「…いかがなものでしょうか?」 涼やかな声が古びた店の中で静に響く。 店内には俺と、妹の涼浬の二人きり。 いつもいつも邪魔をするあの関西弁も、呼び出しをかける龍斗も今は霊場に行っている。 今のこの兄弟水入らずの状態を邪魔するものは無い。 …はずであった。 はずであったのだが、先日より呼び出しだの色々で後回しになっていた店の中を掃除することになってしまった。 妹とだから別にかまいはしないのだが、あまりにも慌し過ぎはしないだろうか? 何はともあれ、掃除をしていたら見た事のない釜が出てきた。 俺にとっては大して気にもならないものだ。 だが、妙に涼理がその茶釜を気に入ったようで、急遽鑑定することになった。 少し錆びてはいるものの保存はよく、材質は金。用途は…この大きさから言うと茶道か…? 「…これのどこが気に入ったんだ?」 そこが不思議でたまらない。 確かに、涼浬は俺の仕事を見てか骨董品を良く管理し、本人も店を、商品を好んでいるように見える。 が、あくまで商品に対する心の込め様。 ここまで執着するのはかなり珍しい。 「ああ…なかなか良いものだ。よく見つけたな。」 それは確かに良いものなのだが… こうはいっているものの…この茶釜、妙に俺にとっては気に食わない。 「そうですか…」 ほんのりと淡く微笑む。こういうところはとても綺麗な…年相応の娘よりずっとずっと可愛らしい。 しかしこの茶釜…本当に見れば見るほど気に食わない…! 「…兄上?どうかなされましたか?」 「…どうにもせんよ」 別になんでもない。多少俺の気分が害される程度で…。 「ああ…そういえば、休憩にするところでしたね…お茶でも入れてまいります。」 そう言って、涼浬が席を立つ。 台所に消える後姿を見送りながら必死で考えをめぐらせる。 叩き割ろうにも金。捨てるのも商売人としてはしたくない。 それに、涼浬のお気に入りだ。下手に始末してはばれた時が怖い。 どうしようか… 「奈涸〜…?今日の収穫買い取ってもらいたいんだけど…」 そう言って飛び込んできた龍斗の手には、不気味に輝く偽小判(大業物)。 俺は龍斗の手を捕らえ、にんまりと笑った。 「…あら、兄上、あの茶釜は…?」 湯飲みを二つと茶菓子を持ってきた涼浬は先ほどまであった茶釜が消えていることにすぐに気付いた。 「あれは、龍斗が切に欲しいというのでな…」 そう言って茶をすする。うん、美味い。 「…そう、ですか…。」 心なしか沈んだ声。 「龍斗さんが欲しいというのなら…仕方ありませんね。」 ああ、すまない涼浬…だが俺の精神安定にはあの茶釜がとてつもなく邪魔だったんだ…。 …後日、その茶釜を合成して作ったと思われる式神が涼浬の肩にのっているという事実に気付くのは、まだ当分後のことであった。 |