決戦前夜
ザッザッザッザ・・・
ボクらは誰もいないオネットの町をただひたすら歩いていた。
いつもなら人の声や車の音がするのに、今日は僕らの足音しかしなかった。
「まるで、世界に僕らしかいないみたいだね」
ジェフがつぶやく。
ボクはうなづくこともせず、ただひたすら歩き続けた。
いや、できれば走り出したかった。
ママやトレーシーのことが心配だったから。
まさか、ギーグの魔の手がここまで伸びていようとは。
うちへの道を上っている時、見知らぬ敵に出会った。
強敵だった。
でも負けるとか、全然考えられなかった。
ママの様子を見るまでは・・・
ボクんちの屋根が見えたとき、ボクはなんにも言わずに駆け出した。
ポーラたちが付いてきてるかなんて、もうわからなかった。
心臓が飛び出しそうなくらい、胸がバクバクいってる。
ボクは呼吸を整えながら、ドアを開けた。
「・・・ただいま・・・ママ?」
家の中は真っ暗だった。
怖い、嫌だ、そんな・・・
ボクの頭はパニック寸前だった。
「お邪魔します・・・」
うしろからポーラたちの声が聞こえてなければ、ボクは泣き出していただろう。
ボクはさっき以上にバクバクいってる心臓を押さえつけるようにしながら、家の中に入っていった。
・・・パタパタ
奥で誰かの足音がした。
ママ?・・・それとも・・・
ボクはバットをぎゅっと握りなおした。
「・・・ネス?ネスなのね!おかえり!」
いつものママだった。
「大丈夫だった?外にはたくさんヘンなのがいたでしょ?」
大丈夫だよ、とボクは笑顔を見せた。
ママが思ったより元気そうで安心した。
安心したら、急にやるべきことを思い出した。
「ママ、ボクたち、急がなきゃならないんだ。
・・・この世界を救うために」
「わかってるわ。いってらっしゃい。
そして・・・無事に帰ってきて」
ボクは一番の笑顔を見せてその言葉に応えた。
「よかったの?もうちょっと話したかったんじゃない?」
ポーラがボクを気遣ってくれた。
ボクはポーラの顔も見ずに、
「うん。さっさとこの戦いを終わらせたいから」
それ以上誰も何も言わなかった。
サターンバレーに帰って隕石のかけらをアンドーナツ博士に渡した。
もう、この戦いが終わるんだと思うと、うれしくてしかたがなかった。
今ならどんなことでもできそうだった。
だけど、アンドーナツ博士の口からは意外な言葉が出てきた。
「ギーグのいる世界には、君達の体は送れない。
君達の心をロボットに移植して送るしかない。
もしかすると、もう戻って来れないかもしれない。
それでもいいかね?行ってくれるかね?」
「・・・はい」
嫌だとか行きたくないとか、本当は言いたかった。
でも言えなかった。
「今日はもう休みなさい。あとは我々に任せて」
ボクらはアンドーナツ博士達にすべてを任せて、とりあえず、どせいさんが用意してくれた部屋に向かった。
晩は何を食べたのか覚えていない。
ボクたちは早めに床についた。
眠れない・・・
明日のこととか、ギーグのこととかいろいろ考えちゃって眠れそうにもなかった。
ボクはみんなを起こさないように気をつけながら、外に出た。
眠くなるまで、散歩でもしよう。
ボクは当てもなく歩いていた。
ふと顔を上げると目の前に川が見えた。
ボクは川岸に座り、対岸をぼーっと見ていた。
「ネス、眠れないの?」
不意にうしろから声をかけられ、ボクはびっくりして振り返った。
「ポーラ・・・」
ポーラは微笑んで、ボクの隣に座った。
しばらく、ボクもポーラも何も言わなかった。
ただ、風や水の音だけが、ボクたちの間を流れていた。
「明日・・・頑張ろうね」
ポーラがぽそりとつぶやいた。
「私、ネスがいてくれたら、どこへでもいけるような気がするの。
ううん、私だけじゃない、ジェフやプーもそう思ってる。
そして、絶対に無事に帰ってこれるような気がするの」
ボクは黙ってポーラを見つめた。
「そして、いざとなったら・・・私が守ってあげる」
「・・・それは、ボクのセリフだって」
ボクはそういって笑った。
「あ、やっと笑ったね。
ずっと怖い顔してるんだもん」
「ポーラ・・・」
ポーラはボクから視線を外し、空を見上げた。
「笑顔はね、どんな悪にも打ち勝つ力になるの。
だから、笑っていればきっといい結果が出る。
だから、笑お?」
そういって笑ったポーラの笑顔を見たら、ボクの中に存在していた黒いもやもやしたものが一気に晴れてしまった。
笑顔はすでにボクの力になっていた。
「うん・・・ポーラ」
「なに?」
「ありがとう」
ポーラはにっこり笑ってボクの手を握った。
二人で見上げた星空はとてもきれいだった。
「あ、おかえり〜」
「遅かったな」
「ジェフ!プー!起きてたの?」
ボクがびっくりしてたずねると、ジェフとプーは顔を見合わせて笑った。
「ネスが出て行ったときに眼が覚めたんだ」
「オレも起きようかと思ったときにポーラが起きだして・・・」
「ここは二人っきりにさせてあげようと思ってさ」
「気を使ってやったんだぜ」
二人は楽しそうに笑った。
ボクとポーラもつられて笑った。
明日の敵はすごく強いだろう。
だけど、ボクたちは絶対に負けない。
こんなに頼もしい仲間達と、笑顔があるのだから。
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