも・・・


でも・・・

君がやるとホントにシャレにならないじゃないかあ
ああああああ!!!!!



シャオロンは空間の一点を遠いうつろな目つきで見つめた。
ジョウイ・・・僕たちはお互い時が流れすぎて、もう、昔のようにとは、いかないんだね。
ぼくも・・・君も・・・変わってしまった。
でも、ぼくは、変わってしまった君を受け入れると誓った。
だから、君が、どんな趣味に走ったとしても、受け入れてあげようと思うよ・・・。

幼なじみの意外な一面に驚愕するシャオロンだったが、ぐっと手を握りしめ、クラクラする頭を抱えながら、けなげにもこんなことを考えていた。

ジョウイはきっと、ハイランドにいたころ、ストレスがたまりすぎて・・・それで、そういう趣味が出ちゃったのにちがいない・・・・。可哀想なジョウイ・・・。



気が遠くなりかけているシャオロンの前で、だが、ナナミとジョウイは楽しそうな会話を繰り広げている。

「へえ、女物は赤字に白い縁取りがあるんだね。」
「可愛いでしょう?これなら、すごくぴったりだと思ったんだ」
「うん。色とりどりの刺繍も綺麗だねえ。あ・・・それは、頭につけるのかい?」
「そうだよ〜。カチューシャみたいにね、こう・・・」
きゃっきゃ、きゃっきゃとはしゃぐ二人を彼岸の彼方から見つめるシャオロン・・・。
・・・そう、二人とも楽しそうだねえ・・・。
「ホントに似合いそうだ。もちろん着せてくれるんだろう?」
「あったりまえよ。私が着せなくて誰が着せられると思ってんの・・・」
もはや、女同士の友情である。
「・・・・シャオロンに」

そう、シャオロンに着せるの、良かったねえ・・・

・・・・・・・・・って、なんですとお
おおおおおおっっ!!!!




「わっ。ど・・どうしたのよ、シャオロン」
「そうだよ、いったいどうしたんだい?驚くじゃないか」
驚いたのはこっちだ───!!!
一気に覚醒し、二人をにらんでそう叫ぶ。
「誰が誰に何を着せるって──?」
まるで、国語の作文のセオリーのように聞き返すと、
「決まってるじゃない。私がシャオロンにこの赤い民族衣装を着せるの」
と、これまた、文法的にとっても正しいお答えが返ってきた。

「それとも、何?ジョウイに着せてもらいたいの?」
「教えてもらえれば、僕ならいっこうに構わないよ」
ニッコリと、普通の女性であれば、まず、間違いなく陥落するであろう笑顔をたたえながら、ジョウイがホントに嬉しそうにそう話す。
そ・・・そういう問題じゃな───い!!!!
その綺麗な笑顔にむかつきながら、思いっきり叫ぶと、



「いいっ?、シャオロン!!!」
と、
片手を腰に当て、びしっと人差し指をつきだしたポーズでナナミが宣告してきた。


あんたは、今夜のダンスパーテイで女役をやるの!!!

「なっ・・・・」
有無を言わせぬナナミの宣言に思わず絶句していると、追い打ちをかけるようにジョウイが会心の笑顔を見せる・・・・。
「シャオロンのドレス姿見たいなあ〜(ニッコリ極上の笑み)」


こ・・・このやろ〜。
ジョウイは分かる。コイツなら企みそうなことだ・・・。だが、ナナミまでとは・・・・。
こ・・・こいつら、グル?グルだ!!! シャオロンは確信する。
が、愛する家族の二人にタッグを組まれては、いくら天櫂星といえどもかなわない・・・。


「さっ、分かったら着替えるわよ」
「ナ・・・ナナミ〜〜。ジョウイ、覚えてろよ〜〜」
あまりの展開に、どうして自分が女装をせにゃならんのかという、あまりにもプリミティブな疑問さえ聞くことも忘れて、シャオロンは情けない悲鳴をあげながら、ずるずるとナナミに隣の部屋に引きずられていった。



そんなシャオロンをとっても満足そうにジョウイは見送って、

「さ・・・では、僕も着替えますか・・・・」
そうつぶやくと、白い男物の民族衣装を手にとって着替え始めた。
今宵一緒に踊れる赤いドレス姿のシャオロンを思い浮かべ、この上なく幸福そうに微笑みながら・・・。