鏡の迷宮 小説TOPに戻る

<鏡の迷宮5>

 気がつくと、どこかのベッドで私は寝ていた。上には白い天井が見える。
 体を起こそうと左手に力を加えると、鈍い痛みが手首に走った。左手の手首を見ようとしたが、包帯で巻かれて見えなくなっていた。その包帯には少しだけ血がにじんでいる。
 まさかみねこがいじめを受けていたなんて、まったく知らなかった。それにみねこがこんなにも追い込まれて、リストカットをしてしまったなんて……。
 悔しさで私は布団を強く掴んで体を震わせた。
 私がもっとしっかりとしていれば……私の馬鹿! 私の馬鹿! 私の馬鹿!!
 もう少しで泣き出してしまいそうなところで、扉が開けられ、『私』が入ってくる。
「みねこ!!」
 『私』はひどく息を切らしていた。そして、私の姿を確認すると真っ直ぐに涙を流しながら私の小さな体に飛び込んできた。私は少し驚きつつもその体をしっかりと両手で支えてあげた。
「みねこ、よかった……。心配……したんだから……ね。病院に運ばれ……たって……聞いて……」
 胸で泣き崩れる『私』にしっかりと心臓の音を聞かせてあげる。
 まるで子供だ。この時のことは自分でも覚えてはいない。確かただ大事な妹が心配で、無事な姿を一目見たかったことだけは覚えている。
 とりあえず、今は私がみねこなのだ。『私』を何とか落ち着かせてあげないと。 「お姉ちゃん。みねこは大丈夫だよ。ほら私の顔を見て」
 私は無理に笑顔を作って、ぜんぜん大丈夫ではないはずなのにわざと強がって見せた。胸が痛んだ。心にもないことを言うというのはこんなにも自分を傷つけてしまうのか。
 『私』はその言葉と笑顔にさらに安心したのか泣き声は、号泣に変わった。今度は赤ん坊のようだ。こんなに取り乱していた『私』をひどく恥ずかしく思った。
 でもそれ以上に、この場面でみねこをさらに傷つけていた私を呪った。
「ねえ。ところでどうしてそんなことになったの?」
 『私』は唐突に聞いてきた。
「それはね。ほら、あそこの公園の裏にね。猫さんがいたの。それでフェンスを乗り越えて追っかけようと思ったんだよ」
 私はえへへと笑って見せた。
「もう! みねこはおてんばなんだから!」
 『私』に私は頭を叩かれた。
「痛いよ。わたし何も悪くないのに! もう仕返しだよ!」
 私は『私』の脇をくすぐった。
「ちょっ、ちょっと、キャッ、ハハハ、みねこ、やめて〜」
「やめない〜」
 悪戯っぽく笑いながら言った。この時は本当に心から面白かった。
 そんな中、両親が慌てて入ってきた。二人とも取り乱していてたが、この光景を見て安心したのか「はぁ〜」と溜息を漏らした。
 何だかその光景すら全部面白かった。この時は一瞬だけみねこも辛いことを忘れられたのだろう。笑いが止まらなかった。

   その後『私』や両親が帰った後、急に寂しさが襲って来てベッドで泣いてしまった。今はみねこの気持ちが痛いくらいわかった。この気持ちにみねこは耐えたのだろうか。なぜここに『私』がついていてあげなかったのか。
 辛くて、悲しくて、悔しくて私は泣いた。ずっと泣いていた。しかし、いつの間にか泣き疲れて寝てしまった。
   

6ページ目へ→

←前のページに戻る

小説TOPに戻る