狂気の神の神殿
冬の雪山にて
「まだ先なのかよ!」
「まだ神殿らしき物は見えませんね」
「でももう少しだという話なんだろ!」
「雪が降っているのですからそんなに先までは見えませんよ。赤外視を使っても同じです。」
「それにしてもぉ、何でまたこんなへんぴなところに神殿など作ったんでしょ〜か」
「狂気の神さまだってからだろ!それに修行に使う神殿ってそういうものだ」
「おーい、そんなに杖に寄っかかってっと折れても知らねぇぞぃ」
「大丈夫ですよぉ〜。特製ですから〜」
「貴様のその立派な杖で魔法を使ってみせたらどうなんだ。浮遊の魔法がちょうどいい」
「馬鹿言わないで下さい〜。この悪い足場で呪文なんて唱えようとしたら真っ逆様です〜」
「古代語魔法はこういうとき無力だな。我が輩の神の力は偉大だ」
「落ちながら魔法を使う勇気はな〜い。対処できる魔法が無い君に言われる筋合いもな〜い」
「馬鹿なことを言ってねぇでとっとと行かねぇと今日中に神殿まで着けなくなるぞぃ」
「手遅れ。だいぶ暗くなってきた。これ以上進むのは無理。」
「まだ少しは進めるんじゃないか!神殿の前まで行って休む予定だろ!」
「ちょっと先で雪の動きが変。何かある。雪娘に抱かれたいか?」
「確かにフラウが数体いるようですね。暗くて危うい足場での戦いは危険ですよ」
「しかたねぃ。でもどうやってこんな所で休むんだぁ?」
「ここらがちょうどいい。山壁に沿って雪穴掘る」
「なるほどな。でもどうせ掘るのは俺なんだろ!」
「分かってるようだな。他の者も手伝え」
「おめぇもやりゃーいいじゃねぇかぃ」
「確かにそうだ!さっさと、穴掘って、休もうぜ!」
「そうですよ〜、この、杖では、少し、ずつしか、掘れませんけど、ね」
「もう、ちょっと。横に、なれる、隙間、有れば、いい」
「それでは、狭い、火が、焚けん」
「大丈夫、ここに、火トカゲが、います」
「なるほど、それなら、暖を、採れる」
「よ〜やく、休むことが出来る〜」
「その前に見張りの順番を決める」
「いつものように3交代だな!」
「そうだ。例によってだな、」
「例によって魔法使いは途中で起きない方がいいんだろ!わかったよ!」
「朝早いのがいいって奴もいるし、順番はいつもの通りに決まっちまうぞぃ」
「そういうことだ。我が輩は寝る」
「僕は最初に起きてるって事ですね〜」
「それに私が起きていることになります」
「早く寝る、早く起きる」
「じゃあ時間が来たら起こしてくれぃ」
「もちろん何かあったら、すぐ起こせよ!」
「いつもながらにみなさん寝付きがよいですね〜」
「それはそうです。でなきゃ冒険者なんてやってられませんよ」
「それにしても、大変なところに来てしまいましたね〜」
「何故にこんなに山奥の神殿に行くのでしたっけ」
「なんでも、冬の間、信者によって宝が奉納されているそうですよ〜」
「その宝を奪いに行くというわけですね。なかなか趣味がよいことです」
「余り良くはないですけど、でも狂気の神の神殿ですからね〜」
「祟りとかがあるのではないですか」
「言い伝えでは、試練を越えて宝を持ちだした者には何もないそうですけど〜」
「ということは試練が有るんですね」
「明日になれば分かりますよ〜」
「そろそろ時間です〜。起きて下さい〜」
「うー、もう時間かよ!」
「何言ってやがんだぃ。いびきもかかずに眠り込んでたくせに」
「おまえだってそうだろ!」
「オレはちょい前には起きてたっての」
「それでは、後は戦士のお二人にお任せします〜」
「そうそう、この宝石に火トカゲが住んでいます。大事にして下さいませ」
「こりゃー暖けぇ。助かるねぃ」
「魔法使いの両人は朝までゆっくり休んでくれ!」
「それにしても、雪は止まねぇねぁ」
「ああ。たぶん朝まで止まないんだろ」
「入り口が埋もらないようにしねぇとな。っと」
「おい、急に笛なんて取り出してどうするんだ!」
「静かに一曲聞け」
「、、わかったよ!」
「ふう、終わったかぃ」
「今のは望郷の歌だろ!良い曲だな」
「そうだ。久しぶりに吹いた」
「なんだか、故郷を思い出しそうだ!でもまた何で急に」
「気付いてねぇんだったら別にいい。ただ吹きたくなっただけでぁ」
「なんだよ。まあいいや。お代は払わないぞ!」
「そんなもん、べつに、かまわねぃ」
「時間、来た。ウトウト、するな」
「あ、ああ。すまねぃ」
「もう時間か。何もなかったな!」
「何言ってやがる」
「なんだよ!うとうとしてたくせに!」
「まあな、すまなかった」
「まあいいや。もう寝ようぜ!中途半端に起きてるのは疲れる!」
「そうだ。早く寝たまえ」
「やっと起きてきたか!まあいいや!それじゃ後は頼むぞ!」
「頼んだ。くれぐれも注意しろよ」
「ああ、安心して、寝るがよい」
「お前じゃいまいち安心できねぃがな」
「やっと寝たか、あやつら生意気言いやがって。ん、何だ」
「明日の計画、どうなってる?」
「心配するな。ちゃんと出来ている。まず神殿の入り口には鍵と罠がかかっている」
「おいらがはずすのか?」
「そうだ。このパーティではお前にしか鍵は外せない。そののち神殿の中に入って宝を頂く」
「神殿の中、ワナ、ある」
「神殿に入ってしまえば困難なことは無いと聞いている」
「油断だめだ。用心いる。それと信者の宝とる、いいのか?」
「信者達は春にその宝で無茶な大騒ぎをする。付近の住民はそれにおびえているらしい」
「それだけの理由か。信者たちにうらまれても大丈夫か?」
「大丈夫だ。むしろ、尊敬されるかもな」
「なんでだ?」
「こんな雪山に登ってこれるのは狂気のおかげに違いない、と信者は思っているのだ」
「そうか」
「だから冬に宝を取りに行く者に誰も何も言わん」
「よく、調べれたな」
「まあ、私の調査能力を持ってすればこんなものだ」
「いくら使った?」
「ははは、まあ、これから手に入れる宝に比べれば微々たる出費だ」
「鍵開くように祈れ。大損だ」
「ちょっと待てよ。うむ、すねてしまったか」
「♪起きろ、起きろ、起きろ」
「いつもながらにうるさい歌ですね〜」
「まったくだぃ。竪琴の音が頭に突き刺さるっての」
「まあまあ、仕方有りませんよ。彼は我々をたたき起こすのが趣味なのですから」
「いつもながらに、全く眠った気がしないな!」
「体は休められましたから良いですよ。それにしてもまだ早いんじゃありませんか」
「確かにまだ早ぇ。日が昇ってねぇし。しかし、あいつがいねぇな。どうしたんだぃ」
「遅かったのだ」
「なにぃ?」
「雪狼どもはあっという間に距離を詰めてきた」
「雪狼だと!?」
「あ奴は弓を撃とうとして撃てなかった。次の瞬間、あ奴の弓が谷底に落ちていくのが見えた」
「何ですって」
「その隙に我が輩の気弾で倒すのがやっとだった」
「そんな〜」
「まだ、大丈夫かも知れねぇ。降りる方法はないのかぃ?」
「たぶん、無理でしょう。今日は昨日より風が強く吹いています。」
「あ奴のためにも、神殿の宝を絶対に手に入れねばなるまい」
「昨日の夜にも雪狼はいた。オレの望郷の歌で巣に帰ったと思ってたが」
「昨晩の歌はそれか!?」
「ああ、でもくよくよしていても仕方ねぇ。早く行こうぜぃ」
「ちょっと待って下さい」
「何だ!?」
「あっ。そこに。シルフが暴れているのが見えます。気を付けて下さい」
「助けて〜」
「はやく言わんか!」
「手につかまれぃ」
「あ〜」
「くっ。すべるっ」
「なんとかシルフは精霊界に帰すことが出来ましたが」
「今度は奴が落ちた!」
「奴の杖が岩肌に当たってくるくる回るのを見た。やるせねぇ」
「まだまだ困難は続きそうですね」
「くそっ、早く神殿に着かねぇと」
「あわてると危ないぞ」
「悠長なこと言ってられるか。急ぐぞぃ」
「そこの足下。危ない!」
「お、とと。危なかった。助かったぃ」
「注意してくれたまえよ。これ以上人数が減ってはたまらん」
「なんて事言うんだ!ん、あれは何だ!」
「どうやら、また困難がやってきたようですね」
「大鷲のようであるな。普通で有ればどうということはないが、この足場では」
「逃げた方がいいんじゃねぇかぃ」
「もう遅い。戦うしか有るまい」
「きますよ。気を付けて」
「ぐっ、いきなりか!」
「大丈夫か」
「あ、ああ。だが油断すると!うわっ、しまった。掴まれた!」
「しっかりしろ。早くふりほどくのだ」
「やられた。くそっ。もうあんな所まで連れてかれちまった」
「残念だが、もう戻ってこられまいな」
「大鷲の奴、剣に興味がなくなったみてぇで途中でほおり投げて行きやぁった」
「やはり、剣の光に興味を持ったのだろうな。後から言っても仕方ないが」
「まだ先に行くのか。オレはもう疲れちまったぃ」
「危険ですよ。こんな所で休んでいたら」
「オレはもういいから、おめぇたちだけで先に行ってくれぃ」
「そんなこと出来るわけ無いじゃないですか」
「もういい。こ奴は置いていくぞ。もう神殿は近くだ。運が良ければ帰りに拾える」
「なぜ。でも、どうして」
「噂には、神殿内では気を強く持て、という。気力を失った奴は足手まといなのだ」
「それにしたって」
「静かに、オレを、置いて、い、け、ぃ」
「ついに眠ってしまいましたよ。得意の早起鳥の歌で起こさないと」
「無駄だ。奴の笛を置いていこう」
「うーん。そんな事って有りますか」
「我が輩たちが今すべきなのは、早く宝を取って来ることなのだ」
「確かにお金で解決できることも多いですが」
「分かったら、さっさと行くのだ」
「もう見えてきましたね。神殿」
「ああ、扉の鍵と罠が最後の関門のはずだ」
「どうやって開けるんです。私もあなたも罠を解除できはしませんよ」
「仕方ない、罠を発動させるしかない」
「どんな罠かも分からないのに?」
「うむ。そこでお願いなのだが、精霊を使ってもらえないだろうか」
「、、仕方がありません。宝石の中のサラマンダーに命じましょう」
「済まない」
「では、いきますよ。『火の精よ、扉まで行き、その扉を開くが良い』」
「おっ開いて来たぞ」
「うっ、頭が」
「どうしたんだ、おい」
「頭が、頭の中が回るように、何かに持って行かれるような」
「しっかりしろ」
「だめです。抵抗できません。さようなら」
「おい、ま、待て、、、おい、、だめか」
「ひとまず神殿の中に入るしかない。中は、さすがに暗いな。
それにしても、話に聞いた宝が私一人の物になるとは。
はは、ははははは」
「そうは、いかない」
「き、貴様は、」
「よくもやったな。痛かった。」
「仕方なかったのだ。あのとき助かるためにはお前を犠牲にするしかなかった」
「犠牲? 自分だけ、助かるために」
「そうですよ〜、一人じめっていうのは虫が良すぎますよ〜」
「貴様、」
「扉が開いたとなれば、戻ってこないとな!」
「そうだぜ。くたばってる場合じゃねぇ」
「お前ら、どうして、」
「私も忘れてはいけません」
「なぜ」
「なぜって、なぁ!」
「そこに鏡がありますよ〜。きっと、御神体です〜」
「覗いて、見ろ」
「これは、誰だ。わ、私か。うっ、一人しか映っていない」
「それはそうですよ。最初から一人しかいなかったのですから」
「大鷲に連れられていって、やっと気付いた。自分が名もない剣だったことに」
「か、神よ」
「そうです。祈りましょう。ここはあなたの神の神殿なのですから」
「私は何のためにここに来たのですか」
「宝のためって言ってたけどなぁ。でも、全然宝なんて見あたらねぇ」
「お、お啓示が。わ、私の名前。名前を捧げるのですか」
「そういえば、狂気の神には名前がないそうですね〜。何故無いのでしょう」
「おそれながら、、、私には。私にはもう名前はございません」
「そういやぁ、オレにも名前はないな。今思えば、笛がオレの実体だった」
「あなた様の教えを受けたときに名前は捨てたのです。お忘れですか」
「物に話かけていたのですよ。私は宝石でした」
「私は杖だったんですね〜」
「弓だった」
「何故名が無いのか。名もないものは未知のもの。
未知のものには、恐怖が。留まることのない恐怖。そして、狂気。
自らの名は他人が付けるもの。他者と触れ、呼ばれるもの。
人知れず生まれた御身には、名をなすものがおられない。
自らの名を探し、他神の名前を奪う。
しかし、ついに賭に負け、他神に名前を返さざるを得なくなった。
いくつもの仮の名はあれど、自らの本当の名は忘れ去られた。
いつしか、あなた様は名を探し、消し去る神となったのですね。
名が無いことは全てが不定、混沌。
自らの名がないこと、それは混沌を心に住まわせること。
そして、混沌は狂気。
あなた様は全て。そして無」
「いつまでやっているんだ。お前だって物なのに!」
「そうですよ、早起きの竪琴です〜」
「ショックを受けているのですか」
「あーあ、落としちまった。音が狂うぜぃ」