翌朝は昼近くまで寝床を離れられなかった。思ったよりも酒を過ごしていたようだ。
階下に向かうと店の主人が笑顔を見せた。店に入ったときに受けた無骨な印象とはずいぶん違う。
彼らは改めて店の主人に名乗った。昨晩の記憶はあいまいだった。
ずいぶんはしゃいだね。と水を持ってきた主人は笑って言う。
「特に、あんたの演説は見事だったねぇ。ああいうの、受けるんだ。」
ボンジの方を向きながら、主人は言った。低い笑い声はいかにも楽しそうだ。
言われたボンジは何のことか分からず、しばらく視線を宙に浮かせていたが、不意に昨日の一場面を思い出して苦笑いを顔に浮かべた。
「我々は日々生き抜くので必死なのだ。施政者は何をしているか!」
周りに乗せられて気勢を挙げていたのだ。何で、そんなことを言ったのかは覚えていない。しかし、それによってドワーフたちが大喜びしたことだけは覚えていた。
「あいつらも不満がたまってるんだ。一生懸命やってる事によ、何だか文句言われてるような気がしてるのさ」
ゴーバの街は鉱業で賑わう街だ。周囲の自然を切り開いていくことで成り立っている。それが自然に住む妖精たちには耐えられないのだ。
妖精の中でも、ドワーフは例外だった。土を溶かす火を神から教わったとされるドワーフは物を加工する技術に誇りを持っていた。自然の物を加工してもっと素晴らしい物にすることは美しいことだ、と考えている大地の妖精も多い。
「ドワーフと他の妖精たちに溝が深まってしまってな。この店では、訳隔てなく扱うつもりなんだが、なかなか上手く行かんな。あんたたちはエルフさんの血を引いてるだろ。それを面白くないと思うものも中にはいるのさ。」
店の主人はサミーとティルトスを見ていう。
「そんなときは言ってやるさ。オレの甥を馬鹿にするのかってね。そいつらの仲間には純粋なエルフまでいるんだ。まあエルフにしては憎めないヤツらしいが、それでも、種族を超えて分かり合う事は出来ると思うんだ。奴ら今頃何してるんだろうなぁ。」
店の主人は遠い目をしながらカウンターに戻っていった。
「お前らが何をしようと構わないが、無理なことはするなよ。」
主人はコルカに目を向けて言った。
王が主催しているという傭兵団に入ろうと一番強く言っていたのは実はボンジだったのだ。昨日の話の流れでは街の為政者を非難するボンジをグラスランナーのコルカが宥める、という展開だったようだ。仕事を請けなければならないことを冷静に強調していたのはいかにもコルカらしいといえばコルカらしかった。