まだ朝日も昇りきっていない早朝の海岸…

 

その海岸を一人の少女が犬を連れ散歩を楽しんでいた。

 

「ワンッ…ワワンッ……」

 

「もぅ、マール…そんなにせかさないで。」

 

「ワンッ…」

 

そんな少女の言葉に応えるかのようにマールは速度を落とし少女と並び歩き始めた。

 

「ふふ…今日も風が気持ち良いな。」

 

そう言い水平線の彼方を見つめる少女の腰まで伸びたブロンドの髪は風に揺られ太陽の光を浴び輝きを放っていた。

 

だが…彼女の瞳には輝きは無く漆黒の闇に包まれたままだった。

 

「フゥッー……ワンッワンッ!」

 

突然マールは血相を変え何か警告を知らせるかのようにしきりに吠え始めた。

 

「マール?…どうかしたの?」

 

「ワンッ!!」

 

マールはそう吠えると少女を置き去りにし海岸線を一人疾走しだした。

 

「あっ……待って、マール。」

 

少女はマールを追いかけようと必死に走り始める…

 

だが…マールの足は速く中々追いつけないでいた。

 

「……ッ……ワン……ワンッワン…」

 

次第にマールの鳴き声が大きくなり追いついたのだと少女が確信した瞬間…

 

「きゃっ!?」

 

少女は何かに足を取られ砂浜に倒れこんでしまった。

 

「いたたた…何?……流木か何かでも打ち上げられたのかな?」

 

少女は自分が何に足を取られたのかを把握するために自分の周囲を手探りで探索しだした。

 

「えっと…ここらへんかな……あれっ?何もない…じゃあこっちかな?」

 

左右いろいろな方向に手を伸ばし捜し続ける少女の手に何かがこつんと触れた。

 

「あっ…これね。…え〜と…これは何なのかな…?」

 

少女が触れたもの…それは柔らかい表面に時折硬い表面…

 

そしてほのかに温もりを持ちそして冷たくもあるもの……

 

「こっ…これって…人!?」

 

自分が触れているものが人間だと気付いた少女はすばやくその人を揺さぶり呼びかけ始めた。

 

「もし…もしもし……大丈夫ですか…?」

 

「……ぅ…うぅ……」

 

そんな少女の呼びかけにその人は微かに反応を見せた。

 

「大変っ…早く手当てしてあげないと…取りあえず私の家に…」

 

少女はその人の肩をかつぎ立ち上がった。

 

「うぅっ……ちょっと苦しいかも……」

 

「ワンッワンッ。」

 

辛そうな表情をする彼女に心配したマールは足元にじゃれつきながらそう吠える。

 

「だ…大丈夫よマール…しっかり誘導してね…」

 

マールに導かれながら少女はゆっくりと自分の家へと引き返し始めた。

 

そしてそれは少女にとって運命の出会いだったのかもしれなかった………

 

 

第1章『出会い…そして、運命の歯車は動き始める…』

 

 

浜辺で倒れていた人を自分の家に連れ帰った少女は付きっきりで看病をした。

 

1………2………3………日は刻々と過ぎていったが一向に目を覚まそうとしなかった。

 

少女はその人がいつ目覚めても良い様にと自分は一睡もせず看病を続けた。

 

そして……4日目の朝がきた……

 

『チュン…チュン……チチチチ……チュンチュン…』

 

「すぅ〜……すぅ……」

 

鳥達のさえずりが聞こえる中少女は小さく寝息を立て眠りについていた…

 

『もぞ……もぞ……ずずずず……』

 

「ん……う〜ん……」

 

そんなシーツがこすれる音を聞き少女はまどろみの中から引き戻された。

 

「あっ……起こしちゃったかい?」

 

聞きなれない男の人の声…

 

寝起きの彼女はそれが自分が看病していた人だと気付くのに少し時間を要した。

 

「えっ………あっ、もう体の方は大丈夫なんですか?」

 

「うん…君が看病してくれたんだね。ありがとう、おかげで助かったよ。」

 

「いえ……当然の事をしたまでですよ。……あ、私…アルマ…アルマ=ミルノーです。」

 

「アルマ…僕…僕の…名前は………ロディ…ロディ=シェルウィザード…」

 

「ロディさんですか。…あなたは何故…あんなところに倒れてたんですか?」

 

「えっ…?」

 

「憶えてないのですか?あなたは海岸に打ち上げられてたんですよ。」

 

「海岸……なぜ…そんな所に…僕は……」

 

ロディは自分の記憶を必死にたどってみるが全く何も浮かんでは来なかった。

 

何かを思い出そうとするたびに頭の奥底がずきずきと痛み出す…

 

まるで忘れている何かを思い出すなと体が警告しているかのようだった。

 

「……わからない……何も浮かんでこないんだ…」

 

「記憶……喪失ですか。」

 

「…そう…みたいだ。名前以外…何も浮かんでこない。」

 

「あっ…そう言えば…」

 

そう呟くとアルマは何やら机の引出しをあさりはじめた。

 

「え〜と……あった。これ…ロディさんのですよね。」

 

そう言いアルマは引出しから一つのペンダントを取り出しロディに見せてみた。

 

「これは…?」

 

「ロディさんが倒れていた所に落ちていたんですよ。どうです…見覚えとかありませんか?」

 

アルマからペンダントを受け取りじっと眺めてみる…

 

全く見覚えが無いが何か頭の底で妙な引っ掛かりを覚える。

 

「……良く分からない…けど、これは誰か大事な人から貰ったような気がする…」

 

「良かった…やっぱりロディさんのだったんですね。間違っていたらどうしようかと思いました。」

 

 

ロディはもう一度そのペンダントをじっと眺めた…

 

確かにそのペンダントは誰かに貰ったと言う事をおぼろげには憶えている。

 

しかし…それをどこで…そして誰に貰ったかは全く思い出せない。

 

思い出そうとすればするほど頭がずきずきと痛みそれを邪魔する。

 

「うぐ…ぁ…あぁっ!!…うぅ…」

 

「ロ…ロディさん!?」

 

必死に思い出そうとした時、頭は激しく痛み…そして全身に凄まじい恐怖を感じた。

 

「ロディさん!ロディさん、しっかりして下さい!?」

 

脅えるロディをぎゅっと抱きしめ必死に呼びかけるアルマ。

 

その瞬間、ロディの脳裏に一つを単語が浮かび上がってきた。

 

「パー…シル……パーシル…」

 

「えっ?」

 

「…今…その言葉が頭に思い浮かんだんだ…」

 

「パーシル…それってパーシル帝国の事ですか?」

 

「分からない…けどその言葉しか今は思い出せないんだ…」

 

「良かったじゃないですか。例えそれだけでも思い出せたんですから。」

 

「…うん…けど…」

 

「けど…どうかしたんですか?」

 

「その言葉を思い出した瞬間…こう…体の奥底から恐怖に近い物がこみ上げてきたんだ…」

 

「恐怖…ですか。」

 

「よく分からないんだ…けど、恐怖を感じたという事は僕にとって辛い過去なのかもしれない…

 

 それなら…忘れてる方が僕にとって良い事なのかもしれない……」

 

「そんな事…そんな事絶対無いです!!」

 

「ア…アルマ?」

 

弱気になっているロディを叱るようにアルマがそう怒鳴る。

 

「…大きな声出してごめんなさい…けど…ロディさん…逃げないで下さい。

 

 辛く自分が思い出したくない過去でも…それから逃げないで下さい…

 

 逃げていたら…何も変わる訳がないんですから…」

 

少し涙声になりながらもアルマはロディをそう諭す。

 

「…そう…だね。そうだよね、逃げてたら何も変わらないよね。

 

 それにたった一つでも思い出せたんだから喜ばないといけないよね。」

 

「はい…ごめんなさい。偉そうにそんな事言っちゃって…」

 

「気にしないで。おかげで目が覚めたんだ、お礼を言いたいくらいさ。」

 

「そんな…」

 

 

「よし…それじゃ、そろそろ行こうかな。」

 

そう言うとロディはベットから抜け出し立ち上がった。

 

「えっ…?何処に行くのですか。」

 

「…取りあえず、そのパーシル帝国に行って見る。何か思い出せるかもしれないし…」

 

「……そう…ですか。ロディさんがそう決めたのなら、私は止めるたりはしません。」

 

「アルマ…ありがとう。この恩は忘れないよ。」

 

「あっ…待ってください、ロディさん。」

 

立ち去ろうとしたロディをアルマがそう呼び止めた。

 

「えっ…どうしたんだい、アルマ?」

 

「最近パーシルは酷く物騒だと聞きます…

 

 ロディさんは何か…身を守るものは持っていますか?」

 

「え…あっ…いや、何も…」

 

「そうですか…それなら、ちょっと待ってて下さい。」

 

そう言いアルマは壁伝いに部屋を後にしようとした…が、

 

「あっ……」

 

「アルマ!!」

 

ここ数日の疲れからかアルマがふらつき、倒れこもうとした瞬間ロディがすばやく駆け寄りその身を支えた。

 

「ロ…ロディさん……」

 

ロディの腕の中で酷く驚きながらアルマはそう小さく呟いた。

 

「大丈夫?どこか体の調子が悪いのかい?」

 

「いえ…少し疲れただけですから…」

 

「そうか…それなら安心したよ……!!」

 

間近で自分を見上げるような形でアルマの顔を見てロディは始めて気が付いた。

 

先ほどから感じていた微妙な違和感の原因…

 

ロディを見つめるアルマの目にはロディは映っておらず輝きが見られなかった。

 

「アルマ…君は目が……?」

 

「はい…幼い時に…病気で視力を失いました。」

 

「そうだったのか…ごめん。変な事聞いちゃって…」

 

「そんな…いいんですよ。……あの、そろそろ…離してくれませんか?」

 

「え……あぁ!ご…ごめん!!」

 

自分がアルマを抱きしめている事に気が付き慌ててその手を離した。

 

「いえ…あっ…それではちょっと待っていてください。」

 

そう言うと今度はしっかりした足取りでアルマは部屋を後にした。

 

「……アルマは…強いんだね…本当に…」

 

自分しかいない部屋にそんなロディの呟きが聞こえた……

 

 

しばらくしてアルマは部屋に戻ってきた。

 

一本の剣を両手に抱えながら…

 

「お待たせしました。ロディさん…よろしければこれをお持ち下さい。」

 

「これは……?」

 

そう言いロディはアルマからその剣を受け取った。

 

ロディの手にその剣は重くも無く、また軽すぎないしっくりくる感覚…

 

鞘から抜き刃を見てみると使いこまれた感じなのだが、持ち主の行き届いた手入れの跡も感じた。

 

「私の…兄が一番大事に使っていた物です。どうぞ、お持ちになってください。」

 

「アルマの…お兄さんが?」

 

「はい……どうせ、もう…使われる事の無い代物ですから…」

 

「使われる事無い代物…どういう事だい?」

 

「……兄は…もうこの世にいませんから…」

 

「えっ……」

 

「兄は3年前、私の目を治す薬を探す旅に出て…不慮の事故で命を落としました…」

 

「ごご…ゴメン!!また変な事聞いちゃったみたいで…」

 

「いいんですよ。なんだかロディさん…兄に雰囲気が似ていて…

 

 それであなたになら全てをお話しても良いようなそんな感じがしたから…」

 

「……ありがと、そう言ってもらえると少し気が楽になるよ。

 

 それじゃ、この剣はありがたく使わせてもらう事にするよ。」

 

ロディはそう言いながら自分のズボンに止め具を付けアルマから受けとった剣を止め具にはめた。

 

「あ…それから、これを。」

 

アルマが差し出したのは地図と腕輪だった。

 

「これは…?」

 

「世界地図と……ロディさんを守ってくれるお守りです。」

 

「アルマ…ホント何から何まですまないね。」

 

「いえ…こんな事ぐらいしか力になれませんが…」

 

「…それじゃ、そろそろ行くよ…。近くに着たらまた寄るからさ。」

 

「はい…待っていますね。」

 

そしてロディが扉を開け外の出ようとした時…

 

「ロディさん!!」

 

「えっ…?」

 

アルマに呼ばれロディが振り向いた瞬間アルマがロディの体を抱きしめてきた。

 

「ア……アルマ…どうしたんだい?」

 

「その…何だか、ロディさんと、もう…一生逢えないような気がして…その…」

 

「大丈夫だって、また必ず会いに来るから。」

 

「………約束……してくれますか?」

 

「……あぁ…それじゃあ…」

 

ロディは不安げな表情しているアルマの小指に自分の小指を絡ませた。

 

「指きり…ですか?」

 

「そう。…僕は必ずアルマの元に帰って来る、指切った。」

 

小さく小指を振り、しかししっかりと二人は約束を交わした。

 

「約束…破っちゃ嫌ですよ。」

 

「あぁ…約束だ。全てを思い出したらアルマの元に帰ってくるよ。」

 

「…絶対ですよ。」

 

「うん。それじゃ…行って来ます。」

 

「………いってらっしゃい。」

 

ロディは去った空間をじっと見つめるアルマは高鳴る胸の鼓動に戸惑いと安心を感じた…

 

 

こうして…ロディの永き旅は静かに幕を上げた…

 

その先に待ちうける辛くも悲しい結末を知る事もなく………

 

 

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