ドリーム小説 俺の願いはたくさんあるんだ…
…願いごとの全てがおまえに繋がっていて…
今、その願いの一つを祈りに変えると叶うだろうか…
……おまえに会いたい…
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「すみませーんみなさん、お待たせしました!」
「おっ、代わりのモデル来たの?みんな撮影始めるから準備して!彼女、本番前に試し撮りするから、そっちのセットの方に行ってくれるかな。」
カメラマンの声に、スタッフ一同が動き出した。
ところがそんな中、『我、関せず』の人物が一人…。
そう…撮影を一時中断させた張本人・葉月である。
代役で入ってきたモデルには見向きもせず、壁にもたれながら、腕を組み、視線は床を見つめたまま
【もう限界…、あいつと会えなくて声すらも聞けなくて…それにこの撮影は無理だ。いくら代役を立てても無駄なんだ…じゃないと俺は笑えない…】
と葉月は何度目かの深いため息をついていた。
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実は明日からの5連休に仕事を入れたくなかった。
ずっと片思いだったと、恋人になってから初めての連休。
葉月はけして特別なことは望んでいるわけではない。
ただ…愛しい人と楽しく過ごしている時間に水を差されたくないのだ。
その為には連休分の仕事を消化しておかないといけない。
このことをマネージャに話すと、
「仕方ないわね、数日間はハードスケジュールで仕事をこなしてもらうわよ」
「あぁ…かまわない…」
そう…この時は、二人で過ごす時間が少し減ってでも、連休を二人で過ごしたい思いの方が強かった葉月は、気軽に仕事を引き受けた。
だが現実は酷かった……減るどころか、会話もままならない。
のバイト先『ALUCARD』からコーヒーの出前も取っているのにタイミングが悪くすれ違い。
取っている講義も違うため、ひどい日は、大学で姿すら見られないくらい忙しかった。
そんな日々も、この撮影で終わる…といった心情の葉月の写真はロクなものがとれない。
葉月にしてみれば、いくら休暇の為とはいえ愛しい人の姿が見られない、会話はない、声も聞けない、ないないづくしもこの撮影で終わる…早く仕事を終わらせたい、早く会いたい!と思うのは無理もないだろう。
ところが結果36回もの撮り直し、挙げ句の果てにモデルが帰る…といったこととなった。
帰ってしまったモデルが悪いわけではない。まぁ必要以上にベタベタとくっついてはいたが。
それでも苛々した感情を押さえられず、顔や瞳、おまけに態度にまで出して、きちんと仕事をこなせない葉月の方がプロのモデルとしては失格だ。(本人にプロの自覚がなくても)
一番ビックリしたのは、スタッフ達だ。
とっつきにくい所はあるけれど、こんなに苛々して人を寄せ付けない雰囲気を出しているの葉月を見たのは初めてのことだった。
“日を改めて”という声もあがったが、カメラマンやモデル・パンフレット制作の日程が合わない為、どうしても今日中に撮影を終えないといけなかった。
そして葉月のマネージャーの案で急遽、代役を立てることとなった…。
その代役のモデルは、緊張しながらもカメラマンの言うことに一生懸命応えようとしていた。
着々と撮影準備が進んでいる中、葉月は空を仰ぐように顔を上げまぶしいライトに目を細めながら に想いを馳せていた。
【…おまえに会いたい…声だけでもいいんだ…今すぐに聞きたい…】
「もう少し、顔を上げて、目線は…そうそう…」
「えっ、あっ、はい、こんな感じでいいですか?」
【この声は!まさか……】
今、願っていた一番会いたい人の声が、いるはずもないこのスタジオ内で聞こえる。
ゆっくり…視線をセットの方に向けた葉月は、声にならない声で、愛しい人の名を呼んでいた。
「・・・」
「おっ、葉月ちゃんその表情いいね。」<パシャ>
そんな言葉も耳に入らないくらい、天使を見るかのような、柔らかい微笑みを浮かべながら、この上なく優しい眼差しで に魅入っていた。
そこには、・・・真っ白いウエディングドレスに包まれたが立っていた。
自身、特別に綺麗とか美人ではないが、躰から出ている雰囲気というか、空気というものが、柔らかく、暖かい、ぬくもりをまとっていて、それは周りの人たちを和ませていた。
そういったものも追加されているせいか、嫌みのない可愛らしさに、輪を掛けてとても幻想的な装いの になっていた。
これには、カメラマンも周りのスタッフも驚いた。
素人なのに今回の撮影内容にあまりにも合いすぎていたから。
『ずっと心に残る、暖かい結婚式を…あなたもここで挙式しませんか?』
新しくできたT結婚式場のパンフレットUに載せるための写真撮り。
は、スポンサーの意向に添ったモデルとなっていた。
そんな風に周囲が思っていることなど知らない はというと、どうしてこんなことになったのか…その経緯を思い出していた。
事の発端は、こうだった。ほんの数分前に、
『至急、いつものスタジオへ来て欲しいの。葉月、元気がなくってね。それで仕事が押しちゃって、困ってるの。ちゃん応援に来てくれない?』
と葉月のマネージャーから電話をもらった。
午後10時と時間帯が遅いだけに、 の両親にはマネージャーから話をしてもらい、急いでスタジオに向うことになったのだ。
着いた途端、あれよこれよという間に控え室に連れて行かれ、メイクされたり衣装を着せられて、
「ごめんね、ちゃん。もう36回も撮り直しで相手のモデルさん、怒って帰っちゃったのよ」
「マネージャーさん?えっ?はっ…話が違います」
「本当にごめんね〜!バイト料弾むから、お願い!もうちゃんにしか頼めないのよ」
「そんな〜わたし…わたし、モデルなんて無理ですよ。絶対無理です!」
「大丈夫、あなたなら!きっと一発でオッケーよ。あっ時間がないわ、さあスタジオ行きましょ」
…で、今に至るわけだった。
そしてはあることに気づいた。
【ひょっとして…わたし…ハメられた…のかな?】
……鈍い であった。
まだ試し撮り最中の 。
カメラマンの指示に従ってはいるものの、悪戦苦闘していた。
運動神経が悪いわけでは決してない、どちらかというといい方だ。
だが、なにせ慣れない服、慣れない場所の為か、努力のかいもなくドレスの裾を踏んでつんのめり、スカートの部分を持っているために手は出せず、おもいっきり顔から前に倒れ込む……はずなのに覚悟していた衝撃はこなかった。
床との激突を避けられたのは、一早く の危機に反応した葉月が、正面からしっかりと自分に胸の中へ抱き留めたからだ。
安堵のため息をつく二人。
久しぶりの再会がまさかこんな形になろうとは思ってもいなかった。
それもこんな近距離で。
会いたくて、触れたくてたまらなかった愛しい人が、腕の中にいる。
このまま連れ去りたい欲望にかられる…
も何かを言いたいのに言葉が出てこなくて…
視線が絡み合い、自然にを抱いている葉月の腕に力が入る。
しかし忘れてはいけない、ここはスタジオの中で仕事中だってことを。
「いいね〜、二人とも。テーマにぴったりだ。」<パシャ>
「まるで本当の新郎新婦のようだよ」<パシャ>
…呆気にとられた二人は顔を見合わせて小さく笑った。
そして葉月はにしか聞こえないくらいの声で、
「おまえ…文化祭の時は、うまく決めてたのに…」
と当時のことを思い出しに告げた。
高校生の頃のは手芸部員で、創作ウェディングドレスを最後の文化祭で発表したのだった。
「憶えてたの?」
花がほころぶように嬉しそうな笑顔で答える 。
自然と葉月は、周りに人がいたら見惚れてしまうような微笑みを浮かべてしまう。
「あぁ…忘れるわけ…ない…きれいだった…今も…」
「えっ?似合う。やっぱりプロのドレスって綺麗で着心地いいよね!でも…ドジっちゃったね…」
愛情をたっぷり込めた愛しい人への褒め言葉を、ドレスを褒めているのだと勘違いしてる、超がつくほど鈍いの言葉に葉月の笑みは、一瞬にしてあきれ顔になった。
丁度この時、フィルム交換していたカメラマンとそろそろ本番に入る準備をしていたスタッフ達は、今まで見たこともない…見せたこともない、葉月の決定的瞬間を2回も見逃すこととなる。
「おまえ…鈍い…」
「そうかな?」
【まぁ…そんなトコも俺は好きなんだ…】
と心の中でつぶやいた。
「葉月ちゃん、彼女、そろそろ本番の撮影開始するよ!」<パシャ>
「まずはそのまま向かい合わせのまま、もう少し顔を近づけて…」<パシャ>
<パシャ>……
そこからの撮影は36回の撮り直しが嘘のように、スムーズに進行したことは言うまでもない。
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午前1時、撮影無事終了!
控え室から出てきた に葉月は労いの言葉をかけた。
「お疲れ」
「葉月くん!」
とびっきりの笑顔で葉月の元に駆け寄ってきた。
「葉月くんこそ、お疲れ様でした。」
二人は手を繋ぎたわいもない話をしながら帰路についた。
コロコロと表情を変えながら話す 。
口数の少ない葉月は時折、相づちを打つ。
会えなかった寂しさが、の笑い声、笑顔、仕草…一つ一つで葉月の心を会えた喜びに変えていく。
葉月はもうが傍にいない世界なんていうものは考えられない、という想いが胸にあることを知った。
歩みを止めての瞳を見つめ、少し先の話しではあるが今思う気持ちを素直に言葉にした。
「………近い未来、ウエディングドレス…着てくれる…か」
自分の隣にがいることを疑ってはいないし、離すつもりもない。
プロポーズではなくて、これは、葉月の願い…
きっといつかは現実になるこの願いは、も同じはずだと言うことを確認したかった。
……なのに、
「また撮影でもあるの?」
「………やっぱり、お前は鈍い…」
いい加減、遠回しに言っても には通じない事を、学習しなくてはいけない葉月であった。
なぁ?俺の願いはたくさんあるんだ…
そしてその一つに…
そう遠くはない未来…祈りにも似た俺の願いを…
誓いの言葉にかえるときが来たら…
おまえはどんな返事をくれるだろうか…
〜終〜
あとがき
様、ここまでのお付合いありがとうございます。
やっと完成しました。
この話は短編漫画用のプロットを小説用に書き下ろしたものです。
ラブラブな話には少し遠かったように思えますので、次回はラブラブな二人を書きたいです。
まだまだ、ネットに疎いので、改良しながら、更新していきたいです。
もしよければ掲示板に、感想などをお聞かせいただければ嬉しいです。![]()