第3章『湖の聖女と森の魔女』

 

パーシル軍の襲撃をなんとか回避したロディ達はラーナの箱庭を経由しパーシルを目指していた。

 

「…たしか、こっちがパーシルだったと思う。」

 

「いやぁ、ホントマリオスがいてくれて助かるよ。」

 

ロディは感心そうな表情でそう呟いた。

 

「え…どうして?」

 

「いや…僕、海の方からこっちに来る時何度か迷いかけてね、

 

 それで地図見てもよく分かんなかったから自分の勘だけで進んでたからさ。」

 

「ふふ、そんなに道に弱いのに一人でパーシルに行こうとしてたの?」

 

「…今思うと旅ってものを甘く見てたかもしれないね…」

 

そんなロディの呟きに二人ともつい笑顔になってしまう。

 

他愛も無い二人の会話…

 

偶然とはいえ自分の旅に同行してくれているマリオス。

 

そのマリオスとの会話がロディにとって新鮮なものであり、また新しい喜びの一つだった。

 

「あっ!見て、ロディ。ラーナ草の花が咲いてるよ。」

 

「えっ…どれどれ…」

 

マリオスにそう言われロディが覗きこんだもの。

 

そこには身の丈10cmぐらいの白い花が咲いていた。

 

「知ってる?このラーナ草はね世界でもここにしか生えてない珍しい花なんだよ。

 

 つぼみの時はランプみたいな形をしてて、その状態でもとても綺麗な花なんだ。」

 

「へぇ〜この花がね…」

 

そう言いロディが花に手を近づけたとき…

 

「ダメ!せっかく綺麗に咲いてるんだからこのままにしておくの。」

 

マリオスがそう言いロディの行動を制した。

 

「…ぷ、あははは。」

 

「え…?な、何かおかしかった?」

 

「い、いやね…何だかマリオス、初めて会ったときよりもずいぶん明るくなったね。」

 

「えっ…?」

 

「ほら、初めて会った時は笑顔なんて想像できなかったからさ。」

 

「あ、あれは…その…初対面だったし、それに私の噂も知ってる人だと思ってたからで…」

 

「そうなの?」

 

「分からない…そうなのかもしれないね。」

 

「わからないって…自分のことじゃないの?」

 

「…私、今まで人と接する事を避けてたし…あの頃の暗い自分も私だし、

 

 今ロディの前で明るくしているのも私…どっちが本当の私なんだろうね…」

 

そう言うマリオスの顔は少し憂いを帯びた表情だった。

 

「マリオスはどっちが本当の自分だと思う?」

 

「…多分、以前の私が本当の私だと思う…

 

 今の私は、明るい他人を無理に演じてる…そんな感じがするから…」

 

「そっか…でも、僕は今のマリオスの方が好きだよ。」

 

ロディの突然のそんな言葉…

 

ただでさえ先程の質問で戸惑い隠せなかったマリオスだがロディのそんな言葉に更に動揺してしまった。

 

「えっ!?…あ、あの…その、す…好きってその…えと…

 

 あぁ、私のこと…えと、そんな事じゃなくて…」

 

もはやマリオスは自分で何を言ってるのかも分からないほどパニック状態になっていた。

 

「ほ、ほら…道草はやめて早く行きましょ。」

 

そして、ようやくマリオスの口から出た言葉はそんな逃げの言葉だった…

 

 

ラーナの箱庭を進み始めて幾分かした頃…

 

「そう言えばロディ。この森には湖もあるって知ってた?」

 

「湖?…いや、知らないよ。と言うか、記憶無くしてるからわかんないけど…」

 

「この森にはね、北に湖、そして南に花畑があるの。

 

 それぞれ名前がついてて、湖は『ラーナの涙』。

 

 そして花畑が『ラーナの麗園』って呼ばれてるの。」

 

「へぇ〜、そんな事地図には書いてなかったな。」

 

「そうなの?それじゃ、湖に行って見る?」

 

「えっ…そんな事したら道が違うんじゃ…」

 

「大丈夫、そんなに道外れないし…それにちょっと寄り道って感じだから。」

 

「そうなんだ、それじゃ行って見たいな。」

 

「分かった、それじゃ行きましょうか。」

 

こうしてロディの希望により二人は道から少し外れラーナの涙へと向かい始めた…

 

 

数分後…

 

「はい、湖にとうちゃ〜く。」

 

マリオスの案内で森の中を抜けたロディの目に飛びこんできたもの…

 

それは、多くの木々に囲まれた草原の中にひっそりと存在している湖だった。

 

「ここが…ラーナの涙…」

 

「どう?静かな場所でしょ、私も時々ここに来てたんだ。」

 

「…そうだね。海とはまた違った感じがするよ。」

 

森の静けさの中にひっそりとあるこの湖は心を落ちつかせると同時に、

 

静けさゆえの恐怖をもロディに感じさせた。

 

「……あれ?あそこ、誰かいる…」

 

「えっ…」

 

ロディに言われ振り向いた先には確かに人影が一つ見えた。

 

「本当…ここに私以外の人がいたのはじめて見た…」

 

「見た感じ女の子みたいだね、でも…何だかあの子すごく寂しそうな感じがする…」

 

ロディ達の視線の先の少女…

 

少女はただ一人湖畔にある大岩にもたれかけその視線は常に地面へと向けられ微動だにしようとしなかった。

 

そして時々彼女の目の前の森に視線が移されたかと思うとすぐその視線は地面へと戻る…その繰り返しだった。

 

「誰かを待ってるのかな?」

 

「…そうかもしれないね…でも凄く寂しそうだよ…」

 

「…たしかにそうだけど…」

 

「ねぇロディ。少しでいいから、あの子の話し相手になってあげようよ。」

 

「えっ…だけどさ、誰か待ってるんならその人が来た時迷惑なんじゃ…」

 

「お願い!…その、待ち人が来るまででいいから…」

 

マリオスはそうロディに必死に頼み込んだ。

 

「…分かったよ、マリオスがそう言うならそうしよっか。」

 

「ホント!ありがとロディ、じゃ早速行こう。」

 

そう言いマリオスはロディの腕を引っ張り少女へと駆け寄っていった。

 

「マっ…マリオス、そんなに急がなくても…」

 

ロディのそんな言葉は今のマリオスには届いてなかった。

 

彼女は一刻も早くその少女の寂しさを拭ってあげたかったのだ。

 

何故ならその寂しげな彼女を見ていると、以前の自分を見ているようでとても辛かった。

 

何より、一人の孤独さを自分がよく知っていたからだった……

 

 

「…今日は…少し遅いかな…」

 

少女がそう呟き視線を上げた時視界に先程まで無かったものが入って来た。

 

「えと…こんにちは。」

 

「……誰?」

 

明らかに疑惑と不信感が込められた言葉…

 

だがマリオスはそんな事に構わず話し続けた。

 

「私…マリオス=シルフィース。それと、彼は一緒に旅をしてる仲間のロディ。」

 

「…マリオス…」

 

マリオスのそんな紹介に何かを感じたのか少女の表情は少し強張ったものになった。

 

「…この森に住む不幸の象徴…森の魔女、マリオスね。」

 

「…っ!?」

 

森の魔女…

 

それはこの森によく通うマリオスにギアの街の人々が付けた名前…

 

この周辺に住む人間なら一度は耳にしたことがある名前だった。

 

「…そう呼ばれる事もあるかな…」

 

「それで森の魔女さんが何をしに来たの?私を捕まえにでも来たの?」

 

「………」

 

そんな少女の言葉にマリオスは思わず閉口してしまった。

 

別れを告げたはずのかつての自分…

 

自分は生まれ変わった気になっていても、

 

やはり周りの人間達の心の中にはそんな自分しかいないのかと思い知らされる。

 

「ふざけるな!お前にマリオスの何が分ってるって言うんだよ!!」

 

そんな二人のやり取りにロディは黙って見てはいなかった。

 

「…何を怒っているんですか?私は何も間違った事は言ってませんよ。」

 

「その考え方が間違ってるんだよ!噂でしか聞いた事がないくせに…

 

 そんな事だけでマリオスがそんな人間だと決めつけるな!!」

 

「…ロディ…」

 

「……あなた何者ですか?」

 

「僕はロディ、マリオスの仲間だ。」

 

「…そうじゃない…あなた他の人間とは何か感じが違う…あなた本当に何者なの?」

 

「……僕にだって自分が何者で何処から来たのかも分りはしないさ…」

 

「分らない…何故?」

 

「…僕には過去の記憶が全くないんだ…だから自分を探して旅をしてるんだ。」

 

「そう…でも、あなたは本当に不思議な人…

 

 自分から好き好んで、森の魔女と一緒にいるなんて…この人に何かされたの?」

 

「そんな事されちゃいないさ。ただ僕はマリオスと一緒にいたかっただけさ。」

 

「…本当に変わった人…」

 

ロディのそんな真っ直ぐな答えに少女はついロディから視線を外してしまった…

 

 

『ウォォォォーン!!』

 

不意にあたり一帯にそんな獣のような叫び声が聞こえた。

 

「な…なにこの声…?」

 

「マっ、マリオスあれ…」

 

ロディにそう言われ始めて気が付いた。

 

自分たちが数匹の獣達に周囲を囲まれていることを…

 

「くっ…いつの間にこんな数が…マリオス、その子を安全な場所に!」

 

「え…えぇ、任せて。」

 

マリオスが子どもの手を取りその場から離れようとすると、

 

『グォォォ!』

 

そんなマリオスの行動に呼応するかのように獣達はマリオス目掛けて走りはじめた。

 

「マリオス!この…させるかぁっ!!」

 

『がきぃっ!!』

 

ロディはマリオスをかばい両者の間に躍り出た。

 

『グルルル…』

 

「く…はぁっ!」

 

ロディは何とか獣達を弾き飛ばし間合いをとりなおした。

 

「なに…何なのこの子達…?」

 

「マリオス…どうかしたの?」

 

「分らない…けど、この子達怒ってるの。」

 

「怒ってる?一体何に対して…」

 

「…憎悪…怒り…そんなものがいくつも重なり合っててよく分らない…

 

 けど、この子達…凄く怒ってるの。」

 

「そ…そんな事言ったて、どうすれば…」

 

「ロディ!また来るよ!」

 

「マリオス、僕が何とかあいつ等を引きつけるから何とかその子を連れて逃げて!!」

 

「あっ…ロディ!」

 

ロディはそれだけ言うと再び獣達の前に立ち塞がり獣達を塞ぎとめた。

 

「そ…そう言っても、どうすればいいの…」

 

マリオスはどうしていいか分らずただ呆然と見ているだけだった。

 

「…マリオス、あの人は何故あんなに必死になっているんですか?」

 

「なんでって…私達を守るために決まってるじゃない。」

 

「…そんな事…私は頼んでいませんよ。」

 

「別に頼まれたからじゃないよ、ロディは目の前の惨事を放って置けない人だからね。」

 

「…変な人…」

 

「それにしても…あの子達は何に対して怒っているというの…?」

 

「……それは、あなた達に対してよ…」

 

「私達に…?何でそんな事…」

 

「あなた達が私に近付いて来たから…」

 

「…そんな事……あっ!だからあの子達は私達に…駄目、早く止めなきゃ!」

 

そういうとマリオスはその子を置き去りにしロディ達の元へと駆け寄って行った。

 

 

「…くっ…理由も分からないんじゃこいつ等に刃は向けられない…

 

 だけどこのままじゃ、こっちがもたない…どうすれば……」

 

『グルァッ!』

 

再び獣達がロディに襲いかかろうとした刹那…

 

「やめて!もうこんな事しても何にもならないのよ!」

 

そう叫びながらマリオスがロディの前に飛び出した。

 

「マリオス!」

 

「お願い…私の話を聞いて…」

 

マリオスは必死にそう呼びかけた…が、

 

『ガァッ!』

 

そんな説得に耳を傾けようとはせず獣の腕はマリオスを弾き飛ばした。

 

「あぅっ!」

 

「マリオス!お前等…もう許しはしないぞ!!」

 

怒りに任せロディが獣達のもとに飛び込もうとすると…

 

「待って…ロディ…私に、任せて…」

 

マリオスが痛む傷を押さえながらフラフラと立ちあがった。

 

「マリオス…」

 

「…お願い…あなた達、私の話を聞いて…」

 

そんなマリオスを見てか、獣達の動きは止まっているかのようなものになった。

 

「…私達はあの子に危害を加えに来たんじゃないの…ただ、あの子と話がしたかっただけなの。」

 

『グルルルル…』

 

「だから…もうやめよう。こんな事しても何にもならないのよ…」

 

『グルル……グァァァッ!』

 

マリオスの必死の説得に納得できなかったのか、獣達はマリオスへと向かっていきだした。

 

「マリオス!!」

 

ロディがマリオスの前に出て剣を振り下ろそうとした瞬間、

 

「みんな、やめなさい!!」

 

少女がそう叫んでいた…

 

『グ……ウゥ……』

 

するとそんな叫びに気押され獣達は瞬く間に大人しくなった。

 

「こ…これは…どうなってるんだ?」

 

「…つまり、あの子達はあの女の子を守る為に私達と戦っていたんだよ。」

 

マリオスにそう言われたロディは少女にまとわり付く獣達をじっと見つめ続けていた…

 

 

「ロディ…それにマリオス、どうもすみませんでした。」

 

マリオスの傷の手当てをし、一段落つくと少女がそう謝ってきた。

 

「うぅん、別に気にはしてないわ。ねっ、ロディ。」

 

「えっ…まぁ、マリオスがそう言うなら…」

 

「でっ…でも、私…あなた達に酷いコトした…」

 

少女は申し訳なさからか俯きロディ達の顔を見ようとはしなかった。

 

「……そうだね…それじゃやっぱりお仕置きしなきゃいけないね。」

 

「マ、マリオス?」

 

マリオスは歩み出て少女の顔を上げさせ自分の手を大きく振りかぶった。

 

「……っ。」

 

そして少女が歯を食いしばったのを確認するとその手を振り下ろし…

 

『ぺしん。』

 

優しく少女の頬に打ちつけた。

 

「えっ…?」

 

「…はい、お仕置き終わり。これでおあいこにしてあげる。」

 

「で、でも…」

 

「それと…あなたのお名前、教えてくれると嬉しいな。」

 

「…ありがとう…ありがとう、マリオス。」

 

「うぅん。いいのよ…それじゃ、あなたのお名前教えてくれるかな?」

 

「私…シュリ=レイクウェル。…シュリでいい…」

 

「シュリ…ね。改めてよろしくね。」

 

「うん、よろしくねマリオス。」

 

二人はそう言うと堅い握手を交わしていた。

 

 

「そう言えばさ、シュリ。この動物達は…?」

 

「この子達は私の友達なの。いつも私の事を守ってくれるんだ。」

 

「へぇ…お前達偉いんだな…」

 

ロディはそう言いながらシュリに寄り添っていた狼の頭を撫で回してやった。

 

『グルル…』

 

ロディに頭を撫で回され狼は嬉しそうな表情でそう唸った。

 

「へぇ…シキが私以外の人に頭を撫でられて嬉しそうにしてるのはじめて見た。」

 

「そうなのかい?」

 

「うん…この子凄く警戒心強いから他人には全くなつかないと思ってたのに…」

 

「ふ〜ん…じゃあ試しに私が…」

 

マリオスがシキの頭に手の乗せようとすると…

 

『ガウッ』

 

「きゃっ。」

 

マリオスの手を跳ね除け寄せつけようとしなかった。

 

「う〜…何で〜?ロディにはなついたのに…」

 

「ははは…マリオス、こいつ等に何かしたんじゃないの?」

 

「そんな事してないよ。只、この子達が警戒心が強いだけだもん。」

 

「そう言えば…なんかこいつ等、妙にぴりぴりしてるな。

 

 シュリ…こいつ等は一体何に対してこんなに警戒してるんだい?」

 

「そ…それは……」

 

それだけ言うとシュリは黙り込んでしまった。

 

「あ…いや、言いにくい事だったら別に無理して教えてくれなくてもいいよ。」

 

「私…実は、その…」

 

「ふふふ…ここにいたのかシュリ…探したぞ…」

 

「!?」

 

不意に誰かにそう言われ3人が声のした方に振りかえると、

 

そこには嫌な雰囲気の男達が数人立っていた。

 

「ザード…あなた達は…また懲りずに来たのね。」

 

「ふん、当然だ。『水の涙』を手にするまでは何度でも来てやるよ。」

 

「シュ…シュリ。この人達は一体…?」

 

「ロディ、マリオス…あなた達は下がってて、これは私の問題だから…」

 

「…それはできない。こいつ等、明らかにやばい奴等みたいだからね。」

 

「私も手伝うわ、シュリ。」

 

「……ごめんなさい。ロディ…マリオス…」

 

不意にシュリが二人に手をかざしたかと思うと二人の体はその場に固定されてしまったかの様に動かなくなった。

 

「シュ、シュリ!何を…」

 

「ごめんなさい…あなた達に迷惑は掛けられないから…ここは私が何とかします。」

 

そう言いシュリはマリオス達の前に出て男達と対峙した。

 

 

「私は…あなた達に利用なんてされない…水の涙を渡しはしない!」

 

「ふん…ならば、力づくで奪うまでだ!!」

 

ザードがそう指示すると周りを取り巻いていた屈強な男達がシュリへと向かっていった。

 

「やらせはしない…みんな、お願い!!」

 

シュリのそんな声に反応し、シキ達はシュリを守ろうと男達へと向かっていく。

 

獣の動きに人間は到底追いつきはしない。

 

一瞬で勝負はつくと思われていたが…

 

「……ワンパターンめ…お前のその行動にはもう飽きてるんだよ!」

 

『ギャウン!!』

 

思っていた事とは裏腹にシキ達は一瞬にして男達に蹴散らされてしまった。

 

「そんな…シキ!みんな!!」

 

「言っただろ、ワンパターンだと。俺が何も考えず来ると思ったら大間違いだぜ。

 

 今回は獣狩りを得意とする奴等ばかりを集めてきたからな、これは当然の結果だ。」

 

そう言いザードはシュリに近付き彼女の胸倉を掴むと宙に吊り上げた。

 

「さぁ…早く水の涙を渡せ。そうすれば楽にしてやろう。」

 

「だ…誰があんた…なんかに…」

 

「…そうか、ならばこいつ等に1匹づつ死んでもらうとするか…おい、やれ。」

 

ザードがそう指示すると男達は傷だらけのシキ達を更にいたぶりだした。

 

「やめて!この子達に酷い事しないで!!」

 

「ならば水の涙を渡せ、そうすれば止めてやるさ」

 

「…そんな事…」

 

「…おい、気に入らん…そいつ等を殺せ。」

 

「…はい。」

 

そう答え男は静かに握り締めた自分の大剣をシキ目掛けて振り下ろした。

 

『ギャウッ!!』

 

男の一撃を受けシキはピくりと動かなくなってしまった…

 

「シ…キ……シキ!」

 

そんなシュリの悲しみを帯びた叫びにシキは反応をしめそうともしなかった。

 

「い…や……いや、嫌ァァァー!!」

 

シュリの悲痛の哀しみの嘆きと共にシュリの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。

 

だがその涙は地面に落ちても消えようとはせず淡いブルーの輝きを放っていた。

 

「おぉっ!これだ、これこそが水の涙ッ!」

 

ザードはシュリを地面に振り落としそれを拾い上げた。

 

「ふふふふ…素晴らしい。これだけの大きさならばどんな値がつくか…くくくく…」

 

水の涙を眺めながらザードは不敵にそう笑みをこぼした。

 

「さぁ、シュリ!もっとだ…もっと涙を流せ!そして、私に水の涙を!!」

 

ザードは再びシュリを掴み上げると激しく揺すりながらそう叫んだ。

 

「…だ…誰が…そんな事…」

 

「なら、こいつ等がこいつの後を追う事になるだけだ。」

 

ザードは息絶えたシキの頭を踏みしだきながらそう言い放つ。

 

「シ…シキ…ごめんね…」

 

シキのその姿を見てかシュリの瞳には再び一粒の涙が浮かび上がってきた。

 

「そうだ、それでいいんだ!そして、私に富をっ!?」

 

 

『ビュンッ!』

 

そこまで言いかけたザードの腹部に突如何かが直撃した。

 

「…もう…許しはしない…あなた達全員…許しはしない…」

 

気がつくとマリオスがシュリのすぐ側に立っていた。

 

「マ、マリオス…」

 

「ごめんね…あの術を解くのに少し時間が掛かっちゃった。」

 

「そんな…あの術は人間に解くことは…」

 

「シュリ…じっとしてて、後は私がやるから…」

 

マリオスはそう言いザード達の方に向き直った。

 

「あなた達…覚悟はできてるのでしょうね?」

 

「ぐぁ…こ、この小娘。…どうやら貴様も死にたいらしいな。」

 

「…あなたは人間として最悪な事をした…その償い、死をもって償ってもらうわ。」

 

「ふん…小娘、貴様は生かしておいてやろうと思ったが、気が変わった…今すぐ死ね!!」

 

ザード達はそう言い放ち一斉にマリオスへと襲いかかって行った。

 

「…光の魔槍よ…愚者達に粛清を!!」

 

マリオスの手が光ったかと思うと一瞬にして男達は吹き飛ばされていた。

 

「がはっ…な、何だと…小娘ごときにこんな力が…」

 

「…聞いた事ないの?…この森に住む光の槍を持ちし魔女の事を…」

 

光の槍を手にマリオスはザード達に問い掛ける。

 

「……!?ま…まさか、死の象徴…箱庭の黒き魔女!!」

 

そんなマリオスを見てか男達は1歩…また1歩と後ろに下がり始めた。

 

「し…死にたくね〜!!」

 

「うわぁーー!!」

 

ザード達が逃げ出そうとしたがマリオスはそれを許さなかった。

 

「言ったでしょ…死で償えと……ホーリー・バースト…」

 

マリオスの呪文の発動と共にザード達の体は白き炎に包まれ…

 

「さようなら…来世で会いましょ。」

 

そして…跡形もなく消え去ってしまった……

 

 

全てが終わり、ロディ達はシキのお墓を作りそこに埋葬してあげた。

 

「ごめんね…私がもう少し早く術を解いてればこんな事には…」

 

「…うぅん…マリオスのせいじゃない…私の考えが甘かったの…」

 

「…シュリ…君は…」

 

ロディのそんな質問にシュリは笑って見せ…

 

そしてくるりと回って見せるとそこには先程までの少女の姿は失く一人の女性が立っていた。

 

「…私は女神より生を受けこの湖を守護する精霊…シュリ…これが本当の私なのです。」

 

「湖の精霊…」

 

「あの男…ザードはこの湖の前で行き倒れていたのを私が助けた人間でした…」

 

「それで…正体を隠すために少女の姿を…?」

 

「はい…始めは同情の念で水の涙を渡したのです…

 

 ですが…あの男は水の涙が高値で売れる事に目をつけ私にせびってきました。

 

 そして…ここ最近、渡す事に渋った私に強行手段を持ち出してきたのです。」

 

「それで『何度も』って言ってたのか。」

 

「はい…ですが、ザードはあの宝石を一人占めしたいが為に宝石の出所は秘密にしていました。

 

 彼が居なくなった今は、誰もこの湖に近づく事はないでしょう…」

 

「そう…それなら安心だね。」

 

「えぇ…それであなた達へのお礼としてこれを…」

 

そう言うとシュリは先程とは比べ物にならないほどの大きな水の涙を差し出した。

 

「こ…これは?」

 

「私の甘い考えでザードが凶行に走り出した時、出来たものです…これをあなた達に…」

 

「そ…そんな、受け取れないよ。」

 

「いえ…私の気が済まないのです…どうか持っていってください。」

 

そう言うとシュリは無理やりロディにそれを握らせた。

 

「シュ、シュリ。僕達は…」

 

「さよなら…心優しき者達よ…」

 

その言葉を最後にシュリはロディ達の前から姿を消した…

 

「ロディ…どうするの…?」

 

「…これが他の人に知れたらまた今回のような事が起きるかもしれないね…」

 

「…そうね。」

 

「だったら…こんなもの!」

 

そう言うとロディは水の涙を天高く放り投げた…

 

それは綺麗な孤を描きながら湖へと落下した。

 

「……よし、それじゃそろそろパーシルに行こうか?」

 

「…うん。」

 

こうして今日新しく出来た友達に別れを告げ二人は再び旅を再会しパーシルへと向かう。

 

旅の果てにある新しき出会いに気付く事もなく…

 

to be continued〜

  

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