休日のモロク。
 人影もまだ疎らな夜明け頃。頭痛が酷く目が覚めた私は溜まり場に顔を出した。

 昨日、ギルドメンバーの暦と飲み比べをして華麗に惨敗。あのザルには勝てる訳もないのだけど。
 トロピカル・ソグラト。モロク名産のお酒で口当たりが良く、スルスル喉を通る。
 が、その口当たりとは裏腹に非常にアルコール度数が高く、飲みやすさだけでガンガンいくと
 今日の私のような惨劇に陥ってしまう。呪いにかからなかっただけでも良しとしなければ。

 砂漠に吹く風が頬を撫でる。
 頭痛だけで気分は悪くない。気休めに頭にヒールでもして寝転んでいようか。

「やほ〜 らふぁさん、おはよぉ〜」

 超音波発生。

「おあよ……早起きだね。狐」

 超音波の発信源は、暦の娘、狐。流石ちびっ子は早起きだ。 
 休日は嬉しくて寝ていられないといった感じ。
 今もキラキラした目で私の様子を見ている。というか、狩りへ連れて行けって目か?それは。

「らふぁさん! らふぁさん! 狩り! 狩りに連れて行って!?」
 
 やはり。
 ついでに、何故2回言うのだ。いくら私が最近ボケが入って来たと言っても、2回言わなくても忘れないわよ。
 というか、私頭痛が……。 嗚呼、そんなキラキラなおめめで見ないで頂戴。……わかった、行くわ。

「へーへーどこ行きたいのかしら? 狐は」

 気の無いなげやりな返事に、狐は気を悪くした様子も無く
 頬に人差し指を当て、あーでもないこーでもないと一人悩んでいる。
 しばらくして何かを思い付いたのか、狐の目が輝いた。

「おk!! 生体工学研究所3階!!!」


ゴスン


 鈍器の様な物で殴打した音が響いた。

「寝言は死んでから言うものよね? たしか」

 私の手には+8マイトスタッフが握られていたので
 鈍器の様な物ではなく、確実に鈍器なわけだが。 
 
「いったああああぃぃぃ!! 酷いよらふぁさん! 死人は寝言、言わないよぅ!」

 ああ、うん。まあフランス語ではそうとも言うわね。
 いやいや、もう少し狩りになる場所にしよう? 
 わざわざ死に急ぐような狩場にしなくても……ねえ。生体3Fじゃ、狩場というか狩られ場だし。
 それ以前に狐、あなたのレベルじゃ入れないじゃない。生体3F。

「え〜っと、じゃあ、タナトス7k――がふぅ!」

 唸れ! 私の+8マイトスタッフ!!
 親切な私は心の中でやさしく教えてあげる。

「狐。タナトス7階層は転生職じゃないと行けないわ」

 そう、無知な狐を嗜めるようにやさしくね。嗚呼、頭痛が……。

「らふぁさん! ニヤニヤしながらマイトで殴らないでよぅ!!」  
 
 狐には私の親切が伝わらなかったようだ。



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「マニピカットぉ〜……zzz」

 睡魔と戦いながら賛美系支援を狐に送る。

「ちょっと! いつの時代の魔法ですか!?」

 そういや変わったんだっけ、5年程前に。
 

 薄暗いカタコンに響く時代錯誤な魔法の詠唱。
 一応かかっているらしい。口で言ってるみてるだけだから。
 ――ちょっと試してみたくなった。

「(はじめての)アコム!!収支のバランスを大切に!!」

 祝福系支援魔法、アスムプティオが狐に届いた。

 「……」

 「……」

 そんなバカな。そんないい加減な。真面目に聖職者をやってるのが多少アホらしくなった。



ガコン



 「もうぅ! 真面目にやってよ!」

 爽快に響き渡る鈍器の様な物で肉の塊を殴打した音。

 痛い。頭痛のマイヘッドに何をする。狐ったら。
 そういえば、さっき私の+8マイトスタッフを貸していたわ。いいスイングよ。狐。そうこなくっちゃ。
 という事は、鈍器の様な物ではなく、確実に鈍器……

「わかった……わかったから頭痛のマイヘッドをクラッチしないでちょうだい」

 言ってる意味がさっぱりわからないという顔をした狐が私の顔を覗き込む。
 大丈夫。私も何を言ってるかわからないから。ほら、後ろにイビルドルイドがいるわよ。
 真面目に支援するから、ガンガン、ヒール砲打っちゃってくれちゃって? 

「SP切れたあああ!!」

 そうか、切れたか。じゃあマイトでコンコンやってなさい。
 ああ、マイトで殴ったら精神力を吸い取られるわね。まあ、狐は気が付いてないから黙っておこう。
 敵に与えるダメージが減ったとか絶対この子は見てないだろうし。
 
コンコンコンコンコンコン――

 心地いい音色。
 意外と攻撃速度速いのね。狐は。
 そんな他愛も無い事を思いながら、ドル様を殴打する狐を目で追う。
 ベビーアコライトが必死で鈍器を振り回す姿は、誰が見ても可愛らしい。
 
「やったよ! らふぁさん、ドル様を殴り殺したよ!!」

 屈託の無い笑顔を惜しみなく私に向ける。
 口にしたえげつない台詞も、その笑顔のせいで可愛く聞こえてしまう。
 無意識に伸ばした手が、狐を抱き上げる。
 血みどろのベビーアコライトが私の腕の中で微笑む姿は何とも……愛しい?


【ギルドメンバーせしるさんが接続しました。】


 あ。相方が来た。
 キリもいいし、そろそろ帰っておこうか。
 昨日飲みすぎて何かとんでもない事をしていないか確認もしておきたいし。

「狐?」

 腕に抱いた狐に囁きかけるも、狐は明後日な方向を見つめている。
 何? 何かあった? 視線の先を見ても何も見えない。しかし、何だろう?この緊迫感。
 数歩。ほんの数歩その視線の先に向かっただけだった。
 視線を下げると腕の中で先ほどまで笑っていた狐がグッタリしている。

「狐!!」

 何が起こったかわからない。ただ、強大な力が頭上から降ってくる気配。
 答えが目の前にその姿を現した。カタコンを全ての冒険者から守護する魔物、ダークロード。
 誰かが闘っていた最中だったのか、距離的に見えないメテオストームに狐はやられたようだ。

「またお前か!!」

 また。
 カタコンに来ると、もはや前世からの因縁のように出会ってしまうダークロード。
 今日は狐を抱いている。逃げる事もままならない。どうする。
 考える暇も無く、一瞬にして体力を奪われた。立っているのがやっとの体力しか残っていない。

「コーマ?!」

 メテオストームの詠唱を見たすぐ後、私と狐はモロクで倒れていた。




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「大丈夫?」

 上から相方の声が聞こえてくる。
 溜まり場に仮死状態で戻った私達に相方はショックエモをくれた。

「頭が痛いわ……」

 トロピカル・ソグラトめ……しばらく控えよう。
 疲れきった所にダークロードに重たい一撃をもらった狐は、私の膝の上で眠っている。
 ちびっ子には中々デンジャラスな体験だったかもしれない。とかいう私もしっかり殺されてきた訳だが。
 汗で額に張り付いた髪を梳いてやる。くすぐったいのか時々身動ぎする狐をぼーっと見て出た言葉。

「せしるたん、私も子供欲しい……」

「無理」

 即答。
 うん。まあ、女同士で子供は作れない訳ですけど、
 もうちょっと悩むとか恥らうとか可愛らしい反応を期待してたんだけど。相方には無理な話か。

「うーん……でもまあ、子供が出来る位愛してあげる事は出来るけど?」

「……」


ぶしゅ


「うわっ めりたん鼻血っ」

 なんて事を言うの、この相方は。色々想像してしまったじゃない。
 時々斜め上な発言をしてくれるから面白いのだけども、爽快な笑顔で言うのは辞めて頂戴。血が足りなくなるわ。

 膝の上の狐が目を覚ます。
 元々血みどろだった狐が更に血みどろに。ごめんなさいね。私の妄想があなたの顔を汚したわ。

「はっ! 手負いのドル様?!」


ガスン


「狐……」
 
 相方の呆れ声。遠のく私の意識。
 
 さよなら、頭痛のマイヘッド。今日はもう起き上がれそうにないわ。
 子供も当分いらないわ。
 
 
 


−終わり−  


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○あとがき

鉄拳制裁ギルド。ふぉるとぅな。