「風雲妖怪大活劇」



「うしおととら」
作者: 藤田 和日朗(ふじたかずひろ)
週刊少年サンデーにて90年〜96年連載
コミックス全33巻+外伝1巻




ーあらすじー
 中学2年生の蒼月 潮(あおつき うしお)は、ある日、実家の寺の蔵から、奇妙な槍と一匹の妖怪を見つける。それは、人の魂を吸い取り、あらゆる化け物を滅ぼす破魔の武器、「獣(けもの)の槍」だった。槍に選ばれてしまった潮は、友達を、人間を守るために数多の妖怪たちとの戦いに身を投じることになる。そしてその槍により500年間封じ込められていた金色の妖(バケモノ)。「とら」と名づけられたそれは、潮を喰らうべく彼にとりつき、行動を共にすることになった。
 曲がったことが大嫌いなまっすぐな心を持った少年 うしおと、人間を食い物としてしかみていない凶悪な妖怪とらの、奇妙な関係の始まり。徐々に解き明かされる獣の槍の謎、そして幼い頃に死んだと聞かされていた母の行方。やがてそれらは、ある遠大な目的へと、向かってゆく、、、



ー解説、序章ー

 「これが本当に初の連載作品なのか?」と思ってしまうほど、実に完成度の高い作品だ。主人公「蒼月 潮」と、彼に関わる多くの人々、「とら」の過去、「槍」を知る謎の法力僧たち、そして日本各地に潜む妖怪の数々、、、それぞれのエピソードが複雑に絡み合ってゆく物語を、見事に描ききっている。それらは一つ一つ丁寧に語られ、決して読者は置き去りにされることはない。「語り部」藤田和日朗としての才能が十二分に発揮された、超娯楽大作である。



ー1、うしおー

 この漫画の魅力は、その多彩なストーリーや個性あふれるキャラクター、恐ろしい妖怪達との迫力あるバトルなど、見るべき点は多々あるが、なんといっても要(かなめ)となっているのは、主人公「潮」のまっすぐさだ。

 お寺の息子というと、普通は控えめでおとなしいイメージがあるが、彼の場合は全く逆である。スポーツ万能だが勉強は全くダメという、典型的な体育会系の運動少年だ。ウソが嫌いで、自分の信念を決して曲げず、また弱い者を ほうっておけない、いわゆる「損な性格」だ。
 理由もわからぬまま、強大な化け物達と戦う羽目になった平凡な中学2年生。だが彼は、自分の運命に背を向けることなく、むしろ自ら立ち向かい、ただ前へ前へと進んでいく。そのひたむきさは、行く先々で出会う人々に大きな影響を与え、その心を変えてゆく。時には、本来相入れぬ存在のはずの妖怪の心さえも動かした。また、潮自身も戦いを通じて様々なことを学び、だんだんと成長してゆく。
 「妖怪マンガ」といえども、ただのホラーやアクションではなく、それは時に人間賛歌であり、また時には科学や発展を批判する風刺であり、そして何より一人の少年が「男」になっていく、成長の物語であることに最大の魅力があるのだ。



ー2、とらー

 実は、読者人気においては、潮よりも人気の高いキャラクターがいる。かつてその名を聞いただけで妖怪達を震えさせ、人間に恐れられた最凶最悪の大妖怪、「とら」である。実際、連載中に数回行われた読者アンケートでは、初回の1位から最後まで不動のままであり、潮は万年2位の屈辱を味わう羽目になっていた。その人気の秘密は、彼が、自分の周りにも一人は必ずいる、「一見悪そうに見えて実はいいヤツ」だということだろう。

 出会った当初は、人間は食い物、他の存在は全て敵、というように自分以外の存在に全く関心がなかった彼?だが、潮にとり憑き行動を共にしてゆくうちに、その心に変化があらわれる。最初は潮に槍で脅されて仕方なく手助けしていただけだったが、次々に危険に飛びこんでいく潮を「自分が食らうため」といって、自ら進んで助けるようになる。横暴で、ぶつぶつ文句いいながらも、結局は潮やその仲間達に手を貸しピンチを救うという、非常に「おいしい役柄」なのだ。

 その性格もさることながら、彼の表現描写も、バラエティに富んでいることも人気の一つだろう。潮とケンカする時や、テレビや車など自分の知らないものに興味を示した時など、普段はマスコットのごとくひょうきんに描かれているが、いざ戦いとなると、眼光は鋭くなり、恐ろしい口から無数の牙がのぞき、一転して恐怖の妖(バケモノ)となるという、そのギャップがまた面白い。この辺は作者自身も楽しんでいたようで、作中いくつもの傑作カットが、重厚なストーリーの合間の緩和剤として使われている。



ー3、登場人物ー

 うしおととらを取りまく様々な人物たち、彼らもまた、長い物語の中で重要な役割を果たしている。マイペースと男勝り、全く性格の違う二人の幼なじみの女の子、「仕事」で家にいないことの多い父、また、旅の途中で出会う幾人もの老若男女。家族の仇を討つために中国から来た謎の符術師、そして槍の謎を知り、潮を監視する謎の宗教「光覇明宗」の法力僧たち。それぞれが過去を持ち、彼らに関わることで、やがて一つの同じ未来へと目指していく。ある者は束縛から解き放たれ、ある者は自分の生き方そのものを変えられる。うしおととらに出会った者は、必ず何らかの影響を受けてしまう。潮のまっすぐさと、とらの強さに惹かれて。そしてそれが、後に大きな力となって、彼らに戻ってくるのだ。

 人間だけではない。出てくる妖怪たちも、彼らに敵対するもの、逆に心を開き仲間となるもの、禍禍しい姿や愛らしいものなど、その数は実に数千体にも及ぶ。陸から海から空からと、時と場所を選ばず襲いかかってくる強大で恐ろしい化け物。また、情に厚いカマイタチ兄妹や、人の体内に入れる獣など、自らの特徴を生かした戦い方で、強い味方となる心優しい妖怪たち。そのどれもが想像上でありながら、まるで実在するかのように読み手の目を惹きつける。



ー4、絵・演出、構成ー

 決して、上手ではない。デビュー作品ということも考慮しても、お世辞にもきれいな絵とはいえないだろう。一言でいえば「荒削り」、がさつで豪快な力技がその大半を占める。だが、逆にそれがこの作家の売りなのだ。
 ただ人並み以上にきれいな絵を描く人はいくらでもいる。が、ここまで「魅せる」ことを考えてペンを握る作家はそうはいないだろう。四方八方を囲まれ、あわやと思った直後、見開きで画面いっぱいにとらの電撃が落ちる。人に襲いかかり、まさに殺そうとする寸前、槍がその面妖に突き刺さる。まるでアニメか映画か、その演出力は絶妙で、実に爽快だ。作者自身「どきどきするもの、かっこいいものを書く」と語っているように、いかに自分が楽しみ、かつ見る者を楽しませるかということに重点を絞ったその画力は、自ら魂を塗り込めたように、圧倒的な迫力でせまってくる。

 戦闘シーンだけではない。その表情描写も、実に巧みである。独特のタッチで、悲しみや失意の涙、恐怖にゆがんだ顔、怒りに燃える眼など、ただの紙の中からあらゆる喜怒哀楽が伝わってくる。中でも喜びの感情、特に「笑顔」を描くことに非常に長けている。現在連載中の「からくりサーカス」(同サンデー)においても「笑い、笑顔」が一つのテーマになっているが、見ているだけでこっちまで顔がほころんでくるような、気持ちのよい笑顔を描ける作家だ。

 その物語構成も非常によく練りこまれている。長期連載には往々にありがちな、いきあたりばったりな展開などは全くなく、過去に張られた伏線を、きちんと一つ一つ整理されていくため、安心して読むことができる。それぞれが独立したストーリーでありがなら、どこかでそれがつながってゆくという構成は、よほど鍛錬された力がないと難しい。が、「全て描ききった」と語るその終わらせ方は、まさに大団円と呼ぶにふさわしいものになった。

 またそれに加え、各コマのカット割りにも細部までこだわっている。槍の動きひとつ、とらの長い髪の流れひとつとってみても、どれも毎回違った見せ方で、読者を飽きさせない。そしてそれは、「勢い、スピード感」を感じさせる。止め絵はほとんどなく、細かいカットで一連の動作として画面狭しと各キャラを動かし、最後のトドメは見開きで派手に締めくくる。その豪傑なカタルシスは破壊でありながら、すがすがしささえ感じさせる。
 このように、静止画でありながら映像を意識した作風は、物語序盤部分を元に作られたOVAにおいても、大きな助力となったに違いない。


ー5、サービス精神ー

 藤田コミックスにおいては、裏表紙のコメント、巻末のスタッフ内輪話や、定期的にあるおふざけクイズなど、おまけ要素もふんだんに盛り込まれている。その人物像がおのずとわかり、藤田和日朗その人が、一級のエンターテナーであることの証明にそのままつながる。また作者自身がいかに楽しみながら描いているかが伝わり、それが7年という長い年月続けられた要因の一つにもなっているだろう。



ー6、終わりにー

 最後に、私が特に気に入っている話をいくつか紹介したいと思う。これを見て、また新たな読者が生まれ、その心に深く刻まれてくれれば、何よりの幸福である。



 〜第三十一章「ブランコをこいだ日」〜(単行本19巻収録)
 ある日、失明中で入院している少年、ミノルと出会った潮。あと数日で手術を迎えるというミノルの前に、父と名乗る奇妙な男があらわれる。それは、ミノルが飛行機事故に遭い、目が見えないまま行方不明になっていた間、彼を世話していた妖怪「さとり」だった。人の心が読める妖怪「さとり」は、ミノルが手術に脅えていることを知り、代わりに自分が治してあげようと、毎晩人間の目を刈っていたのだ。手術当日、それを妨害しようとする彼の前に立ちはだかる潮。心を読まれ攻撃が通じない相手、そしてミノルの父親になりたいと願う妖怪を、止めることができるのか?果たして手術は成功するのか?

  人と妖怪の間で苦しむ潮、「嘘が嫌いな」彼が初めて流す涙。数あるエピソードの中でも最も悲しく、印象的な章だった。



 〜第五章「あやかしの海」〜(同3巻収録)
 夏休み、うしおととらは、クラスの仲間と海水浴に出かける。幼なじみの麻子(あさこ)の親戚が営む海の家に世話になったが、そこで彼らはタツヤという少年にいたずらを受ける。母を亡くし、ひねくれてしまった少年を見て、潮は苛立ちを覚える。その胸には、昔自分がある人に言われた、重い一言があった。それを知る麻子は、タツヤを励ますためにボートで海に出ることに。そしてその頃、一人くつろいでいたとらは、海の妖怪にとある「依頼」を受けていた、、、

 物語序盤にして、潮のまっすぐさの理由が明かされる、重要な章。タツヤと同じく母のいない寂しさから閉じていた心を開かせた意外な人物、そして彼が言った言葉とは?上の「ブランコ〜」の章もそうだが、藤田はかなりの「泣かせ屋」でもあり、涙腺をゆるませることを得意とする。この章においても、ラストシーンでそれを生かし、大きな感動を与えてくれる。



〜第三十八章「あの眸は空を映していた」〜(同25巻収録)
 光覇明宗により選ばれた4人の「伝承者」の一人、キリオ。戦いの中で知った自分の出生の秘密に、深く絶望し独りさまよう彼の前に、ある時助けを求める少女が現れた。井上真由子、潮の幼なじみで、自分の親戚が妖怪に狙われていることを知った彼女は、彼が普通の人間でないことに気づき、協力を求めてきたのだ。自らの存在意義を失い、途方にくれていた、キリオ。そんな彼を動かしたのは、一人の少女と、一匹の年老いた犬だった、、、

 まだ幼い子供にもかかわらず悲しい宿命を持った少年が、それでも立ち直ってゆく様を描き、そのけなげさが共感を呼んだ。ちなみに私のHNはいうまでもなく彼の名からそのままとったもの。また、当ページでは「うしとら」を含め藤田作品から、多くのものを引用させていただいている。もしお暇がおありなら、それがどこで使われているか探していただくのも、一興かと思う。


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