第二章『少女に送る葬送曲』

 

アルマの家を後にしたロディは地図を頼りにパーシルに向かっていた。

 

草木や花…それに青い空。

 

記憶を失ったロディにとってはその全てが新鮮だった。

 

「えっと…この森を抜ければギアの街か…」

 

パーシルの城下に最も近い街『ギア』…

 

パーシルの情報を聞くためにロディが中継点にと決めた街だ。

 

その街に日が暮れるまでに辿り着きたかったロディは、

 

街の南に広がる森の中へと足を進めた。

 

 

ギアの街南方に広がる森…『ラーナの箱庭』

 

かつて大災厄の時代…ラーナが降り立ったと言われているこの森は、

 

人の手によって手を加えられてはいるが必要以上には開発は進んではいなかった。

 

その為この森を抜ける事は中々に難しい事だった…

 

「ふぅ…今どれくらい進んだのかな?」

 

ロディがこの森に足を踏み入れてからゆうに30分は経過していた。

 

だが…一向に出口らしきものは見えては来なかった。

 

「う〜ん…やっぱり素直に迂回した方が早かったかな。」

 

ロディがそんな考えを浮かべた時…

 

「…ゆ〜め〜…求め旅立つ〜……」

 

風のせせらぎに混じりそんな歌声が聞こえてきた。

 

「ん…誰かいるのかな?」

 

誰か他に人がいるのなら道を聞こうとロディは声がした方に向かってみた。

 

「あなたの背中に〜…祈りを捧げ〜…」

 

段々とその声が大きくなってくるのが分かった。

 

「ここかな?」

 

瞬間ロディは一変して開けた場所へと辿り着いた。

 

目の前に広がったのは辺り一面の花畑…

 

そして花畑の中心で歌っている少女…

 

「あの人が歌っていたのか…」

 

ロディがその少女に近付こうとした時、その少女に忍び寄る3つの影をみつけた。

 

「魔物!?」

 

確実に距離をつめていく魔物達、だが少女はそれに全く気付いてはいない様子…

 

「ま…まずい!!」

 

考えるより体が先に動いていた。

 

自然と右手は腰の剣に添えられ見つかりにくいようにと低姿勢のままの突進。

 

至近距離まで近付いたところで魔物達はロディに気付くが、遅すぎた…

 

その刹那ロディの腰から抜かれた剣は抜刀の一撃でまず一体を切り伏せる。

 

そして反撃の間を与えぬまま残りのニ体も切り裂いた…

 

「い…今のは…体が…勝手に…?」

 

自分の体のそんな反応に驚きを隠せなかった。

 

記憶を失っている自分…

 

その自分が何故あのような機敏な行動が取れたのか…

 

考えてもきりが無いのでひとまず少女のほうに振り向いた瞬間…

 

「グガァーーーー!!」

 

先程ロディが一撃目に斬りつけた魔物が起き上がり少女へと飛び掛ろうとしていた。

 

「あっ…危ない!!」

 

その攻撃から少女を守るためおどり出ようとしたロディの耳に跳び込んできたもの…

 

それは肉を切り裂く音と、魔物の断末魔の叫び声だった…

 

 

あまりの衝撃さに一瞬我を見失ったロディだがすぐに我にかえり目の前の光景を見た。

 

年はロディと同じ位の少女が一人立っている…ただそれだけの光景…

 

ただ一つ…少女の手には見た事も無い光の槍が握られていたのだ…

 

そしてその槍はロディと目が合った瞬間光の粒子となり姿を消した。

 

「あっ…えと…大丈夫?怪我とかないかな?」

 

「………」

 

そんなロディの質問に少女は沈黙で返した。

 

「あの…僕…僕は、ロディ=シェルウィザード。…君は?」

 

「………マリオス。マリオス=シルフィース……」

 

「マリオス…だね。大丈夫?怪我とかないかな?」

 

「…………」

 

ロディはもう一度そう聞き返したが、マリオスはロディの顔をじっと見つめるだけだった…

 

「…どうかしたのかい?僕の顔に何かついてる?」

 

「…あなたは…恐くないの?」

 

「恐い?…何がだい?」

 

「……私の事が…」

 

「君が?何でそんな事…」

 

「私…あんな事したのよ…」

 

「あんな事…あぁ、光の槍の事?あれすごいね、何かの魔法なの?」

 

「えっ……」

 

「いや、僕はあんまり魔法って知らないんだけど…あれって凄い力だね。」

 

「恐く…ないの?」

 

「恐がるわけないさ。あんなに綺麗なの…はじめて見たよ。」

 

「あっ…えと…その…ごっ、ごめんなさい。」

 

ロディのそんな正直な反応に驚いたマリオスはそれだけ言うとその場から走り去ってしまった。

 

「え…?僕、何か変な事言ったかな…」

 

マリオスのそんな行動に驚き戸惑ったが、自分もその場を後にし再びギアの街に向かう事にした…

 

 

「ここが…ギアの街か…」

 

ロディは無事に日が沈む前にギアの街に辿り着く事が出来た。

 

あまり都市としては栄えては無いが旅人達の大事な中継点であるこの街の広さは相当なものだった。

 

何件も立ち並ぶ宿屋やよろず屋…そんな始めて見る筈の町並み…

 

だが、ロディはその町並みに強い引っ掛かりを感じた。

 

「この街…何処かで見たような…?」

 

無くしたはずの記憶…だがロディの頭は確かにこの町並みを知っていた。

 

(僕は…この町を知っている?……いや違う…この町はただの通り道…

 

 本当は花畑に……花畑?なんであんな所に僕は一人で……

 

 一人?…違う、一人じゃない!?……でも…一体誰と………?)

 

ロディが必死になり記憶を掘り起こそうとするとずきずきと頭に痛みが走る。

 

(誰?…誰と花畑に……花畑?…何で花畑なんだ?)

 

考えれば考えるほど記憶の糸は更に絡まっていくのが分かる。

 

何かを思い出すたびに何かが頭を抜けて行く…そんな終わらないやり取り…

 

(…花畑…花畑に誰かいる…誰?…貴方は誰なんですか?)

 

確かに見える自分以外の誰かとの記憶…

 

だがそれははっきりとは見えずそれが誰かは思い出せない。

 

(誰…誰?…だれ…だれ…ダレ…ダレ!?)

 

「くぅ!!…あぁっ!!」

 

激しい痛みに堪えられずロディは思い出す事を中断してしまう。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…これ以上は…もう無理か…」

 

無理に思い出そうとしたショックは思った以上に大きく、

 

取りあえず今日は宿を取り休むことにした…

 

 

幸い客が少なかったのかあっさり宿は見つかり、

 

案内された部屋のベットの寝転がり先程の事を思い出す…

 

記憶の引っかかり…思い出されたヴィジョン…

 

「…僕は…この町を知っている…そして…あの花畑も…」

 

思い出した記憶の中には確かにあの花畑があった…そして傍らには誰かが座っていた…

 

「……そう言えば…今日はあそこでマリオスに出会ったんだよな…」

 

ギアに向かう途中で出会った不思議な雰囲気の少女…

 

どこか人を避けているような態度…だけど何か寂しげな表情…

 

「…何で…いきなり逃げたんだろう…?」

 

突然の出来事にびっくりした様子ではなかった。

 

彼女は明らかに他の事に驚いていた…

 

だが、それが何かはロディには見当もつかなかった。

 

「明日…もう一度あの花畑に行ってみるか…」

 

そう呟きながらロディが静かに目を閉じようとした時…

 

「…やっ…やめて下さい。」

 

「うるさい!この魔女め。」

 

そんな声が聞こえロディは体を起こした。

 

なぜならその声は聞いた事のある声だったからだ。

 

「…この声は!?」

 

その声を聞いたロディは急いで外に飛び出していった…

 

 

「確か…こっちの方だったよな。」

 

ロディが先程声が聞こえた宿屋の裏手に行ってみると二つの人影が言い争いをしているのが見えた。

 

「…そんな…嘘なんか言っていない……本当の事…」

 

「黙りなさい!!…今度と言う今度は、勘弁してやれないからね…」

 

「ちょっ…ちょっと、何をしているんだよ。」

 

危ない空気を感じたロディはすかさず彼女たちの間に割って入ってしまった。

 

「ロ…ロディさん?」

 

マリオスはそんな突然のロディの登場にひどく驚いた。

 

「誰だいあんた?邪魔しないで頂戴!」

 

「あの…マリオスが…何かしたんですか?」

 

ロディのそんな質問に女性は呆れ顔でにじり寄ってきた。

 

「…あんた…この街の人じゃないね?」

 

「えっ…?は、はい…そうですけど。」

 

「それじゃ…この子がこの街でどんな事をしてるか知らないんでしょ?」

 

「そ…そりゃあ…知らないけど…」

 

「いいかい?…この子はね…」

 

「やっ、やめて!!」

 

そう女性が言いかけた言葉をマリオスが制した。

 

「マリオス?」

 

「やめて…ください。ロディには…言わないで…」

 

「…ふ、ふん。今日はこれで勘弁してあげるわ。今度やったら承知しないからね。」

 

そんなマリオスの涙交じりの懇願を聞いてか、女性はそう言い帰って行った。

 

「…えと…マリオス。だ…大丈夫?」

 

「…はい…平気です…」

 

「……一体、何があったんだい?」

 

「そ……それは……」

 

そう言うなりマリオスは口篭もってしまった。

 

ロディとマリオスの回りに長い沈黙が訪れる…

 

1分?…それとも30秒?…もしかしたら1時間だったのかもしれないが、

 

その沈黙を破ったのは他でもない…ロディだった。

 

「そっか…じゃあ何も言わなくていいよ。」

 

「えっ…?」

 

「人間…誰でも言いたくない事の1つや2つ、言いたくない事ってあるもんね。」

 

「…ありがとう…ロディ。」

 

「…帰ろう。家まで送るからさ。」

 

「…ありがとう…」

 

ロディは何故か自然とそう思えたのだ…

 

確かに自分は男だから女性は守ってあげないといけないと思えたし、

 

何よりも今の状態のマリオスを放っておける事が出来なかった。

 

 

「ロディ…もう、私に近付かない方がいいです。」

 

特に会話も無く歩いていると、不意にマリオスがそんな事を口走ってきた。

 

「えっ…何故だい、マリオス。」

 

「…私に近付くと…あなたまで不幸になってしまうからです…」

 

「不幸に…?どうしてだい?」

 

「…私の力…知っていますよね…」

 

「あぁ、あの光の槍の事?」

 

「…あの力…魔法なんかじゃない…私の力…人が持っている力じゃないんです。」

 

「…人とは…違う力……」

 

「……私はその力のせいで皆に忌み嫌われています…”悪魔の子”って…」

 

「悪魔の…子か…ひどい言われようだね。」

 

「だから…もう私に優しくしないで下さい。…あなたのその優しさ…優しさが辛い…」

 

「マリオス…」

 

「…私は…一人でいいんです…私さえ我慢すれば…誰にも迷惑掛けなくて済むから…」

 

そう言うとマリオスは再びそっぽを向きロディから視線を外した。

 

「…マリオス…それは違うと思うよ。」

 

「えっ…」

 

「マリオス…逃げるだけじゃ駄目なんだよ…逃げてるだけじゃ、何も掴めやしないんだよ。

 

 確かに逃げてたら不幸なんか来やしない…だけど…それじゃ、何も変わりはしないんだよ。」

 

「何も…変わらない…」

 

「…と言っても、これある人の受け売りなんだけどね。」

 

「………」

 

「でも僕はその人に教えられたんだ。逃げてたら幸せも来やしないってね。」

 

「……幸せ……」

 

「だから…マリオス、君も…」

 

「…あなたに…あなたに何がわかるって言うんですか!」

 

ロディのそんな言葉にマリオスは声を荒げに反論した。

 

「あなたが私の何を知っていると言うの?私の何を分かってくれているの?

 

 私の…私の苦しみなんか1つも分からないくせに!!」

 

「マリオス…」

 

「…そんな勝手な事…言わないでよ!!」

 

マリオスはそう叫ぶと一人裏路地の中へと走り去っていった。

 

「……マリオス…逃げないで…現実から。…そして…自分から……」

 

一人残されたロディはそう呟き自分も元来た道を引き返しだしたのだった……

 

 

次の日…ロディの足はあの花畑へと向けられた。

 

昨日の記憶の引っかかり…そして、マリオスにもう一度会う為に。

 

そして…誰一人としていない花畑に彼女はいた…

 

「マリオス…やっぱりここにいたんだね。」

 

「ロディ…なぜここに?」

 

「君の事が気になって…謝りに来たんだ。」

 

「私に?」

 

「…昨日は…無神経な事言ってごめん。マリオスの事何にも知らないのに…勝手な事言って…」

 

「う…うぅん。私こそ…ロディは私の事真剣になって考えてくれたのに、ごめんなさい…」

 

「……何だか…あれだね。僕達、出会ってから謝ってばかりだね。」

 

「…ふふ…そうかもしれないわね。」

 

二人はそんな自分達が何だかおかしくて自然と笑顔になってしまった。

 

「それじゃ…僕はもうそろそろ行くよ。」

 

「えっ…?」

 

「僕はパーシルに行く途中なんだ、だからもうそろそろ行かなきゃ…」

 

「そ…そうなの…あっ、あの…ロディ…その…」

 

「ん?…なんだいマリオス?」

 

「あ…あの私…その………!?」

 

何かを言いたげなマリオスだったが突然その表情が険しいものへと変わった。

 

「ど…どうしたの、マリオス?」

 

「そ…そんな…どうして今更になってこんな事…なんで、どうして!?」

 

「マ…マリオス。何があったんだい。」

 

「ごっ…ごめんなさい、ロディ。私…早く行かなきゃ行けないの。」

 

「行くって…どこに行くんだい?」

 

「ギアの街…皆が危ないの!」

 

そう言うとマリオスはロディの事を構わずギアの街へと走り出した。

 

「ちょっ…マリオス!」

 

そして、ロディもその後を追いかけギアの街へと走り始めた……

 

 

ロディが街へと戻った時、何か妙な感じに気が付いた。

 

「…人が…いない…」

 

そう…周りからは人の気配が全く感じられなかった。

 

「一体…みんな何処に行ったんだ?」

 

不思議に思い回りを見渡した時、

 

「……す…だ…ら、にげ……さい。」

 

「そ……こと、だ……るか。」

 

「そ……こ…ま……め」

 

そんな沢山の話し声がロディの耳に入った。

 

「ん、あっちの方に何かあるのかな。」

 

取りあえず状況を確認するためにロディは声のしたほうへと向かってみることにした…

 

 

街の大広場…そこには多くの街人達がつめかけていた。

 

そして、その中心にはマリオスがいた…

 

「ですから…皆さん、この街から早く逃げてください。

 

 でないと…多くの人達の命が失われてしまいます。」

 

「何でそんな事しなきゃなんないんだよ。」

 

「そうだ!大体何が起こるって言うんだ?」

 

「そ…それは…分かりません。

 

 で…でも、とにかく大変な事になるんです。」

 

「はん、笑わせてくれる。魔女の言う事なんて誰が信用するかよ。」

 

「お願いです、信じてください!」

 

必死に街の人達にそう呼びかけるマリオスだが、誰一人としてその声に耳をかそうとはしなかった。

 

「何処かに消えちまえよ魔女!!」

 

「そうだ!そうだ!」

 

次第に街の人達の行為はエスカレートしだし、マリオスに石を投げつける人もではじめた。

 

「やめ…お願いです…いっ、逃げて…下さい。」

 

「うるさい、黙れ魔女!」

 

そんな声と共に不意にビンまでもが宙を舞った。

 

「!?」

 

『パリーーーン!』

 

宙を舞ったビンはマリオスへと一直線に飛んでいき、マリオスに直撃…するはずだったが、

 

「………ロディ…さん…」

 

それよりも早くロディがそれを叩き落したのだった。

 

「マリオス、もう大丈夫だから。」

 

「なんだ、お前は?」

 

「邪魔をするな小僧!」

 

「うるさい!あんた達は自分が何をしているか分かっているのかよ!」

 

「ふんっ、当然よ。この街に不幸を呼ぶ魔女を懲らしめてやってるのさ。」

 

「なっ…彼女が何をやったって言うんだ。」

 

「こいつはな、言う事欠いてとんでもない事を言い出しやがったんだ。」

 

「この街にパーシル軍がやってきて、多くの命を奪うんだとさ。

 

 まったく…とんでもない嘘をほざきやがるぜこいつは。」

 

「そ…そんな、嘘なんかじゃない。ホントの事…」

 

「黙れ!この化け物が!!」

 

「!?」

 

「化け物…?一体なんの事だ。」

 

「ふっ…お前はよそ者だから知らんだろうがな、こいつが始めてこの街に来た時…」

 

「いやっ!言わないで!!」

 

「うるさい!おい…こいつ押さえとけ。」

 

「きゃあっ!」

 

「マリオス!」

 

あっという間にマリオスは数人の男達に押さえ込まれた。

 

だが、男の口は止まりはしなかった。

 

「こいつはな…光に包まれ突然現れたんだよ。

 

 それも、体中に大量の返り血をつけてな。」

 

「な…なんだって。」

 

「その日はなパーシル国の魔物討伐の日だったんだよ。

 

 こいつは、そこから逃げてきた化け物だったんだよ!」

 

「ち…違う…私は、化け物なんかじゃない…」

 

「黙りやがれ!貴様…今日という今日はかんべんならねぇ。みんな、こいつはどうすれば良いと思う?」

 

「やっぱりここは魔女狩りらしく火あぶり、ってのはどうだ?」

 

「そうだ、そうだ。」

 

一人の男がそう口走ったために周りの人間達は口々にそう煽り立てた。

 

「よーし、そうと決まれば早速準備だ。」

 

『お〜。』

 

「なっ…やめろ!あんた達正気なのかよ!!」

 

「小僧、貴様は黙ってろ!!」

 

そんな声と共にロディは後頭部に鈍い痛みを感じた。

 

「ロディ!ロディーーー!!」

 

そして…そんなマリオスの叫び声が聞こえたような気がした……

 

 

…「う…うぅ……」

 

数分後…ロディが気がつくとそこは街の入り口だった。

 

「あ…あれ…僕は…一体なんでここに……?」

 

まだ少しぼやけ気味の思考を巡らせ自分の行動を思い出してみる。

 

「……あっ!マっ…マリオス!!くっ…急がないと。」

 

すぐさま自分の体勢を整えロディは再び大広場へと走り始めた。

 

 

…一方、大広場には先程と変わらないぐらいの人達が集まっていた。

 

ただ1つ違っていたのはその中央には磔にされたマリオスがいる事だった。

 

「それでは、これから魔女の処刑を始める!」

 

『おーーー!!』

 

「どうだ、何か言い残す事はあるか?」

 

「わ…私は…魔女なんかじゃない…」

 

「ふん…どうやら聞いても無駄みたいだな。よし、これより点火作業に移る。」

 

その合図で男が一人火のついたたいまつを持ってやってきた。

 

「さぁ見ろ!これが悪しき魔女を焼き払う聖なるたいまつになるのだ!!」

 

『おぉっー!!』

 

たいまつを持った男は徐々に近付きやがてマリオスの眼前へとやって来た。

 

「いや…やめて…やめてーーー!!」

 

「へへへ…これで、お別れさ…」

 

そして…マリオスの足元に敷かれているワラに火がともされた。

 

「やめろーー!!」

 

刹那、観客達の中からロディが飛び出して来るなり男を蹴り飛ばし火を消し止めた。

 

「がはっ!!」

 

そして蹴り飛ばされた男は観客達の中へと投げ出された。

 

「ロ…ロディ……」

 

「マリオス、今…助けるからね。」

 

ロディは腰から剣を抜きマリオスの体を傷付けないように慎重にロープを切った。

 

全ての縄が斬られると同時に支えを失ったマリオスの体は、倒れる寸前でロディに抱き止められた。

 

「ロディ……ヒック…ありがと…本当に…ありがとう……」

 

ロディに抱き止められ安心したのかマリオスは涙混じりにそう呟いた。

 

「もぅ、大丈夫だからねマリオス。」

 

中々泣き止もうとしないマリオスを安心させるかのようにロディは優しくそう呟いた。

 

「おいっ…何しやがる小僧!!」

 

「そうだー、邪魔をするな。」

 

「…うるさい!!!」

 

自分達の行動を邪魔され怒り出した街人達をロディはそう怒鳴りつけた。

 

「彼女が化け物だとか…自分達とは違うだと…ふざけるな!

 

 人を平気で磔にしたり…火あぶりにかけようとしたり…異常じゃないか!!」

 

「しかし…そいつは…」

 

「黙れ!…自分達の先入観だけで人が殺せる…

 

 あんた達の方がよっぽど人間なんかじゃない!!」

 

「………」

 

そんなロディの言葉に反論できる者は誰一人としていなかった…

 

 

 

『カーーーンカーーーン……』

 

そんな時街の危険を知らせる警報の鐘が街中に鳴り響いた。

 

「た…大変だー!みんな早く逃げろーー!!」

 

そんな事を叫びながら男が一人広場に駆け込んで来た。

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

「パ…パーシルの大軍がここに押し寄せてきてるんだ!」

 

「なっ…何だって!?」

 

「ひ…ひぃぃぃぃ!」

 

「し、死にたくない〜!」

 

口々のそう叫びながら街人達はくものこを散らす様に街から逃げ出そうとしたが時は既に遅かった…

 

そう、ギアの街はパーシル軍によって完全に包囲されていたのだった…

 

 

パーシル軍本陣キャンプ…

 

そこにはパーシル四大将軍に数えられる、ラムダ将軍。そしてファーラ将軍。

 

更に今回のパーシル軍の指揮官としてやって来たギザロフ将軍がいた。

 

「ギザロフ将軍…今回のこの進軍には何の意味があるのでしょうか?」

 

「ふむ…それについては何度も説明したはずだが…」

 

「『高い魔力要素(マナ)を持ったものを捕らえる』…こんな説明では納得できません。」

 

「その事ですか…それについて何かご不満かな?」

 

「当たり前だ。何故その者達を捕らえ、魔力を無理に押さえ込む必要があるというのか!」

 

「………」

 

「将軍。その理由をお教え下さい。」

 

「…分かった、ならば答えて差し上げましょう。」

 

「納得できる答えをお願いしますよ。」

 

「無論ですよ…お二方共最近魔法犯罪者の数が増えてきているのはご存知ですね?」

 

「えぇ…何度かその事件に遭遇しましたよ。」

 

「魔性犯罪者の犯行は大きな被害が出やすく、その対応には大変な苦労が必要となります。」

 

「確かに…あの事件はこちらにもかなりの被害が出てしまうからな…」

 

「そこで今回魔法犯罪者になりうるであろう可能性を持つ人間を集め魔力を押さえ込もうと考えたのです。」

 

「そんな事…本当に可能なのか?」

 

「当然ですよ。実験でも100%の成功率を見せています。」

 

『………』

 

「これで納得していただけましたかな?分かっていただければ、任務の方について頂きたいのですが…」

 

「分かった。それならば任務の方につかせてもらう。」「私もそうさせてもらうわ。」

 

そう言いラムダとファーラは、本陣キャンプを後にした。

 

「…ふん。癪に障るゴミどもめ。本来ならば既に消し炭にしているところだが、

 

 奴等はまだ必要な駒…もう少し泳がせといてやるか…」

 

そう嘲笑しながらギザロフは自分の愛用のロッドを取り出した。

 

「さて…この街にはあのマナを持った奴はいるのか…」

 

そう言いながらギザロフは何やら呪文をぶつぶつと唱え始めた。

 

「……ふむ…やはりこの街では…!?」

 

何かを感知したギザロフはその感触に不敵な笑みを浮かべた。

 

「いた…しかもかなりの潜在マナ…ふふふ、逃さんぞ…」

 

そして自らも本陣キャンプから姿を消したのだった…

 

 

一方その頃ロディとマリオスも街を出ようとしていたが何処の門もパーシル軍に占拠されていた。

 

「…くっ、ここも駄目か。全て回ってみたけど、何処からも出れそうに無いね。」

 

「そうね…ごめんなさい、ロディさん。私の手当てをしてたからかなり時間を無駄にしちゃった。」

 

「そんな事気にしてないよ。むしろあんな所にマリオスを一人だけ残す事なんか出来ないよ。」

 

「…ありがとう、ロディさん。」

 

「…マリオス、『ロディ』でいいよ。ほら、僕も君の事呼び捨ててるし…」

 

「え…あと…うん。ありがとロディ。」

 

「うん。…さて、問題はここからどう抜け出すかだよね。

 

 何かこう…抜け道みたいなものってないのかな?」

 

「抜け道…?」

 

「そう、街の外に出るのならどこに出ても良いんだけど…何処か知らないかい?」

 

「…抜け道…そんなものかどうかは知らないけど…一つ心当たりはあります。」

 

「ホント。それって何処にあるんだい?」

 

「裏通り…そこに、森に抜けられる道があるの。私…いつもそこから森に行ってるの。」

 

「そっか…よし、それじゃそこに行ってみようか。」

 

「で…でも、そこももう手遅れかもしれないし…」

 

「大丈夫だって、それにここでじっとしているよりかはマシだと思うよ。」

 

「……うん。」

 

「よし…そうと決まれば早速行ってみよう。マリオス、案内お願いね。」

 

「えぇ…こっちよ。」

 

こうしてロディ達はマリオスの案内の元その抜け道へと向かった。

 

 

「ここの角を曲がればもうすぐよ。」

 

「本当かい。この調子なら何とかなりそうだね。」

 

この抜け道は知られてないのか、ロディ達はここに来るまで誰かに出会う事無く来る事が出来た。

 

「えぇ…これなら無事に…!?」

 

そう言いかけマリオスは突然何かを感じた。

 

「マリオス?どうかしたのかい?」

 

「…何か…何かが来ます。何かは分からない…けど、恐ろしい何かが来るんです!」

 

「マリオス…それじゃ何を言っているんだか…」

 

「来ます!!」

 

マリオスのその言葉を聞いた刹那、ロディも奇妙な感覚を感じた。

 

焦り…戸惑い…恐怖…それらの感情が混ざり合い言葉では言い表せれない感覚…

 

そしてそれはやって来た。

 

「ふふふ…ここにいたのか…」

 

そこに現れたもの…それはパーシル軍総司令官ギザロフだった。

 

「あなた…一体何者なの?このマナ…普通じゃない。」

 

「ふっ…その言葉そっくりのまま返してあげましょう。」

 

「えっ…」

 

「私には貴方のようなマナを持った人間が必要なのです。私と来てくれませんか?」

 

「い…嫌よ!誰があんたみたいな人なんかと…」

 

「ふぅ…仕方ありませんね、では…力ずくで行く事にしましょうか。」

 

そう言いギザロフは静かに構えた。

 

ただ構えているだけだと言うのに圧倒的なプレッシャーがひしひしと伝わってくる。

 

逃げ出したい…だが、あまりの恐怖にかられ足は動こうとしない。

 

「マリオス!こいつは危険だ、ここは逃げるよ!!」

 

「えっ…」

 

「むっ…」

 

そんなロディの言葉に二人は同時に反応した。

 

「さあ、行くよマリオス!」

 

「う…うん。」

 

ロディの言葉で我を取り戻したマリオスは全速力で抜け道へと走り始めた。

 

「ぬっ…逃がすか!」

 

「あんたには…これだよ!!」

 

そう言い放つとロディは渾身の力で両サイドにあった家の支柱を斬り裂いた。

 

すると支柱を失ったレンガ造りの家はロディとギザロフへと向かって崩れ始めた。

 

「くっ…小癪な!!」

 

「悪いけど、ここは引かせてもらうよ。」

 

そう言うとロディもまた抜け道へと走り始めた。

 

「おのれ…ここで事を荒立ててはいかんし…ここは一旦引くとするか。」

 

仕方なく追撃を諦めギザロフは一時撤退を余儀なくされたのだった…

 

 

何とかギザロフの追撃から逃げ切った二人の前にはラーナの箱庭が広がっていた。

 

「いや〜、何とか逃げ切れて良かったね。」

 

「う…うん。そうね…」

 

「あ〜あ…昨日やっと森を抜けたと思ったら、また森をさ迷わなければいけないのか…って、マリオス?」

 

話しを振ろうとマリオスの方を向いた時、そこにマリオスはいなかった。

 

周りを見渡しマリオスの姿を探してみるとマリオスは抜け道の入り口で立ち止まっていた。

 

「マリオス。…どうかしたのかい?」

 

「…ねぇ、ロディ。…あなたは何故、私を助けてくれたの?」

 

「えっ…?」

 

マリオスのそんないきなりの質問にロディはひどく驚いた。

 

「私…人とは違うんだよ。普通の人が持っていない力を…私は持っているんだよ?」

 

そう…マリオスにはその事がずっと疑問に思えて仕方なかったのだ。

 

下手をすれば街人達全てを敵に回しかねない状況…

 

そんな危険を犯しながらも自分を助けてくれた事…

 

もしそれが同情から来る行動だとしたら、その事実は辛い事ででしかなく…

 

「う〜ん…分からないや。…でも…マリオスを見てたら、助けなきゃ…そう思ったから…」

 

「私が…人とは違う力を持っていたとしてもですか?」

 

「そんなの関係無いよ。…マリオスは、マリオスなんだから。」

 

「私は……私……」

 

マリオスの疑問…そんな疑問を全て吹き飛ばしてしまうくらいロディの笑顔はとても優しいものだった。

 

「そう言えば…聞いてなかったけど、マリオスはこれからどうするんだい?」

 

「えっ…」

 

「ほら…あんな事があったんじゃこの町には居辛いしさ…かと言って森で生活するのは大変そうだし…」

 

「…あ…あの、ロディさえ良ければ…その……えと……」

 

「う〜ん……そうだ!マリオス、僕と一緒にこないかい?」

 

「えっ…」

 

「ほ、ほら…僕の旅だってそんな大したモノなんかじゃないけど…

 

 この街に留まるよりかは良いと思うんだ。…どうかな?」

 

「……はい…私、ロディについて行く…ロディ、あなたを信じてみる。」

 

なんだか自分の言いたいことを見透かされたようで驚きを隠せなかったが、マリオスははっきりとそう答えた。

 

「…それじゃあ…行こうかマリオス。」

 

「…はい。」

 

こうしてロディの旅にマリオスが加わる事になった。

 

だがその出会いすらも運命が定めた未来の一つに過ぎなかったことを、

 

現時点では誰一人として知る者はいなかったのだ………

 

 

to be continued〜

 

 

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