お話し合いを続ける神さまの話
日の射し込む洞窟
「もうそろそろ家に帰ったらどうだ」
「嫌だ。あなたには悪いけど。もう決めたことなんだ」
「どうして。あんなに優しいお母さんじゃないか」
「分かっているよ。母さんに別に不満はない」
「じゃあ、なんで。君は、お母さんと一緒に暮らしたくはないのか」
「それだけじゃだめなんだ。あなただって分かっているはず。」
「なにをだ。」
「とぼけたってだめです。あなただって世界を守るために戦っているのでしょう」
「世界を守るためとは大げさだな。オレは自分のために戦っているだけだ」
「母さんに伝えて下さい。いくらアシュレイさんにお願いしたって戻る気はないって」
「、、分かったよ。伝えてくる。が、勝手にいなくなったりするなよ」
「そんなこと分かりません。準備が出来たらすぐここを出ます」
・・・
母親の待つ家
「、、それでオレが説得しても役不足だって言われたよ。
少々時間がかかっても、君が行った方がいい」
「あの子、ここを出る準備をしていたでしょ」
「、、、そのことは言わなかったはずだが」
「かなり前から分かっていたのよ。でも、言葉が掛けられなくて」
「どうして。確かに、村人たちの教育が忙しかったのは分かるが、、」
「あの子に対しては、どうしても、臆病になってしまうのよ」
「それでも、言わなければならないことはあるだろ。君は母親なんだから」
「分かっているわ。でも、だめなの。あの子の生い立ちを考えると。だめなの」
「おい、泣かないでくれ。もう一度行って来る。ちょっと落ち着いて考えていてくれ」
・・・
日が陰り始めた洞窟
「伝えてきたぞ」
「、、、それで母はなんと」
「君がここで家を出る準備をしていたことをお母さんは知っていたよ」
「そりゃそうだよ、でなきゃ、あなたがここを知っているはずがない。
、、、ずいぶん前から分かっていた」
「だったら、何故、お母さんに思っていることを話さないんだ。男だろ」
「男とか、女とか、この世界では関係ない。
母さんだって女だてらに冒険者だったんだ」
「、、女だてらか、まあ、それは認める。お母さんは立派な冒険者だよ。
でも母親は母親だ」
「何が言いたいんですか」
「母親は子のことを心配する生き物だ、ということだよ。泣いていたぞ」
「そ、そんなことは関係ない。僕は、僕は、自分の道を行きたいんだ」
「君の腕では、旅に出ても、すぐにくたばっちまうっていうことをお母さんは考えているんだ」
「僕はもう一人前だ。確かにあなたや母さんにはまだ敵わないけど、普通の人には負けない」
「、、、外の世界は危険だ。君が思っている以上にな。今までの経験は何の役にも立たない」
「それでもです。逆に、だからです。僕は自分の力を試したい」
「、、当ては、有るのか」
「幸い、隣村のダレルも一緒に旅立つことになっています。
まず、一緒に大きな街に出て、仲間を捜そうと思います。
その後砦に行くなり、冒険の種を探すなりして見聞を広めます」
「、生活費はどうするんだ」
「当面必要なお金は貯めてあります。
狩りをして食をつなぐことくらいは私にも出来ますし」
「、ああ、そうだろうな」
「こうして考えるとお金は便利ですね」
「、、ああ」
「アシュレイさん、伝令に使ってすみませんが、母さんに伝えて下さい」
「、、、一度会っていったらどうだ」
「いえ、会うと決意が鈍ります。手紙は出します。少し落ち着いたら一度戻ってきます」
「そうか、そうだな。無理は絶対するなよ。生きていることが勝ちなのだからな」
「分かっています。母にも何度も聞かされました。もう少し準備したら出発します」
「本当に行くのか」
「ええ、行きます。見送りは要りません。母のことよろしくお願いします」
「、、ああ、わかった。」
・・・
母親の待つ家
「旅立ちの決意は変わらないようだ。」
「それはそうね。あの子の父親もこれと決めたら、押し通す人だったもの」
「なんだ、さっぱりした顔をして」
「会わずに出発すると行っていたでしょう」
「ああ、なんで分かった」
「私は母親です。分からないでどうするんですか」
「ちょっとは元気になってきたのかな」
「はい。気持ちの整理は付いてきました。それで申し訳ないのですけれど」
「何かあるのか」
「この包みをあの子に持っていって欲しいのですけど」
「、何だ」
「特製の保存食とか、軽くても暖かい防寒着とか、ちょっとした物です」
「さすがだな。貴重な燐付き棒まで有るじゃないか。使い方を教えといてやらないとな」
「ええ、お願いします」
・・・
真っ暗な道
「オレ、何回往復したかな。
なんか、普通の戦いの仲介よりも数倍疲れるよな。
まあ、これもオレの使命だ。
世界の平和か。それもあるが、やっぱり周りの戦いが
自分に降りかかってくるのが嫌だということなんだがな。
まあ、いいや。まだ、あいつ出発していないかな。
もう間に合わないかも知れんな。
いくら速い足の能力を使っても無理な物は無理だ。
にしても、和解のない戦いを仲裁するのは疲れるものだ。
我が神も神々の戦いの時にはもっと徒労な思いをしたに違いない。
それを思えば、こんな事、大したことではない」
・・・
誰もいない洞窟
「、、ふう、やはり、行った後か
どうするかな。まあ、出たばかりだろうし、
すぐ追いつくかも知れん。
うん。ちょっと追いかけてみるか」
・・・
母親の待つ家
「一応渡してきたぞ」
「そう。なんだか、気が抜けちゃったわね」
「気が抜けるのは仕方がないかも知れないが、」
「私はいつまでもあの子のことをここで待っているわ」
「君のその知識と精霊使いの力はこの村には、今、必要なんだ。しっかりしろよ」
「そうね。あの子が帰ってきたときに、笑われないようにしなくちゃね」