強烈な敵意を四方から感じる。木の影には潜む気配。
矢の狙いを付けているのだろう。枝が微かに揺れる。
しかし意識に悪意は感じられない。自分の身を守るという意思。純粋なだけに強く感じる。見えない相手に対する緊張は相手の姿が分からないがゆえに更に高まる。
「誰か、いないのか?」
再びボンジが声を掛ける。先ほどとは僅かに声の高さが違う。それは樹影の相手にも伝わったはずだ。すなわち、彼らが気付いていることが相手にも伝わったということ。木々がざわつく。
「抵抗する気は無い。話を聞いてくれ。」
ボンジがなおも大きな声で呼びかけるが、返事はない。
敵意の数はだんだんと増えていく。枝の動きも変わって大きくなっている。ちらりほらりと樹上の人影も見えた。枝とも弓とも区別の付かない細長い影も連れて動く。
「やはり、そうなのか」
コルカが呟いた。青く染めた髪は若干煤けてきている。
「運命なのだな。」
草妖精は半妖精の少年の横顔に一瞥をくれた。ティルトスは怪訝な顔でそれを見た。
その目の前を影が走った。耳を掠めて一本の矢が地面に突き刺さる。
半妖精の少年は反射的に剣を構えた。剣士の本能が体を動かしていた。
剣を構えたことが戦いの始まりを告げていた。話し合いで決着が着く場面は過ぎてしまったのだ。
サミーがまず精霊使いとしての勤めを果たすべく呪文を唱えた。彼らの周りに不自然な風が巻き起こった。彼女の少し尖った耳には風妖精が、大丈夫、とささやきかける声が聞こえた。
放たれた幾つかの矢が軌道を変えて後方に逸れていく。
相手が樹上にいる間は、こちらも弓で対抗するしか手は無い。一行の中で 弓を持っているのは3人。コルカとボンジとそして先ほど呪文を唱えたサミーだ。
すばやく弓を構え矢を引く準備をする。そしてゆっくりと、相手を見定める。
「止めろ。俺たちは森を傷付けているわけではない。害毒を流しているヤツラとは違うんだ。」
両手を大きく広げながらトグが低い声で唸った。弓を構えたボンジも同意の言葉を叫ぶ。
「私達は自然破壊に反対しているのだ。森を愛する半妖精を二人も連れているのだぞ。我々がどちらの側に属しているか、見れば分かるだろ。」
普段種族のことを全く口にしなかったボンジが、それを説得の材料にしている。そのことで、彼にいつもの余裕が無い事を仲間達は知った。
先ほど呪文を唱えたサミーは他の二人から一歩遅れて弓を引いた。樹の陰に隠れている相手にまで、非力な自分の弓が隠れた相手にまで届くとは自分でも思ってはいなかったが、構えることで落ち着く気持ちというものも感じていた。震える矢の先が次第に定まっていく。
どこにいるかも分からない相手を狙うのは難しい。それでも当てずっぽうに撃つことは無駄だ。一時的な牽制にはなるかもしれないが、こちらが相手を確認していないことを気付かせてしまう。相手は確実にこちらを見ている。こちらが相手を見ていないことを知られれば戦いの天秤は大きく振れる。
さらに撃ってしまえば撤退の可能性を閉ざすことにもなりかねない。まだ今なら風妖精に守られながら、後退することも出来る。だが、それも時間の問題だ。相手の数が徐々に増えてきていることに仲間達は気付いていた。