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<ディアフレンド2>

 ヘンリー・アッペナートは、裏通りに身を潜めていた。ヘンリーはクルシェが素直に大通りの方を見ている様子を思い出して笑っていた。
「本当に馬鹿だなあ。あんな奴がこの世にいるなんて。本当の貴族って馬鹿の集まりなんじゃないか」
 言いながら、ヘンリーは先ほど手に入れたばかりの懐中時計を見る。実にみごとな彫刻で、これを売れば、おそらく当分の間は食べていくことができるだろうとヘンリーは値踏みをした。彼の頭の中はすでに夕飯に出てくるごちそうのことで頭がいっぱいだった。
 念のため、ヘンリーはもう一度クルシェの様子を見てみるために裏通りから顔出す。しかし、クルシェの姿はそこにはなく、変わりに大きな荷馬車が横向きに止まっている。
 ヘンリーは不審に思って、しばらく様子を見ていると、荷馬車の陰から体格のいい髭面の男が大きな皮袋を背負って出てきた。袋はもぞもぞと動き、抵抗しているように見える。男はそのままその袋を強引に荷馬車の中へ押し込んだ。
 男がその後、辺りを警戒していたので、ヘンリーは一旦、顔を引っ込める。
 誘拐……すぐにヘンリーの頭の中にその言葉が思い浮かんだ。あそこまで分かりやい貴族の子供がいたならば、普通は誘拐して身代金を要求する方が、一番儲けが大きい。非常に分かりやすいことだった。
――やられるやつが悪い
 ヘンリーは懐中時計を強く握り締めながら荷馬車が通り過ぎるのを待つ。しかし、次の瞬間、懐中時計が手からこぼれた。床に落ちて蓋が開き、中の文字盤が見える。
 慌てて、拾おうとすると、蓋の裏に写真が入っていることに気がついた。
 それを見た刹那、ヘンリーは懐中時計をそのまま握って走り出していた。
 写真に写っているのは貴族の少年によく似た目を持つ三十代くらいの女性。
――忘れていた。どんなやつにでも家族がいるんだ。
 ヘンリーは、必死に走って荷馬車を追いかける。しかし、荷馬車は徐々にスピードを上げようとする。
――間に合え!
 無我夢中だった。
 

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