血の力


これほどのことをやり遂げてくれるとは、本当に信じられぬ事だった。
天空人と人間のハーフ。
それだけの理由であそこまで特殊な力を持つものが産まれようとは・・・。
しかも二人も・・・。
私はその理由が知りたかった。
しかし、その理由を知ることはできなかった。

「マスタードラゴン様。勇者殿がやってきました。」
その日私は、天空城の兵士からこのような知らせを受けた。
下界に降りたりしている天空人の知らせで勇者と言うものが世界各地に巣くう魔物を退治しているとは聞いていたが、その者がまさかここまでやってくるとは思いもしなかった。
「通せ。」
わしは、そう短く言うと、その勇者と言うものの到来を待った。
しばらくして兵士に連れられて現れた者を見て、わしは驚いた。
その者の身にまとっているのは、私の加護を受けた四つの武具だった。
それは天空人の血をひくものしか身につけることはできない。
羽は見えないからおそらくハーフなのだろう。
しかし、天空の血を引いているのは間違いない。
「おぬしは?」
私は短く尋ねた。
驚きのあまり短く返すことしかできなかったのだ。
「カイスと申します。」
そのものは膝をつき答えた。
そう言えばこんな事があったな・・・。
私の頭にふと思いあたる事があった。
二十年近く前、天空人の一人が、ある木こりと駆け落ちをした。
そのとき私は規律を守るため、二人を切り離すしかなかった。
その二人の子なのか・・・。
「して、何用だ?」
私は少しずつ落ち着きを取り戻しながら尋ねた。
「天空の塔のうわさを聞き、ここにやって来たのです。マスタードラゴン様のお見知りおきをと思いまして・・・。」
カイスと名乗るものは、目を伏せたまま答えた。
「立つがよい。」
私はそう言った。
一行はゆっくり立ち上がり、こちらを見上げた。
「おぬしは、ピサロを倒すつもりなのか?」
私は尋ねた。
カイスは、ゆっくりと頷いた。
「はい、あのものの忌まわしきのろいを断つために。そして、あるエルフの祈りのために・・・。」
カイスは、小さくつぶやいた。
エルフの話は聞いたことがある。
ピサロは、あるエルフと愛し合っていた。
そのエルフは、今はもうこの世にはいない。
そのため、ピサロは怒りのあまり自我を失ってしまっている。
そのため、進化の秘法を使い、暴走したらしい。
荒れ狂うあまり、この上の世界にも影響が出始めている。
天空上にもその怒りの波動が直撃し、雲に穴がいてしまった。
「死ぬかも知れぬのだぞ。覚悟はできているのだな。」
私は静かに訊いた。
「はい。」
カイスは小さく頷いた。
その目には、しっかりと決意の炎が見えた。
私はこのものに全てを託そうと決意した。
「では、これは私からの餞別だ。天空の剣を渡すがよい。そして手を出すのだ。」
カイスは、ゆっくりと背中から剣を抜いた。
私はそれを受け取った。
カイスはそのとき出したままの手をそのままにしていた。
「はぁ・・・。」
私は、力を込めカイスに私の戦いの記憶の一部を流しこんだ。
これが少しは役に立つであろう。
そして、天空の剣に私の力をさらに加えた。
天空の剣が激しく輝いた。
やがてその光が収まると、天空の剣はより研ぎ澄まされたものになった。
「はあ・・・はあ・・・。剣を受け取るがいい。」
私は、少々荒い息をつきながら、新たに研ぎ澄まされた剣を渡した。
カイスは深深と礼をすると、
「ありがとうございます。」
と礼を言った。
「ピサロの所に向かうのなら、我が城の庭にある穴から下界に降りるといい、そこから洞窟に入れば、魔界にいけるはずだ。」
私は静かにそう言うと、また礼をして城を去っていった。
まだそのときは、ピサロを倒せるとは心のそこからは思ってはいなかった。
あの、まがまがしい、エスタークですら越えてしまったものを人間の力では倒せぬと・・・

「マスタードラゴン様!邪悪な波動が・・・消えました。」
数日後、とても慌てた様子で兵士が走りこんできた
「ああ・・・分かっている。」
私は静かに言ったが、心中は穏やかではなかった。
まさか、ピサロを打ち倒してしまうなんて・・・。
進化の秘法を使ってしまい、理性を代償に強大な力を手に入れてしまった存在に打ち勝つなんて。
とても人間の力では無理だ。
とても信じられない。
「カイス様たちが帰還しました。」
私がそんなことをずっと考えていると、兵達が戻ってきた。
「分かった。」
私は、ゆっくりと返すと空を眺めた。
確かに邪悪な気配は消えた。
倒したことを疑うわけにはいかない。
そんなことを思案していると、カイス達がぞろぞろと私の前にいる前に整列した。
皆、体のあちこちに傷を追っている。
激戦が行われたのだな・・・。
私は、その導かれし者達をじっと見つめながら考えた。
「よくぞやった。導かれし者たちよ。邪悪なる者は打ち倒され、もう平穏な日々が壊される事はない。」
私は、静かに言った。
導かれし者たちの内の数人は、嬉しさのあまり涙を流しているものもいる。
我が兵士達も同じだ。
ついに悪の根源は倒され、平和な日々がやってきたのだ。
もう、邪悪な存在におびえる事はない。
「皆のものの帰りを待つものがいるだろう。これからは戦いなどに煩わす事も泣く幸せに暮らすがよい。」
私は、そう言ってはっとした。
カイスには帰りを待つものがいないのだ。
両親はもういなくなり、家族だと思って暮らした村人もピサロによって滅ぼされてしまった。
一番の立役者だというのに、何て不憫なのだろう。
私は、そう頭の中でいろいろ考えていると、もう導かれし者たちは立ち去っていた。
私の心の中にはやりきれない気持ちばかり残っていた。

私は、じっと据わったまま考えた。
せめてもの恩返しに彼の最愛の友を生き返らせてあげよう。
そうすればもう孤独に嘆く事もない。
これで、彼の心が休まってくれれば・・・。
それだけを思った。
それにしても、なぜあのような力を身につけることができたのだろう。
私は、ずっとその疑問を抱えたまま100年以上すごすことになった。



続く