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その日……。
杜民は、吉川先生に出演依頼のお電話をしました。
その時の先生の対応は、か弱く、か細く。
女一人で生きている声優として、何だか、守ってあげなければ的な声で、杜民に対応されていました。
ふっ……。
思えば、それが、大きな勘違いであったろうことなど、その時点で知るよしもありません。
ゲーム収録時は、杜民は、吉川先生の尊顔を拝することも無く終了。
スタッフから無事終了との報告を受けました。
その後です。
今度は、グローヴWEBラジオへの降臨となりました。
収録日、スタジオに来られた吉川先生は、やはり、か弱く、か細く。
台本をお渡ししたところ、一読されまして、
「はぁ……良かった」と言われるのです。
「何がですか?」と杜民。
「実は、私、周囲から、勘違いされているのです」と吉川先生。
「勘違い? どういう意味ですか?」
「この台本、普通ですよね。私、普通の声優として扱われてますよね」
「そうですが、何か?」
「周りの人たちは、私のことを怒鳴り声優とか、叱り声優というんですよ。はなはだ心外です」
との事。
なるほど、この女性は、誤解されているのか……と杜民は心底、信じました。
「吉川さん。それは、ひょっとしたら、○玉さんのせいですか?」
「いえ、そんな、違いますよ。でも、少しは、彼女のおかげかも知れません」
「いえいえ、○玉さんの事は、私も良く知っております。前回の収録時に彼女が忘れていった帽子が
今、事務所の押入に入ってるんですよ」
「あら、そうなんですか?」
「いい加減、連絡して、お返ししなければならないと思っていますが、何分、返そうと思ったら
すぐなものですから、ついつい、後回しにしてしまっています」
「あら、そうなんですかぁ」
と吉川先生はにこやかに微笑まれました。
さて、打ち合わせの後、収録ブースへ。
最初、一回流して見ましょうと頭から終わりまで、ツラツラと皆様、演技されます。
ところが!
吉川先生のお声が、次第にでかくなりやがるのです。
「ん? これはどういう事だ?」と不審がるスタッフ。
そして、最後にユーザーの皆様へのコメントをいただくとき。
「ごらぁ! てめえら、しっかり付いて来いよ! 死んでもしらねえけどなぁ」
私は、そのとき、すべてを理解しました。
ああ……誤解していたのは、私の方だったのか……と。
エンジニアの方が、
「杜民さん、今の彼女の声、メーター振り切りましたよ。本番ではボイスの設定
調整した方が良いですよね」と心配そうにおっしゃるのです。
「調整、願います」
と茫然自失の杜民は、ブースの中で、にこやかに微笑まれる吉川先生に、微笑みを返しておりました。
残念でなりません。
そのリハーサルの声は、収録しておりませんでした。
もしも、データとしていきていたとすれば、何の迷いもなく、そのお声を私個人の携帯の着信音に
設定したかった。
ああ……。収録しておけば良かった。
そんな、後悔の後、思ったことは。
なんて素敵な人なんだろう……。
杜民は、その日から、吉川先生のファンになってしまいました。
グローヴ もりたみ よを
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