当たり前だけど、上を見たら空があった。
青く澄んだ空が、何処までも続いていた・・・。
東の空には、今の季節を感じさせる太陽が顔を出している。
ギラギラと照りつける・・・そんな感じで・・・。
「みーちゃーん!そろそろ行くよー!」
空を見ていると、私一人だけがこの世界にいるように感じる。
まるで、四方を海に囲まれた、小さな無人島にいるように・・・。
「みーちゃんってば〜!!」
聞き慣れた声・・・桜が、私を呼んでる。
「そろそろ行かないとね・・・。」
私は誰に言うのでもなく呟くと、桜の元へ歩いて行く。
桜の側には、お手伝いさんと、おじさん・・・つまり、桜のお父さんがいた。
どうやら、今日の運転手はおじさんらしい。
「みーちゃん、早く行こ♪」
桜は待ちきれなくなったのか、私の元に駆け寄ってくると、両手で私の手を掴み、引っ張る。
「ちょっ、ちょっと待って・・・。」
私は、桜に連れて行かれる感じで、先導されていく。
「早く、早く〜♪」
私の声が聞こえないのか、わざとなのか・・・。
まあ、桜の場合、間違いなく前者でしょうけどね・・・。
「♪♪♪」
桜は御機嫌な様子だ。
はあ〜、まったく・・・。
これじゃあ、どっちが今日の主役か分からないわね・・・・・・まっ、別にいいんだけどね・・・。
「桜、行くわよ。」
「あっ!」
私は、捕まれていた手を救出し、車に向かって軽く駆け出す。
「みーちゃん、待ってよ〜。」
桜の声が、背中越しに聞こえるが走り続ける。
「みーちゃ〜ん。」
上を見ると、空があった。
どこまでも続いていきそうな・・・そんな青い大海が広がっていた・・・・・・。
残暑見舞いSS
まるちぶーと!
番外編 「美咲の夏」
蝉の声がする。
ミーンミーンだとか、ツクツクボーシだとか、よく知らないけど・・・とにかく、蝉の声がする。
「美咲先輩、暑いです。」
暑そうにも、疲れているようにも感じさせない声で呼びかけられる。
「スパッと言い切ってくれたわね・・・。」
私は呆れたような感じで答え、声のした方向を振り返る。
「暑い事に遠慮しても、しょうがないじゃないですか。」
尤もな言い分を言い、プログラムが書いてある冊子で、日差しから目を守っている。
「夏だしね。」
私はそう言うと、スパイクの紐をキュッと結ぶ。
ちょっとキツく・・・でも決してキツすぎないように結ぶ。
「今日は、最高気温が37度らしいわよ?」
私がそう言ったのを聞くと、あらかさまに顔を顰(しか)める。
そして、いつものセリフ・・・
「「1年中冬だったらいいのに・・・。」」
絶妙なタイミングで、2人・・・私と紗里奈(さりな)の声が重なる。
紗里奈は驚くが、それは一瞬のこと。
はあ〜と溜息を吐くと、クスクスと笑っている、私の背中を押す。
「もう、私で遊んでなんかいないで・・・次なんですよ?」
呆れたような口調で、手を腰に当て言う。
どうせこの子の事だから、ホントに呆れてるんでしょうけどね。
「はいはい。じゃあ、行って来るわね。」
私は、軽くジャンプすると、紗里奈に手を挙げる。
「頑張ってきてくださいね。」
紗里奈は手を振って、私にエールを送る。
「さて・・・折角ここまで来たんだから、頑張らないとね。」
私は、去っていく紗里奈の背中を見ながら、自分自身に言い聞かせるように言う。
『2組目の長距離出場者は、ここに集まってください。』
遠くから、メガフォン越しの声が聞こえる。
さて、頑張ろっかな・・・。
「みーちゃん、お疲れさま♪」
「ありがと。」
私は、桜から貰ったタオルで汗を拭く。
はあ・・・炎天下じゃあ、短距離の方が有利よね・・・絶対・・・。
私は、恨めしそうに空を見上げるが、太陽は隠れてくれない。
「でも、みーちゃん。すごい元気だね♪」
「えっ?」
桜の突然の感想に、私は間抜けな返事で返してしまう。
「だって、あれだけ走ったのに、もう元気そうなんだもん。」
「そう?」
疲れて無いと言えば嘘になるけど、座り込むほど疲れてはいないの事実。
「うん♪だって、3kmでしょ?凄いよ〜♪」
大袈裟に驚く桜。
まあ、桜からみたら、それは凄い事なんでしょうけどね。
その後はみんなの所へ戻り、予選の結果が出るまで、取り留めのない会話をしていた。
「ねえ、今は何の競技なの?」
桜が、トラックを遠くに見ながら、近くの部員に尋ねる。
「え〜と・・・・・・800mみたいですよ。」
その子は、プログラムのタイムテーブルを確認して、桜に答える。
ふ〜ん・・・今は800mか・・・・・・800m?・・・えっ!?
「800m!?」
周りの部員達が、私の声に驚いてこちらを振り向く。
けどそれは、今の私には些細な事。
「今、800mなの?」
私はプログラムを持っている子に、詰め寄る。
他のみんなは、突然の私の行動に呆然としているみたい。
「えっ?あっ、はい。」
私に詰め寄られた子は、状況をよく理解していないまま、私が聞いた事に、驚きつつも答えてくれた。
私はそれを聞くと、急いで観戦席の一番前に走る。
もちろん、段差があるから、細心の注意を払ってだけど・・・。
「あっ、みーちゃんっ!」
後ろから桜の声が聞こえるが、今は構っていられない。
「つい、お喋りに夢中になってたわ。」
私は心の中で、間に合う事を祈りつつ、少しスピードを上げた・・・。
パーーン!!
「はあ〜・・・何とか間に合ったのかな・・・。」
私はとりあえず、息を整える。
そして、手すりに手をかけると、目的の人物を目を凝らして捜す。
「う〜ん・・・ここからじゃ、よく分からないわね・・・。」
「例の人なら、最後の3組目だよ。」
「あっ、そうなんだ。御親切にどうも。」
そう言って、声のした方向を見ると、ニコニコと笑顔を浮かべた桜がいた。
・・・・・・桜?
「みーちゃんの事だから、”800m”以外分かってないんだろうな〜って思ったから・・・ちゃんと調べてきたんだよ。」
そう、ニコニコと話す。
「・・・当たってるだけに、何か悔しいわね・・・。」
とりあえず、教えてくれたお礼に、桜の頭を撫でておく。
ふみゅ〜とでも効果音が聞こえそうなくらい、幸せそうに行為を受け入れる桜。
「それにしても、よく分かったわね?」
私は撫でていた手を離すと、桜に問いかけた。
トラックでは、2組目が走り出している。
「だって、例の人でしょ?”800m”と”みーちゃんの行動”ときたら、その人の事しかないからね。」
桜は、笑って答える。
「そこまで読まれてると、逆に気持ちがいいわね・・・。」
私は、言葉とは裏腹に、はあ〜と溜息を吐きながら、トラックに視線を向ける。
各中距離走者が、自分のペースに合わせて、ラストの直線を走っていく。
「次だよね?」
「ええ。」
私たちは、炎天下の中、静かに3組がスタートラインに並ぶのを待っていた。
私は練習とかで暑いのは慣れてるけど、桜は慣れていないと思う。
元々、運動神経が切れてるような子だから・・・。
だけど、暑いとも疲れたとも言わないで、静かに私の側にいてくれる・・・。
「桜、ありがとうね。」
「うん♪」
私の突然の感謝の言葉にも、桜は、実に桜らしい返事で返してくれた。
「あっ、あの子だよね?」
そう言って、トラックに集まっている、集団の一角を指で指し示す。
もう。指で指したらダメだって言ってるのに・・・。
私は桜の指を下げさせてから、確認する。
「確かに、あの人ね・・・。」
私はそう言うと、青く長い髪をポニーテールにしている人をジッと見る。
「”みなせなゆきさん”だったよね?」
「・・・よく覚えてたわね・・・。」
正直なところ、私は桜は忘れていると踏んでいた。
この子、勉強とかはちゃんと覚えてるのに、日常生活に関しては、とことん覚えが悪いんだもんね。
「う〜、みーちゃん酷いよ〜・・・。」
頬を少し膨らませて、私の服を掴みながら上目づかいに見てくる。
「はいはい。そう言う事にしとくわね。」
「みーちゃん・・・。」
私が頭を撫でると、すぐに機嫌がよくなった。
桜と5年も付き合ってこれば、扱い方も分かってくる。
そういえば・・・桜とは、もう5年間も付き合ってるわよね・・・。
桜と最初にあったのは、いつだったかな・・・確か・・・・・・
パーーン!!
私は、その音でハッとすると、トラックに目を向ける。
「あっ、始まったよ〜♪」
桜は、無邪気な子供のように歓声を上げる。
「やっぱり、速いわね・・・。」
150M辺りを通過したところで、先頭集団に水瀬さんが見える。
速いだけなら水瀬さんじゃなくても、他にもたくさんいる。
でも、私が水瀬さんに惹かれる理由は違う。
「楽しそうだね♪」
「そうね・・・。それに、凄く綺麗・・・。」
不謹慎かも知れないけど、彼女は凄く楽しそうに走る。
表情とか、そう言う意味の”楽しい”でじゃなくて・・・説明が難しいんだけど、楽しそうに走っているのは分かる。
スキップをしている感じで走る・・・そんな感じかな・・・?
「あっ、すごーい♪さっきから、全然ペース落ちてないよ。」
「あんな風に走りたいわね・・・。」
結局水瀬さんは、そのままペースを落とさずに、3組2位でゴールした。
「ねえ、みーちゃん。”みなせさん”とお話しした事ってあるの?」
桜が唐突にそう聞いてきた。
「あるわよ。前に一回だけね。」
私は、無事予選を突破した事もあってか、リラックスしていた。
ちなみに、今はお昼。
近くの広場の木陰で、桜のおばさんが作ってくれたお弁当を広げている。
私が作ってもよかったのだが、
「みーちゃんは、大会があるからゆっくり寝てるの!」
と、桜に言われたので、断念した。
言っておくと、桜は料理の才能が蟻程もない。
むしろ、ミジンコ程もないかもしれない。
それぐらい壊滅的に下手なのである。
しかも、本人には『ちょっと苦手』ぐらいの自覚しかないから、困ったものである。
「ほえ?みーちゃん、どうかしたの?」
桜は、箸でエビフライを捕まえた所で、私を見る。
「何でもないわよ。それより、私と水瀬さんの話だったわね?」
「うん。いつ話したの?」
「去年の全国大会の時よ。きっかけは、ホントに偶然だったのよ。」
私は微笑みながら、その時の事を桜に話していった。
「これ、あなたのですか?」
「えっ?」
振り向くと、青く長い髪をポニーテールにした人が、私を見ていた。
「あの・・・?」
「私・・・ですか?」
「このハンカチ、落としましたよね?」
そう言って、ニコッと笑った。
その人が、あの”水瀬さん”だと気が付くまで、私はしばらく時間を要した。
まさか、本人に会えるとは思ってなかったから・・・・・・。
「ありがとうございます。」
私はハンカチを受け取ると、お辞儀をする。
そして、私は大胆にも「水瀬さんとお話しがしたい!」っと思った。
「あの・・・水瀬さんですよね?」
「私の事・・・知ってるんですか?」
水瀬さんは、トロンとした・・・どこか夢見ごごちの目のままで答える。
「はい!あっ、私、藤波美咲って言います。」
「藤波さんだね。えっと、私は水瀬名雪です。」
そう言って、深々とお辞儀する。
水瀬さんは、私が思っていたのと違って、ボーっとしている感じを受けた。
何となくだけど・・・桜と何処となく似ているように感じた。
「でも、私の事どうして知ってたの?」
走っている時のような、キリッとした感じでは無く、スローペースでおっとりとした喋り方・・・うん、やっぱり桜に似てる。
「あの・・・?」
「えっ?」
私は、考え事に夢中になってしまい、水瀬さんの事をすっかり忘れていた。
「う〜・・・藤波さん、酷いよ〜・・・。」
どこか楽しそうに、でも、非難は忘れずに、水瀬さんがう〜と唸る。
それ以上に、凄く人懐っこい人だと思った。
「あっ・・・えっと、ゴメンなさい。」
私はそう言うと、水瀬さんの頭を撫でる。
いつも桜にやっているような感じで、頭を撫でる・・・。
サラサラの髪が、手に心地よい。
私は、顔が自然と微笑んでいた。
「えっと・・・あの・・・・。」
水瀬さんの困ったような声で、私は我に返った。
私、何て羨ましい・・・じゃなくて、失礼な事を・・・。
「ごっ、ごめんなさい。」
「あ、別に良いよ〜。ちょっと照れくさかっただけだから。」
そう言って、ニッコリと微笑む。
その笑顔は、どこか安心してしまうような・・・暖かい笑顔だった。
「私の友達にもね、私の事よく撫でる人がいるんだよ〜。」
「私は、よく撫でる友達がいます。」
そうお互いに言った後、目を合わせ、どちらからともなく笑った。
「その後どうしたの?」
「適当に身近な事とか話をして別れたわ。」
私は、食後のお茶を飲みながら、桜に答える。
このお茶、おいしいわね・・・。
今度聞いておかなくっちゃ。
「私、よく撫でられてる?」
「ええ。十分な程撫でられてるわ。」
私は、キッパリと肯定する。
「何か悔しいよ〜・・・。」
そう言って、非難の目を向けてくる桜を見て、やっぱり水瀬さんと似てることを再認識した。
桜と水瀬さん・・・2人が会ったら、きっとおもしろいでしょうね・・・。
私は、そう思うと同時に笑ってしまった。
おっとりとしたスローペース口調で、楽しそうに会話する2人・・・・・・2人には悪いけど、凄くおもしろそうだわ。
でも、見ていると疲れるかも・・・。
「でも、それはそれでおもしろかな?」
「みーちゃん?」
「ふふ。何でもないわよ。」
私はそう言うと、桜の頭を撫でる。
う〜ん・・・私、桜の頭を撫でるのが癖になってるわね・・・。
私も桜の事言えないわね・・・。
私はそう思い、苦笑する。
『100M準決勝が始まりますので、みなさま・・・・・・』
会場のスピーカーから、100Mが始まる声がかかる。
私の出番は、夕方頃。
「そろそろ行きましょうか。」
私は立ち上がると、グッと背伸びをする。
「そうだね。決勝戦、頑張ってね♪」
「ええ。全力で頑張るわよ。」
桜の声援に元気に答えると、私は上を見る。
空には、相変わらずな青い絨毯が広がっていた。
木陰の隙間から見える夏の日差しが、いやがうえにも流れてくる汗を増やす。
私は、去年ここにいた。
そして、今年もここにいる。
それじゃあ、来年は?
「みーちゃん。お弁当片づけたよ。」
「それじゃあ行きましょうか。」
「うん♪♪」
夏の日差しに負けない、元気な桜の笑顔。
私は桜に微笑むと、サンサンと光が降り注ぐ地へと、足を踏み出す。
今年は無理だろうけど・・・来年は、桜と水瀬さんを会わせてみよう。
きっと、楽しくなるはずだから・・・・・・。
私は、横を歩く桜を見ながら、そう思った。
その前に、決勝頑張らないとね。
私の夏は、いつも楽しい。
去年も楽しかったし、今年もきっと楽しいだろう。
だから・・・来年は、もっと楽しいと良いな♪
〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜
どうも、アポロジーです。
今回は、当HP非公開SSとして、「まるちぶーと!」の番外編を書いてみました(^^)/。
このSSは、残暑見舞いです。
本当は暑中見舞いと残暑見舞いで、前後編にするつもりが・・・時間がなかったんですよね(^^;)。
さて、このSSは私のHP「まるちぶーと!」を読んでいないと分かりません(^^;)。
読んでない人は・・・・・・読んでください(爆)。
ちなみに、SS中に出てくる紗里奈は、美咲の後輩ですが・・・本編で出るかどうかはまだ検討中です。
出ても、ちょい役かも・・・(^^;)。
では、みなさま・・・遅れましたが、残暑見舞いお受け取りください(_ _)。
そして、当HPに来て頂いている方々、相互リンクして頂いている方々、大変ありがとうです。
これからも、当HP「上なる天、下なる地」と、管理人であるアポロジーを、よろしくお願いします(_ _)。
それでは、またどこかで会いましょう(^^)/。