こみっくパーティー:大庭 詠美SS

過去の栄光/In my mind

 
PART1
 
 俺は今、病院にいた。
 なぜか、というと・・・
「和樹。詠美は、詠美は無事なんか?」
 そう、詠美のおかげでこの病院に、俺はいるのだ。俺の座る目の前には、病院のパイプベッドの上で眠る詠美がいた。交通事故だったらしい。まあ、ほとんど怪我もなく済んだのだが、目を覚まさない。
 もう三日にもなるのだ、事故があってから。昨日の検査では、もうおかしいところはどこにもないはずなのに・・・
 だから、昨日由宇に連絡を入れた。で、すぐ、今日になって飛んできてくれたらしい。
 そして俺は、今の由宇の問いの答えを考えていた。
 無事か?それはなにを基準にして無事なのか。怪我か? それとも心か? それとも、すべて?
「なあ、なんか言ぅてや、和樹」
「・・・・・・」
 怪我なら、無事といえる。でもそれ以外なら。
「見ての通りだ。眠ったままだよ・・・。」
 由宇が俺の横に来て、座る。
「なあ、もう目を覚まさないんか、詠美は?」
 俺が出せる答え、それは沈黙。逆に俺が聞きたいくらいだよ・・・。
 
 コンコン
 控えめなノック。
「由宇、ちょっとここ頼む。」
 俺は由宇に言って、ドアを開ける。外にいたのは、担当の長瀬先生。
「・・・先生。何か・・・?」
「ちょっとよろしいですか?」
 俺達は部屋の外にでて、エレベーター脇のちょっと開けたスペースまででる。
「どうしたんです?」
「まず、原因になるような外傷、それは前にも言いましたがほぼ完治し、存在しません。となると考えられるのは、彼女の精神は起きることを拒否している、ということです。」
「・・・どういうことですか?」
「詳しいことは専門外なので判りませんが、彼女に起きる気がない、この世界を拒否するようなことがあり、それがとてつもなく強いとたまに起こる現象らしいです。どちらにせよ、我々ではお手上げ、ですね。」
「じゃあ、もう目を覚ますことは・・・?」
「例は少ないですが、あるそうです。心の奥に潜んでしまった彼女を呼び戻せれば・・・ね・・・。まあ、我々も微力は尽くしますが。」
 詠美がこの世界を嫌がる原因・・・
 
「どうでしたか、和樹さん。」
 俺が部屋に戻ると、いつの間に来たものやら、南さんと大志が来ていた。
 俺はさっき、先生に聞いたままを語ることにした。嘘を付いても仕方がない。
 俺がすべてを言い終えたとき、ただでさえ重苦しい空気が、さらに重くなったような気がした。それは、暗い沈黙のせい。
「つまりは、詠美嬢の心がこの世界を拒否する原因、それを取り除ければいいのだな?」 俺達の沈黙は、大志によって破られた。
「・・・ああ、たぶん。」
 俺の答えを聞いて、考え込む仕草をする大志。
「何か心当たりでもあるんか?」
 大志の心当たり・・・? なにやら・・・。
「和樹。おまえはその身を危険にさらしてでも、詠美を取り戻したいか?」
 いきなり、唐突に聞く。だが、答えは決まっているじゃないか・・・・
「当然だろ。」
 それでも、しばらく大志は俺の目からその視線をはずさない。
「詠美のそれを取り除けるのはおまえだけだ。判っているな?」
 そしてふと、大志の目から力が抜ける。
「ひとつだけ策がある。それに連絡を取ってみよう。」
 そう言って、大志は病室から出ていった。
 
そして、その夜。自宅。
大志からの留守電が入っていた。
”彼らに連絡を取った。明日、午後三時頃に来てくれるそうだ。必ず成功させろよ。”
・・・俺このごろ大志に借り作ってばっかだな・・・。
 
 翌日、詠美の病室。
 病室の中には、先に由宇がいた。こっちに泊まり込んでいてくれたようだ。
「どうや、メドは付きそうなんか?」
 昨日よりは張りのある声。でもあまり眠れなかったらしい。目は赤い。
「ああ、昨日の夜、大志から連絡があった。今日の三時くらいに来てくれるらしい。」
 まだ少し時間がある。
「なあ和樹、詠美がこの世界拒否する原因てなんやと思う? やっぱりあのときのこと何かな。」
 あのときのこと。
 あの一月と二月のコミパのこと。
 絶頂から奈落への転落。
 でも、その原因を作ったのは・・・
 そして、周りの人々は・・・
「そうかもな。コミパはあいつのすべてだったからな。」
「でも、味方もいたハズや。ウチや牧やん、それに和樹だっていたやんか。」
「そうだよな。俺も、由宇も南さんもあいつの周りにいつもいたんだ。だけど一緒にあいつの本を読んでくれる読者のみんなだって、いたんだ。でも、みんな離れて行っちまった。」 読んでくれる人、ファン。それは俺達物書きにとって力の源だ。そして、感想を言ってくれる人がいる。それは次も書こうという気持ちに繋がる。
 でも今の詠美にはその人達はいない。少なくともあいつはそう思っている。
「由宇だって言ってたろ、同人誌は売れてなんぼや、って。」
「そうやな、そういったのは確かにウチや。でも詠美の周りにはいつでもウチらはおる、それだけは判って欲しかったな。」
「そうだな。」
 そしてまた沈黙がこの部屋を支配する。でも昨日のそれより幾分軽い気がした。
 三時まではもう少しだ。
 この後の俺達になにが待ってるんだろうか?
 
さて大志が呼んだのは、どっち?

長瀬 祐介(雫編へ)

来栖川 芹香(TH編へ)

やっぱり、先を読まない(笑)