〜帰郷〜
9の月13番目の日
青い空に白い雲が幾つか浮かんでいた。故郷の村に続く道は3年前と同じで埃っぽく、
馬車の轍がひどくて歩きにくかった。数日前までいた街、芸術と文化の都ベルダイン、
のように石畳とまでは行かないまでも、少しは整備すれば、交易も盛んになるだろうに、
と今や直接の当事者でない私は思った。だが、それは町暮らし、冒険暮らしに慣れた者
の考えなのだろう。作った作物を町に売りにくる者など、馬を持っている一部の恵まれ
た農民にすぎない。
道から少し奥まった森の中に咲いていた黄色い花を携えて村に入った。この花はなん
といったっけ。冒険生活で知識は身につけたはずだが、思い出せなかった。あいつだっ
たら知っていただろう。確か何かの薬にもなったはずだ。
入ったといっても私の村には明確な境界線はない。村の端の最初の民家の横を通り過
ぎただけの話だ。ここから、母が待つ家までは、まだもうちょっと歩くことになる。道
を歩いているうちに、畑仕事をする昔なじみと話を交わす。少し照れくさい。
しばらくだったね。ええ、そうね。じゃあ、今日は宴会だ。
村の生活には、娯楽は少ない。みんないつも気晴らしのたねを探している。
村の中心の広場に出た。村長の家や村唯一の宿屋も広場に面している。5日に一度は
市が立つが今日はその日ではないのだろう。夜はここで宴会になるはずだ。あまり派手
な歓迎は好きではないのだが、仕方がない。道行く人と挨拶を交わしながら家に向かっ
た。
家では、母が待っていた。軽い昼食の支度をしていた。驚いていた。当然である。用
心して3通出していた手紙がやはり届いていなかったのかと思ったが、どうやら1通は
届いていたらしい。通りがかりの馬車に頼むのだから、良く届いた方だろう。信頼でき
る郵便はまだ高価で手が出ない。まあ届いた手紙にしろ、帰宅する正確な日付など書き
ようもないのだが。