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<ディアフレンド1>

 クルシェ・オルタッドは、貧民街と呼ばれる街の中でも寂れた場所を歩いていた。上品そうな服を着て、キョロキョロと辺りを見渡している様子は、まるで兎のようだ。
 そんなクルシェとは対照的にすれ違う者たちはみな、ボロボロの服を纏っている。そして、明らかに一目見て貴族だとわかるクルシェのことを、獲物を狙うような目で見ていた。
「よう。お前はそんな格好をしていったいどこに行くつもりだ? そんな格好でこの辺を歩いていたら恰好の的だぜ」
 彼に声を掛けてきたのは、やはりボロボロの服を纏ったクルシェと同じくらいの年の少年だった。背はクルシェよりも高い。
「的? 的って狩の的にされるってこと?」
 クルシェがのんびりとした口調で真っ直ぐに少年の目を見ながら言うと、少年は笑った。
「狩り? ああ、狩りには違いないな。ほら、これが何かわかるか?」
 少年がそう言ってクルシェの前に差し出したのは、装飾が施された懐中時計。クルシェは慌てて自分の胸ポケットを探ったが、そこには何もないことに気づく。
「すごい! それ、いつの間に取ったの?」
 クルシェは突然、目を輝かせて少年に聞いた。
「え? すごいってお前……。俺にこれ盗られているんだぞ?」
 少年は予想していたものとは違う反応に、たじろぐ。
「あれ? そうなの? でも、すごいよ。手品師(マジシャン)みたいだ」
「はあ、まあいいや。ところで手品師ってなんだ?」
 どうやらクルシェに何を言っても無駄と悟った少年が溜息をつきながら聞く。
「手品師はねえ。何も入ってない帽子の中から鳩を出したり、物を消したり、出したり自由自在にできる人のことなんだよ」
 大げさなジェスチャーで、手品師のことを語るクルシェ。
「ほほう。そいつはすごいな。実は俺も手品師なんだ。ほら、あっちを見てみな」
 少年はそう言うと、クルシェがやったような大きな動きで大通りの方を指差した。
「え? なになに?」
 クルシェは指差された方を見て期待いっぱいにそちらに視線を向ける。しかし、特に目立ったものもなく、歩く人々や荷馬車の姿しか確認できない。
「何もないよ。手品師さん」
 クルシェが後ろを振り返ると、すでに先ほどの少年は消えていた。
 そして、クルシェが後ろから肩を叩かれた。それは少年の手ではなく、大きく、力が強い手。クルシェは「手品師さん」という声を出そうとして、口をその手に遮られた。

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