すっきりとした(まあ、あまり物が無いとも言うが・・・。)部屋の一部で、ゴソゴソと動く物体がある。
外では、暖かい春の日差しと共に雀がチュンチュンと鳴いている。
「うん・・・・・・朝・・・?」
そう言って、布団から顔を覗かせたのは、髪が所々寝癖ではねている少年・・・相沢祐一だった。
「んっ・・・・・・ふあ〜・・・。」
布団から上半身だけ起こし一伸びすると、大きな欠伸も一緒についてくる。
そして、上に伸ばした手をそのままベットの側に置いてある時計に伸ばし、時計の頭を軽く叩く。
ちなみに、時計の形は可愛いイチゴ型だったりする・・・・・・。
どうやら、こちらに来る前に、名雪がお気に入りの一つを渡したようだ。
まあ、それを使っているのを見ると、貰った祐一も満更でもないらしい・・・。
「時間は・・・・・・いつもより早い・・・。」
時計を手元に寄せ、時刻を確認する。
確かに、いつも祐一が起きている7時より、30分も早かった。
祐一はそれを再度確認すると、はあ〜・・・と溜息をつく。
「ついに、防衛本能が働いたか・・・?」
祐一は、場と雰囲気にそぐわない言葉を呟くと、時計を元の場所に戻しベットから起きあがる。
そして、いつものようにカーテンを勢いよく両手でスライドさせると、いつもと変わらない暖かな陽光が射込んで来る。
「さてと・・・顔でも洗って朝飯でも食いに行くか・・・・・・・・・っと、そうだ・・・。」
祐一はドアノブから手を離すと、机の引き出しから白い用紙と黒いマジックを取り出す。
そして、その白いキャンバスの上に黒い奇跡がしばらく躍ると、それを部屋側のドアに張る。
さらにベットの中に、人形(名雪に無理矢理入れられたものパート2。)やら枕やらを詰めて、いかにも祐一が寝ているかのように仕立て上げた。
「・・・・・・完璧だな・・・。」
祐一は手を軽くパンパン叩きながら、自分の仕事の後を満足そうに見下ろす。
そして、ゆっくりと音が出ないようにドアを開閉し、静かに洗面所へと向かった・・・・・・。
まるちぶーと!!
第7話 「瀬璃迂悠緋と瀬璃迂悠那」
「おはよう・・・。」
祐一はそう言って、朝食が並べられているテーブルにつく。
「祐一、祐里子に会わなかったのか?」
「ああ・・・今日は早く起きたからな。たまには、こういうのもいいだろう・・・。」
祐一はそう言いながら、用意してあったパンにバターをぬる。
「そうか・・・んっ?・・・ってことは、もうすぐ・・・・・・。」
バンッ!!
一弘の言葉を遮るように、勢いよく扉が開かれる。
「かずちゃんっ、大変なの!!祐ちゃんが人形に変身しちゃったのっっ!!!!」
大声と共に入ってきて、手に持っていた人形を一弘にむけパニクっているのは、綺麗なロングヘアーの美少女。
その可愛らしいフリルのエプロンが、さらに容姿を引き立てていた。
そんな美少女に一弘は苦笑し、祐一は溜息を吐いていた。
「かずちゃん!!」
「分かったから・・・まずは落ち着け、祐里子。」
そう・・・この美少女こそ、何を隠そう相沢祐里子・・・れっきとした現役高校3年生を息子に持つ1児の母親である。
・・・・・・はずなのだが、祐里子にしろ一弘にしろ外見が時の流れに逆らっている為、祐一とは兄妹にしか見えない。
町中を3人出歩いたら、明らかに3人兄妹だ。
『姉弟』ではなく『兄妹』に見えるところが、ポイントである。
「ふみゅ〜・・・祐ちゃんが〜・・・。」
そう言って、人形をギュッと抱きしめる祐里子。
その強い抱きしめに、人形が可哀想になってくる。
「祐一は人形なんかになってないから、大丈夫だ。」
そう言って、一弘は祐里子の頭を撫でる。
「でも〜・・・ちゃんと、『俺、人形になっちまうから、世話を頼む。』って書いてあったよ?」
そう言って、一弘に例の祐一が書いた手紙を渡す。
一弘はチラッと祐一の方を見ると、その手紙を黙読する。
ちなみに、祐里子は祐一に気づいてはいない。
「ねっ?」
祐里子は一弘に同意を求めるように尋ねる。
「祐里子・・・確かに紙には書いてある・・・。」
「でしょう♪」
一弘に同意され、自分の意見が立証された事に喜ぶ祐里子。
「・・・だけどな・・・。」
「ふえっ?」
「それじゃあ、あそこにいる・・・今まさにこの場を立ち去ろうとしている男は誰だ?」
「え!?」
祐里子は驚きの声を出すと同時に、一弘の視線の先を追う。
その2人の視線の先では、事件の原因である祐一が、静かにドアに向かっているところだった。
それを確認するなり、祐里子は人形を一弘に渡し、某食い逃げ少女のごとく突進する。
「祐ちゃーーーん♪♪♪」
ギュッ!!
「うおっ!」
ドンッッッ!!
「ぐはっ・・・・・・。」
祐一は迫り来る殺気に気づき振り返ったが、丁度そこに祐里子が抱きついてきたので、見事に正面から抱き留める事になった。
「祐ちゃ〜ん♪♪♪」
甘ったるい声と幸せそうな顔で、倒れている祐一の胸に頬を擦り寄せる祐里子。
それを笑いながら見下ろしている一弘。
「祐一・・・。」
「何だ?」
祐一は引きはがす事を諦めたのか、一弘にそのままの体勢で尋ね返す。
「蛇足な事をしたのが失敗だったな・・・。」
「・・・・・・精進します・・・。」
祐一はそれだけ言うと、天井を仰ぎ見て大きな溜息を吐き、いつもの・・・水無月学園に行くようになってから、ほぼ毎朝言っている言葉を紡ぎ出す。
「母さん・・・遅刻になる前に離れてくれ・・・。」
「はあ〜・・・・・・。」
真新しい制服に身を包んだ祐一は、いつもの通学路を重い足取りで歩く。
その背にはリュックが背負われている。
水無月学園には、決められた鞄がないのだ。
「母さんも、アレがなければ・・・・・・。」
誰にともなく・・・つまりは独り言を言い、もう一度深い溜息を吐く。
祐一が言う、母親の『アレ』・・・。
朝の様子を見て分かるように、祐一の母親である祐里子は祐一にべったりなのである。
毎朝、祐一が起きる20分前に祐一の部屋に祐里子はやってくる。
そして、何をするのかと思えば、祐一のとなりに潜り込み添い寝(?)するのだ。
さらにそれで終わればいいのを、祐一が起きる7時ジャストに、どこかの兄妹のようにお目覚めのキスをするのである。
たまにならともかく、毎日(休日を除く)やられれば祐一が困るのも頷ける。
祐一にしてみれば、外見がどんなに若かろうが美少女だろうが、血の繋がった母親なのである。
どんなに見た目が20歳以下でも、祐一から見れば30〜40のおばさんなのである。
「今まで転勤続きで寂しかったでしょうから、少しでも愛情をあげないとね♪」
っというのは、祐里子本人の弁である・・・。
「外国暮らしで、積極性が身に付いたのが仇になったか・・・・・・。」
祐一と同じ速度で歩いて行く幾人の生徒を見ながら、もう一度溜息を吐く。
祐一が言っているように、祐里子は外国に行く前は消極的な性格をしていたのだ。
ちなみに、パニクったり暴走したりすると『祐ちゃん、かずちゃん』と言葉遣い等が幼児化するのも、一つの特徴である。
これだけは昔から変わらない事だ。
「これなら・・・・・・何とか大丈夫そうだな。」
祐一は腕時計に目を落とし時間を確認する。
そして、前に視線を戻した時、見たことのある顔が視界に入った。
「あれは・・・・・・悠緋か?」
祐一から距離的に数メートル先にいる、数人の女子と一緒に歩いている少女。
ポニーテールではないが、その顔立ちから数日前に会った少女・・・瀬璃迂悠緋であることが分かる。
「ふ〜ん・・・いつもは髪下ろしてるのか・・・。」
そう言って何となく悠緋を見ていると、祐一はある奇妙な違和感を感じた。
それはあの時と同じ違和感・・・・・・。
「・・・だって。知ってた?」
「そうなんだ・・・。でも昨日の番組も・・・。」
「そうかな?ねえ、悠はどう思う?」
「えっと・・・私は・・・美穂ちゃんの番組の方が・・・。」
「だよね〜♪」
「悠、ダメだって。この子すぐ調子に乗るんだから・・・。」
「そんなこと言うのはこの口か〜〜!!」
「ひほ、いひゃいっへっ!」
「ふふふ。美穂さんも朝から元気ですね。」
ありふれた、何処にでもある女子高生同士の会話の一場面・・・。
だけど・・・だけど、何かが違う。
何処とは明確に言えないが・・・だけど、確かに違う・・・。
仲良く話している悠緋を見て、祐一はそう感じた。
結局、学校に着くまでずっと見ていたが、結論には至らなかった・・・・・・。
「祐一さん、おはよございます〜♪♪」
「よう。」
朝から元気いっぱいな桜にいつものように軽く手を挙げ返事をする。
さすがに対等な返事が出来る程、朝の祐一のテンションは高くない。
「おはよ、祐一。」
「おはようさん。」
美咲と雫も祐一に声をかける。
それに対して、祐一も桜にやったのと同様に手を軽く挙げ応える。
いつもの変わらない風景。
こっちに来てからの当たり前の風景・・・。
「ちょっと物足りないか?」
「んっ?どうした?」
雫が怪訝そうに尋ねるが「別に何でもないぞ?」と言って、祐一は自分の席に着く。
(物足りないか・・・。俺も結構お祭り好きだからな・・・。)
祐一はさっきの言葉に苦笑しながら、鞄から筆記用具等を取り出す。
「そういえば、もうすぐテストなんだけど・・・祐一って頭いいの?」
いつものまにか祐一の隣に来ていた美咲が尋ねる。
「テスト?」
祐一は場違い・・・いや、予想外な単語にハテナマークを浮かべる。
「ええ。もうすぐ校内模試があるのよ?もしかして・・・知らなかったとか?」
「おうっ!」
美咲に対して何故か胸を張って威張る祐一。
それに美咲は溜息を吐き、どこからかクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「さすが、祐一さんだね♪」
褒めているのか貶しているのか・・・相変わらず笑いながら、桜は祐一を見る。
まあ桜の事だから、貶していると言う事は間違いなく無いのだろうが・・・・・・。
「しかし・・・この時期にテストなんてあるのか?」
「3年生だし、この学園も全国トップクラスの国公立進学率を誇る伝統校だからね。」
「うん♪それに、みんな頭いいんだよ〜♪♪」
嬉しそうに話す桜に、何故かジト目で桜を見る美咲。
「美咲、どうしたんだ?」
祐一は美咲の行動が気になったので、直接聞いてみた。
美咲はと言うと、それに対して重い溜息を吐く。
「祐一・・・この学校って中高一貫でしょ?」
「ああ、そうみたいだな・・・。だけど、それがどうしたんだ?」
美咲の言いたい事がいまいち分からない為、再度尋ねる祐一。
「あのね、5年間・・・中学からこの高校3年まで、ずっと学年トップの子がいるのよ・・・あらゆるテストにおいてね・・・。」
美咲は、「もちろん、この学校始まって以来よ。」と付けだして言う。
「ほ〜・・・それは凄いな・・・。」
香里でさえ、調子が悪い時だってある。
だから、いつも学年主席と言うわけではなかった。
それを知っていたので、祐一は少なからず驚いた。
・・・・・・っとはいえ、自分とは世界が違うし、身近にそんな人もいない。
よって、あまり気持ちが惹かれなかった。
「凄いでしょ〜♪♪」
「おお、凄いぞ。俺にはとても出来ないからな。」
「えへへ。私、これくらいしか取り柄無いから・・・。」
「そんな事無いぞ?他にも取り柄ぐらいあるだろ?」
「例えば・・・?」
「例えば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・運動音痴な所とか・・・。」
「う〜・・・それは取り柄じゃないよ〜・・・。」
「そうか?・・・・・・って、桜?」
そう言って、祐一は桜の顔を改めて見る。
「ほえっ?」
桜は、祐一の視線に頬を淡く染めながら照れ笑いをする。
「桜・・・あまりに自然な流れだったから、思わず流すところだったが・・・・・・。」
「うん、どうしたの?」
「おまえが、美咲の話した『中学からこの高校3年まで、ずっと学年トップの子』なのか?」
祐一の問いに、桜は「うん、そうだよ♪」と可愛らしい笑顔で答える。
「・・・・・・美咲・・・。」
「分かって、祐一・・・。意外かも知れないし、信じられないかも知れないけど・・・この超天然、ボケボケ娘が何故かそうなのよ・・・。」
祐一の肩に手を置きながら、美咲はフルフルと首を横に力無く振る。
どことなく酷い事を言っているようだが、肝心の桜が「うみゅっ?」っと祐一と美咲の様子を見ていたので、万事OKである。
「そうか。ちなみに、美咲はどうなんだ?」
祐一は当然の疑問を本人にぶつけてみた。
「いつも桜と一緒に勉強してるから、大丈夫よ。」
そう言って、美咲は桜の頭を優しく撫でる。
「なるほど・・・。確かに、効率がいいな・・・。」
「それじゃあ〜、祐一さんも一緒にしますか〜・・・?」
桜がほにゃ〜っとした甘い声で、祐一に提案する。
美咲に撫でられて、気分がいいようだが・・・・・・どう見ても、『ネコにマタタビ』、『桜に美咲』である。
ちなみに、その声を聞いたクラスの数人の男子が骨抜きにされたのは言うまでもないだろう・・・。
「いいのか?」
「うん♪やっぱり大勢で楽しくやった方がいいですしね♪」
そう言って、柔らかな笑みで祐一に微笑む。
「みーちゃんもOKだよね?」
「ええ。もちろんかまわないわよ。」
美咲もどこか嬉しそうに答える。
自分でも気が付いていないんだろうが、美咲も嬉しいのである。
「それじゃあ、頼むな。」
祐一は頭を下げる代わりに、ニコッと笑い桜の頭を撫でる。
「はいっ♪」
可愛らしく、それでいて元気な声で、桜が祐一に微笑みかける。
それと同時に、石橋2号が教室に入ってきた。
「やっ、やばい・・・。」
祐一はノートの上でシャーペンを手で遊びながら、迫り来る巨大な敵と戦っていた。
「くっ!・・・なかなかやるな・・・。」
祐一は指で遊んでいたシャーペンを握ると、その握った手に力を込める。
シャーペンがミシミシと悲鳴を漏らす。
「俺は、これぐらいで負けないぜ・・・。」
祐一は下がる瞼を必至に堪えながら、シャーペンに更に力を加える。
既に悲鳴というレベルを超えたシャーペンは、外側から加わる力になすすべも無く、静かに終焉へと近づいていた。
そして、シャーペンが永遠の世界へ行く・・・っという直前に、シャーペンにとっての救いの鐘の音が聞こえてきた。
き〜んこ〜んか〜・・・・・・
「よし、今日はここまでだ。テストも近いから、しっかりやっとけよ?」
それだけ言うと、教師は挨拶も無く去っていく。
生徒思いなのかめんどくさがりなのか、微妙なライン上にいる教師だった。
「ふっ・・・俺に勝つには、まだまだ修行が足らないようだな・・・。出直してくるが良い・・・。」
祐一は、どこか威圧感と神々しさ、そして悟りを開いたかのような高尚な態度をして、勝ち誇って言う。
「何睡魔に勝ち誇っているだが・・・・・・。」
目の前の席の雫が振り返りつつ、俺を見る。
その目は明らかに呆れていた。
「・・・気にするな。第一、今のところはツッコミどころだぞ?」
「・・・何で俺がツッコミを入れないといけないんだ?」
「普通、入れるだろ?なんせ、ツッコミ2号君だからな。」
「誰がツッコミ2号だ!!」
ってな感じで、今日も2人は絶好調だったりする。
ちなみに、クラスメートも雫の変わり様に既に順応してたりする。
何というか・・・非常にノリの良い、順応性の高いクラスである。
「そういや、雫。」
祐一は、桜と美咲を横目でチラッと見てから、雫に向き直し尋ねる。
「何だ?言っとくが金なら貸さないぞ?」
自分の経験上、最も高確率で尋ねられる事に対して先制攻撃を入れる雫。
「いや、金の事じゃなくてテストの事だ。」
「テスト?」
雫はそう言って首を傾げる。
「そう、テストだ。もしかして忘れてたのか?」
「・・・・・・・・・そんなことないぞ?」
思いっきり間を空けてから答える雫。
どうやら、祐一同様忘れてたようだ。
「まあいい。そのテストなんだが、俺は桜に教えてもらう事にしたんだが・・・。」
「水無月さん?そりゃあ、得したな。何て言っても、学年トップ独走中だからな・・・。」
そう言って、雫は桜の方を向く。
祐一もつられて桜達を見るが、当の桜はというと・・・・・・
「これ可愛いよ〜♪♪」
「やっぱり、水無月さんもそう思う?」
「私は、こっちの方がいいと思うけど?」
「えっ?藤波さんなら、こっちを選ぶと思ってた・・・。意外だわ・・・。」
「そんなに驚かれても困るんだけど・・・。」
「あっ、こっちも可愛い〜♪♪」
等と、他の女友達と一緒に雑誌を囲んでわいわいやっていた。
(・・・どうでもいいが、絶対リボンが邪魔だと思うんだが・・・。)
祐一は、お馴染みの特大リボンを見つつ素朴な疑問を持った。
確かに、桜の髪を結んでいるリボンが大きすぎるのは事実である。
「それで、おまえはどうするんだ?」
祐一は視線を雫に戻し問いかけた。
「俺か?俺は、いつものように静流と勉強するぞ?」
「やるのか?それに静流と?」
てっきり、雫はやらないと踏んでいた祐一にとって、テスト勉強をする事も静流と一緒にする事にも驚いた。
「ああ、静流には家事とかで迷惑かけてるからな。テストぐらい見てやらないとな。」
そう言って、雫は苦笑する。
「教えるって・・・おまえ頭いいのか?」
「どうだろうな・・・。とりあえず、2つ下の静流に教えるくらいは問題ないぞ?」
雫はそう言いながら、次の時間の教科書を机の中から取り出す。
「そうか・・・。折角だからおまえも誘おうと思ったんだが・・・。」
祐一はそう言って、身体を後ろに倒し椅子に凭れる。
「それなら、行くぞ?静流も水無月さんに会えると分かれば喜ぶだろうしな。なにより・・・。」
「なにより?」
「俺が教えなくても良くなるからな。」
そう言って、雫は笑いながら言う。
「なるほど、それもそうだな・・・。それじゃあ、桜には俺から言っておくから、静流にも言っといてくれ。」
「分かった。また日付が決まったら教えてくれ。」
雫がそう言い終ると同時に、教室のドアから次の時間の担当教師が顔を覗かせた。
「さてと・・・後1時間、がんばりますか・・・。」
祐一が気合いを入れ直すと、丁度授業開始のチャイムが聞こえてきた・・・・・・。
「んっ?」
祐一は、そう言うと窓の外に目を移す。
3年生の教室は、その構造上グランドの様子がよく見える。
「あれは・・・悠緋か?」
祐一はそう呟くと、窓の外で走っている女子の集団を見る。
どうやら持久走のようなのだが、その中に、髪をポニーテールにして先頭を走っている少女がいる。
「悠緋の奴、早いな・・・。」
祐一は授業そっちのけで、その姿を目で追った。
視線の先の悠緋は、後続をどんどん引き離し周回遅れを出す勢いだった。
その走る姿は、見ていても綺麗でフォームも格好良い。
一方、教室の中では教師が熱弁を振るっているのだが、祐一の耳には届いていない。
(う〜ん・・・・・・。)
祐一はグランドを横目で見ながら、心の中で唸っていた。
どうやら、朝の腑に落ちない違和感を思い出したようだ。
(確かに俺が数日前に会ったのは、あの子に間違いないよな・・・。でも、朝の悠緋は何か違ってたし・・・。)
そう考えながら、鉛筆をくるくると回す。
「分からないよな〜・・・。」
「相沢、何が分からないんだ?」
「んっ?いや、だから・・・・・・。」
振り返った祐一は、そこで言葉を止める・・・っというか、続きが喋れなかった。
祐一の視線の先にいるのは、大きい三角定規を持った教師の顔・・・。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・廊下?」
「いや、39だ。」
祐一はそれを聞くなり、センター演習用問題集を持って黒板へと向かった。
(俺って、いつも似たような事やってるよな・・・・・・。)
その通りであるのだが、それに気が付くのをもう少し早くしない限り、祐一にはこの先も似たような事が起こるだろう・・・・・・。
「っと言う事で、お昼休みです。」
「そうだな・・・。」
「お弁当を食べる時間ですよ?」
「そうだな・・・。」
「愛妻弁当を食べないんですか?」
「・・・・・・・・・相沢、もう一部屋追加しようか?」
「すみません。」
祐一は即答して謝ると、まだ若い20代後半くらいの教師は部屋を静かに出ていった。
その姿を確認し、更に足音が遠ざかっていくが聞こえると、祐一はすぐ近くにあった椅子に腰掛ける。
「・・・う〜む・・・何で昼休みなんかにやらないといけないんだ?」
祐一は、右手に持っている箒と左手に持っているちり取りを、近くのダンボールの上に置く。
ちなみに、ここは普段あまり使われない資料室である。
先ほどの授業で余所見をしていた為、担当だった数学教師の命で、ここの掃除をやらされているのである。
「第一、普通放課後とかにやらせないか?」
理不尽極まりないといった顔で、ブツブツ文句を言う祐一。
尤も、この状況になってしまった原因が自分にある為、自業自得なのだが・・・・・・。
「はあ〜・・・文句言ってても始まらないし、さっさと終らすか・・・。」
そう言って、段ボールの上に置いた箒を手に取り、掃除を再開する。
「しかし、愛妻弁当ぐらいで怒るとは・・・・・・家庭崩壊の危機か?」
どうでも善い事を考えながらも、手はしっかりと動かしている。
「それにしても、腹減っ・・・・・。」
「きゃっ!」
「えっ?」
ガシャンッッッ!!!
祐一がそう思って振り向いた瞬間、大きな音が狭い部屋に響き渡った。
「・・・・・・なっ、何なんだ・・・!?」
祐一は混乱する頭で、周りの状況を確認する。
「んっ?だっ、大丈夫か!?」
祐一は倒れている少女を見つけると、急いで駆け寄る。
「あっ・・・・・・。」
少女はまだ頭が混乱しているのか、状況を把握していないのか、ボーッとして祐一の顔を見ていた。
「おい、大丈夫か?」
祐一は、半身を起こしている少女に目線をあわせる為、しゃがみ声を再度かける。
「えっ・・・あっ、すっ、すみません・・・。」
少女はそう言うと、周りを見て状況を確認する。
どうやら、高い棚の上に教材を片づけようと思って手を出したが失敗したらしい。
「怪我とかはないか?」
「はい・・・大丈夫です・・・。ありがとうございました。」
そう言って、ペコリとお辞儀をする。
長い髪の毛が頭につられて、下に流れる。
「礼を言われるような事はしてないから気にするな。それより、怪我が無くて良かったな。」
祐一はそう言って笑うと、少女の頭をポンポンと軽く叩く。
「あっ・・・。」
それに対して、少女は恥ずかしそうに頬を朱に染める。
「とりあえず、俺も手伝う。量が多そうだし・・・なにより同じ事をされても危なったしいからな。」
悪戯っぽくそう言うと、少女は先ほどの事を思い出し真っ赤になる。
「それじゃあ・・・・・・お願いします。」
少女は丁寧にお辞儀をすると、祐一は「任せておけ。」と胸を叩き、落ちている教材を拾い出す。
少女も、祐一同様に散らばっている教材を手に取っていく。
「しかし・・・量多くないか?」
祐一は手に持っている丸い包みをしげしげと眺めながら言う。
確かに祐一が言う通り、大小あわせて結構な量がある。
少女の手に何とか収まる・・・っといった感じである。
「あの・・・日本史の授業で、その・・・制作物を作っていましたので・・・。」
どうやら緊張しているようで、おどおどと話す少女。
「なるほど・・・。だから、ポスカや油性ペン、資料集があるのか。」
祐一はその様子に気が付いているのかいないのか、いつも通りの口調でそう言うと、自分が抱えている物を見下ろす。
「でも、誰かに手伝って貰えばよかったんじゃないのか?」
祐一は、当然・・・というか、誰でも気が付くような事をしなかった事を尋ねた。
「いつもだったらそうなんですけど・・・私、授業中に余所見をしていたんです・・・。」
そこまで言って、少女は照れ笑いをする。
罰として片づけるように言われた事に気が付いた祐一は、「俺と同じだな。」と言って、笑いかけた。
「えっ?あなたもそうなんですか?」
「ああ。尤も、俺の場合はこの部屋の掃除を言いつけられたんだけどな。」
そう言って、祐一は苦笑する。
少女もそれを聞いて、クスクスと笑う。
「さて・・・終らせないと昼飯が食えないからな・・・。とっとと終らせようぜ?」
「はい。」
少女は元気良く返事をすると、手に持っていた教材を棚に戻していく。
昼休みも後少し・・・。
そんな中を、祐一は重い足取りで教室に向かって歩いていた。
どうやら、『資料室の掃除&片付けの手伝い』が意外にも重労働だったらしい・・・。
普段から運動をする習慣がない為、祐一には必要以上の体力が基本的には無い。
まあ、その分を抜群の運動神経でカバーしているので、授業とかでは問題ないのだが・・・。
「くそ・・・早く戻らないと飯が食べれん・・・。」
祐一はそう言って、2階の階段を上りきる。
「祐一先輩?」
っと、丁度3階に上がろうとした一歩踏み出した時に、あまり聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「んっ?」
「あっ、やっぱり先輩だ♪」
そう言って、嬉しそうに近づいて来るのは、朝から祐一が気になっていた瀬璃迂悠緋だった。
「よう。」
「こんにちは、先輩♪」
そう言って、元気良く挨拶をする悠緋。
その姿に、あの時の悠緋だよな・・・と祐一は、悠緋に初めてあった時の記憶と重ねた。
「先輩?」
ボーとしている祐一に、悠緋が困ったように声をかける。
「んっ?ああ・・・悪い。ちょっと考え事してた。」
「考え事?」
「こっちの事だから気にするな。それより、朝は調子悪かったのか?」
「はい?」
何の脈絡もない突然の質問に、悠緋は首を捻った。
「朝、学校に来る時におまえを見かけたんだよ。でも、今みたいに元気じゃなくて・・・こう、消極的に感じたから・・・。」
どうやら祐一は、調子が悪い=いつもの元気が無い=消極的=朝の姿・・・っとなったようだ。
元気いっぱいな悠緋じゃなかったのが違和感の正体なんだと、祐一は結論ずけたのだ。
一方、祐一に説明され、やっと意味を理解した悠緋はジッと何かを考え込んでいた。
「悠緋?」
祐一に声をかけられると、悠緋は俯いていた顔をあげ、祐一を正面から見据える。
「・・・先輩。先輩って、転校生ですか?」
「はっ?」
てっきり、「調子が悪かったんです」的な答えを返すものだと思っていた祐一は、予想外の悠緋の行動に、つい間抜けな返事をしてしまう。
「相沢先輩、この学園に編入したんですか?」
悠緋は、丁寧にもう一度尋ねる。
「ああ・・・。俺は今年の4月から来たんだが・・・・・・。」
祐一は、悠緋の質問の意図を掴み切れぬまま答える。
悠緋はそれを聞いて、「それで・・・。」と納得した様子をみせた。
・・・が、相変わらず祐一には意味が分からなかった。
「悠緋、意味が分からないんだが・・・。どうして、おまえの調子を聞いたのに、俺の転校が関係あるんだ?」
祐一は尤もな疑問を投げかけるが、当の悠緋はそれには答えず、別の質問を投げかける。
「う〜ん・・・今日、先輩時間ある?」
「別に何もないが・・・。」
「それじゃあ、放課後に屋上に来てくれる?」
「屋上?ここの階段を上っていけばいいんだよな?」
そう言って、祐一はすぐ近くの階段を指す。
「うん♪絶対来てよ!!」
そう言って、悠緋は祐一の返事を待たずに駆出す。
「ちょっ・・・悠緋っ!!」
「先輩、授業遅れちゃダメですよ〜♪♪」
そう言って、祐一の制止の声を無視して教室の一角に消えていった。
「・・・・・・調子良いんじゃないか・・・っていうか、元気すぎるよな・・・。」
結局、祐一は悠緋の言っている事の大半を理解せぬまま、悠緋が消えた教室をしばらくボーッと眺めていた・・・・・・。
ギイィィィ・・・・。
重い鉄の扉を開け瞬間に、肌寒い春の風がなだれ込んでくる。
「寒い・・・・・が、向こうに比べればまだましか・・・。」
祐一はそう言いながら、空を見る。
空はいつもと変わらない、青空を瞳に映していた。
「先輩、こっちだよ〜♪」
そう言って、視線を声の聞こえた辺りに移動させると、ポニーテールを揺らした悠緋がフェンスの近くで手を振っている。
「よう。」
祐一は悠緋に軽く手を挙げて応えると、ゆっくりと近づいてゆく。
水無月学園の屋上は普段も一般開放されているが、さすがにこの時期に放課後屋上にいる人間はいないようだ・・・。
午後の授業中、雫に屋上について聞いたところ、夏は朝から放課後まで多種多様の目的を持った人達がいるため、誰かしらいるようだ。
「部活はやってないか?」
祐一は、フェンスを手で掴みながらグランドを見下ろす。
グランドからは、陸上部のかけ声や野球部の打ち込みの金属音等が聞こえてくる。
「私、部活入ってないんです。」
悠緋はそう言ってニコッと笑うと、祐一同様にフェンスに手をかけて、グランドを見下ろす。
「あれっ?前会った時、部活に行くとか言ってなかったか?」
祐一はうつろな記憶の糸を辿る。
確かに、数日前・・・花見の時、悠緋は『部活があるから・・・。』的な事を言っていた。
祐一はそれを再度頭の中で確認すると、悠緋に視線を移す。
「助っ人だよ。私、部活に入ってないのは、色々な部活の助っ人に借り出されてるからだよ。」
「助っ人?・・・なるほど・・・。」
祐一は納得して、「運動神経良いんだな。」と言って、再びグランドに視線を移す。
そして、しばしの沈黙・・・・・・。
「先輩。朝の事だけどね・・・。」
「ああ・・・。」
先に切り出したのは悠緋だった。
祐一は要点だけ聞けばいいのだが・・・・・・何となく聞きずらかったのだ。
それは、不治の病の人間に「あなたいつ死ぬの?」と聞くような感じだ。
「あのね・・・朝、先輩が見たのは悠那(ゆうな)なの。」
「悠那?」
祐一は聞き慣れない言葉に、頭を傾げた。
「どういう事だ?双子なのか?」
悠緋の言っている意味が相変わらず掴み切れていない祐一は、知識を総動員して答えを導き出す。
「う〜ん・・・そうじゃないんだけどね。」
そう言って、悠緋は苦笑する。
「あのね・・・実際に見てみれば分かるよ・・・・・・。」
悠緋はそう言って背中をフェンスに寄りかからせる。
そして、そのまま静かに目を瞑ると、悠緋の身体が気絶するかのように、一瞬膝から身体が崩れ落ちていく。
「悠緋!?」
祐一は驚いて駆け寄ろうとするが、すぐに悠緋自身がフェンスに手をかけて持ちこたえる。
「悠緋、大丈夫か!」
祐一は、フェンスに凭れている悠緋に近寄り声をかける。
「・・・・・・大丈夫ですよ、相沢先輩。」
それだけ言うと、悠緋は閉じていた目を開き、フェンスを掴んでいる手に力を加えて体勢を整える。
そして、何を思ったのか、徐にポニーテールを形止めているゴムを外す。
パサッという乾いた音と共に、長いストレートの髪が露わになる。
「悠緋・・・?」
祐一は悠緋の一連の行動を、只呆然と眺めていた。
「私は・・・・・・えっと、2回目・・・ですよね・・・?」
普段の元気いっぱいな悠緋とは裏腹に、どこかオロオロした口調で話す悠緋。
悠緋と180度反対の言動に、祐一の頭はまともな答えを出してくれなかった。
そんな祐一に、悠緋は優しく微笑みながらペコリと丁寧にお辞儀した。
「えっと・・・初めてだから・・・その、初めまして・・・。私、瀬璃迂悠那・・・って言います・・・。」
人見知りが激しいのか男が苦手なのか・・・視線を祐一に合わせようとせずに彷徨ませながら、瀬璃迂悠那は挨拶をする。
「・・・悠緋?悠那?」
祐一は悠緋の変わり様に驚きを隠せず、呆然と悠緋・・・悠那の姿を見ていた・・・・・・。
〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜
AP「ふっ・・・・・・また終らなかった・・・。」
悠那「お疲れさまです。」
AP「よう。今回は悠那か?」
悠那「はい・・・・・・悠那は、昨日部活でしたから・・・。」
AP「なるほど。」
悠那「でも・・・今回、何故か終りませんでしたね・・・。」
AP「ああ。まあ分ける必要もなかったんだが・・・時間かかりそうだったからな。」
悠那「それは・・・・・・○○○や○○○とかが、関係しているんですか?」
AP「うっ・・・まあ、ネット接続してるんだけど、そればっかりやってるからな・・・。」
悠那「限定SS・・・ちゃんと書いてますか?」
AP「痛いところばっかりつくね・・・(TT)。ネタはあるんだよ・・・だけど書く時間がない・・・。」
悠那「次回は・・・私のネタ晴らしで、終わりですか・・・?」
AP「・・・いや、名雪達を出そうかと思ってるんだけど・・・・・・。」
悠那「名雪さんを?」
AP「ああ。どうせ、今回でおまえのネタは分かっただろうし・・・。次回は、まとめみたいな感じだな。」
悠那「・・・出番・・・少ないのですか?。」
AP「むしろ、桜達が出て来るか怪しい・・・(^^;)。」
悠那「・・・・・・お米券進呈した方がいいですか?」
AP「頼むからそれは止めてくれ・・・それをやると、美凪になってしまうからな・・・(TT)。」
悠那「・・・了承。」
AP「なんか、おまえが言うと10秒くらいかかりそうだな・・・(^^;)。」
悠那「・・・そんなこと言う人・・・嫌いです・・・。」
AP「だんだんキャラが壊れていく・・・(TT)。」
悠那「・・・・・・ゲッチュ。」
AP「麻美先輩・・・(汗)。ま、まあ、次回頑張ってくれ。」
悠那「はい・・・♪」
AP「それではみなさま、次回はなるべく早く更新したいと思います!!・・・・・・たぶん・・・(アセアセ)。」
悠那「・・・・・・また・・・私に、会いに来てくださいね・・・?(///)」
AP「それでは、バイバイです〜♪♪・・・・・・恥ずかしがるなら言うなよ・・・(汗)。」