6章『流れ行く未来と想い』

 

コロネの町を抜け無事に国境も通過し早3日…

 

ロディ達の目の前にはミロワの城下町が広がっていた。

 

道行く道にはいろいろな露店が並び町全体が独特な活気に包まれていた。

 

「へぇ〜…ミロワって凄い賑やかなとこなんだね。」

 

「えぇ…ミロワはこの大陸で2番目の領土を持ち、

 

 多くの国々の中でも民の信頼がもっとも厚い国ですから。」

 

「私も…こんな街初めて…

 

 今までパーシルから出たことがなかったから…」

 

ロディとマリオスは再びミロワ城下へと目を向けその歓喜に感心する。

 

それと同時にこの国を治めている人間に興味がわいてきた。

 

「それじゃ、そろそろ行こうか?」

 

「…って何処に行くんだい?」

 

「ミロワ城…この国を治めているランドゥ伯に会いにさ。」

 

「分った、それじゃ行こうか。」

 

レイに案内されロディ達は一路ミロワ城へと足を向けた。

 

 

暫く歩くとロディ達の前に雄大な城が見えてきた。

 

その大きさはパーシル城と同じかそれよりも少し小さいかの大きさだったが、

 

その風格は言葉では言い表せないものだった。

 

「これが…ミロワ城…」

 

「うん、そうがよ。」

 

その城に気おされたじろぐロディとはうって代わりレイは平然と城門前に立っている衛兵へと近付いていった。

 

「何者だ?用のないものはここに近付くんじゃない。」

 

衛兵はそう強く言い放つがレイは動じなかった。

 

「すみません、僕はレイ=クラウディア。

 

 ランドゥ伯にお目通りをしたいのですが…」

 

「レイ…クラウディアだと?」

 

「はい…ランドゥ伯にそう伝えてもらえば分ってくださるので…」

 

「……少し待っていろ。」

 

そう言うと衛兵は城の中へと入っていった……

 

 

数分後…慌てた様子で先程の衛兵が戻ってきた。

 

「た、大変失礼しました。ランドゥ様がお待ちです、どうぞお入りください。」

 

そう言い門を開けロディ達を招き入れた。

 

「……レイ…君って実は…凄く偉い人?」

 

「そんな事ないよ。…ランドゥ様とは仲がいいとは思うけどね。」

 

ロディの感心をあっさり流しレイは衛兵の案内に付いていった。

 

「…レイって…凄い人だったんだね…」

 

「うん…私…レイの事…少し考えを改めるよ…」

 

「…同感…」

 

呆然としながらも3人はレイの後に付いていった……

 

 

暫く歩きロディ達は綺麗な造りをした扉の前に案内された。

 

「ランドゥ様がこの中でお待ちですので。」

 

「ありがとうございます。」

 

「いえ、それでは自分は仕事に戻りますので…」

 

そう言うと衛兵は一礼し今きた道を引き返していった。

 

…コン…コン…

 

「ランドゥ伯、レイ=クラウディアです。」

 

「…おぉ、入るがよい。」

 

「はい、失礼します。」

 

レイはそう言うとドアを開け部屋の中に踏みこんだ。

 

ロディ達もそれに続いた……

 

 

部屋の中に入るとそこには棚という棚に敷き詰められた本の数々…

 

そして中央の机にも沢山の本が詰まれていた。

 

「仕事中でな…私室などに通して済まんな。」

 

部屋を見渡していると不意にそんな声が聞こえた。

 

「いえ…こちらこそ、突然お邪魔してしまってすいませんでした。」

 

よく見ると目の前には初老の男性が座っていた。

 

年恰好は30〜40ぐらいの男性で、見た感じは普通の男なのだが、

 

何とも威圧感が感じられる男性だった。

 

「2…いや、3年振りぐらいかレイ?」

 

「えぇ…それぐらいになりますね。」

 

「…グレックには済まない事をしたな…葬儀に行く事もできず…すまなかった。」

 

「いえ…そのお気持ちだけで充分ですよ。」

 

「そう言えば、サイレスやレナスは元気でやっておるのか?」

 

「………」

 

「二人ともできた奴じゃからな、亡きグレックもうかばれるよの。」

 

ランドゥのそんな言葉に強く動揺しながらも平常を装いレイは口を開いた。

 

「恐れながら…その事でお話があります。」

 

「どうした?そんなに改まって…」

 

「…父上は…父上の死は…病気によるものではないのです。」

 

「な、何。それはまことか?」

 

「はい…父上は……殺されたのです。」

 

「な…なんと…あのグレックを暗殺できるほどの腕を持つものがいたというのか。」

 

「いえ…暗殺などではないのです…」

 

「そ、それでは…誰がグレックを…」

 

「…サイレス兄さんと…レナス兄さんです…」

 

「バ…バカな…あの二人が…グレックを……」

 

「…僕は…その現場を見てしまい…国を追われ…追撃を振り切りここまで来ました。」

 

「あの…サイレスとレナスが…グレックを……」

 

レイが語るそんな真実にランドゥは動揺を隠せなかった……

 

 

「…にわかには信じがたい事だな…」

 

「はい…僕もあの時の兄達の行動を見るまでは…そんな事…」

 

「……分った。この事はこちらの方で情報を集めてみる事にしよう。」

 

「…ありがとうございます、ランドゥ伯。」

 

「ところで…先程から気にはなっていたのだが…そちらの者達は?」

 

「あっ…紹介が遅れました。彼等は僕の命の恩人であり友人の…」

 

「どうも、ロディ=シェルウィザードです。」

 

「マリオス=シルフィースです…」

 

「私は…ルフィミア=クリステンセンです。」

 

「ルフィミア…クリステンセン…?すると、パーシルの若き聖母…」

 

「…過去に…そう呼ばれている事もありました。」

 

「そうすると…君の父上は…」

 

「はい…パーシル軍総司令官にして大司教…ギザロフ=バーネット=クリステンセンです。」

 

「やはり…何処かで見た事があると思っていたが…あのギザロフ殿の…」

 

「ギザ…ロフ…」

 

そんな二人のやり取りに出てきたギザロフの名にロディは心に引っかかる物を感じた。

 

「でも…今は国から離れロディ達と旅をしているルフィミアという只の少女です。」

 

「…そうか…ならばもう何も聞くまい。すまない、そなたの気分を害するような事を言って…」

 

「いえ…ありがとうございます。」

 

「それでは、ランドゥ伯。私達はこれで…」

 

「そうか…しかしレイ、何処か行くあてでもあるのか?」

 

「いえ…これといっては…どこも…」

 

「それならばこの城に留まれば良い。

 

 それにここにいれば、事件の情報がすぐに分るであろう?」

 

「し…しかし…それではご迷惑が……」

 

「むぅ……よし、なればレイよ。そなたをミロワの客将として招きたい。

 

 もちろん、その者達も一緒にな。」

 

「ランドゥ伯…」

 

「これならばわが国に招かれた将軍という事で大義名分が立つ。…どうだ?」

 

「レイ、いいんじゃなかな?これで事件の真実が分るんだし…追っ手に追われる事もなくなるしさ。」

 

「でも…それじゃあロディ達に迷惑が…」

 

「気にしないでよ。僕達はどの道この国に暫く居るつもりだったし…

 

 それに僕達は友達だろ?友達が困ってたら助けないと…ね?」

 

「ロディがそう言うなら…私も構わないかな。」

 

「…私も…ロディが一緒なら…」

 

「ね?」

 

「…ありがとう…みんな…」

 

「…決まった様じゃな…」

 

「はい…それでは、ランドゥ伯。暫くお世話になります。」

 

「うむ…それではすぐに部屋の方を用意させよう。

 

 今日はゆっくり休み、詳しい話しは明日にでもしよう。」

 

そう言うとランドゥは呼び鈴を鳴らし衛兵を呼んだ。

 

「ランドゥ様、御用でございましょうか?」

 

「皆に伝えよ。この者達はミロワの客将として迎える、そそうのないようにな。

 

 それと皆の部屋を早々に用意して差し上げろ。」

 

「はっ!了解致しました。」

 

そう返事をすると衛兵は足早に部屋を後にした。

 

「部屋の準備ができるまで城の中を見物でもしていなさい。

 

 案内は…おっと、レイが居るから必要ないかな?」

 

「…えぇ、そうですね。この城は僕のもう一つの故郷みたいなものですから…」

 

「ふふ…そうだな。」

 

「それじゃあ皆、お言葉に甘えるとしようか。」

 

「そうだね…そうしてもらおうかな。」

 

「部屋の準備が整ったら誰かに呼びに行かせる。

 

 それまで城の中を自由に見て回るといい。」

 

「ありがとうございます。マリオス、ルフィミア、行こうか?」

 

「えぇ、そうね。」

 

「それでは…失礼します。」

 

ランドゥに一礼しロディ達が部屋を後にしたのでそれにレイも続こうとした時…

 

「レイ……」

 

「…はい。」

 

「…良い友人と…出会えた様だな…」

 

「……僕も…そう思いますよ。」

 

それだけ言うとレイも部屋を後にしたのだった……

 

 

ミロワ城の中を全て回り終えた頃、衛兵の一人がやってきてロディ達を客室へと案内してくれた。

 

ロディ達に与えられた部屋は広くはなかったが狭くもなく、

 

生活するには充分過ぎるほどの部屋だった。

 

その日は皆で食事をとりロディは一人自分に与えられた部屋のベットに寝転がっていた。

 

「……ギザ……ロフか……」

 

今日ルフィミアから聞いたその名前にどうしても心の奥底で引っかかる物が気になっていたのだ。

 

そして自分の身に付けているペンダントをじっと見つめる。

 

「…ギザロフ…それにこのペンダント…何でこんなに気になるんだろう…」

 

ロディは必死に自分の記憶を辿ってみる。

 

雨……誰かがくれたペンダント…そして…花畑の少女…

 

繋がらない記憶のピース…激しく痛む頭…

 

「僕は…僕はっ!」

 

考えれば考えるほど思考は鈍り頭痛が激しくなってくる。

 

回る世界…記憶の片隅にある誰かの優しい声…暗く寂しい部屋の片隅…

 

「ぼ…くは……」

 

新しく思い出した記憶の欠片…

 

しかしこれ以上は体が危険なのでロディは全身の力を抜きベットに身を沈める。

 

「はあ…はあ……」

 

思い出す事をやめると先程までロディを襲っていた頭痛は徐々に和らいでいった…

 

「…少し…風に当たりに行こう…」

 

記憶の混乱で熱が冷めぬ頭を冷やそうとロディはバルコニーへと赴いた。

 

 

ロディがバルコニーに行って見るとそこには先客がいた。

 

「…ルフィミア?」

 

「ロディ?…どうかしたのですか?」

 

ロディにそう呼ばれルフィミアはロディの方に向き直った。

 

「いや…ちょっと考え事してたら寝れなくなって…風にあたろうかなって…」

 

「…私と…一緒ですね。」

 

「ルフィミアもかい?」

 

「…今日は…考える事がいっぱいありすぎて…頭で整理しきれなくて…」

 

「そっか…横…一緒して良いかな?」

 

「…構いませんよ…」

 

ルフィミアにそう断ってからロディはルフィミアの隣に行きバルコニーに寄りかかる。

 

それと同じようにルフィミアもまた再び視線を夜空へと戻した。

 

「………」

 

「………」

 

二人はしばらく無言のままだったが不意にロディが口を開いた。

 

「…今日…ルフィミアがギザロフって言った時、何か引っかかる物を感じたんだ。」

 

「お父様に?」

 

「うん…もしかしたら、僕はギザロフを知っているのかもしれない…」

 

「でも、それなら私があなたを見てないはずがないわ。

 

 お父様もあまり外に出るような人じゃなかったし…お父様の知り合いなら私も知ってるはずよ。」

 

「…だけど…ギザロフ…パーシル…そしてペンダント…

 

 この三つがどうしても心に引っかかるんだ。」

 

「ペンダント?」

 

「あぁ…ルフィミアには見せてなかったっけ?」

 

そう言うとロディは自分の首に下げてあるペンダントを外しルフィミアに見せてみた。

 

「これが…ロディが唯一身に付けてた物なの?」

 

「うん…僕は海岸沿いに倒れてて、その時手に握ってたのがこのペンダントなんだ。」

 

「ちょっと見せてくれませんか?」

 

「別に構わないよ。」

 

ロディからペンダントを受け取るとルフィミアはそれをじっと見つめた。

 

「…これ…どこかで…あら、これ…開く仕掛けになってるんですね。」

 

「えっ!?そうなの?」

 

「えぇ。多分…この付け根の部分を押せば…」

 

その瞬間、かちっという音と共にペンダントが開いた。

 

「ほんとだ…気が付かなかったよ。」

 

「これは…写真かしら。随分古そうだけど…」

 

「ちょっと見せて。」

 

ルフィミアの手の中で開いたペンダントの中には1枚の古い写真が飾られていた。

 

写真に映っているのは10歳ぐらいの女の子とその弟らしき人物が映っていた。

 

そして開いた蓋の部分にはこう刻まれていた。

 

『我が最愛の弟 ロディ』

 

「最愛の…弟?」

 

「と言う事は…この人はロディのお姉さんなんですね。」

 

「姉…さん…」

 

「よかったですねロディ。大事な手掛りが掴めましたね。」

 

「…知ら…ない。」

 

「えっ…?」

 

「これは…誰?」

 

「ロディ?」

 

「僕は…知らない…僕の記憶の中の女の人とは違う!」

 

「ロ、ロディ。落ちついてよ。」

 

「この人は誰?記憶の女の人は誰?僕は誰なんだよ!?」

 

「ロディ!」

 

「僕は何なの?この人は誰なの?僕は…僕は…!」

 

 

パァーン!

 

そんなロディの悲痛を引き裂くように乾いた音が寒空に響いた。

 

それはルフィミアがロディの頬をひっぱたいた音だった…

 

「ルフィ…ミア…」

 

突然の事に呆然とするロディをルフィミアは強く…だがやさしく包み込んだ。

 

「…落ちつきましたか?」

 

「…うん…」

 

「ごめんなさい…ぶったりして。でも…こうでもしないとロディ…落ち付いてくれそうもなかったから…」

 

「うぅん…僕の方こそ…取り乱したりして…ごめん。」

 

「ロディ、記憶を失い過去を思い出せない苦しみは私には分らない。

 

 でも、こうしてロディの側にはいてあげられる…今この時を一緒に過ごしてあげられる。

 

 確かにロディには『昔』がないけれど、『今』はある。それで良いのではないのでしょうか?」

 

「ルフィミア…」

 

「私達は『昔』のロディは知らない…でも、『今』のロディは知っている。

 

 それなら今この時を一生懸命生きてたら良いと思います。

 

 そうすれば自然と昔の事も思い出せるのでのないのでしょうか。」

 

「…でも…不安なんだ…自分が…何者なのかが…」

 

「この写真の事?」

 

「…いや…そうじゃないんだ…」

 

「…話して…くれますか?」

 

そんな優しいルフィミアの呟きに導かれる様にロディの口は自然と動いていた。

 

「自分の中に…もう一人の自分がいるみたいなんだ。」

 

「もう一人のロディ?」

 

「この前の戦闘の時…何もできなかった自分が嫌でずっと思いつづけていたんだ…

 

 『力が欲しい』ってね…そうしたら不意に自分の中の自分が出てきたんだ。」

 

「………」

 

「僕の本当の力はこんなものじゃないだろって、あいつが言った瞬間不意に体が軽くなったんだ。

 

 まるで自分の体じゃないかのように動いていて…気が付いたら自分の足元に魔物の死体があった…」

 

「それであの時ロディの様子がおかしかったのね。」

 

「でも…体は覚えてたんだ…あの動きを…あの技を!

 

 …まるで…そうする事が当たり前かのような感じがしたんだ。」

 

「そうですか…でも、私はそれは悪い事だとは思わないわ。」

 

「何故?」

 

「どんな事でもロディの過去につながる記憶なんだから、

 

 それを思い出すというのは悪い事ではないでしょう?」

 

「過去につながる記憶…」

 

「そうよ、だからそんなに恐れないで。何があってもロディはロディなんだから。」

 

「僕は…僕…そうか、そう…だよね。」

 

「えぇ。だから…元気を出してください。」

 

「…ありがと、何だか気分がずっと楽になったよ。」

 

そう言うとロディはすっとルフィミアから離れ笑顔を取り戻した。

 

「また…辛い事があったら相談してね。

 

 これでも私…パーシルではいろいろな人の相談にのったりしてたから。」

 

「うん、おかげで気分が楽になったから今度は寝れそうだよ。

 

 それじゃ、僕はもう部屋に戻るけど…ルフィミアは?」

 

「わ、私は…もう少し夜風に当たっています。」

 

「そう?それじゃ、おやすみルフィミア。」

 

そういうとロディは幾分嬉しそうに自室へと戻っていった。

 

そしてルフィミアは自分の高鳴る鼓動を押さえるのに精一杯だった。

 

(私…無意識とはいえ…ロディを……)

 

先程の自分の行動に今更ながら恥ずかしくなってきてルフィミアの鼓動は更に増していくばかり。

 

(この瞬間が…永遠に続くものなら…どんなに嬉しい事か…主よ…私の願い…叶えてくれますか?)

 

かすかに残るロディの温もりを感じながら星に祈るルフィミア。

 

そんなルフィミアの願いとは裏腹に運命はただその定められた道を歩んで行くのだった…

 

 

 

    小説部屋に戻る→

 

    トップページに戻る⇒