ここでは「嗜好の反転」が顕著に見える事例の一つとして、大手パソコン通信のテレビ関係の情報を扱うフォーラムで起きた事例を紹介しようと思う。登場する人物は実在する人も含まれるが、それらの人を中傷したりする意図は全く無い。この文章の主な目的は「嗜好の反転」の実例を出すことによって、他人や、何より自分の無意識の心の動きを知ること、そして、それに対処することである。
この事例の起きた時期は2001年12月であった。その頃は世間的にも狂牛病の話題が出ており、このフォーラムでもニュース番組を扱うチャンネル(※1)などでその話題が話されていた。
その様な状況の中で、Yさんが、狂牛病の感染ルートとして「共食い」のことが挙げられているが、それと別に論理的に問題だと強調されるのはどうか、という内容の発言(#2039)をした。そこにIさんは、「「共食い」が狂牛病を拡大させているのだから云々〜」という話をコメントの形で展開させた。
テレビの情報を扱うフォーラムに直接関係のない話題を出す発言者のYさんも少々問題だとは思う。(Yさんの名誉のために言っておくと後の発言(#2056)でYさん自身によって反省なされている) しかし、元々のYさんの発言で「別にすれば」と言われている箇所をメインに議論を続けるIさんのコメントは通常のコミュニケーションでは大きな問題となることであろう。相手のYさんはネット上のやり取りでは波風が立ちやすい事を良く知っている様に見えた。自分の言いたかったことを再び説明して何とか分かって貰おうとしたことは後のYさんの発言を見ればよく分かる。それに対してIさんはYさんの発言と外れていると思われる部分に対するコメントを続けた。(※2) 最終的にYさんはIさんとの議論に愛想を尽かして打ち切っている(#2113)。
Yさんが議論をうち切った日(2001/12/11-20:10)の翌日(12/12-12:32)に、Iさんは情報番組のチャンネルにて「番組T」の情報を元に「共食い」についての「主張」を補強しようとしている。ここでのIさんの「主張」は、「共食い」は(狂牛病に対して)危険であるということであり、全く正しいことである。ただし、そのことはYさんとの議論で何度も確認されたことであり、Yさんが思っているであろう論点とは外れている事である。
実際、このIさんの説や議論が番組Tによって補強されるわけでないことが「もーりー(※3)」によって指摘され、結局「狂牛病」抜きでの「共食い」を否定するわけでない、ということがIさん自身のコメントの中で表れている。
ここで最も重要なことは、Iさんが「番組T」を自説の補強に用いようとしていたということである。すなわち、この時点でIさんは「番組T」に対してある程度好意的な印象を持っていたと思われるのである。しかし、この後のIさんの発言内容ではだんだんそれが異なっていく。
続く情報番組のチャンネルの発言(#2986)でIさんは若干否定的になっている。間に「もーりー」の好意的?な発言(#3023)が入った直後のIさんの発言(#3024)では完全に否定的な発言内容である。そして、これに続くIさんの発言#3037、#3046では、持てる知識を総動員して叩こうという意図さえ見える発言内容。書くごとに細かいところへ突っ込みが入るようになる。
この発言群の裏には「もーりー」が面白いと語る番組に対しての対抗意識も見て取れる。しかし私には、この一連の「狂牛病」の議論の流れに対する反発心が無意識的に「番組T」への憎悪という形で現れた物である様にも見えるのだ。議論が思うように進まなかったストレスが心の奥底ではけ口を探している。「番組T」へ文句を言うことで心の奥底の鬱憤を晴らそうとし、それが成されないため苦悩している。Iさん自身でも気が付いているかどうかは疑わしいが。
発言の流れを見れば見るほど、心の「防衛機能」の動きがその奥に見える。私自身の発言にもそれは言える。私は「狂牛病」の議論には無関係だったはずだ。私自身の無意識はどのようなことを思ってあのような発言をしていたのだろうか。今の私ならそれが見える、様な気がする。
最後に繰り返し言っておくと、この事例に関わった人たちを中傷したりする意図は全くない。最初好意的だった事に対して、逆転して攻撃をするようになることがあるということを示す良い実例だと思ったので紹介しただけのことである。ネット上ではその過程がうやむやにならずに記録されるため、無意識の心の動きを追って行くには最高の教材となりうるのだ。
※1:このフォーラムでは、話題のジャンルを分けている部屋、いわゆる「会議室」のことを「チャンネル」と呼んでおり、ここでもそれに倣っている。また、新規の話題提出をした文章のことを「発言」、それに応答を付けた文章を「コメント」と呼んでおり、これもそれに倣う。「コメント」に付けた文章も「コメント」であり、一連の話題の連なりのことを「(コメント)ツリー」と呼んでいる。
※2:ここでは相手の発言の中の重要な部分を省いたり語尾を変えたりして引用するという手法、その場で行われている議論とは全く関係ない別の場所でのことを持ち出すという手法などが存分に使われている。
※3:言うまでもなく「もーりょ」と同一人物であり、本文章の作者のことである。