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<ディアフレンド3>

 クルシェが目を覚ますと、薄暗い部屋の中だった。部屋の中には、最低限の家具しかなく、木製のテーブルも椅子もほとんど朽ち果てていて、今にも壊れそうだった。光はほとんどなく、天井に開いた穴から光が数本差しているだけだ。
 埃っぽい部屋で、決して綺麗とは言えない。体を動かそうとするが、動かない。クルシェは目線を下に向けてみる。手と足が、縄でしばられ、体も縄で柱にしばりつけてあった。クルシェは何でこんな状況になっているのかまったくわからない。窮屈な態勢なので、とりあえず、縄を解いてほしかった。そこでクルシェの頭に唐突に思い浮かんだのが、先ほど出会った手品師の少年だった。
 あの手品師の少年だったらもしかしたら何とかするのかもしれない。クルシェは前に見た手品師が『縄抜け』を簡単に成功させている場面を思い出した。
「手品師さん……」
 ふと、心の声がクルシェの口から出た。
「ああ、呼んだか?」
 後ろから声がして、クルシェはこの部屋にもう一人誰かいることに気づいた。
「その声はもしかして手品師さん?」
 クルシェは少し自信なさげに背後の気配に向かって声を掛けてみる。
「そうだ。それよりも何で俺のことがわかったんだ? 魔術でも使ったのか?」
「え? 魔術? そんなの使えないよ。魔術が使えるのは手品師さんの方でしょ? 手品師さんならこの縄を簡単に抜けられそうだと思ったから……」
 クルシェは明らかに手品師と魔術師の違いがわかっていなかった。
「はあー……お前はなんでそんな冷静なんだ? わかっているのか? この状況はどう見ても誘拐だろ?」
 深い溜息のもと、ヘンリーは言葉を発した。
「『ゆうかい』って何? 楽しいこと?」
 危機感のない声でクルシェが言う。
「ああ、すまん。お前はバカだってことを忘れてた。つまり、ここで何もしなかったら、殺されるかもしれないっていう、怖いことだ」
 ヘンリーはまるでクルシェを脅すように最後の部分の語気を強める。
「殺される……。それ、聞いたことある。確かもう母様に会えなくなるってことだよね?」
 クルシェは、自分で言っていて、怖くなった。暗い部屋の部分から何か出て来るような気がしてブルブルと体を震わせ始める。
「そうだな。殺されたら母親に会えなくなるな……」
 そう言うヘンリーの声はひどく弱々しく聞き取りにくい声だった。
「それは嫌だ! 僕は母様に会えなくなるのは嫌だ!」
 クルシェの声は震え、そして必死に拒否の言葉を叫んだ。すでに瞳には涙が溜まっている。
「ああ、そんなのは嫌だよな。嫌じゃないやつなんているわけがない……。あの懐中時計に入っていたのはお前の母親なんだろ?」
 ヘンリーの声は、弱々しかったが、その言葉にはどことなくやさしさを感じさせるものだった。
「そうだよ! 大事な母様さ! あ、懐中時計! 母様からもらった懐中時計。手品師さん返してよ! 持ってるんでしょ!」
 クルシェは、懐中時計をヘンリーから取り返そうと、何とか縄を解こうと動き回る。
「落ち着け。今、その懐中時計は持ってない。どうやら悪い奴に盗られちまったみたいだ」
 ヘンリーはなるべく先ほどまでしっかりと握っていたはずの懐中時計の重みを思い出しながら、悔しそうに言った。
「そ、そんな……」
 クルシェは、ひどく落胆して今にも崩れてしまいそうな弱々しい声でつぶやく。
「だけどな。安心しろ。俺は手品師だ。何とかあの悪い奴らから時計を取り返して、俺もお前も死なずに済ますことができる!」
 ヘンリーは、クルシェを安心させるためにわざとと大きく、明るい声で言う。
「でも、手品師さんも縛られてるんでしょ?」
 クルシェは、すがりつくような猫のような弱々しい声でかろうじて聞き返す。
「今はな。でも……」
 ヘンリーは言葉を切り、数秒後、クルシェの前にボロボロのコートを翻してクルシェの前に現れる。
 光の筋がまるでスポットライトのようにヘンリーを照らしていた。
「こんな縄は、俺の前では玩具も同然だ」
 ヘンリーは、胸を張って、得意げに言ってのける。
 それを見たクルシェは、ヘンリーが本物の手品師であると確信してしまったのだった。
 

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