「ジョウイはそっちの端からお願い」 そういって、シャオロンは麦わら帽子をかぶり直すと、軍手をはめて、草の生い茂る反対側からせっせと草をむしり始める。 初夏の香りすら漂い始めたこの季節、木々は豊かに緑をなし、植物の生長は目を見張るようだ。 雑草といわれる名も知れぬ、けれども生命力に溢れる草草も例外ではなく、僕たちの家の庭や畑はあっという間に雑草で埋め尽くされている。 三人で暮らし始めて、まだ半年。 僕たちは、町はずれに小さな一軒家と自給用の小さな畑を借り、トマトやキュウリ、大根など、自分たちで食べる分の野菜を細々と作っていた。 自然をこよなく愛するシャオロンとナナミにとって、この野菜づくりは意外なほど面白かったらしく、瞬く間に二人は、この小さな家庭菜園にはまっていった。 まめに世話をする二人だったので、普通なら、ここまで草を生えさせはしないのだが、この季節になってどうしたことか、最初はシャオロンが、シャオロンに続いて僕が、最後にナナミが風邪を引き、その上に長雨もたたって、気がついた時には、信じられないほどの草ぼうぼうになってしまっていたのだ。 そうして、そんな状態をほっておけるはずもなく、僕たちは二人して畑の草取りへとやってきている。 「うわあ、すごい」 喜びなんだか、感嘆なんだか、悲鳴なんだか(笑)わからない、無邪気な声をあげてシャオロンが笑う。 「ここのところ雨が続いたからね」 「でも、今日出来てホントに良かったね♪」 そういいながら、君は「ハイ♪」と鎌を僕に渡し、渡された僕は広い畑に勢いよく生えた雑草どもを見て少々げんなりする。 そんな僕に君は明るく笑いかけてくれて。 ああ・・・。かわいいなあ。 袖無しシャツに麦わら帽子姿のシャオロンは、まさに自然の申し子ってカンジで恐ろしくかわいい。 できるなら、そのむき出しの肩にキスをしてそのまま押し倒してしまいたいくらいだ。 しかし、こんなところでそんなことをすると、多分僕は右か左の頬に二週間は消えない痣を作りそうなので、じっとガマンすることにした。 「ジョウイ。大丈夫?気持ち悪くなりそうだったら、すぐ言ってね」 僕の気持ちを知りもせず、君はうつむいた僕を見て心配そうにそんなことを言う。 「う゛・・・・。だ、大丈夫だよ。この間は体調が優れなかっただけで・・・」 ちょっと、不名誉すぎて思い出したくはないのだが、以前、夏にナナミと二人で雑草取りをしていた僕は、立ちくらみを起こしてぶっ倒れてしまったという苦い経験を持つ。 本来、あまりアウトドア向きではない上に、畑仕事など、ほとんどしたことの無かった僕は、3人で暮らすようになってから、この分野ではナナミやシャオロンにそれこそ手取り足取りで教えてもらわなければならなかった。 ナナミと二人での畑作業も、男の意地で、女の子のナナミより仕事量が少なかったり、先にばててしまってはメンツがたたないと、張り切りすぎてしまったのが敗因だった。 コツをまだよく飲み込めていない僕は、一息入れようと立ち上がった途端、ナナミの目の前でぶっ倒れてしまったのだ。 今日こそは、そんな不名誉な事だけは避けなければ! そんなことを思いながら、よしっとばかりに作業に取りかかる。 畑の雑草は、根こそぎむしり、刈り取るごとに、青々しい匂いがたつ。 草の、生命の匂いだ。 でも、一口に雑草といっても、本当に色々な草がある。 根を地中深くはり、なかなか抜けないもの。すぐに抜けてしまうけれど、引き抜かれるとき、自分の子孫である綿毛のついた種をぱあっとたくさん周囲に飛ばすもの。地表近くに根を網の目のように張らして群れを作っているもの・・・。 名前こそ知らないけれど、その草のどれもが、白や黄色やピンクの小さな花をたくさんつけていて、なんだか抜いてしまうのが本当に可哀想なくらいだ。 可憐で・・・・逞しくて・・・・。 ・・・・・・・・誰かさんにそっくりだ。 そんなことを考え、くすりと笑いながら、黙々と草取りをする。 不思議だね。苦手な作業も君とならこんなに楽しい。 引き抜いたり刈り取ったりした雑草をかごに詰め、さらにまた先の草に手を伸ばす。 頭上を鳥が一声鳴きながら通りすぎ、さわやかな風が襟元を吹き抜けていく。 ああ・・・。本当に良い季節になったんだな。 でも、僕の帽子とシャツの下は汗だらけだ。たぶんシャオロンもそうだろう。 畑では、柵を作って植えたトマトやピーマンが色良く生っている。草取りが終わったら、これを採って夕飯に添えるのだろう。 しかし、のどが渇いたなあ・・・ そう思っていたら、まさに以心伝心、「ジョウイ」とすぐ後ろでシャオロンの声がした。 「わあ!びっくりした。何だい?」 「ジョウイ、お昼にしようよ」 今日はナナミは街へ買い出しに行っている。それで、僕たちは留守番の仕事として草むしりをやっているのだ。 「ああ。もう、12時なのか。そうだね。のども渇いたし、少し休もうか」 「うん」 僕たちは畑から少し下った先にある小川の縁に腰をかけ、手と顔を洗い、冷たい麦茶を飲みながら、朝作ってきたおにぎりをほおばった。 ああ!なんだかとっても幸せだ。 僕の横で幸せそうにおにぎりにパクついているシャオロンを見ていると、こちらまで幸せになってくる。 「あ!そうだ。ジョウイ。ちょっと待ってて♪」 シャオロンはそう言うと、立ち上がって小川に手を伸ばし、なにやら水の中から竹のかごを引き上げた。 そのかごの中には、程良く冷えたみずみずしいきゅうりとトマト。 「わあ!」 「さっき冷やしておいたんだvv取れたてだから、とってもおいしいよ。はい。ジョウイ」 「ありがとう」 ふたりでまずトマトにかぶりつく。 「美味しい!まるでフルーツみたいに甘くて!その上、とっても良い香りだね、これ」 「えへへへへvvおいしいでしょう!今年、農家のおじさんから分けてもらった苗なんだよ!とっても美味しいからって」 「ああ!あの、屋根の修理を手伝ってあげたおじさん?」 「うん。美味しいでしょう?」 「すっごく美味しいよ!」 「ね〜!」 にっこりと、お日様のように君は笑う。僕もつられて笑い返す。 不思議だね。君の笑顔を見ていると、僕は自分を嫌いにならないですむ。自己嫌悪に陥らなくて済んでいる。 それどころか、僕は力をもらってる。こんな些細な出来事にさえ。 不思議だね。 ああ・・・。本当に不思議だよね。 小川のせせらぎに誘われ、僕たちはガマンできずに靴を脱いで足を浸した。 縁の大きめな石の上に腰掛けて、足だけを水にさらす。さらさらと水の流れを感じて揺れる足。 ああ・・・。スゴク気持ちいい。 「シャオロン・・・ちょっと・・・触ってもいい?」 「・・・・って、ジョウイ。もう、触っているじゃないか」 僕の手は確かに言葉より先にシャオロンの頬に触っていて。 「ふふ・・・。柔らかくて、冷たくて・・・・気持ちいい」 「さっき小川で顔を洗ったからだよ」 「ね・・・。シャオロン・・・・」 彼の顎を軽く掴んで振り向かせようとする。 「ちょっ・・・!ジョ・・・ジョウイ!まだ、草むしり終わってないんだよ!」 「ちょっとだけ・・・ダメかい?」 「ダメ!」 「う〜〜」 「犬みたいにうなってもダメ!」 そういって彼が振り向いた一瞬。 「んっ!」 僕は彼の襟元を引き寄せ、彼の唇に自分のそれを重ねていた。 「んんっ・・・!」 逃げようと、僕の胸に突っ張る彼の手を片手で戒め、彼の後頭部に手を回して、逃げられないように、さらに深く口づける。 ・・・・・・・・わかってないよね。 君がそんな風にすればするほど僕をあおっているっていうのに・・・。 苦しくなったのか、無理矢理頭を横に向け、息継ぎをする君。 そんな様子も僕の熱を駆り立てて止まない。 ダメだよ。 逃がしてやらないよ。 君は僕のもの。 絶対誰にも渡さないのだから。 息継ぎのために開いた唇を追いかけ、狂おしいほどに己のものでそこを塞ぐ。 舌をすべりこませ、追ってからませ、君をとらえて貪りつづける。 「・・・っん・・・んんっ・・・・ん・・・・・」 クチュリ・・・・となまめかしい音がする。 もはやどちらのものとも分からない唾液があふれ、早鐘のように心臓を鳴り続けさせながら、それでもなお、僕は止められない。 「や・・・。あ・・・う・・・。ジ・・・・・ョウイ・・・・」 制止を求める君の声。 でも、そんな声さえ、僕をあおる。 ダメだよ、そんな声出されたら、余計に止められないよ。 僕は、君の願いを僕の欲望でねじ伏せ、角度を変えて口づける。 歯列をなぞり、舌を絡ませ、何度も何度も・・・・・。 君の吐息も、舌も、君の魂さえも奪いたい狂おしさで・・・・。 君なしでは生きていけない。 こんな言葉を自覚する日が来るなんて思わなかった。 僕はもう、君なしでは生きていけないんだ。 「は・・・・・・・あ・・・・・」 ようやく僕は君を解放した。 君は赤くなった唇で息を乱しながら、潤んだ瞳で僕を見上げてくる。 ドキリとする色香。君は時々信じられないくらいの色気を醸し出す。 本人は全然気づいておらず、全くの無意識なんだろうけれど。 そこがまた罪作りだよ。 僕は、ガマンできず、シャオロンを抱き寄せ、再び唇を求めようとした。 ゴッツ! 「・・・・ッツーーーーー!なにするんだい!」 グーで思いっきり殴ってきたシャオロンに僕は抗議の声をあげた。 「い・・・いいかげんにしろ!まだ仕事は山のように残っているんだからな!」 「だからって殴ることは無いだろう!」 「じゃあ!トンファーで叩かれたかった?」 ゴゴゴゴゴ・・・・と地獄のそこから声を出している彼の剣幕に一瞬、ウッとひるむ。 まあ、僕が悪いんですけどね。 「・・・ったくも〜、何考えてんだか!さー!仕事、仕事!」 何を考えてるかって?決まっているだろう! でも、その答えを口に出して言ったら、確実に地球半周分は吹っ飛ばされるだろうなあ・・・なんて思いながら、勢いよく立ち上がったシャオロンを僕は恨めしそうに見上げてやった。 本当に君はつれないんだから・・・・。 君は、さっきの怒りもどこへやら、困ったように、『でも、そんな顔したってダメだよ!まだ、今日はたくさんやることがあるんだから!』って見下ろしてくる。 クスクス・・・。そんなところがスゴク可愛いんだけどね。 自分の立ち直りの早さにあきれつつ、 その、困ったような、でも、可愛くてちょっと凛々しい君の雰囲気をもっと味わってみたくて、もう少し困らせてみることにした。 思う存分キスさせてくれない、ささやかな君への仕返しだよ。 我ながら、屈折しているなあ・・・。 「シャオロン・・・」 僕はシャオロンの弱い顔・・・・僕の少し困ったような、悲しそうな顔を作って甘えてみる。 すると、彼は『ふう・・・・。もう、しょうがないなあ・・・・』・・・って感じでかがみ込み、なんと、僕の耳元に本当に小さな声でこうささやいた。 「ちゃんと仕事終わったら・・・・後で・・・・・ご褒美あげるから・・・・」 「シャオロン?」 びっくりして、でも、とてつもなく嬉しくて、ニコニコする顔を押さえきれなくて、彼の腕をとって振り向かせようとした。 けれど、彼は、真っ赤になって僕に軽いパンチを食らわせると、足を拭き、靴を履いて、そのまま走って畑の方に行ってしまった。 あうち!でも、これくらいなんだ!嬉しい!すっっごく嬉しい! 僕は赤くなった顎をさすりながら、それでもにやけてしまった顔を戻せないまま、せっせと作業に戻っていった。 午後の作業は、そりゃもう、僕の驚異的な働きによって2時間は早く終わってしまうくらいだったよ。 畑から帰って、泥と汗だらけになった僕たちは、まずお風呂に直行し、それから畑から採ってきた新鮮な野菜の料理でナナミと三人の夕食を終えた。 夕食での話題は、もちろん僕の頑張りの様子に尽きた。やった。これで面目躍如!ってとこだね。 夕飯を終えて、さて、これからだ―♪と沸き上がる嬉しさに絶えかねていると 「ど・・・どうしたの、ジョウイ。今日はなんだかすっごく機嫌がいいみたい」 とナナミ問いかけてくる。 「そりゃもう!聞いておくれよ!」としゃべりたいところだが、そんな話をナナミにしようものなら、シャオロンにこの世とあの世の境目を見させられちゃうかも知れないので、黙っていることにした。 そんな楽しい(←楽しいか?)想像をしながら食後のお茶を飲んでいると、おもむろに、台所でなにやらごそごそやっていたシャオロンが「お待たせ〜♪」とお盆に何かを乗せてやってきた。 「はい♪ジョウイ!今日のご褒美♪」 ドン!と、テーブルに出されたものは・・・・・・・ タピオカ入りのアイスクリーム。 「・・・・・・・・・・・」 「うわあ!美味しそう!え?え?これって、ジョウイにだけ〜?」 「ナナミの分ももちろんあるよ。はい♪」 「あっりがとう〜vvわあい♪いっただきま〜す♪」 嬉々としてアイスに突撃するナナミ。 そんな彼女を横目に、ジョウイは蒼白になってシャオロンに問いただす。 「ね・・・ねえ。もしかして、もしかして、ご褒美ってこれのこと?」 「そうだけど?」 「・・・・・・・・・・・・・!!!!!(涙)」 「え?ジョウイ、これ、好きじゃなかったっけ?ゴ・・・ゴメン、気に入らなかった?」 アイスクリームを指さしてふるふると震えている僕に、犯罪級に可愛らしくかつ悲しそうに小首を傾げて答える君。 あああああ!そんな君に僕が否といえるはずがないじゃないかああああ!!! 僕は、そうしてしばらくはアイスクリームをつつきながら、信じられないくらい鈍感でつれない幼なじみを前に、膨らみきった期待という名の欲望をどうして良いか分からずにいた。 初夏の宵。夕餉の団らんの光が優しく窓から漏れ出す頃。 ガックリと肩を落とし、見るも哀れなジョウイの姿を横目で見ながら、 「そうか・・・。男は意地より欲望かあ・・・・・」 などと、納得顔のナナミが、なにやらぶつぶつ呟いていたのを全く知る由もない二人なのであった。 |
あはははは〜(滝汗)。すいません、ジョウイ・・・・・バカです(自爆)。
一度、5/10に書き上げてアップしたのですが、ちょこっとジョウイにもいい目?を見させてあげたくて、
5/11少し加筆しました(笑)。
しかし、やっぱり、ジョウイなのでした(なんのこっちゃ)。
でもこれ、ナナミちゃんに最後のセリフを言わせたくて書いたものだなんて、
お・・・怒りますか?やっぱり(滝汗)。