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ハイランドの春は遅い。 それは、 長く厳しい冬が終わる頃、じれるような速度で凍った大地の下から芽吹き始め、やがて、その芽が緑の葉を人々に見せ始める頃、やっと、暖かな季節の胎動を始める。 そんな、人々が恋いこがれるほどに待ち望む春。 夕方とはいえ、周囲はまだ薄明るく、暖かな風が、時折、花の香とともに散り始めた薄桃色の花びらを運んでくる。 かつての自分なら、今頃は、幼なじみとともに早咲きの桜を見に森の奥へと遊びに行っている頃だろう。 それとも、幼なじみの姉と3人で、仲良く夕餉の膳を囲んでいるだろうか・・・。 その、どれもが、すでに自分の捨ててきてしまった優しい世界だと分かりすぎるほど分かっているのだけれど・・・。 生き生きとした生命感に満ち溢れ、幸福に包まれていると思っていたあの頃。 あの世界は・・・・・もう・・・・どこにもない・・・・ かわりに・・・ この地でその花の香に混じって漂ってくるものは 、生とはかけ離れた死の匂い。 汗と土と・・・・むせかえるほどの血の匂いだ。 少年は、刹那目をつむる。 そうして、ゆっくりと目を開くと、その瞳に花の香を断ち切る強い光を宿した。 それは・・・・あらゆる情というものを削ぎ落とした軍人の目。戦略と計算によってのみ己を動かす指揮者の目だった。 「戦況はどうだ」 「はっ。我が軍が押しております。敵の敗走も時間の問題かと」 真っ白な軍服に身を包んだ白金の髪の少年に、戦況が次々と報告される。 その報告は、彼の予定どうりのもの。 だが、その少年・・・といってもよい彼の白い横顔には、一切の動き、ほんのわずかな感情の表情さえなかった。 彼は戦況を聞き終えるといくつかの指示を出し、人払いをしてすぐ後ろの高台へと歩み始める。 戦場が見渡せる高台。 そこにに登ると、彼は眼下の人馬を眺めやった。 まるで、己の所業を自分の記憶に焼き付けるかのように。 血の中に沈む幾多の人馬達。 昔、幼かった頃、従者に連れられて皇都ルルノイエを訪れたことがあった。 ほんの何かの拍子に従者とはぐれ、大通りからはずれた何本かの小道に迷い込んだとき、自分は確かに見た。 皇都の城壁に寄り添うようにうずくまる手や足の無い人々。顔や腕や腹に包帯を巻き、誰からの手当も受けられず、うめき苦しむ人々を。 皇国からの保護と恩恵を受けられるのは、特権階級の人間や職業軍人など、ほんの少数の人間だけ。 おおかたの、徴収されて兵役についた人々には何の保証もない。 手当をし、介護をしてくれる家族や財産のないものはこうして路上でうめくしかないのだと、この国の制度を勉強したときに初めて知った。 悲しい・・・と思った。 7歳の時、やっと出来た親友は、養父亡き後、なんの保護もなく、生活のために軍に身を売らねばならなかった。 自分といくつも違わない彼と己の生活の差に愕然とした。 なぜ・・・・・・・・・・・。 それが、この国に対する最初の疑問だった。 皇国ハイランド・・・・。 本来なら決して貧しい部類に入らないこの皇国も、度重なる戦争によって、自分の幼なじみのような少年すら保護できぬほど弱体化している。 ・・・・・貧しい。 そして、一部の人間達にだけ押しつけられるその貧しさが、その体制が・・・悲しい・・・・・・と思った。 春の風が、その軍隊の指揮官らしい少年の頬をそっとかすめる。 「ジョウイ様」 いきなり後ろから声を掛けられ、物思いに沈んでいた思考を遮られた不機嫌さでジョウイは後ろを振り向く。 と、そこには一人の赤い髪の青年が立っていた。 鋭い眼光と身のこなしに似合わぬ、どこか猫化の動物を思わせる人なつっこさ。 猛将としてハランド軍の片翼を担う将軍、シードだった。 「なにか?シード将軍」 その慇懃さに、赤い髪の青年将校は一瞬鼻白んだようだったが、 「あいかわらず、堅苦しいですね。シードでいいッスよ」 と、犬歯を見せながら笑った。 「で?」 「いや、こんなところにいるとね・・・・」 シードの言葉が終わるか終わらないうちに、ヒュッという、聞き慣れた風音。 それとともに、ジョウイの首のすぐ後ろでドスリといやな音がした。 「しまっ・・・・・!」 瞬間、ジョウイはやられた・・・と思った。 油断した。こんな高台の敵にも見渡せる高地に無防備に突っ立ていたなんて・・・。 が、自分の迂闊さを呪いながら目を開けると、目の前にシードの厚い胸があった。同時に自分の首に回された彼の手も・・・・。 「・・・・っシード!」 ジョウイの首の後ろに回されたシードの右腕には、敵の矢が深々と突き刺さっていた。 目を見開いたジョウイにシードはニカッと笑みを返す。 瞬時、懐から取り出した短刀をジョウイの背後の木の枝めがけて投げつける。 ぐわっ その声とともに、喉を押さえた敵の狙撃兵が木の枝から転がり落ちた。 「敵兵だ!」 自軍の兵の声が聞こえた。すかさず、混乱を避けるためにシードが声を飛ばす。 「敵の敗残兵がまだ生き残っている!10班に別れて周囲を捜索!副将は陣に戻って隊形を確保しろ!」 彼の的確な指示に、統制されたように兵が走る。 それをみやって、初めてジョウイはシードの腕を見た。シードの鉄の腕当てをも突き通し、右の腕に深々と刺さった狙撃用の矢。 この矢をまともに食らっていたら、おそらく自分は即死だったことだろう。なんという迂闊さだ。 「シード、腕が!」 「大丈夫ですよ、このぐらい。こんなことで使い物にならなくなるような腕の鍛え方はしていません」 シードは笑いながら腕を振る。 「・・・っつうう。イテテテ。はは。やっぱり痛いッスね(汗)」 「当たり前だろう!」 怒ったようにジョウイは言うと「少し痛むよ」といいながら、シードの腕から矢を引き抜き、自分の服を裂いて傷口をきつく縛った。 幸い毒は塗ってなかったようだ。 「どうも」 シードはなぜか照れたように答えを返す。 「・・・・どうして・・・・」 包帯の最後の結び目を自分で引き取ったシードは、その呟きを聞き、己の上官を意外そうな目で見た。 「どうして?はは。だって、オレやクルガンが選んだ貴方が、登り詰める前に早々に亡くなられたんじゃ、困るってもんじゃないですか」 「なるほどね」 ジョウイのシニカルな笑みにシードは困ったように頭をかいた。 まったくこの少年は・・・・。 「シード」 「なんですか?」 「なぜ・・・」 「?」 「なぜ僕を主と選んだ?黒き刃の紋章の持ち主ってだけで、とんだハズレかもしれない」 ニヤリと冷たく笑ったジョウイのかなりな質問に、シードはふう・・・とため息をついた。 「そんなのは、オレの勝手です。オレやクルガンはあんたしかいない、あんた以外に、あんた以上に、先を見てこの国を引っ張っていける人間はいないと考えたから選んだまでです。オレに限って言えば、選びたかったから選んだんですよ」 にかりと笑うシードの笑みにジョウイのシニカルな笑いが消える。 「ぼくを選んで、もし、お前やこの国が損害を受けたらどうする?ぼくが必ずしもお前達にとって益になる存在だとは限らないだろう?」 ぷつり・・・とシードは足下の草を引きちぎる。 そうして、ピーと草笛をふいたあと、草をその口にくわえた。 「そんなのは・・・まあ、国に関しちゃアレですが、オレに関しちゃ、あんたを選んで失敗かそうでないかなんて、オレの問題です。オレはあんたに期待しているし、事実一番必死になってこの国のこと考えてる。けど、国をどこに導こう、どうしようなんてのはアンタの問題で、オレがどうこういう筋合いってもんじゃない」 「・・・・・・・・・・・」 「オレは頭良くないから、いつもこれでやってきたんですけどね(笑)」 「・・・・・シード・・・・・」 「あなたも・・・」 にっこりと笑顔をジョウイに近づけながらシードはつぶやく。 「あんまし、眉間にしわ寄せて、たった一人でこの世界をどうこうしよう何て力まない方がいいですよ。たまには、肩の力抜いて、オレ以外に出来る人間が居なかったんだからしょーがねーだろう!いやなら自分でやってみろ!ってなぐらいに考えたほーがいいです」 「はは・・・・。そうしてみるよ」 ジョウイの笑顔を見届けると、にかり・・・と意外に人なつっこい笑顔を向け、 「さあて、いつまでも油を売ってると、銀髪のにーちゃんがうるせーから、兵にはっぱでもかけてきますか!」 そういって、くるりときびすを返して陣のある下方に歩き出した。 そうして、彼はジョウイに聞き取れないほどの小声でつぶやく。 「あんたは・・・・・オレが・・・俺達が守りますから・・・・」 草を噛みながら、立ち去る炎の猛将は「・・・ったく、オレらしくねーな」と思いながらも、自分の心に沸き上がっている熱い炎の発散場所を探して、戸惑ってもいるようだった。 遥か背後では、彼が主と仰ぐ、輝く金の髪の少年が「ありがとう・・・」と呟いていたのも知らずに・・・・・・。 終わり |
いいんだ、たとえ幼稚園児並の作文だって!。いいんだ、書きたかったんだから(開き直り)。
そういう訳で書いちゃいました。シードとジョウイのお話(汗)(>_<)。
管理人はもちろんジョウ主なんです!ジョウ主なんですが、シードも好きなんです。
うう・・・。でも、書きたいことの、言いたいことの3分の1もかけません(泣)。せめて、叫ばせていただこう!
あああ!シードおおお!
以上、お馬鹿な叫びでした。
ではでは。