ロディ達がミロワに戻ってきてから1週間…

 

パーシルに潜入した密偵からの情報でパーシル軍が近々動くと聞き城内は慌ただしかった。

 

そして…ロディ達も自身の鍛錬にいそしんでいた…

 

 

「てやっ!」「はっ!」

 

そんな掛け声と共に中庭にある鍛錬場に何かがぶつかり合う音が響いた。

 

その鍛錬場では二人の影が対峙しあっていた。

 

一方はロディ、もう一方は紫苑だった。

 

「くらえっ、アローストラッシュ!!」『ゴォゥッ!』

 

「しからば…天命衝霊破!!」『シュゴゴゴゴッ!!』

 

ロディの放った衝撃波に対し、紫苑は剣から光の柱を繰り出してきた。

 

『ゴッ!!バシュゥ……』

 

二つは激しくぶつかり合うとお互いに霧散する。

 

「くっ…それなら…ブレイクスラッシュ!!」

 

ロディは腰を落とし構え紫苑へと向かって行く。

 

「…勝負!…皆斬流…月華骨砕打!!」

 

そんなロディに対し紫苑は1歩踏みこみ上方からの剣撃を放つ。

 

『ガギンッ!!』

 

二つの斬激がぶつかると同時に一本の剣が宙を舞った…

 

 

「そこまで!!」

 

場内にレイのそんな声が響いた。

 

「…さすがでござる。」

 

そう呟く紫苑の喉もとにはロディの模擬刀が付きつけられていた。

 

「紫苑こそね…」

 

ロディは笑いかけながらつきつけた模擬刀をすっと離した。

 

「それにしても…紫苑まで負けちゃうなんてね。僕じゃダメだし…後はジェントぐらいかな?」

 

「う〜ん…ジェント、どうする?」

 

「…今は…無理だ。」

 

二人のそんな提案にジェントは素っ気無く答えた。

 

「えっ…どうして……って、あれ?」

 

疑問に思ったロディはジェントの方に向き直ったがその答えはすぐに出た。

 

「すぅ…ふみぃ〜…すぅ…」

 

ジェントと一緒に観戦していたセアラがジェントの膝の上で眠りこけていたからだ。

 

「なるほどね…ジェントはセアラにだけは甘いからね…」

 

「なっ!?…そ、そう言う事じゃない!…ただ…俺には眠っている奴をわざわざ起こす趣味は無いといってるんだ。」

 

レイのそんな言葉にジェントは慌てふためきながら言い訳していた。

 

「はいはい…そう言う事にしておくよ。」

 

「くっ…」

 

「…仕方ないか…紫苑、もう一本だけお願いできるかな?」

 

「拙者は構わないでござるよ。」

 

シオンにそう確認を取りロディは先程弾き飛ばした模擬刀を紫苑へと返した。

 

「それじゃあ…始め!!」

 

レイのそんな掛け声と共に再び場内には剣がぶつかり合う音が響き始めたのだった……

 

 

第13章『背反…自分の中の自分』

 

 

そんなある日、ロディ達はいつもの様にランドゥに呼び出されていた。

 

「ランドゥ伯、今日はどんなご用件でしょうか?」

 

レイのそんな質問にランドゥは一瞬戸惑いを見せたがゆっくりとその口を開けた。

 

「ついにパーシル軍が動く…」

 

「!?…つまり…戦争が始まる…」

 

「そうだ。奴等にこのミロワを渡すわけにはいかん。

 

 この時の為に準備を進めてきたのだ…それを迎え撃つつもりだ。」

 

「戦争…」

 

「それにともないおぬし達には別任務を与える。」

 

「別任務…ですか?」

 

「うむ…正面からぶつかり合えば勝敗は数の差によって決するだろう…

 

 そこで、我等が本隊をひきつけている内に城に潜入し制圧して欲しい。」

 

「陽動…ですか。」

 

「そうだ。…だが…一方がしくじればもう一方も崩れる事になる。

 

 よって本作戦は迅速にかつ確実に行なわなければいけない。」

 

「………」

 

「作戦開始は明朝…お前達は私達と同時に出発、その後ハバリアよりに迂回しパーシル城に潜入、制圧…口で言うとこんな感じだ。」

 

「言うだけなら単純なんですけどね…」

 

「そう…この作戦は激戦になる事だろう…だが、我等は負けるわけにはいかん!

 

 ……今日は1日自由に過ごすが良い…以上だ。」

 

「…了解しました…」

 

ランドゥに一礼しロディ達は部屋を後にした。

 

部屋を出てからは誰も口を開こうとせず各自バラバラに分かれだした。

 

その雰囲気から翌日起こる戦争への恐怖が痛いほど伝わってきた。

 

ロディも何も言えずその場を後にすると…

 

「ロディ…少しよろしいでしょうか?」

 

おずおずとルフィミアがそう駆け寄って来た。

 

「どうしたんだい、ルフィミア?」

 

「あの……これから街に出ませんか?」

 

「街に…?」

 

ルフィミアのそんな突然の提案にロディは驚いた。

 

「はい…今日は…明日のことを考えずに過ごしたくて…その…」

 

そう小さく呟くルフィミアの手が震えているのが分かった。

 

ルフィミアもまた表現のし様の無い恐怖に怯えているのが分かった。

 

それもそのはずだった…明日起こる事は戦争…それに自分が参加するのだから。

 

「…そうだね、それじゃあ行こうよ!」

 

ロディは出来るだけの笑顔でルフィミアの手を掴むと街へと向かい走りはじめた。

 

「ロ、ロディ…」

 

ルフィミアはそんなロディに引っ張られながらその後に付いて行くのだった…

 

 

ロディに引っ張られながらついてきたルフィミアだったが街に出るとそれは逆転していた。

 

「あれ見てくださいよ、ロディ。凄く可愛いですよ。」

 

そう…ルフィミアがロディを引っ張りまわす形になっていた。

 

「…そうだね。」

 

「?…どうかしましたかロディ?」

 

「いや…ルフィミアがそうやってはしゃいでる姿って…はじめて見たなって…」

 

「えっ…そ、そうですか?」

 

「うん…僕の知る限りじゃね。」

 

「……やっぱり…変ですか?」

 

「うぅん、そんなルフィミアも可愛いと思うよ。」

 

「えっ…あ、ありがとう…」

 

正面からロディにそう言われたためかルフィミアは思わず目をそらしてしまう。

 

「……そう言えば…こうやってこの街を歩くのって初めてかもしれない。」

 

「…そう言われれば…私達お城にいるか他の街にいってるかでしたからね。」

 

「うん…?あれ…あれって何なのかな?」

 

ロディが指差した先には一軒のおしゃれな屋台があった。

 

「あれは…あぁ、クレープの屋台ですよ。」

 

「クレープ?……聞いた事があるような無いような…」

 

「ふふ…ちょっと待っててくださいね。」

 

そう小さく笑いルフィミアはその屋台へと走り寄っていった。

 

…数分後…ルフィミアは二つのクレープを手に戻ってきた。

 

「はい、ロディの分です。」

 

「えっ?…あ、ありがとう…」

 

ロディは戸惑いながらもそれを受け取る。

 

「…?食べないのですか?」

 

「いや…これ…どうするものなの?」

 

ロディはクレープを手にしながら本気で悩んでいた。

 

「くす…これは…」『…ぱくっ。』

 

ルフィミアは自分の手にあったクレープに小さくかぶりついた。

 

「こうやって食べるんですよ。」

 

「う…うん…」『…ぱく。』

 

ルフィミアにそう言われ恐る恐るクレープへとかぶりついた。

 

「どう…ですか?」

 

「うん、これ…凄く美味しいよ。」

 

一口食べ安心したのかロディはそう言いながらクレープをどんどん食べ始めた。

 

「本当?よかった…気に入ってくれて。」

 

「う〜ん…それにしてもクレープってこんなに美味しいものだったんだね。」

 

「そんなに気に入ってくれたんですか?」

 

「うん。……あれ、ルフィミアのは僕のとは色が違う…」

 

「えぇ。クレープには色々種類があって、ロディのはブルーベリー、私のはストロベリーなんですよ。」

 

「へ〜…そうなんだ。…ルフィミア、ちょっとそっちのも食べさせてよ。」

 

「えっ……う…うん……ど、どうぞ…」

 

ロディのそんな突然の発言に驚きながらもおずおずと自分のクレープを差し出した。

 

「それじゃちょっとだけ…」

 

そう断わりながらルフィミアのクレープを一かじり…

 

「ど…どうですか?」

 

「うん、こっちのも美味しいね。」

 

「そう…よかった。」

 

ルフィミアがそっと胸をなでおろすとその眼前にロディが自分のクレープを差し出してきた。

 

「ルフィミアもこっちの食べてみてよ。こっちのも美味しいよ。」

 

「え…で、でも…それって…」

 

「ほら、こっちのもおいしいから。」

 

突然そんなことを言われどうして良いか分からなくなったルフィミアにロディがそう言ってきた。

 

「………う、うん……」

 

そんなロディに後押しされ意を決しロディのクレープを一かじりした。

 

「どう?」

 

「う、うん…おいしいです…」

 

「ホント?よかった…」

 

そう答えたもののルフィミアにはその味なんか分かるはずがなかった。

 

ルフィミアの頭の中は真っ白になり何も考えることが出来なかったからだ。

 

そして…その後の会話も何を話したかもあまり覚えてはいない…

 

ただ…その瞬間は自分が経験した人生の中で一番楽しい時間だと実感していた……

 

 

その後もロディ達は色々と街を見て回った。

 

「あっ…ロディ、ちょっとあれ…見ていっても良いですか?」

 

ルフィミアは不意にそう言い目の前の屋台を指差した。

 

「あれは…なんのお店なんだい?」

 

「そうですね…見てみたら分かりますよ。」

 

そう言いながらルフィミアがその屋台に向かったのでロディもそれに続いた。

 

屋台に近付いてみるとその正体が明らかになりその屋台はアクセサリーなどの小物を売っている屋台だった。

 

なんだか気まずいロディを尻目にルフィミアは色とりどりのアクセサリーを手にとっては戻していった。

 

「あ…これ…綺麗…」

 

そんな中、ルフィミアの手が一つのブローチで止まった。

 

「お嬢ちゃん、お目が高いねぇ。それはウィンディアでしか取れないブルークリスタルさ。」

 

「これが…ブルークリスタル……綺麗…この青に吸いこまれそう…」

 

ルフィミアはよほどそれが気に入ったのか色々な角度からそれを眺めていた。

 

「それが気に入ったのかい?」

 

「え?…えぇ…」

 

「彼氏さん、可愛い彼女にプレゼントしてあげなよ。」

 

「え……あ、あの…その…」

 

そんな店の親父さんの言葉にルフィミアは視線を泳がせてしまった。

 

「う〜ん…そうだね、さっきのお礼もあるし…おじさんこれちょうだい。」

 

「ハイよ、このブローチでいいんだな?」

 

「うん。」

 

「よし…彼女可愛いからこのペンダントもおまけしてあげるよ。」

 

そう言いながら店の親父さんはさっきのブローチと一緒に白水晶のついたペンダントも一緒に包んでくれた。

 

「えっと…おじさんいくら?」

 

「そうだね…1000Gでいいよ。」

 

「え…そんなに…」

 

「はい、1000Gね。」

 

「まいど、彼女…ちゃんと大切にしてやるんだぞ。」

 

「ははは…大丈夫ですって。それじゃ…」

 

「ど、どうも…」

 

そう礼を言いロディ達は屋台を後にした。

 

「はい、ルフィミア。」

 

ロディはそう言いながら先程買った包みを手渡した。

 

「あ……でも…」

 

「ほら…さっきのクレープのお礼だから。」

 

「だ、だけど…そんなに高価なもの…」

 

「いいから、僕がルフィミアにプレゼントしたいんだからさ。」

 

「…う…あ、ありがとう…ロディ…」

 

ロディに笑顔でそう言われルフィミアはそれを申し訳なさそうに受け取った。

 

「大事に…します…」

 

だがそれを受け取った瞬間のルフィミアの表情は喜びのものに他ならなかった……

 

 

ミロワ城へ戻ろうと帰路についた時…前方になにやら騒がしい人だかりがあった。

 

「?…なんだろう、この人だかり。」

 

疑問に思いながらもその人だかりへと近寄ってみた。

 

…「おい、ばばあ。人にぶつかっておいて何なんだその態度は?」

 

「おぬし達からぶつかってきておいて…」

 

「へっ…てめぇがぶつかったのが誰か分かってるのか?

 

 ミロワでも有数の貴族シークレス家の長男ルート様だぞ!」

 

「ふん…親の威を借る狸が…」

 

「何だと、くそばばあ!」

 

どうやら3人の男とお婆さんが一人言い争っている様だった。

 

「…あの人達…お婆さん相手になにやってるんだろうね?」

 

「本当…ひどい事を…」

 

…「おぬし、年寄りをいたぶって喜んでおるようでは狸のままじゃぞ。」

 

お婆さんのそんな言葉に周囲の人達もくすくすと笑い出す。

 

「な…なんだとばばあの分際でっ!!」『バキィッ!』

 

よほどそんな態度に腹を立てたのかルートはお婆さんを殴りつけた。

 

「!?」

 

ルフィミアは突然何を思い立ったのか人込みを掻き分け進みだした。

 

「ちょ…ルフィミア!」

 

そんな突然のルフィミアの行動に不安を感じロディはその後を追った。

 

…「な、なにをするんじゃ!」

 

「…おい、お前等…このばばあにこの俺様の怖さを教えてやれ。」

 

「へい、坊ちゃん。」

 

ルートにそう言われ男達がお婆さんに近付こうとした時…

 

「やめてください!…何てひどい事をするんですか。」

 

お婆さんをかばう様にルフィミアが両者の間に割って入った。

 

「あん?誰だお前は。」

 

「お婆さん、大丈夫ですか?」

 

「おぉ…すまんのぅ…」

 

男達の言葉を無視しルフィミアはお婆さんを助け起こすのだった。

 

「どいつもこいつも…こいつ等に自分の立場ってものを教えてやれ!」

 

「へい!」

 

自分を無視され更に腹を立て今度はルフィミアに向かって拳を振り上げた。

 

「!…娘さん!!」

 

「えっ…」

 

そう言われ後ろを振り返ると眼前まで迫ってきている男達が目に入る。

 

『バッ!!』

 

瞬間的にルフィミアは両手を広げお婆さんをかばう!

 

自身への拳を凝視できずその瞳を閉じた瞬間…

 

『バキィッ!!』

 

そんな乾いた音が響き渡った……

 

 

音が響いて数秒…自分の体に何ともないのを疑問に思い目を開けてみると…

 

「…お年寄りに手を上げたと思ったら今度はルフィミアにまで…最低だよ。」

 

そこには男達の前に立ちはだかっているロディの姿があった。

 

「ロディ…」

 

「何だ…お前もこの俺様に歯向かうってのか?」

 

「悪いけど…僕はお前みたいな奴は大っ嫌いなんだ。」

 

「なっ!?…お前…この俺がシークレス家のルートだと分かって言ってるのか!」

 

「別に…お前が誰であるかなんて知った事じゃない。」

 

「くっ…おい、この世間知らずなくそガキに世間ってものを教えてやれ。」

 

「へい、坊ちゃん。」「ガキが…格好なんかつけなければ良かったものをっ!!」

 

ルートの命令に従い男達はロディへと殴りかかる。

 

「……!」

 

『…ガッ!ゴキリッ!!ガキッ!!』

 

ロディが男達の拳を交わしそれをあしらった瞬間、男達の体が宙を舞ったのと同時にそんな鈍い音が響き渡った。

 

「がぁぁ…」「ぐぉっ…」

 

男達はそんなうめき声を上げながら立ち上がりはしたが、明らかにその様子がおかしかった。

 

「…大丈夫…折れてはいないよ、ただ外しただけだから…

 

 だけど無理に外したから激痛がするだろうけど…」

 

「くぅぅぅ…」

 

男達の目は既に戦意を失い脅えきったものになっていた。

 

「どうする?1度目だからそこまでにしておいてあげるよ。…ただ…まだやるって言うのなら…」

 

「ひ、ひぃぃ!!」「おぼえてろよっ!!」

 

すっかり怯えきった男達は自分の主人も置き去りにしその場から逃げ出した。

 

「お、おい!お前等ッ!!」

 

「それで…あんたはどうするんだい?」

 

自分の護衛と言う”牙”をなくしたルートにそう冷たく言い放つ。

 

「ひっ!?…お、おい…おれはシークレス家のルート様なんだぞ?」

 

「だから…?」

 

「…お、俺に手を出したら…親父が黙ってないぞ!」

 

「……情けない…人の手を借りずにお前が来いよ。」

 

「ぐぐぅぅ…なめるな……なめるなぁぁぁっ!!」『シュォッ!!』

 

ルートはそう叫びながら自分の懐からナイフを取り出すとロディに向かい投げ放った!

 

「ロディ!危ない!!」

 

『カシッッ!』

 

だがロディはそれを難なく受け止めた。

 

「へっ…ば、馬鹿なッ!そんなこと出来るはずが!」

 

「…今度は…僕の番だよっ!!」『シュバッ!』

 

今度は逆にロディがそれを素早く投げ返す!

 

「ひぃぃ!」『ズバッ!!』

 

ルートが脅え縮こまった瞬間そんな何かを引き裂く音がした…

 

「…くすす…」「あれ…何て言って良いのか…」「ホント…」

 

もしかしたら自分の命が…何て思っていたルートの考えとは裏腹にそんな話し声が聞こえてきた。

 

「…何が…?」

 

不思議に思い目を開けてみると…

 

「なっ!こ…これは!?」

 

なんと自分のズボンの腰の部分が破かれ下着があらわになっていた。

 

「くすす…」「あはは…」

 

そんなルートの姿がおかしかったのか街の人達は再び笑い出す。

 

「ききき…貴様ッ!一度ならず二度までもこの俺をこけにするとは…」

 

「勘違いしないでよ。刃物を人に向けた時点で君は殺されてもおかしくはなかったんだ。」

 

「ぐぐぐ…俺は、シークレス家の!」

 

「だからどうしたって言ってるだろう!!」

 

「なっ…」

 

「僕はロディ=シェルウィザード。普段ならミロワ城にいるから用があるんなら一人で尋ねて来ればいい。

 

 それならあなたが納得いくまで相手をしてあげるよ。」

 

「くっ…くっそーー!!覚えてやがれよ!!」

 

そんな捨て台詞を残しズボンを必死に上げながらルートは走り去っていった。

 

「ふう…さて…お婆さん、立てますよね?」

 

「あ…あぁ、大丈夫だよ。」

 

「良かった…ルフィミア、僕等も帰ろう。あんまり遅くなったりしたらみんな心配するだろうし。」

 

「え、うん。それじゃあ…お婆さんこれからは気を付けて下さいね。」

 

そう言いその場を立ち去ろうとした時…

 

「坊や達。」

 

「…何ですか?」

 

「…ありがとう…おかげで何事もなく済んだよ。」

 

「かっこ良かったぞ、兄ちゃん。」「ホント…これであのどら息子も少しは大人しくなれば…」

 

「え…えと…行こう、ルフィミア。」「う、うん。」

 

お婆さんのそんな言葉にタガが切れたように騒ぎ立てる人達から逃げるよう二人はその場を走り去った。

 

 

「はぁ…はぁ…ここまで来ればもう大丈夫みたいだね。」

 

騒ぐ人達を振りきり息を整えるロディだったが、その後ろのルフィミアの表情は暗いままだった。

 

「?どうしたんだい、ルフィミア。」

 

「…やっぱり…私って…役立たずですね…」

 

不意にそんな事を呟きもらした。

 

「えっ…どうしたんだい急に?」

 

「私…あのお婆さんを助けようとして飛び出したのに…私に出来たのはお婆さんをかばう事だけ…

 

 一人じゃあのお婆さんを助ける事なんかできはしなかった…」

 

「ルフィミア…」

 

「私が…私がもっと強かったら…あんな事には…」

 

ルフィミアはそう呟きながら俯いてしまい自分の手を恨めしそうに睨む。

 

「そんな事ないよ、ルフィミアは充分に強いよ。」

 

「えっ……?」

 

だが、ロディのそんな言葉にルフィミアは驚きロディに向き直った。

 

「ルフィミア…僕は強さには決まった形なんかないって思うんだ。」

 

「…どういう事?」

 

「そうだね…確かに単純に戦いにおける強さも強さの一つだけど…実際にはそれは一つの結果でしかないんだ。」

 

「???」

 

「…困難に立ち向かって行く”勇気”。または強さを求めた”努力”…

 

 それらが合わさってはじめて戦いにおける”強さ”なるんだと僕は思う。」

 

「でも…私にはそんな勇気はないし…いくら頑張っても強くは…」

 

「何を言ってるんだよ。さっき他人をかばおうとして飛び出した勇気…それも立派な”強さ”だよ。」

 

「あっ……」

 

「それにね…ルフィミアだって誰にも負ける事はない強さがあるじゃないか。」

 

「私の…強さ?」

 

「そう…ルフィミアのその優しさ…人を思いやる気持ち…それも立派な”強さ”なんだ。」

 

「優しさが…強さ…」

 

「そうだよ、だから…『私は弱い』なんて思っちゃダメだよ。」

 

「……だけど…あの時は私だけではどうにも出来なかった!…私の”強さ”だけじゃ…誰も助ける事なんて…」

 

再び俯きルフィミアは視線を外す。

 

「…そういう時は僕を頼ればいい。」

 

「え……」

 

「自分を犠牲にしながらも他人を助けるのがルフィミアの”優しさ”。

 

 それならそんな”優しさ”を守るのが僕の”強さ”なんだからさ。」

 

「ロディ…」

 

「ね…だから…」

 

ロディはそこまで言いかけそれ以上何も言うことが出来なかった。

 

何故なら…

 

「ありがとう…ホントにありがとう…ロディ…」

 

ルフィミアが自分を押さえられなくなりロディの胸の中、そう嗚咽を漏らしていたからだった。

 

ロディはそんなルフィミアが落ちつきを取り戻すまでずっとルフィミアを優しく包んであげるのだった……

 

 

その後…泣きつかれたのか安心したせいなのか眠ってしまったルフィミアをおぶりロディはミロワ城へと帰った。

 

そしていつも通りの時間だけが流れていった。

 

後何時間としないうちに戦争が起こるとは思えないほどの時間が…

 

その夜…ロディは妙に高ぶる気持ちを押さえられず眠れずにいた。

 

ほってた体を冷やそうとベランダに行き一人星を見ていた。

 

「なぜだろう…明日、パーシルに行くって思ったら…体が妙に疼く…」

 

高鳴る鼓動…冷めない興奮…明らかにいつもとは違う体…その全てが疑問に思える。

 

『…チャリ…』

 

ふと自分の首にかけてあるペンダントを取りだし月明りにかざす。

 

「パー…シル……あそこには一体何が……」

 

ペンダントをギュッと握り締めペンダントを開くとそこには覚えのない二人の姉弟の写真…

 

「この女の人も…そこにいるのかな…?あそこに行けば…僕のことが分かるのかな…?」

 

『…ズキ!』

 

思い出そうとするといつもの様に鈍い痛みが走る。

 

「…僕は……この女の人は…!?」

 

『ズキキ!!』

 

まるで頭をハンマーで殴られたかのような激痛を感じロディの意識は深淵の中に落ちていった…

 

 

……夢……

 

…夢を見ているのような感じだった…

 

二人の姉弟の夢…

 

二人は花畑の中を駆け回り笑い合う…

 

そんな中、弟が座りこみ何かをしてるのを疑問に思い姉が駆け寄る…

 

不意に弟が起き上がったかと思うと嬉しそうに花の冠を差し出すのだった。

 

姉はそれを照れた風に受け取り弟の頭を撫で上げる…

 

……そんな幸せな夢……

 

だけど突如闇が訪れ二人を引き離して行く。

 

泣き崩れる姉…そんな姉に『大丈夫だから』と笑いかける弟……

 

そして一人残された姉は一人…泣き続けることしか出来なかった…

 

 

…そんな哀しい夢だった…

 

 

…「んっ…」

 

夢が終わりロディが目を覚ますとベランダにいたはずの自分は自室のベットに寝かされていた。

 

そんな状態に疑問を抱き辺りを見まわすとテーブルの上に見慣れないメモを見つけた。

 

『お大事に  レイ』

 

メモにはそれだけが書かれており、どうやら自分を運んでくれたのがレイだと理解した。

 

それだけ確認すると再び眠気がロディを襲い眠りへと落ちていった…

 

 

明朝…ついに戦いの火蓋は切って落とされた。

 

ミロワとパーシルの国境にあるひらけた草原…

 

その草原に布陣するパーシルが誇りし史上の歩兵部隊”魔の風”。

 

それと相反する様に布陣するミロワの騎馬・魔法部隊が混合する”天魔騎士団”。

 

そして…太陽が頂点に昇りきろうとしたとき…その二つがぶつかり始めた!

 

 

…その傍ら…

 

ロディ達は作戦通りにパーシル城へと侵入を開始した。

 

「貴様等っ、なにも…」『ザンッ!!』

 

その姿を発見した守備兵は全てを言い終える前に斬り捨てられていた。

 

「…おぬしに名乗る名は持ち合わせておらぬよ…」

 

「さすが大陸最速と呼ばれる剣技皆斬流だね。」

 

「よし…この調子で一気に行くよ!」

 

そう全員に呼びかけロディ達はパーシル城の中を進んでいった。

 

 

「ルフィミア。玉座の間への最短ルートは?」

 

「えぇと…ここからなら中庭を抜けるのが一番の近道です。」

 

「よし…残存兵力しかいないのなら囲まれたとしてもそんなに脅威じゃない…中庭を突っ切るよ!!」

 

そう考え中庭を駆け抜けようとしたロディ達だったが、

 

「待て!?囲まれているぞ!!」

 

「え…?」

 

ジェントのそんな言葉に驚き立ち止まると、前・左・右…更には自分達が今入って来た後方からもパーシル兵がやって来た。

 

「そんな…なんでこんなに残っているんだ?」

 

「兵力の大部分が戦いにかりだされたはず…なのにこれだけの数が!?」

 

「ジェント!一番守備が薄いのはどこ?」

 

「………北…南…東…ここからはこの場に駆けつけんとする足音……西側が一番手薄だな。」

 

「西側…みんな!西側の部隊を一気に片付けてそこから脱出するよ!!」

 

そう言い剣を抜き放ったロディに続く様に各々の武器を手にする。

 

「……行くよ!!」

 

そして西側の部隊に向かい強行突破を開始するのだった……

 

 

ジェントの聴力を頼りにロディ達は西側の部隊を蹴散らし城内へと逃げこんだ。

 

「はぁ…はぁ…ジェント、次はどっち!?」

 

目の前に十字路が見えロディがそう叫んだ。

 

「……左だ!」

 

ジェントが耳を働かせ手薄な所を探し出しその言葉に従い左に曲がるが…

 

「…はぁ…はぁ…って、行き止まり!?」

 

そこには壁が行く手を阻む行き止まりが広がった。

 

「何だと!?確かにこっちの方からは微かな気配しかしなかった。それなのに…行き止まりだと。」

 

「まずいな…このままじゃ袋のネズミ…か。」

 

『こっちだぁ〜!』『追いこめっ!!』

 

廊下の向こうからそんな兵士達の声が響いた。

 

「このままでは…どうするでこざるか?」

 

「ちょっと待って…少し、考え…う、うわわっ!」『グォォォッ……』

 

そう言いロディが壁に寄りかかろうとした瞬間その壁が突然動きその向こう側に吸い込まれた。

 

「ロディ!?」

 

「…隠し扉でござるか。」

 

「これだ!みんな行くよここにいるよりはマシな筈!」

 

壁の向こうに投げ出されたロディに続きレイ達も壁の向こう側に向かった……

 

 

…一方、日はすっかり傾き黄昏に包まれた戦場のランドゥ達…

 

「いけ〜!このまま押し切るのだ、兵力ではこちらが勝っている!!」

 

ミロワ軍は数の差にも怯まずパーシル軍に対し優勢だった。

 

「くぅぅっ!…奴等はまだなのか?」

 

パーシル軍総司令官のパウル国王がそんな事叫んだ時…

 

「パウル様!ついに到着致しました!!」

 

伝令役の兵士がそんな言葉を言いながら彼の前に歩み出た。

 

「おぉ…来たかっ!」

 

「ランドゥ様、敵の増援が!!」

 

「なにッ!?」

 

戦場の北側の草原…そこに現れた漆黒の鎧を纏った軍団…

 

それはまぎれもなくライナール軍の”黒の牙”の姿があった。

 

「ふっ…黒の牙の力…思う存分に見せつけろ!!」

 

リカルド王の声と共に黒の牙がミロワ軍へと進軍を開始する。

 

「くっ…奴等までもが。」

 

「ランドゥ様、今度は神殿騎士達までもが!!」

 

今度は南側の草原から神殿騎士達までもが姿を見せた。

 

「ぐぅっ…ワナ…だったとでも言うのか!?

 

 くっ…全軍、希望を捨てるな!レイ達を信じ持ちこたえるのだ!!」

 

実質三方から挟撃される形になりながらもミロワ軍はレイ達の成功を信じ戦いつづける。

 

 

…そしてそんな戦場よりも少し離れた丘の上で動く影があった。

 

「おかしらっ!準備万全ですぜ。」

 

「よし…やろうども、突撃だぁッ!!」

 

 

圧倒的な力に押されミロワ軍が次第に押しこまれて行く。

 

「…くっ…やはりこのままでは…」

 

ランドゥがそんな絶望をもらした瞬間、

 

『うぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

突然そんな叫びと共に正体不明の軍団が現れパーシル連合軍とぶつかり合って行くのが見えた。

 

「な…これは…?」

 

『ズザザザザッッッ!!』

 

そんな光景に疑問を感じたランドゥのもとに突如一人の男が馬から飛び降り滑り込んできた。

 

「あんたがミロワの大将さんだな。俺達シルバーウルフ、あんた達に手を貸しに来たぜ!!」

 

「なっ…シルバーウルフ…何故お前達が?」

 

「ふっ…俺達はただボウズに借りを返しに来ただけ…野郎ども、手を抜くんじゃねぇぞ!!」

 

こうして戦局は再び変動して行くのだった……

 

 

その頃…壁の向こうに広がっていた隠し通路を進むロディ達だったが不意に薄暗い部屋に出た。

 

「ここは……何の部屋なんだ?」

 

薄暗い部屋に置かれていたのはいくつもの不気味なガラスのケースのような容器…

 

そして部屋の至るところから妙な音が聞こえてくる…

 

「ルフィミア、この部屋何の部屋か知ってるかい?」

 

「いいえ…こんな部屋があること自体知りませんでした。」

 

「……!あそこ…なんだか明るい…行ってみよう。」

 

薄暗い部屋の中足元に注意を払いながらその明かりの元に進んでいった。

 

 

微かな光が照らしていたもの…それは回りに置かれた容器と何ら変わらぬもの…

 

ただ一つ、外部から破壊されていた事を除けばだが…

 

「これだけ破壊されてるのか…?」

 

「んっ…何か書いてあるな。…Mind Doll 22号…?なんだこれは?」

 

ジェントが口にしたその言葉を一同が謎に思い考えこんでいる中…

 

「……僕は………ここを知っている……」

 

不意にロディがそんなことを呟いた。

 

「えっ!?なんでロディがここを知ってるんだい?」

 

「…分からない…でも…僕はここを知っている…見た事があるんだ。」

 

「どうしてロディが…!?」

 

マリオスがそう言い目の前の壊された容器を見上げた時、何かを見つけた。

 

「ね…ねぇ…見て…人が…いる…」

 

「えっ…?」

 

マリオスのそんな言葉に顔を上げマリオスが指差した先を見つめると…

 

隣の容器の中には人の姿があった。

 

「本当だ…よく見たら周りの容器全部に人がいる…」

 

暗闇に目が慣れ見まわしてみると確かに容器の中には人影が見える。

 

「…だが、何故こいつだけが壊れてるんだ?これにも入っていたはずだろ?…回りに人の気配なんてしないぞ。」

 

「………」

 

いきなりの疑問の連続に一行は黙りこんでしまうが…

 

「……ねぇ……みんな…よく見たらこの人………ロディに似ているの……」

 

「!!?」

 

突然のマリオスのそんな発言に全員が容器の中の人間に注目する。

 

「……そう言えば…確かに。…と言うか…ロディがそこにいるみたいだ…」

 

「これ全部…そうだぜ。これは…一体何なんだ?」

 

「な……なんで…どうして…あそこにいるのは僕…

 

 で、でも…僕はここに居る……なんで……どうしてっ!?」

 

「その質問に…答えてやろう。」

 

錯乱し頭を抱えるロディの目の前に一人の男が現れた。

 

「お…お父様…」

 

「ルフィミアの…お父様って…ギ、ギザロフッ!!」

 

目の前に現れたギザロフに対峙するようにレイは剣を抜き構えた。

 

「いかにも…おっと…剣は納めてもらおうか。せっかく疑問に答えてやろうと言うのだ無粋なものを見たくはないのでな。」

 

「………」

 

その言葉にレイに続き剣を抜いたジェント、紫苑も剣を納めるのだった。

 

 

「さて…先程の質問の前に…よく帰ってきてくれたな、

 

 逃亡No.01、ナンバーなし…Mind Doll 22号よ。」

 

「えっ…」

 

「お前は感じていたはずだ…体が自然とここに帰ろうとしていた事…

 

 それはお前の中に植え付けられた帰巣本能がそうさせていたのだ。」

 

「そ…それじゃ、ロディは…」

 

「そうだ…ロディはここで生み出された”戦争人形”…Mind Doll…」

 

「戦争…人形だと?」

 

「そうだ…強力な人間を人工的に作りだし量産…そしてその人間に更なる力を与える。

 

 その人間を意のままに操り戦わせる…まさに戦争のための人形…

 

 それがお前だ、ロディ=シェルウィザード。…いや…それはベースになった人間の名前だったな…22号よ。」

 

「ち…違う…僕は…ロディ…シェルウィザード……

 

 僕には家族がいる!…思い出だってあるんだ!!」

 

「それは違う。それはお前のベースとなった人間のデータだ。お前はそのベースの複製品でしかないのだ、22号よッ!!」

 

「ち…ちが……ぼく…ぼく…は………なにもの…なんだ…」

 

ギザロフのそんな言葉に圧倒されロディの中で混乱が広がって行く。

 

「さぁ…戻ってくるのだ22号。そして…お前の本分を全うするのだ!」

 

「う…ぁ……ぅ…」

 

「ロディ!しっかりして!!」「ロディ!」「ロディ殿!!」「ロディちゃん。」

 

全員が混乱するロディの元に寄り添いそう呼びかける。

 

「い…やだ……いやだ………いやだ〜!!!」

 

『カッ!!』

 

ロディがそう叫んだと思った瞬間…ロディが眩い光を放ったかと思うとその光に部屋が包まれていった…

 

 

光がやみはれてきた視界の中…そこには異様な光景があった。

 

ただロディが立ち尽くしているだけの光景…

 

だが、ロディの瞳はどこかうつろで光の魔力をまとい立ち尽くしていたのだった。

 

ロディの体から溢れてくる魔力は今まで感じた事もないような強大なものだと、見ているだけでも感じてしまう。

 

「すばらしい…まさか失敗作であったお前がここまで強力な魔力を秘めていたとはな…

 

 さぁ22号よ!…我が命に従いそやつらを消すのだ!!」

 

「なっ…!?」

 

ギザロフのそんな命令にレイ達はどう対処して良いか分からず身構えるだけだった。

 

…だが…ロディは一行に動こうとはしなかった。

 

「どうした22号!私の命令が…」

 

「…だまれ…僕に命令するな。」

 

ギザロフの方を冷たく睨みロディがそう呟く。

 

「な!?…なんだと!」

 

「…お前には僕に命令するだけの力がない…か弱き存在が…調子に乗るな。」

 

「貴様こそ…失敗作の分際で!ダーク・ブラスター!!」『ドォゥッ!!!』

 

ギザロフの手から強大な闇が生まれたかと思うとそれらはロディに向かいそれに食らいついてくるが、

 

『シュパッ……』

 

ロディの体に触れる前にそれは霧散してしまった。

 

「…なんだい今のは?…もしかして攻撃してるつもりなのかい…脆弱な…

 

 攻撃ってのは…こうするんだよ……バスター・ライト。」『ゴォッ!!』

 

普段のロディの倍近い大きさの光がギザロフへと向けられた。

 

「ぐぅっ!!……ぐぉぉっー!」『ドガァッ!!』

 

とっさに障壁をはり防ごうとしたギザロフだったが防ぎきれず後方に激しく打ちつけられた。

 

「これが…ロディの…本当の力…」

 

レイ達はその光景をただ呆然と立ち尽くして眺めている事しか出来なかった。

 

 

「ロディ…大丈夫なのかい?」

 

辺りに静寂が戻りロディの様子が落ちついたころを見計らってレイがそう声を掛けた。

 

「ロディ?…そんな人間はいないさ…ここにいるのは君達と一つの人形がいるだけさ。」

 

「ロディ!…一体どうしたって言うの。いつものあなたらしくない…」

 

「違う……僕はロディなんかじゃない……戦争人形…22号…それが僕だ…」

 

「ロディ…お願いよ…いつものあなたに戻ってよ…私、そんなロディ見たくない。」

 

「ルフィ…ちが…違う…違うッ!!」

 

『ゴォゥッ!』

 

そんな悲痛な叫びと共にロディの体からは再び魔力が溢れだす。

 

「いや…だ……いきたくない…なぜ……僕はうまれたんだ……

 

 この世界さえなければ……そうか…それなら壊せばいい……僕がこの世界の全てをっ!!」

 

ロディがそう叫んだのと同時にロディの体は徐々に地面から離れ宙へと浮かびだす。

 

「兄さん達……安心してよ……あなた達の出番は永遠に回ってきはしないからっ!」

 

ロディが容器に手をあて、ゆっくりと手を振り上げた。

 

「…!?危ないッ、みんな伏せるんだ!」

 

レイは魔力の揺れを感じそう叫ぶ。

 

「消えろ…ホーリー・レイ!」

 

『キラッ……ドドドドドドドッ!!』

 

一瞬光が弾けたとおもったら部屋中に光の柱が降り注いできた。

 

その光の柱は寸分たがわず部屋中の容器全てを消し飛ばした。

 

「ふ……ふはははは!」

 

そんな悲しみを帯びた笑いを残しロディは部屋を破壊し尽くし飛び去っていった。

 

「ロディー!!」

 

「くっ…追うよ、フリード!!」『ピィィィー!』

 

そう言いシスティが竜笛を吹きフリードを呼び出す。

 

すると数秒と立たずフリードが先程ロディが破壊した壁の向こうにやって来た。

 

「さあ、みんな。早くフリードに乗って。」

 

システィにそう言われレイ達はフリードの背中に乗ってゆく。

 

「ぐぅっ……ま…て……」

 

そんなか細い声を出しながらギザロフが立ちあがってきた。

 

「お父様……私は…ロディと共に行きます。もう…あなたの人形にはなりたくありません!」

 

「おのれ…小娘が!」

 

「行くよみんな!…ロディを…追う!!」

 

ギザロフをその場に残しレイ達はロディを追い空へと飛び出した。

 

 

…その頃ランドゥ、カイン達…

 

「くっ…完全に囲まれたか…」

 

「くそったれ!…助けに来といてこの様か…なさけねぇっ…」

 

ミロワ軍は連合軍に対しシルバーウルフの加勢により虚をつきなんとか押していたのだが逆に押しこまれる形になった。

 

「行けぇっ!一気に攻め立てるのだ!」

 

パウルのそんな声に連合軍は活気付き止めといわんばかりに攻めこもうとして来た瞬間、

 

『キラッ………ドドドドドドドッ!!』

 

突如上空から光の柱が降り注ぎ両軍を消し飛ばしていった。

 

「な…何なんだ?」

 

カインが空を仰ぐと光をまとった人影が静かに戦場に降り立ってくるのが見えた。

 

「…なんで君達は殺し合うんだい?…あんた達は殺し合うために生まれてきたのか?」

 

「ボ…ボウズ……なのか。」

 

そう…降り立った人影はロディそのものだった。

 

「…君は…知っているよ……僕の方に会うのは初めてだろうけど…」

 

「お、おい。…一体どうしたっていうんだよ。」

 

「僕はね…全てを壊すんだ。この世界の全てをね…いいんだよ…逃げても…この僕から逃げられたらだけどね。」

 

カインのそんな問いにロディは冷たく笑って答えた。

 

「ボウズ…何がお前をそんなにしちまったって言うんだよ!?」

 

「来ないでくれ!!」

 

カインが歩み寄ろうとした瞬間、ロディがそんな声を上げる。

 

「いや…ダメ…だ……仲間は……殺したく……ない…カイ…ン…逃げ…て。……はや……にげ…」

 

「ボウズ…お前…」

 

「カイ…ン…僕はね……もう…

 

 何も…信じられない…考えたくない……この世界が憎い……自分を生んだこの世界がっ!!」『ゴォゥ!!』

 

ロディの呼応するかのようにロディの魔力が唸りを上げだす。

 

「だから…全てを壊すんだ…この世界をね…」

 

「な…何を考えてるんだよ!お前は…おまえはそんな人間だったのかよ!!」

 

「……違う。」

 

「なら…そんなバカな考えは…」

 

「違うんだ…僕は……人間じゃないから…」

 

「なっ……」

 

「くっ……何が何だかわからんが…全軍、あの小生意気なガキから血祭りに上げてやれッ!」

 

突然の乱入に頭に来たのか連合軍の矛先はロディへと変更された。

 

「なんで死に急ぐの……君達はいつかは死ぬ運命にあるって言うのに……

 

 そうか…みんな死にたいんだ…それなら…僕が今、殺してあげるよ!!」

 

ロディの周囲の魔力は更に膨れ上がり大地をも震撼させ始める。

 

「やめろ、ボウズ…やめるんだーー!!」

 

「消えろ!ホーリー・レイ!!」

 

『キラッ………ドドドドドドドッ!!』

 

カインの叫びをかき消すかのように光の柱が次々と大地へと降り注ぎ連合軍を消しとばして行く。

 

「ボ……ウ…ズ…」

 

そんな光景を目の前にしても何も出来ずカインはそう呟き漏らしていた。

 

 

「くっ…ひるむなっ、攻めたてろ!」

 

痛手を負いながらも連合軍は怯むことなくロディへと向かってくる。

 

「…そんなに死にたいんだ…せっかちだね…なら、望み通りにしてあげるよ!」

 

そう言い放ちロディは一人連合軍に突撃を開始する。

 

「くくく…ふははは…あっーははは!!」

 

そんな叫びを上げながらもロディは殺し続ける。

 

その叫びは悲しみの咆哮のようにも思えるほど悲痛なものだった。

 

「おい、ミロワの大将さんよ。今のうちの逃げるぞ!」

 

「なっ…どうやってこの包囲網から?」

 

「今ならボウズのおかげで相手の防衛網が薄くなっている…今なら突破できるぞ。」

 

「なるほど…よし、全軍180度転進、相手の防衛網を突破するぞ!!」

 

ロディの方に軍が向けられ薄くなった防衛網の一点を突きミロワ軍は撤退を開始した。

 

 

それから数分後…

 

戦場は最早荒野と化していた。

 

辺り一面に広がるつい数秒前まで人だったもの…

 

地面をえぐった後…まさに地獄絵図のような光景だった。

 

「パウル様!あの者のせいで我が軍はその3分の2をを殺されてしまいました。

 

 このままでは…全滅も時間の問題かと…」

 

「ぐぐぐぐ…くそっー!撤退だ!全軍撤退せよ!!」

 

軍の大部分を失ってしまった連合軍達は戦場から離脱を図り始めたのだった。

 

ロディはそれを追うことなくじっと見つめるだけだった。

 

「……ふ……ふははは…そう…逃げればいい…今は逃げろ…

 

 でも…僕が全てを壊すから……その時まで逃げ続けろ……そう…全てを…」

 

そう冷たく笑いロディは再び空を駆け始める。

 

「ロディ!!」

 

ようやくロディを発見したレイ達だったがその圧倒的なまでの速さの違いにロディを見失ってしまった。

 

 

…そして…ロディはその日を境に…その姿を消したのだった……

 

 

 

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