第5章『流動…止まらない運命』

 

パーシル城を脱出して早2日…

 

ロディ達はパーシルに居られなくなった為、

 

一路東に抜けパーシルに並ぶ隣国『ミロワ』との国境沿いにある街『コロネ』に向かっていた。

 

「このまま後1日も歩けばコロネですね。」

 

ルフィミアが地図を片手にそう呟く。

 

「けど…大丈夫かな。手配書とか出回って待ち伏せされてないかな?」

 

ロディが心配そうに考え込んでいたがそんなロディを諭す様にルフィミアが答えた。

 

「…多分大丈夫です。あれはパーシル内でも上位になる機密ですし、

 

 もし行動を起こすとしても秘密裏に行動するはずです。

 

 だからここに来るまでの2日間何にも無かったのですから追撃を諦めたんでしょう。」

 

「なるほど…マリオス、君は何か感じないかい?」

 

「……うぅん、別に何も感じない。

 

 だから多分大丈夫だと思うよ。」

 

「そっか、じゃあ大丈夫なんだろうね。」

 

そんな2人のやり取りを不思議そうにルフィミアが見つめていた。

 

「…ん?どうかしたのかい、ルフィミア。」

 

「えっ…あ、その…ロディはマリオスを信頼されてるんだなって…」

 

「???…どうしてだい?」

 

「いえ…マリオスに意見を聞いてた時、凄く安心そうな表情してましたから…」

 

「…そうかな?」

 

「はい…やっぱり私なんかの意見では信憑性がないですよね?」

 

「…あっ…」

 

どうやらルフィミアは先程自分が意見した事をもう一度マリオスに確認を取っていた事を不思議に思ったらしい。

 

ロディが先程マリオスの意見を聞いたのはマリオスが持っている『力』での確認をしただけで、

 

別にそれ以上の深い意味は無いつもりだった。

 

しかしそれを不快に思ったのか、ルフィミアの表情は少し暗いものになっていた。

 

「えと…そのね、さっきマリオスに聞いてたのは…」

 

そこまで言葉にしてロディの口が止まってしまう。

 

(マリオスは未来を感じ取る事が出来るんだよ。)

 

そう答えてルフィミアには分かってもらえるだろうか?

 

普通の人なら全く信じてくれないか、そうでなければマリオスに対し嫌悪感を感じるはず…

 

はたしてそれを自分が教えてあげても良いものか…

 

「……あのね、ルフィミア。少し…聞いて欲しい事があるの。」

 

そうロディが悩んでいるのを見てかマリオスが自ずと口を開いた。

 

「信じられないかもしれないけど…これから一緒にいる訳だから、

 

 知っていて欲しい事なの。」

 

「…何をですか?」

 

「私には…普通の人が持っていない力があるの。

 

 例えば…私が使ってるこの槍、これが私の持つ力の一つなの。」

 

そう言いマリオスは自分の手にいつもの槍を作りだしルフィミアに見せて見る。

 

「……これ…変わった魔法ですよね?」

 

「違うの、魔法なんかじゃない…こんな魔法…存在してないの…」

 

「そうなんですか?」

 

「そう…そして、私が持っているもう一つの力が…未来を感じ取る力なの。」

 

「未来を…?」

 

「うん…もちろん、具体的にどんな事が起こるかは私にも分からないの。

 

 でも…曖昧にこんな感じの事が起こるという風に未来を感じ取れるの。」

 

マリオスがそう告げるとルフィミアは黙り込んでしまった。

 

その様子を見てマリオスの表情が曇っていくのが分かる。

 

二人の反応は仕方ない事だと思う。

 

マリオスにとってはこの力は忌み嫌われていた力だから人にあまり知られたくない力だし、

 

ルフィミアにしてもそんな力は気味が悪い事この上ないはず。

 

だが…マリオスは知っておいて欲しかったのだ。

 

大切な仲間になってくれるかもしれない人だから…

 

何より自分自身がもっと他人を信じてみたかったから…

 

うつむいた自分の顔を上げるのが恐かった。

 

ルフィミアの反応がたまらなく恐い…どんな事を言われるのか…

 

どんな顔をして自分を見ているのか…この沈黙が重く長く感じられる。

 

1分?…それとも10分?…1時間近くにも感じてしまう沈黙を破ったのはルフィミアの歓喜の声だった。

 

「すごい…凄いですよ、マリオス。」

 

「え…?」

 

「だってそうじゃないですか。他人が持ってない力をあなたは持っているんですよ。

 

 それって凄い事じゃないですか。」

 

「で…でも、私の力…自分でも何か分からないし…」

 

「それでもですよ。それに比べて…私なんて、魔法あまり得意じゃないですし…

 

 力だって全然無いんですよ。マリオスは魔法も得意だし…羨ましいです。」

 

「私…私の力…恐くないの?」

 

「…?どうしてですか?そんなに素晴らしい力のどこが恐いのですか?」

 

そう答えるルフィミアの瞳は嘘偽りも無い純粋なものだった。

 

それと同時にマリオスは自分が恥ずかしくなった。

 

先入観だけで人を決め付けていた事…そして他人を全く信じようとしなかった自分を。

 

…ルフィミアもこの力を知れば自分から離れていくと決め付けていた自分がたまらなく嫌になった。

 

「ルフィミア…ごめ…わた、わたし…」

 

そう感じたマリオスの瞳から自然と涙がこぼれてしまう。

 

泣き崩れるマリオス…そのマリオスをルフィミアは優しく包み込んだ。

 

「…そうだったんですか…マリオスは…恐かったんですね。

 

 自分の力が…それと私がどう思っていたかが…」

 

「うぅ…ぅぁ…わ…わた…」

 

「辛かったんですよね…大丈夫ですよ。何も心配要らないから…

 

 あなたの力はとても素晴らしい力なんですから、自分に自信を持って…ね。」

 

ルフィミアはそうしてマリオスが泣き止むまでマリオスを抱きしめていた。

 

『パーシルの若き聖母』…ロディはルフィミアがそう呼ばれて事をその後暫くしてから知る事になるが、

 

この光景を目にしたロディはそれは偽りのものではない事を実感した。

 

それと同時に自分もルフィミアもギアの町の人間達みたいに、

 

マリオスを気味悪がるのではないかと思っていた自分が恥ずかしくもなった…

 

 

泣き出したマリオスは中々泣き止まず、泣き止んだ頃にはもう日は落ちてしまい闇が辺りを包んでいた。

 

仕方なく今日はそこで野営をする事になった。

 

当のマリオスは泣き疲れたのか夕食も取らずに深い眠りへと落ちてしまい、

 

ロディ・ルフィミアは2人だけで夕食にすることにした。

 

「…それにしても…良く眠ってますね、マリオス。」

 

「そうだね。やっぱりここんとこあの事悩んでいたんだろうね。」

 

「…私がマリオスの事をどう言う目で見ていたかですか?」

 

「うん…マリオス自身あの力…凄く嫌っていたからね。

 

 多分…思い出したくない過去だから…」

 

「そんな大変な事…どうして会ったばかりの私に…?」

 

「…信じてみたかったのだと思う。他人を…そして自分自身をね。」

 

「…自分自身を…信じる…」

 

「そうさ。マリオスの力は誰も持ってない力だよ。

 

 でも、誰も持ってない力だからこそ凄い力だと僕は信じてるよ。」

 

「そう…ですね。私もマリオスの力は凄いものだと思いますから。」

 

「ありがとう。…って、そう言えばルフィミア。

 

 君は…こんな事になって本当に良かったって思ってるのかい?」

 

「えっ…?」

 

「ほら…僕が強引にパーシルから連れ出しちゃったから…」

 

「そうですね…それは私自身も驚いています。

 

 だって…今までパーシルの外に一人で出て行った事なんてないんですから。

 

 私がパーシルを出れるのは3ヶ月に1回だけお父様とレミントン教会に行く時だけでしたから…」

 

「お父様って…ルフィミアの父親だよね?」

 

「えぇ…私にとって父は人生の道標だったのです。

 

 父の言う通り修練をつみ、父の言う通りに教養を重ねる…それが以前の私なのです。」

 

「そんな…まるで人形じゃないか。」

 

「はい…ですからあの日…父が私に言った言葉も平然と受け入れたのです。」

 

「それってどんな事だったの?」

 

「『私の望みを叶える為に死んで欲しい』…そう父は私に告げてきたのです。」

 

「そんな!…それじゃあの儀式をやろうとしていたのは…」

 

「はい…私の父です…」

 

そんな驚愕の事実をルフィミアは顔色一つ変えずに切々と語る。

 

その表情はどこか寂しくだが全てを受け入れ悟りきったものでもあった。

 

「でも…そんな父の行動に今は少し感謝もしているんですよ。」

 

「えっ…?」

 

「だって…ロディ、あなたに出会えたのですから。」

 

「えっ…あ、いや…その…」

 

ルフィミアのそんな真っ直ぐな笑顔にどう反応して良いか分からずロディは口篭もってしまう。

 

「だから私…ロディと一緒にパーシルを出る事になって本当に良かったって思うんです。」

 

「そっ…そっか。」

 

そう受け答えをしたもののロディの視線は明後日の方向にあった。

 

「それに、こうやって外の世界を歩くのって私にとってはとても新鮮なものですし…

 

 見るもの全てが新しい発見ばかりで、毎日が楽しいんですよ。」

 

「そうなんだ。そ、それじゃあ明日の為にもう寝よう。お休みルフィミア。」

 

「あっ…はい、お休みなさい。」

 

そう言うとロディは話しから逃げるようにさっさっと毛布に包まりその場に寝転がった。

 

その行動は明らかに照れ隠しから来るものだったがルフィミアにはそれが分からなかったのか、

 

自分も毛布を手に取り眠りに付こうとした…が、

 

「もう…そんな事をしなくても良いですよ。」

 

 

「………」

 

そう言われ眠りに落ちていたはずのマリオスが起き上がった。

 

「気が付いてたんだ。」

 

「…何となく…ですけどね。いつから起きていたのですか?」

 

「……ゴメンね、始めの方からなんだ。」

 

「そうですか…少しお話しませんか。」

 

「…えぇ、別に構わないわよ。」

 

マリオスはそう答えると上体を起こしルフィミアの方に向き直った。

 

「そう言えば…さっきはゴメンね。みっともない所…見せちゃって。」

 

「いえ…そんな事はないですよ。人間が涙を流すのは当然の事なのですから。」

 

「私…ロディに出会うまで人間全てが嫌いだったの…

 

 私の力…私にとっては当たり前のものなのに…他の人達の目にはそう映らなかった。」

 

「マリオス…」

 

「…ロディと出会ったあの日…私は自分の力のおかげでギアの街に迫ってくる危機を感じ取ったの。

 

 私は…皆を助けたかった。いくら嫌いな人たちでも見殺しになんて出来なかったから…けど…。」

 

「けど…?」

 

「…誰も私の言葉を信じてくれなかった…それどころか、私の事を

 

 不幸を呼ぶ魔女だって…私を殺そうとしてきたの。」

 

「そんな…ひどいです!」

 

「でも…ロディは違った。ロディは危険を顧みず私を助けてくれたの。

 

 凄く嬉しかった…始めて私の事を信じてくれた人だったから…

 

 だから、ロディに『一緒に行こう』って言われた時…この人なら信じてもいい…そう思えたの。」

 

気が付くとマリオスは自分とロディの出会いを全て告白していたのだ。

 

「そう…だったのですか。」

 

「うん…私はロディのおかげで生まれ変われたの。

 

 だから…今度は私がロディの手助けがしたい…そう思えたの。」

 

「…マリオスはロディの事が好きなのですね。」

 

「えっ!?…いや…その、そんな事…

 

 分からない…けど、私にとって大切な人だから…」

 

「そうなのですか?」

 

少し意地悪な表情でルフィミアがじりじりとにじみよる。

 

「そ…その…そ、そう言うルフィミアはどう思ってるの?ロディの事…」

 

突如そう切り返されルフィミアの口が止まる。

 

「わ…私ですか?…そ、そうですね…頼り甲斐があって…凄く優しくて…

 

 私の生き方を変えてくれた、かけがえのない大切な人です。」

 

「それだけ?」

 

「え?…そっ…その…」

 

先程とは立場が逆転し今度はマリオスがルフィミアを追い詰めていった。

 

「ルフィミア〜ホントにそれだけなの?」

 

「…正直言うと…私…ロディの事考えると…凄く胸が熱くなって…

 

 凄く苦しくなるんです。…これが…恋…なんでしょうか?」

 

ポツリポツリとだがルフィミアは自分の胸にある正直な感情を告白した。

 

「…そうだと思うよ。…そっか…ルフィミアもロディの事が好きなんだね。」

 

「かも…しれません。」

 

「ルフィミア。…抜け駆けはなし…だからね。」

 

「……くすっ…はい、正々堂々と…ですね。」

 

お互いにそう言い合っていると自然と笑みがこぼれてきてしまう。

 

夜のとばりが落ちた闇の中二人の静かな笑い声だけが闇へと吸い込まれていったのだった。

 

 

翌朝、再びコロネの街を目指し歩き始めた。

 

「今日の内に最低でもコロネの街まで行きたいね。」

 

「そうね。できれば、国境を越えられると良いんだけどね。」

 

「そうですね…出来る限り早くパーシルから脱出しないと危険ですからね。」

 

そう思い出来る限りの早さでロディ達はコロネへ向かいだす。

 

…暫く歩いた所でロディは不意に見慣れないものを見た。

 

「あれ…?これは……」

 

「?…どうかしたのですか、ロディ。」

 

ロディが見たもの…それは地面に飛び散った数滴の血の跡だった。

 

「これ!?…血…ですよね。」

 

「うん…それにまだ乾ききってない。と言う事はこれが出来たのはほんの少し前…」

 

「ロ…ロディ!…こ、これ!?」

 

マリオスに言われロディ達が振り返って見たのは、

 

辺り一面周りの草木に飛び散った大量の血の跡だった。

 

「な、何なんだ。この血の量…普通じゃないよ。」

 

「……もしかして…ここで誰か魔物に襲われたんじゃ…」

 

「そうかもしれない…でも、こんなに血の跡があるんじゃこの人…相当の重症だよ。」

 

「…最悪の場合…もう死んでいるかもしれないね…」

 

その時不意にルフィミアがある事に気がついた。

 

地面についた血の跡が点々とだが脇道をそれ続いているのに…

 

「ロディ!この血の跡…向こうの方に続いています!」

 

「えっ!?本当かいルフィミア。」

 

「はい。ほら…街道をそれて向こうの方に…」

 

そう言われ自分の目で確かめてみると確かにわずかながらだが血の跡は続いていた。

 

「よし、この血の跡を追いかけてみよう。もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。」

 

「えぇ、早くしないと手遅れになるかもしれないしね。」

 

そう決意しロディ達は急いで血の跡を追いかけ始めた。

 

 

血の跡を追い走り続けるロディ達の目の前にはロディの膝程の高さはある草が繁る草原が広がっていた。

 

「これは…凄いな。草のせいで血の跡を見失ってしまいそうだよ。」

 

「……どうやら、その必要はもうないみたい。」

 

「えっ?どういう事だいマリオス。」

 

「あそこ…」

 

そう言いマリオスが指差した先…そこには一人の傷だらけの青年が草に身を隠す様に横たわっていた。

 

「たっ、大変だ!」

 

ロディ達は急いでその傷だらけの青年の元に駆け寄った。

 

「もし…もしもし!大丈夫ですか!」

 

「…う…うぐっ…」

 

ロディのそんな呼びかけに青年は僅かに反応を示す。

 

「良かった。まだ息はあるみたいだね。」

 

「ロディ、私に任せてください。今から回復魔法をかけますから。」

 

「ルフィミアが?…うん、それじゃ頼むよ。」

 

そんなロディの言葉に静かに頷きルフィミアは青年の体にそっと手を乗せた。

 

「…神の名において…この者の傷を癒せ…ハイ・ヒーリング。」

 

その瞬間ルフィミアの手から緑の光が出たかと思うとその光は青年の体を包み込んだ。

 

すると青年の傷がみるみると癒されていき傷は一つ残らず消え去ってしまった。

 

「すごい…私の魔法よりも強力かも…」

 

「これが…回復魔法の力…」

 

「……ふぅ…これで大丈夫なはずです。」

 

そう言いルフィミアは静かに青年の体から手を離した。

 

「ご苦労様、ルフィミアは大丈夫かい?」

 

「えぇ…私…これしか得意なものがありませんから…」

 

「いや、これだけ出来れば大したものだよ。僕なんか回復魔法使えないんだからさ。」

 

「そうよ、私ならあれだけの深手を治そうと思ったらかなり時間掛かっちゃうもの。」

 

「そ…そんなに褒めないで下さいよ。…恥ずかしいです…」

 

「うっ…あ…ここは…?」

 

そんなやり取りをしているとすっかり良くなったのか、青年が目を覚まし起き上がってきた。

 

「あっ…気が付いたみたいだね。体の方は大丈夫ですか?」

 

「き…君達は?」

 

「僕はロディ。それと、僕の仲間のマリオスとルフィミア。

 

 血の跡を追ってきたら君がここに倒れていたんだ。」

 

「でも…一体何があったんですか?あんな傷をおったままこんな所で…」

 

「僕は……」

 

青年がそう話し始めようとしたとき…

 

「!?…黒い…黒い何かが来る!!」

 

マリオスが何かを感じ取りそう叫んだ。

 

「!?…いけない、君達早くここから逃げるんだ!!」

 

「…もう…遅いですよ、レイ様。」

 

青年がそう叫んだ時ロディ達の背後から男が一人現れた。

 

「キ…キース…」

 

「レイ様…もう無駄な事はやめて、大人しくクラウディア家にお戻り下さい。」

 

「嫌だ!…僕はもう兄さん達の操り人形にはなりたくない!」

 

「…仕方ありませんね…」

 

そうキースが呟いた瞬間彼の背後の空間が歪みやがてその歪みは巨大な何かに変化していった。

 

「こ…これは…!」

 

「マリオス…知ってるの?」

 

「…精神感応獣…人間の深層心理の中に寄生する魔獣です。

 

 でも…この呪文はかなり昔に失われたはず…」

 

瞬く間にそれは本性をあらわにしだした。

 

巨大な体にいくつもの触手…そして体に口を持つ巨大な化け物だった。

 

「さぁ…ゲラルド。奴等を食らい尽くせ!」

 

「ま…待て、キース!彼等は関係ないんだ!!」

 

「問答…無用!!」

 

「マリオス!ルフィミア!…やるよ。」

 

「えぇ、何とかやってみる。」

 

「わ…私も頑張ります。」

 

そう言いロディ達は各々臨戦体制を取る。

 

「だ、ダメだよ。これは僕の問題なんだ。だから君達は早く逃げるんだ!」

 

「何言ってるんだよ。君のさっきの傷…こいつ等にやられたんだろ。

 

 今度は死ぬかもしれないんだよ!」

 

「だ…だけど。」

 

「話は後!今はこいつを何とか片付けるんだ!!」

 

「……ありがとう。それじゃ君達の力…存分に借りるよ。」

 

そう言うとレイも自分の剣を抜き静かに構えた。

 

 

「先手必勝!行くよ、マリオス!!」

 

「えぇ、任せて!」

 

「ま、待って二人とも!」

 

…ドンッ!!

 

ニ人はレイの言葉を聞かず地面を蹴りゲラルドとの間合いを一気に詰め強烈な一撃を叩き込む。

 

…が。

 

ズボッ!!

 

そんな音を立て二人の攻撃は弾かれてしまった。

 

「なっ…何だこの感触?…手応えがない!」

 

ブオン!

 

お返しとばかりかゲラルドの触手が上空より振り下ろされ二人を弾き飛ばす。

 

「ロディ!マリオス!」

 

「くっ…やっぱり、ダメなのか…」

 

「どう言う事なんですか?」

 

「…ゲラルドにはまともな打撃攻撃は通用しないんだ。」

 

「そんなっ!」

 

「…あいつの体はゴムみたいで、普通に打ち込んだんじゃ全く効果がないんだ。」

 

「それじゃあ…一体どうすれば?」

 

「…分らない…でも、直接攻撃がダメなら…これで!」

 

レイがそう言った刹那、レイの手から雷がほとばしった。

 

「グァァァ!」

 

「あっ…そうか、魔法なら…ロディ!マリオス!私達も魔法で!」

 

「分った!……くらえ、バスター・ライト!!」

 

「私だって、バースト!」

 

「…行きます!ウォーター。」

 

「グゥゥゥ…グガァ!」

 

ロディ達の魔法攻撃は確かな効果を見せていた…かのように見えたが、

 

キースは何をするべくでもなく援護もせずただその場に立っているだけだった。

 

(…おかしい…何であいつは何もしないんだ?)

 

そう思い一瞬ロディの気がそれ攻撃の手が止まってしまう。

 

「グル…グガラァッ!!」

 

刹那、溜めこんだ力を爆発させたかのような衝撃がロディ達を薙ぎ払っていた。

 

「ぐはっ!…な、何が…?」

 

「惜しかったですね。あのままこいつの存在が消えるまで攻撃を加えていれば倒せたというのに…

 

 実に詰めが甘いですね。」

 

「そ…そんな、休まずに魔法を打ち続けるなんて無理に決まってるじゃない。」

 

「…しかし、生半可な攻撃はこいつの餌となり力になるのです。」

 

「くっ…くそ……」

 

「…ゲラルド、もうこいつ等を食らい尽くしてしまえ。」

 

…シュゴッ!!

 

キースにそう命じられゲラルドはすばやく触手を唸らせマリオスとルフィミアを捕らえた。

 

「あうっ!」

 

「い…嫌ぁ!!」

 

「マリオス!ルフィミア!!」

 

「やめろ、キース!お前の狙いはこの僕だけなんだろ、その二人は関係ない!!」

 

そう言いレイは印を結び呪文を放とうとする。

 

「おっと…動かないで頂こう。動けばこの二人はゲラルドに絞め殺される事になります。」

 

キースがそう言った瞬間ぎりぎりとゲラルドの触手が二人をより強く締め付ける。

 

「いっ…あぁぁっ!」

 

「う……あふ…」

 

「く…キース!何が望みなんだ!」

 

「…言ったはずです。大人しくクラウディア家にお戻り下さい。

 

 そうすればこの二人はお返ししましょう。」

 

「……それは……」

 

レイがそう口篭もる。

 

自分とは無関係な二人は見殺しには出来ない。

 

けれども、クラウディア家に戻り兄達の操り人形にもなりたくない。

 

そんな2つの思いがレイの中で激しくぶつかり合う。

 

「…僕は…僕は……」

 

「…どちらとも…選ぶ必要なんてないんだ!」

 

そんなレイの悩みを消し飛ばす様にロディがそう叫ぶ。

 

「ロディ…」

 

「…二人は…僕が守る。…そう約束したんだ!!」

 

ザンッ!!

 

再びロディは踏みこみ一気に間合いを詰める。

 

相手に力を込めるヒマを与えず二人を救い出す!

 

それが唯一ロディに出来る作戦だった…が。

 

「くっ、動いたな!ゲラルド、二人を食らってしまえ!!」

 

瞬間、ゲラルドの胴体にある巨大な口が開き二人を食らおうとする。

 

「しまっ……」

 

「い…いやぁっ!!」

 

「ロディー!!」

 

(間に合わない!僕は…何も出来ないのか!…何も……あの時のように……)

 

その時不意にロディの頭の中に何者かが語りかけてきた。

 

(…力…お前の力を使えば…この程度の距離差など…造作もないはず…)

 

(!?…僕の…力?…そんなもの…僕にはない!)

 

(…それはお前が忘れているだけ…貴様には力があったはずだ…

 

 遠距離から目標を斬り裂く力…お前の真の力が……)

 

(………そう…僕にはあった…斬り裂く力…僕の…力!)

 

ロディは目を見開き剣を静かに後へと引き腰を落とす。

 

「…アロー・ストラッシュ!!」

 

……シュゴォッ!!

 

ロディの一撃が空を斬ったかと思うとそんな音を立て見えない刃がゲラルドの触手を断ち切っていた。

 

「ガァァァッ!」

 

「そ、そんな馬鹿な!」

 

突然の衝撃に驚き戸惑うキースと同様にロディも自分自身の行動に驚きを隠せなかった。

 

「い…今のは…僕の力なのか…?」

 

「許さん…許さんぞ!ゲラルド、あいつだ…あいつを先に始末するんだ!!」

 

触手をやられ頭に来たのかゲラルドはその巨体からは考えられない早さでロディに向かって行った。

 

「危ない!逃げるんだ!!」

 

「逃げて、ロディ!!」

 

「やめてー!!」

 

「くっ……」

 

そんな仲間の叫び声とともにロディは再びあの声を聞いた。

 

(…その程度の敵に臆するな…お前の力を使えば敵ではないはず…)

 

(……さっきの力では本体は斬り裂けない…あいつを破る事は出来ない…)

 

(…もう一つの力…全てを斬り裂く…お前の力…)

 

(全てを…斬り裂く力……そう…僕の力!)

 

ロディは向かってくるゲラルドから逃げようとせず再び剣を後ろに引き先程よりも深く腰を落とす。

 

「ロディーーー!!」

 

そんなマリオスの悲痛な叫びを聞いた瞬間、ロディはゆっくりと…だが力強く地面を蹴る。

 

「くらえ!ブレイク・スラッシュ!!」

 

ザンッ!!!!

 

ロディがゲラルドの横をすり抜けとかと思うと、ゲラルドの体は真っ二つに斬り裂かれ地面へと崩れ落ちた。

 

「……これが…僕の…忘れていた力…なのか…?」

 

自分の両手を見つめロディはそう小さく呟いた……

 

 

「ば…馬鹿な。ゲラルドが…人間に敗れただと。」

 

自身の最大の切り札であったゲラルドを破られキースの顔色は一変して蒼白なものになった。

 

「キース…もう、終わりだ。…君は殺したくない、大人しくライナールに戻ってくれ。」

 

軽い錯乱状態にあるキースにレイは優しくそう語り掛けた。

 

「……戻る?…ふふふ、何を言ってるんですかレイ様。」

 

「キース?」

 

「…言ったはずです。私の仕事はあなたの拿捕。…もしくは抹殺なのですから。」

 

そう言い放ちキースは静かに自分の腰につけてあった剣を抜いた。

 

「や…やめろ!…僕は…君とは戦いたくないんだ!」

 

「…レイ様…覚悟!!」

 

そう叫ぶと同時にキースはレイに向かい上段からの剣撃を繰り出す。

 

「くっ!!」

 

レイはその軌道を見抜きその一撃を受けとめる。

 

「レイ!!」

 

「ロディ。…手出しはしないでくれ。キースは…僕が止めて見せる!」

 

「ふふふ…レイ様、そのような事を言ってられるのですか。」

 

「キース…君だけは僕の事を分ってくれてると思っていたのに!」

 

「えぇ…分っていましたとも。だからこそ、私はあなたを連れ戻しに来たのです!」

 

…ガッ!!!!

 

密着状態にありキースの蹴りを避けられずまともに直撃してしまう。

 

「レイ様…あなたは卑怯です。…あなたには力も権力もあった!

 

 …なのに、あなたは全てを捨て逃げ出した!!」

 

「…ぼ…僕は…嫌になったんだ。兄さんたちの良い様に利用される事が!

 

 …僕は…僕だ!…自分の人生は自分で決める!!」

 

「そんな我侭…その我侭のせいで、多くの者が苦しんでいるのをあなたは知らないんだ!」

 

再びキースがレイに斬りかかる。

 

今度は上段からの剣撃をフェイントとした横薙ぎの一閃!

 

ギンッ!!!!

 

だがその一撃さえもレイは防ぎきる。

 

「ぐうっ!…さすがにお強い。…レイ様これほどの力をお持ちでありながら…何故?」

 

「…嫌なんだ…後継ぎになるのが…何で…

 

 なんでそんなくだらない物の為に兄さん達と戦わなければいけないんだ!」

 

「…レイ様…あなたは…優しすぎたのです!」

 

…ゴゥッ!!

 

キースの不意打ちの風の呪文はレイを捕らえ後方に激しく吹き飛ばす。

 

「がぁっ!!」

 

「これで…終わりです!!」

 

体勢の整わないレイにキースが追い打ちをかけてくる。

 

「………キース…ゴメンね。」

 

そう言いレイが座りこんだままの体勢で強く剣を握り締め…

 

「…スラム・スラッシュ!」

 

信じられない踏み込みと素早さでキースの斬り抜けていた。

 

「グハッ……お…お見事です…レイさ…ま…」

 

「すまない…僕は…こんな所で死ぬ訳にはいかないから…」

 

 

キースを破ったロディ達はその草原にキースの遺体を埋葬した。

 

「…キース…ゴメンね。君だけは…分ってくれてると思っていたのに…どうして…」

 

「…レイさん…この人とは仲が良かったのですか?」

 

「…あぁ…キースは僕の教育係だったんだ。

 

 …小さい頃から僕の側にいてくれたんだ。」

 

「…彼は…正気ではなかったのかもしれません。」

 

「えっ…ど、どう言う事なんだい?」

 

「…彼には精神感応獣が付いていました。…あの獣は人の深層心理に住み付きます。

 

 …あれは人の心に住みつくだけではなくその人の精神までもを侵し始めます。

 

 その期間が長いほど人の精神を蝕んでいくのです。」

 

「そ…そんな、それじゃあ…キースは…」

 

「…多分…精神を支配され術をかけた人間の命令を聞き…操られていたのでしょう。」

 

「そんなっ!?…なんでキースがそんな事に…」

 

「…レイ…君を油断させる為に君と親しい人間を利用した…多分そうだと思うよ。」

 

「…僕の…僕のせい…なのか…」

 

「ねぇ、レイ。…良かったら話してくれないか。…どうしてこうなったのかを。」

 

「……分った。にわかには信じられないかもしれないけど…」

 

そう言いレイは静かに今までの自分の経緯を説明し出した。

 

 

「僕は、『ライナール国』にあるクラウディア家の末弟…レイ=クラウディア。」

 

「クラウディア…?クラウディア家といえばライナールの有力貴族の一つですね。

 

 確か…ついこの間前当主グレックさんが病気で亡くなり、

 

 息子であるサイレスさんが当主になったと聞いています。」

 

レイの言葉を聞きルフィミアが思い出したかのように呟いた。

 

「へぇ…ルフィミア良く知っているね。」

 

「いえ…パーシルに居た時に少し聞いただけですから…」

 

ロディにそう褒められルフィミアの表情が少し緩む。

 

「違う!…父上は…病死したんじゃないんだ……殺されたんだ。」

 

「殺されたって…誰にですか?」

 

「…サイレス兄さんに…レナス兄さんに…」

 

「そんなっ!クラウディアの子供達はとても出来た人間だと聞きます。」

 

「…でも見たんだ…兄さん達が…父上の食事に毒を盛っている所を…」

 

レイの口からそんな事実を聞き、ロディ達は驚きを隠せなかった。

 

「そ…そんな…それじゃ、レイの兄さん達は自分の実の父親を殺したって言うのかい。

 

 子供が…自分の親を殺すなんて間違ってるよ!」

 

「…僕も…そうは思えないんだ…あんなに優しかった兄さん達が…

 

 父上を殺し…僕までも殺そうとしてくるなんて…僕には…信じられないんだ。」

 

「…それで…レイはこれからどうするつもりだったの?」

 

「取り敢えず『ミロワ』に行って『ランドゥ王』に会おうと思うんだ。

 

 ランドゥ様は父上と仲が良かった御方だし…何度か直接会った事もあるからね。」

 

「そうなんだ。」

 

「うん…ランドゥ様に全てを話すつもりだ。

 

 そして事の真相を突き止めるために力を貸してもらおうと思う…」

 

「なるほどね…それじゃ、僕達と途中までは一緒だね。」

 

「?…どう言う事だい?」

 

「実は…私達パーシル軍に追われる身なんです。

 

 それで…ほとぼりが冷めるまでミロワに身を隠しておこうって思ってたんです。」

 

「パーシル軍に!?…それは…中々に凄い事だね。」

 

「レイ。という事なんで…ミロワまで同行してもいいかな?」

 

「あっ…もちろんだよ。こちらこそよろしく頼むよ。」

 

こうしてレイを加え再びミロワへと向かいだす一向。

 

その先は…今だ見えぬまま己が運命を歩み続けていくのだった……

 

 

 

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