元飛水流、奈涸。 彼は神出鬼没であり…そしてまた、行動は疾風迅雷。 そんな彼にもただ一つ、唯一とも言える弱点があった…。 静寂保たれし、ある日の如月骨董品店。 店にいるのは涼浬ただ一人。 その日に店の戸を叩いたのは、仲間の一人。 外の寒さに、一時の暖を取りに来たのであろう。 涼浬はなんの躊躇いもなく、仲間の一人を店に上げた。 「風が強うてかなんわぁ…」 「今日は…寒いですからね…」 あと一月で桜を目にすることになろう季節なのに、その日の天気は妙に肌寒く、強い風が吹いていた。 まるで冬が帰ってきたようだ…と、人々は寒さに愚痴をこぼす。 「さしもの天狗様も…江戸の風には敵いませぬか?」 表情の薄い顔に、からかうような笑みが浮んでいる。 涼理もまた、寒さに飽いているのだ。 「お…いうたな?こぉんな風くらい、わいにとっては止めることくらいへのかっぱや。」 「でも…先ほどまで負けていたではありませんか。」 くすくす、と小さく笑いを浮かべる涼浬に苦笑を浮かべる。 「せなら…賭けへんか?」 「…賭け?」 「そや。わいがこの風、止めたる。できなんだら、涼浬ちゃんの勝ちや。」 「…出来たら、們天丸さまの…」 「もんちゃんやて。そ、わいの勝ちや。」 得意満面、們天丸は羽扇を広げにやりと笑って見せた。 「…賭け、と申されるのであれば…賭け物が必要でしょう?何を賭けるのですか?」 「…せやなぁ…」 くるり、と店の中を見回し、考え込む。 「そんなら…わいが負けたら、涼浬ちゃんの言うこと、なんでも一つきく。 涼浬ちゃんが負けたら…わいのこの冷たい身体、涼浬ちゃんの身体で暖めてくれへんか?」 そこまで言った途端、們天丸の後ろで水しぶきが立ち上った。 「貴様!涼浬になんと言うことを…!!!」 涼浬の兄、奈涸が忍刀を們天丸に向けつつ声を上げた。 どうやら最後の一言のみがちょうど帰宅した奈涸の耳に届いてしまったらしい。 「貴様…俺の留守中に涼浬に近づいただけでは飽き足らず、そんなことまで言うとは…!」 「…兄上!!」 涼浬が奈涸に向かって何かを投げつけた。 とっさのことで上手く反応できなかった奈涸はそれを腕で振り払い… 床に落ちたそれを見ると、それはたらいと雑巾。 「それで早く床を拭いてください!商品に水がかかったら大変なんですから…!!」 言いながら涼浬もてきぱきと雑巾で床の水を拭いていく。 他の人ならいざ知らず、妹が動いているとなれば奈涸もまた動かねばなるまい。 奈涸もまた投げつけられた雑巾で床を拭き始めた。 …そして、們天丸は呆れたようにその二人を見つめている。 …結局、奈涸の乱入により賭けは行われなかったことは言うまでもない。 |