KANON 名雪SS

思い出と奇跡

 
 気がついたとき私は真っ暗な世界にいた。周りをどう見回しても一筋の光もない。
 なぜこんなところにいるんだろう。今日の行動を思い出す。今日はケーキを買って名雪のところに・・・。そこで私は気がついた。今日の出来事に。
 そう、私は家へ帰る途中で事故にあった。
 そうだった。
 だけど、事故にあった私がなぜこんなところにいるのだろう。
 私は歩いた。・・・歩いたように感じた。ここにただいても仕方がないから。そして、ある光を見つけた。
 その光はほのかに闇を照らしている。私はそこに近寄っていく。光はそこに、ゆっくりと回りながらあたりを照らしていた。そう、まるで走馬燈のように。
 私はいつの間にかその光に見入っていた。
 そして、私はいつの間にか思いだしていた。ゆっくりと回想していた。
 私が生まれてから、幼稚園に入って、小学校、中学、高校。私の記憶の中で私が成長していく。そして大学に行って、あの人と出会い・・・名雪が生まれて、あの人がいなくなって。そんな様々な”思い出”として片づけられているモノが次々に浮かんで消えていく。
 そして、今から8年前。そこで”思い出”の流れが緩やかなモノになった。
 
 7年前。祐一さんが小さい頃、最後にこの町に来たとき。
 この日は祐一さんが帰る予定の10日くらい前だろうか。そう、この日が大きな流れの分かれ目だった。
 まだ冬休みの間である。だから祐一さんも名雪も家にいた。そして夕方になって私はあることに気がついた。冷蔵庫に紅ショウガしか残っていなかったのだ。私は名雪にお買い物を頼んだ。
「うん、分かったよ。じゃあ祐一と行って来るね。」
「お願いね。」
 私がお金を渡すと名雪は祐一さんを呼びに行った。
「やだよ、寒いもん。」
 名雪が祐一さんを呼んできたようだ。祐一さんは元々こっちに住んでいるわけではないので寒いのに弱い。10日くらいの短い滞在では寒さには慣れないらしい。だから昼間、太陽の出ている間くらいしか外に出ない。そんな祐一さんにとって今から名雪につきあって買い物に行くのは酷かもしれない。
「じゃあいいよ、祐一だけ夕ご飯食べなければいいんだから」
「なにしてる、名雪早く行くぞ。ぐずぐずしていたら売り切れちゃうじゃないか」
 祐一さんの中での寒さと食欲の勝負は食欲に軍配が上がったようだ。
 こんな風に続いていく毎日だった。だがこの日を境に、日常は変わってしまった。
 この日買い物から帰った名雪の機嫌は悪かった。その理由はこの日は分からなかった。二人になにかがあった、それが分かったのは次の日だった。
 次の日、朝食を食べた祐一さんはどこかへ遊びに行ってしまった。名雪を一人にして…。この日から祐一さんは食事の時と夜だけ家にいるようになった。朝食から昼食まで、昼食の後、夕食まで、家にいないことがいつもになった。
 名雪は寂しそうだった。・・・実際見た目だけでなく心の中も寂しげだった。
「ねぇ名雪、お母さんとお散歩しない」
 祐一さんがどこかに行くようになってから二、三日。たった一人で寂しそうにしている名雪を見ていられなかった。
「うん。」
 そういう名雪はまだ寂しげなまま。名雪の太陽はどこかへ行ってしまったまま。
「祐一さんになにをしているか聞いてみればどう?」
「・・・どうせ教えてくれないもん。どっかほかの子と遊んでるんだよ」
「ちゃんと祐一さんと話してみてご覧なさい、祐一さんだって名雪のこと好きなんだから」
「・・・うん。」
 太陽のない月は輝かない。否、輝けない。
「お母さん」
 名雪の声が震えていた。
「名雪・・・」
 私は軽くしゃがみ名雪と頭が並ぶくらいにする。名雪が泣いていたから。
「お母さんが聞いてあげましょうか?」
 しばらくたって、名雪が泣きやんだころ静かに聞いた。
「ううん。大丈夫。私が聞くよ。」
 赤い眼をしながら、それでも笑ってそういった。
「そう・・・」
 でも次の日も、その次の日も名雪と祐一さんは一緒にいなかった。
 でも私はこれ以上二人について口を挟まなかった。いつかは元に戻るだろうと思ったから。また二人で楽しく遊んでいるところをみれるだろうと思っていたから。
 そう。そんな風に甘く考えていた。
 そして二つ目の変化。一つ目より大きく、より尾を引く変化。
 それは祐一さんが自宅へ帰る前の日。そう、この日も祐一さんは朝からいなかった。そして、夕方。いや、もう夕闇が町を覆い尽くす頃、電話があった。
 近くの総合病院からだった。電話で詳しい話が聞けなかったが、祐一さんが病院にいるという。
「誰からだったの? お母さん」
 名雪が電話の音に気づいて下に降りてきたらしい。
「ちょっと出かけてくるわ。遅くなるかもしれないから、そのときは先にお夕飯食べててね。」
「うん分かったよ。行ってらっしゃい」
 私は急いで身支度を整え病院へ向かった。電話の様子じゃ祐一さんの身に何かあったわけじゃないらしいのだが・・・。
 私が病院に着くとある病室に通された。パイプベッドには様々なチューブやコードをつけて寝ている女の子がいた。その傍らのパイプいすには祐一さんがうつむいて座っている。
 祐一さんは私が病室へ入ってもこちらを無視して女の子のことをじっと見つめている。
「あなたが相沢祐一君の保護者の方ですか?」
 私が病室には行ってすぐ白衣を着た医者らしき人が病室に入ってきて私に尋ねた。私とその先生は病室の外に出てから話を始めた。
 先生の話してくれたことをまとめるとこうだ。
 さっきベッドで寝ていた女の子は月宮あゆというらしい。祐一さんはここ数日、さっきのあゆさんと一緒に遊んでいたようだ。そして今日はこの町のどこからでも見えるといわれているあの大木の下で遊んでいたらしい。そして、あゆさんはあの木に登って町を眺めていた。だが、あゆさんは降りる途中で脚を滑らせて・・・。
 幸い命は取り留めたが意識が回復するかは彼女次第だという。
 そこで一つの疑問が浮かんだ。
「あの・・・。月宮さんのご両親の方は?」
 さっきの病室にはあゆちゃんと祐一さんしかいなかった。普通なら祐一さんではなく親御さんがいるはずである。
「それが・・・月宮あゆさんの母親は先日亡くなっておりまして。父親の方に関しては何の情報もなく・・・。」
「そうですか・・・。」
「ええ。・・・とりあえず、祐一君は休ませてあげてください。月宮さんは彼のおかげで助かったのですし。」
「そうですね。」
「それと、月宮さんに何かあった場合の連絡先はあなたの所にしてよろしいでしょうか?」
「ええ、問題ないです。お手数をおかけします。」
「いいえ。では失礼します」
 私は再び病室に戻った。
 扉の閉まる音に祐一さんがほんの少し反応する。そのとき見えた祐一さんの瞳に宿るのは悲しみ。
「祐一さん」
 無反応。
「祐一さん、帰りましょう。」
 ゆっくり問いかける。
「いやだ、あゆが起きるまでここにいる。」
 今度は反応があった。拒絶。ある程度予想できていた応え。
「1時間だけ、ですよ。」
 私も病室の隅に置いてあったパイプイスを引っ張り出して祐一さんの隣に座る。
「祐一さん、話してくれませんか? あゆちゃんのこと」
「・・・・・・・・・」
 そのまま少しの間沈黙がこの部屋を支配する。だがやがてゆっくりと、ぽつりぽつりと話し始めた。あのあゆちゃんと祐一さんが始めてであった日から今日までのことを。
 声と眼は悲しみに支配されているのに口は過去の楽しいことを紡ぎ出す。ただ聞いていただけの私もその楽しさは分かった。
 そして話が終わったとき、1時間は軽く過ぎていた。
 その後、どうにか祐一さんを連れて帰り、寝かしつけた。
 この騒動のおかげで祐一さんが帰るのが一日延びた。祐一さんは自分の身が解放されるとすぐに病院に行った。私は、今はなにもいわず家に帰った。
「お母さん、祐一は?」
 名雪にはまだこのことを話していない。話す暇がなかったのも確かだが、今話すべきか迷ったからだ。
「祐一さんはね、とても悲しいことがあったの」
「悲しいこと」
「そう、とても悲しいこと。なにもかもがいやになるくらいに悲しいこと。」
「・・・・・・・・・」
「誰かが祐一さんを支えてあげないといけないの。」
「そうなんだ・・・。」
 少し名雪が考え込む。自分なりに考えているようだ。
「私が行って来る。私が祐一を慰めてあげてくる。」
「大丈夫なの?」
「うん!」
 名雪は大きく、元気よく、うなずく。
 そうして名雪は祐一さんを捜しに家を出た。だけど・・・帰ってくるのは二人ともバラバラで、二人ともうつむいて、泣きそうな顔で帰ってきた。
 そして次の日、祐一さんは名雪になにも告げず姉さん夫婦に連れられて帰っていった。名雪も見送りに来なかった。だが名雪は家にもいない。
 こんな雪もちらついているような天気なのに。
 名雪がなにをしているのか、それは予想がついていた。待っているのだ・・・祐一さんを。だけど、祐一さんが帰ってから1時間、2時間、・・・もう3時間が過ぎている。名雪も分かっているはずだ。もう祐一さんはここにいないことを。
 でも名雪は帰ってこなかった。
 私は名雪を探しに家を出た。名雪が行く場所にそう多く心当たりがあるわけじゃない。でも最初に足を向けたところに名雪はいた。
 名雪は駅前のベンチに一人で座っていた。
 その頭にはうっすらと雪が積もっている。祐一さんが帰る前からここにいたのだろう。祐一さんがここに来ることを信じてずっと座って待っていたのだろう。雪が自分に降り積もるのもかまわず。
 名雪はうつむき座ったまま、私が近づくのに気がつかない。
「祐一さんは帰りましたよ」
 そういって私は雪を払って、名雪の隣に腰を下ろす。
 名雪の肩がふるえ出す。
 名雪は泣いた、たくさん泣いた。声を出して、たくさん・・・
 
 周りの景色と時間が跳んだ。
 今度の今は今から4ヶ月前。姉さんからの電話があった日だ。
 この日の姉さんからの知らせは新たな変化をもたらしてくれる、そんな予感がした。だから、私は電話を終えてすぐ、名雪の所へ急いでいった。
「あれ? どうしたの、お母さん」
「祐一さんがまたこっちに来るんですって。今姉さんから電話があったわ。」
「え、祐一が?」
「ええ、半年くらいこの家にいることになるわ。」
「わっ、本当に? びっくりだよ」
「そうね。もう7年ぶりね。祐一さんが来なくなってから」
「もうそんなになるんだね。祐一大きくなったかな」
「それはなったわよ」
 そしてこの日は祐一さんの昔話の日となってしまった。でもそのときの名雪は本当に楽しそうだった。
 そしてこの日から十数日後、祐一さんは再びこの町に来た。
 だけど、祐一さんは7年前の出来事を覚えていなかった。あまりの悲しみがその思い出を記憶の奥底に封じ込めたのだろう。
 それでも止まっていた二つの歯車がまた、ゆっくりとではあるが、回り始めた。
 
 祐一さんがこの町に来てからの三ヶ月はとても早く過ぎるように感じられた。いろいろなことが普段より濃い密度で起きていった。
 祐一さんはこちらの生活になれていないにも関わらず、それをあまり見せずに過ごしていた。
 名雪は祐一さんと一緒にいるために普段より少し夜更かしするためだろう、朝はいつもより眠そうだった。
 それでも昔と幾分も変わらぬやり取りがそこにあったのだ私にはうれしかった。
 真琴という家族が増えていたときもあった。だが真琴は今はいない。過去のことを全く覚えていなかった少女は、家に来たときも、家から消えるときも唐突だった。今はどこで何をしているのだろうか・・・。
 そんなある日、祐一さんとお買い物に行ったときだ。その帰り道にあゆちゃんに出会った。・・・あゆちゃんを名乗る少女に出会ったというのが正確かもしれない。だけど、そのあゆちゃんは病院で寝ているはずの少女とよく似ていた。そのことが私をより驚かせた。でもあゆちゃんは、病院で寝ているはずのあゆさんを成長させたらこうなるはず、と言う姿で私たちの前にいた。でも私は深く考えることをしなかった。あゆちゃんは私たちの前にいて祐一さんや名雪と楽しそうに過ごしていたから。これは不自然な状態だと分かっていても言えなかった。
 このまま楽しい日々は続いていく。続いていくはずだった。
 だけど私は・・・
 
 すべての回想が終わった。私の記憶というテープの早送りは終わったのだ。
 光が明けてそこに見える光景は・・・私の家のベランダだった。名雪の部屋と祐一さんの部屋がある側のベランダ。
 ここから名雪の部屋は覗くことが出来る。かすかな月の光と、電柱にある街灯の光で周りは夜でも結構見える。
 名雪の部屋は暗く、カーテンさえも閉まっている。だが、カーテンには影が落ちている。名雪が壁にもたれてうずくまっている影が。そしてその近くにたたずむ祐一さんの影が。
「でていって。・・・わたし誰とも会いたくないから。」
 小さな声。でも強い拒絶の含まれた声。
「俺のつくった晩めしどうだった?」
 今度は祐一さんの声。出来るだけ明るく振る舞おうとしているが、そこに隠れた疲労、暗さが感じられる。
「祐一の料理、食べなければよかった。食べたらよけい、お母さんがいないんだって思って悲しくなったもの。」
「おまえがずっと一人で引きこもって、逃げて秋子さんが喜ぶと思うのか? 秋子さんは助かるかもしれない、いや、きっと助かるよ。秋子さんだぞ。あのマイペースっつうか、現実離れしている秋子さんが、こんなあっさり、いなくなったりするもんか!」
 祐一さんの言うことは正しい。名雪はここでこもっていてもどうしようもないから。ただ・・・わたしのことそう思っていたんですか、祐一さん。よく分かりました。
「・・・・・・じゃあ祐一が奇跡を起こして、お母さんを助けてくれるの?」
 ・・・奇跡というものは起こらないから奇跡と言われるもの。簡単に起こるようなものに奇跡とういう名は付かない。
 名雪の影がさらに小さくなるように動く。
「・・・・・・これでわたしはひとりぼっちだね。」
「ひとりぼっちじゃないだろ、名雪。友達がいるじゃないか。香里も、北川も、おまえのこと本当に心配してたぞ。それに・・・・・・おれだって・・・・・・」
 そう、名雪は一人じゃない。
「俺がいる。もちろん、秋子さんだって帰ってくる。」
 根拠のない言葉。いや、そう信じていないとやっていられないのだろう。
 だけど、名雪は首を横に振り・・・
「だめなんだよ。もう、笑えないよ・・・」
 小さな名雪の影がふるえ出す。
「・・・笑えなくなっちゃったよ。・・・もうがんばれない・・・もうつよくなれない・・・おかあさんがいないんだもの・・・おかあさん・・・おかあさん・・・」
 名雪の影だけでなく声までも震えだして「おかあさん」と繰り返す。祐一さんの影は立ちつくしたままずっと動けなかった。
 
 また景色が飛んだ。駅前・・・・・・雪がまた降っていた。
 その駅前のベンチに祐一さんが一人、座っている。いつからそこに座っているのだろう。その頭の上にはうっすらと白いものが見える。誰を待っているのだろうか。
 祐一さんが待っている人は名雪なのかと思ったとき、わたしはある錯覚を覚えた。あの7年前の名雪と今の祐一さんの影がだぶった。
 あのとき祐一さんはここに来なかった。自分の家に帰ってしまったと言ってしまえばそれまでだが、一回でもここに来るだけの時間はあったはずだ。だけど、祐一さんはその悲しみに押しつぶされたまま、ここを訪れることはなかった。
 そして今、立場が変わり二人が再び同じ場所で待っている。
 名雪はここに来るのだろうか? 名雪が失ったものは、ずっと一緒だった私。
 だけど名雪にはここに来て欲しい。この悲しみを乗り越えて欲しい。
 だけど名雪はまだ来ない。祐一さんの後ろにある時計はもうPM11時を指している。祐一さんの頭の上だけでなく服の上にも鬱すEAと、だが確実に雪は降り積もっていく。
 それでも祐一さんは名雪を信じて待ち続けている。体が、心が寒くても・・・。名雪はもっと寒いのだから。
 時計は着実に時を刻み続け、今日がもう終わろうとしている。
 そのとき私視界の隅から祐一さんの方へ走っていく白い影があった。
 そしてその影は祐一さんのそばに近づくと・・・言った。
「雪、積もってるよ。」
 名雪だった。
 
「もう大丈夫だね。あの二人は。」
「・・・? あゆちゃん?」
 私の後ろから不意に声がした。いつの間にか景色も代わり、あの大木の切り株の根本にいた。
「あ、秋子さん、驚かしてごめんなさい。」
「いいえ、・・・私が見えるんですか?」
 私は今実体を持っていないはずなのだ。今ここでこうしてあゆちゃんと話したり名雪や祐一さんのことを見たり出来るのも不自然なことだ。
「うん、見えるよ。ボクも似たようなものだから・・・」
「やっぱり、あゆちゃん、貴方は・・・」
 あゆさんはちょっと寂しげな顔になる。
「うん。だからボクはもうすぐ消えなきゃいけないんだ。捜し物が見つかったから・・・」
「あゆちゃん・・・」
 あゆちゃんはコートのポケットから古ぼけた人形を取り出す。片方の羽が取れ、頭の上のわっかもなくなった天使の人形。
「これは3つのお願いをかなえてくれる人形なんだ。秋子さんこれもらってくれないかな? 3つの内2つのお願いは使っちゃったけどもう一つのお願いは残ってるから。」
「でも・・・あゆちゃんはそれでいいんですか?」
「うん、ボクはもう消えちゃうから。秋子さんには名雪さんと祐一君と一緒にいてあげて欲しいから。」
「でもその人形は貴方のものですから・・・」
「ううん。これは祐一君にもらった人形だから。最後の願いは祐一君のために使いたいから・・・」
 そしてあゆちゃんはちょっと悲しげな、精一杯の笑顔で言った。
「だから、この人形の最後のお願い、もらってください。」
「・・・・・・」
「秋子さんが名雪さんと、祐一さんと一緒にいられるなら、ボクも一緒にいられるから。」
「・・・わかりました。あゆちゃんの気持ち、受け入れさせてください。」
 あゆちゃんの表情が本当の泣き笑いに変わる。
「ありがとう、秋子さん。」
「あゆちゃん、こちらこそありがとう。」
「奇跡は必ず起こるから、祐一君と名雪さんが信じてれば必ず起こるから・・・」
 周りの景色が徐々に光に包まれていく。
「さよなら、秋子さん。祐一君と名雪さんによろしくね。」
「ええ、伝えておきます。」
 そして、周りがほとんど見えなくなる直前の一瞬、私は天使を見た。
 
「おーい、名雪。起きろ〜。」
「大丈夫ですか? 祐一さん。」
「ええ、すぐ下に行きます。」
 いつもの日常が戻ってきた。
「名雪早く食え。」
「けろぴ〜はここ〜」
「名雪、寝るな、死ぬぞ!」
「祐一さん、ここは雪山じゃありませんよ。」
 あの後、私が病院で目覚めたとき、もうすでにあゆちゃんは亡くなっていた。でも私の中にはまだあゆちゃんは生き続けている。
「じゃ行って来ます。」
「いってきまふぅ〜」
「いい加減起きろってば、名雪。」
「行ってらっしゃい。」
 祐一さんはまだこの家にいることになった。祐一さんの家族のマイホーム計画がお流れになったせいだ。
 だからあの二人もいつものように笑っている。
 ねぇ、あゆちゃん、これからも名雪と祐一さんがずっと笑っていられるように見守っていきましょうね。
 
Fin
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