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第9回〜ある男の手記〜 (to all) あと少し。あと少しで、俺の仕事も終わりだ。 宇宙になど、出る気はなかった。金がいいって聞いたから気まぐれで受けたはずが、いつのまにかこんなばかでかい船に乗せられて、それもこんなに長居させられている。だいたい、がらじゃあないんだ、1日中せまっくるしい所に押し込められて、得体の知れない奴らの相手をさせられるなんざ。 無愛想な鉄どもや、妙ちくりんな格好のチビガキ、たまに色黒のいい女が来たかと思えばいきなりナイフをつきつけてきやがる。「早く下に降ろせ」だと?ああ、送ってやるよ。いくらでも、好きなだけ降りて、せいぜい冒険とやらをするがいいさ。あんたらが何しに行くかなんて、こっちには関係ない。ただちょいとボタン一つであのでっかいまん丸の中に飛ばす、それだけだ。つまらない仕事さ。まったく、あの時もっとよく話きいてりゃ、、 まあ、いい。それも、もうすぐ終わりだ。あと半日ほどでこの船はまるごと閉鎖だ。乗らなくなったエアーはその辺に捨てられてるが、船はどうすんのかね?なんせこの大きさだ、粗大ゴミいきってわけにもいかない。まあ、行く末や理由なんてのはどうでもいい。わかってるのは、この俺も晴れてお役ごめん、このクソ狭いカウンターともおさらばってことだ。 しかし、まあ、いろんなやつがいたもんだ、世の中って、いや、宇宙ってとこには。特に、そう、「あいつら」だ。まったく、あいつらときたら、毎日毎日ここに来るくせに、ちぃとも働きやしねぇ。こんだけだだっ広い場所の隅っこのほうで、何するわけでもなく、ただぐたぐだ集まってるだけだ。それも1時間や2時間じゃねぇ、日によっちゃあ朝までくだらねぇバカ話してやがる。政府公認の施設とはいえ、ここはただの受付けカウンターだ、別段、外と遮断してるわけじゃない。むしろ、聞きたくもないことまで全部丸聞こえだ。もちろんやつらもそんなことおかまいなしだ。就きはじめの頃なんざ、何度キレかかったかわかりゃしない。人付き合いのねぇこの俺が、こうしてここに立ってやってるってのに、まるで見向きもしねぇでずっと立ち話だ。しょうもない話題でバカ笑いしてやがる。ったく、「お前らここに何しにきてんだ!」って、よく裏でゴミ箱蹴っ飛ばしたもんさ。おかげで見るも無残な姿になっちまった。フタなんざ、とうにどっかいっちまった。間違って送っちまったかもな、あの惑星に。ラグオルによ。 ラグオル、か。いっぺん、降りてみてもよかったかもな。政府のフレコミじゃあ、ホームと同じくらいのきれいなとこだって話だが、どうも話は違うようだ。なんでも、おそろしい化け物どもがわんさかいるっていうじゃねぇか。いったいどうなってんだかねぇ、興味はあるが、俺だって命は惜しい。 得体の知れないモノに殺されるのはまっぴらだ。ま、わけのわからんって意味じゃこいつらも一緒だが。 こんなやつらでも、たまには降りることもあるらしい。まだここに来たばっかのときは、まっとうな冒険もしてたようだが、いつのことだったか覚えちゃいない。いや、まともなハンターだったからこそ覚えてねぇんだろう。今じゃあもっぱらあの星は、こいつらの遊び場になってやがる。毎日遊んでその金で暮らせるたぁ、たいした身分だぜ、ハンターってのは。その相手をするのが俺の仕事なんだが、何の因果でこうなっちまったのか、、 決まりごとでな(ルールってのが一番キライなんだよ、俺は)、降ろす時にチーム名を入れてやらなきゃいけねぇ。そうだな、例えば、 「ナイツ探索隊」 「セクハラ遠足w」 「ラブラブ二人旅」 「バレンタイン」 「アフロでもっさり」 「あ」 「い」 「森一周」 「祝1執念」 「ナイツアフロ隊」 「まったりもっさり」 「アフロ遠足」 (ガッ!ガン!!)おっと、これ以上やったらクズ箱自体がゴミになっちまう。しかしなんなんだ、この頭がどうにかなりそうなネーミングの数々は。ちらっとデータリスト覗いただけでこれだ。他にもあるにはあったろうが、いちいち覚えてられねぇ。むしろ思い出したくもねぇ。遠足?アフロ?? まったくわけがわからねぇ。いくら給料よかろうが、こんなのを俺の手で打ち込むなんざ、耐えられねぇ。まったく、閉鎖さまさまってとこだ。 にしても、だ。こいつら、なんでこうも毎日、飽きもせずに通いつめるんだ?こんなへんぴなロビーに。一体ここに何があるってんだ。この1年半、こいつらはほぼ毎日かかさずここに来てやがる。数えたことはないが、かなりの大所帯らしい。さすがに全員がそろう時はまれのようだが、最低でも2人3人は必ずいる。まるでここがやつらのホームみてぇだ、気色わるい。 「ホーム」。いやな響きだ。あそこにはろくな記憶がねぇ。ちょうどよかったのかも知れないな、抜け出すにはいい時期だった。ひょっとしたら、こいつらも自分らのホームから抜け出してきたのかもな。もっとも今じゃどっちがほんとの家だかわかりゃしねぇが。ほとんどが同じ顔ぶれだ、いやでも覚えちまうぜ。 そういや、もう随分顔を見てない連中もいるようだ。単に飽きただけか、それとも他に理由があるのか。あったとしても、こうして眺めてるだけじゃ、そいつら一人一人のことまでは分からん。それに、他人のことだ。そいつが二度と来まいが、帰ってこようが俺には関係ない。俺はただここに立った奴の相手をする。それだけのことさ。(それもあと数時間のことだが。) こいつらはどうだ?覚えてるもんなのかね、そういう輩のことは。いつかふらっとそいつがやってきたら、「よぉ、久しぶり」なんて言ったりするのか?これだけの人数だ、いちいち覚えちゃいねぇだろう。それにしては、妙なもんを感じる気もする、この連中には。まさか全員がお互い覚えてるってのか?信じれないね、ありえない。人間なんて薄情なもんさ。だが、なんだこの感情は。こいつら見てると、そう言い切れない何かがある、そう思っちまう。それが何か?一時はマジに考えたこともあったが、もう、どうでもよくなった。ここももうすぐお終いだ。居場所が追われたら、他にいく。次の食いぶちも探さないけねぇ、こいつらがどこ行こうが、知ったこっちゃない。まあ、この図太い連中だ、どこ行ったっておんなじだろう。ただ、うだうだと同じ日々を過ごす。別にとがめるわけじゃあない。俺にそんな資格もなければ、する気もない。ほんの一瞬、似たモノ同士じゃれあって楽しめばいいさ。俺にはどうでもいいことだ。 さてと。そろそろ片付けもしなきゃあな。やつらがいないときは、ここはスカスカだ。仕事なんざありゃしない。いたらいたらで騒がしいだけで何も変わりはしないがな。暇つぶしに向かいの奴(そういや名前も知らないままだ)とやった無線型ボードゲームや、目を盗んでたまに降りたシティで買ったプレイヤー、気まぐれで造った模型。どれももう用済みだ。あいにくクズカゴは満員だ。悪かったな、足くせの悪い持ち主でよ。しかたねぇ、適当にバッグにでも放り込んどくか。 おっと、こんなことしてるうちに時間になっちまう。大げさに退避命令なんぞ出しやがって。ああ、言われなくても出てくさ。さて、こいつはどうするか?この狭いテーブルの中にでも入れとくか。誰かに見せるつもりもない。別にセンチになったわけじゃない。(この俺が?まさか、冗談きついぜ)。ただ暇だったから適当に叩いてただけのもんさ。どうやらキーを扱うのは嫌いじゃあないらしい。どうってことはない。ただの暇つぶしさ。この船と共におさらばってもんさ。船の名前、ついでに書いておくか。 「Ophelia」 なんでも大昔の物語だかなんだかに出てくる、悲劇のヒロインとやらの名前らしい。たしかHumlet?そんな題だったか。暗い話は嫌いだ。こんな世界だが、どうせなら楽しく生きなきゃ損だ。この際だ、こいつと一緒に全部沈めちまおう。うざったい記憶も、退屈な考えも。さーて、次はどこに行くか、、、 ん?なんだ、メール?最後に特別ボーナスでもくれるってのか? 下記ID氏名の者、○月×日 AM10:00より移転を命ズル IDXXXXXX XX・XXXXX 現SHIP X-X-X 移転先X-XX-X IDXXXXXX XXX・XXXXXXX 現SHIP XX-X-X 移転先X-XX-X ・ ・ ・ ID957615 ウエスト・S・ウィッシュ 現SHIP17-11-12 移転先… IDXXXXXX XX・XXXXX 現SHIP X-X-X 移転先X-XX-X IDXXXXX XXX・XXXXXXX 現SHIP XX-X-X 移転先X-XX-XX ・ ・ ・ ・ ・ ・ 以上
「冗談きついぜ、、、」 |