第14章『過ぎ去った嵐、失われた絆』
歴史上最大の戦争…つまりロディがいなくなってから1週間…
レイたちはミロワ中をくまなく捜索したがその姿を捉える事は出来なかった。
「…もう1週間か…ロディ、どこにいったんだろう。」
捜索を終え、全員が集まった中庭にあるテラス…
誰に言うわけでもなくレイはそんな言葉を呟き漏らした。
「…確かに…やはりこの国にはいないのでは…」
「その可能性は高いな。今のあいつは単独で空を飛ぶ事だってて出来るんだぜ。
それにあの力…あれに対抗できる奴なんかいやしねーよ。」
「………」
ジェントのそんな言葉に,一同はさらに暗く落ちこむ。
「そ、そう言えば…ルフィミア、マリオスの様子は…?」
「…取り敢えずは落ちつきました。多分…ここの所、休もうともせずロディを探していたから…
その疲れがたまって倒れたんじゃないかと思います。」
…そう…マリオスは昨日城に帰ってくるなり、熱を出し倒れたのだった。
ロディがいなくなってから自分の事を顧みずに捜索を続けていたためだった。
「でも…これだけ探してもいないなんて…やはりここは他の国に入り捜索するべきだと…」
「確かに夕華の言う通りなんだけど…この間の戦争のせいで国同士の関係が…ね。」
「そうでござるよ、お主はそういう任務は得意でも他の方達は…」
「だけど…このままミロワのみを探し続けても…」
夕華の言葉に一行は沈黙してしまう。
確かにミロワというミロワはもう既に回りきった、ならば他の国も探すべきなのだが…
戦争の後遺症からか各国の仲は最早冷戦状態。
下手に事を進めればどうなるかは分からないのだ。
「いよう、こんな所で作戦会議か?」
そんな一同の前に元シルバーウルフの頭、カイン=エルロンがやって来た。
「カインさん!?あなたは仲間と帰ったんじゃ…」
「それがよ…ランドゥのおっさんに『わが国にいてくれないか?』って言われてよ。
それに…まだあのボウズにかりを返してないんでな。」
「そうなんですか…」
「それで…お前等はあのボウズを探すための作戦会議ってとこか。」
「えぇ…ミロワ中はくまなく捜したのでもうあてがなくて…これからどうしようかなって。」
「あいつは確か…この世界の全てを壊すって言ってたな…
確かにあれだけの圧倒的な力があればそれなんか造作もない事なんだろうが…」
「そう…ロディは動いてないんです。つまり、何らかの理由から彼が動けなくなってるんです。」
「何らかの理由?」
「…おそらく力の回復ってとこだろうな。いくらなんでも魔力は無限にあるなんて考えにくいな。
もしそうなら、既に動いていたっておかしくないぜ。」
「確かに…となれば今は潜伏期間ということでござるか。」
「うん…そして力が戻ったら…ロディは…」
「…この世界を壊し始めるんだろうな。」
全員が口にしたくなかったその言葉をカインは察してか、小さく呟いた。
「ふみぃ…それなら早くロディちゃんを探しに行かないと大変ですよ。」
「…分かってるから、こうやって考えてるんだろうが。」
「この国以外の場所で身を隠せそうなところ…か。」
レイのその言葉に自分が知る限りの知識の中でその場所を探す一行だったが、いち早く口を開いたのはシスティだった。
「…今のロディなら行けて…他の人間が寄りつかない場所なら、私…一つ知ってる。」
「それはどこなんだい?」
「…私の故郷…ウィンディア。」
ウィンディア…ほんの2年ほど前レミントンにより滅ぼされた竜騎士達の国。
高い山々に囲まれた国で、自身も標高1000メートルの山の頂上に首都を構えていた国だ。
「ウィンディア…か、確かにそこなら他の人間は行こうともしないし、今のロディなら…」
「その条件であればわが故郷・神の国もそうでござるな。」
神の国といえばグランディア大陸の外れにある島国で自分の国の文化を外に出そうとせず、
他の国との交流を閉ざした国…交通手段は船で渡るしかないのだが、今のロディには海など障害にもなりはしない。
「ウィンディアに…神か…可能性としてはないわけじゃないね。」
「…それなら、白の森もそうだな。」
「白の森?それって確か…」
「あぁ、エルフ達の聖域だ。」
白の森はハバリアの南に広がる大森林でジェントの故郷でもある黒の森の対極に位置する森で、
人間はおろかダークエルフさえも近寄る事が許されない…まさにエルフ達の聖域だった。
「でも…あの森に人間がはいることは…」
そこまで言葉が出かけてレイは、はっと口を塞ぐ。
…そう…人間には入る事が許されない森…
だが…ロディは……
「白の森か…そこも考えられるな。」
カインのそんな言葉に全員が静かに頷く。
誰もがロディが人間でない事を口にしないように…
「これぐらいかな、みんなの意見は。」
「…そうだな…確率としてはないに等しいかもしれんが、俺にもひとつ心当たりがある。」
「カインにも?それは一体…」
「この前の戦場からそう離れてない所によ、俺達が以前使ってたアジトがあるんだが…
そこは深い森の中にある事と、俺達がいたせいか地元の人間は全く寄りつかなくなってな、
身を隠すにはもってこいの場所ってわけなんだなんだ。」
「なるほど…そこも何だか妖しいね。」
「これで4箇所が該当したわけか…多いな。」
「一つ一つ回っていたら…時間が…」
「う〜ん……よし、ここは危険だけど4つ同時に取りかかろう。」
「4つ同時に?」
「あぁ、ウィンディア・神・白の森・カインの言った森…その4箇所を同時に調べるんだ。」
「時間がないんだ、それが一番だろうな。」
「それならば神には拙者が参ろう、それがしの故郷です…勝手は分かっているでござるから。」
「でも…紫苑は確か追われる身じゃ…」
「なら私も付いて行こう。その追撃者でもある私が付いて行けばどうとでも言い訳がききます。」
「ふん…なら俺は白の森だな。一応人間ではないんだ簡単に殺されはしないだろう。」
「じゃあじゃあ、セアラも付いていくです。セアラは獣人ですから大丈夫です。」
「そうだね…確かに君達しかその森には入れそうにはないもんね。
それじゃあ、神には紫苑・夕華…白の森はジェント・セアラ…あとの二つは…」
「そんじゃあ俺が言い出したんだ、アジトの方には俺が行くさ。」
「では…私がカインさんについていきます。」
カインのその言葉にルフィミアがそう申し出る。
「嬢ちゃんが?だがあそこはかなり険しい森だぞ?」
「ですが…一人でそんな所に行く方がよっぽど危険です。
それにそこはパーシルの領地…万が一の時、私がいれば何があっても穏便に事が済みます。」
「確かに嬢ちゃんはパーシルの有名人だがよ…」
「カイン…君の負けだね。」
「…だな。わかった、そんじゃよろしく頼むぜ嬢ちゃん。」
「はい、まかされちゃいます。」
「って事は…あたしとレイでウィンディアに行くの?」
「そうなるけど…嫌かい?」
「う、うぅん!そんな事ない、絶対!」
「そう?それなら行動を開始するよ、タイムリミットは今日から1週間。
帰ってくる時間も考えて行動してね。何もないと感じたらここにもどって来るんだよ。」
レイのそんな言葉にそれぞれが自分の目的地へと向かい動き始めたのだった…
フリードの背に乗りレイとシスティの二人は、遥か北の山脈のウィンディアを目指していた。
「システィ。ウィンディアには後どれぐらいで着くんだい?」
「そうだね…もう少しで見えてくるはずなんだけど…あっ、あれだよ。」
「えっ…」
嬉しそうに前方の山を指差すシスティにそう言われ見てみると確かに山の頂きに城らしきものが見えた。
「あれが…ウィンディア。」
「レイ、今はあそこの中に直接降りられないから少し手前の盆地に下りるよ。」
「あっ…う、うん。分かったよ。」
心なしかレイをせかす様にシスティはフリードを急がせ先程言っていた盆地に降り立った。
レイたちが降り立った盆地は別段変わった所はなかったが辺りにはちらほらと戦闘の後が見えた。
「これは…」
「レミントンの奴等の攻撃の後さ。あたし達を空から引き摺り下ろす為の…ね。」
無限とも思えるほどの矢の数…稲妻の呪文によりえぐれた大地…
所々焼け焦げた跡の残る山々…そして、
「これって…もしかして…」
「……あぁ…飛竜の骨さ。」
様々な場所に突き刺さる様に点在する飛竜達の骨があった。
「竜騎士ってのは飛竜をやられたら後は落ちるだけ…
運良く助かったとしてもまともに戦えなんかしない…それにこの険しい山肌に叩き付けられたらいくら竜といえど…」
システィはその先の言葉を続けはしなかった。
それだけでも2年前の侵略が悲惨なものであることがふつふつとレイに伝わってきていた。
「…さぁ、ウィンディアの城下の方に行ってみよう。
何か…新しいことが分かるかもしれないしさ。」
「…うん。」
暗く落ちこんだ雰囲気を打ち消す様に極めて明るい声でレイはシスティをそう呼び城下の方へと歩いていった。
ウィンディアの城下にたどり着いたレイたちの目の前にはさらに悲惨な光景が広がっていた。
穴の開けられた城壁…崩れ落ちた建物達…そして…破壊されつくした生活の後がそこにあった。
「こんな…こんなの…酷すぎるよ。」
その光景を目の当りにしたレイの口からはそんな言葉しか出てこなかった。
「これ…」
システィは足元に少し焼けてしまった人形を見つけそれを手にした。
「人形?どんな女の子の物だったんだろうね。」
「あたしだけ…あたしだけが生き延びてしまった…」
「システィ?」
「みんないなくなったのに…あたしなんかだけが生き残ってしまった!」
システィはその人形を抱きしめながらタガが外れた様に泣き崩れだした。
「システィ…そんな風に自分を責めたらダメだよ。」
「だけど!」
「いいかい…君が生き残ってることをこの国の誰もが責めたりはしないさ。
君は生き残されたんだよ?この国の無念を晴らすため…それをこの大陸のみんなに教えるためにも…」
「う……うわぁぁぁっ!」
レイのそんな優しい言葉に今度はレイの胸にすがりながら泣き出した。
「大丈夫…君は間違ってなんかはいない…それは僕達みんなが知ってるから…」
レイはシスティが落ち着くまでそうやって優しく抱きとめ続けるのだった……
「…えっと…ごめんね、なんかみっともない所見せちゃって。」
数分後…落ち着きを取り戻したシスティはばつが悪そうにそう言った。
「気にしなくて良いよ。僕だって自分の故郷がこんな風になったらそうなると思うから…」
「…ありがとう。」
「さぁ、今度は城の方にも行ってみようよ。何か分かるかもしれないからさ。」
「そうだね。」
こうして二人は破壊された町の中を慎重に抜けウィンディア城へと向かった。
城に向かって行くにつれ所々攻撃を受けた跡があったが街の中心ほどの酷さは見られなかった。
「実はさ…城の方はそこまで酷い事になってないかもしれない。」
「?…どうしてだい?」
「この国の兵力の殆どが町に潜んでいた宣教者達に向けられたからさ…
城の方は守りが薄くなった所を一気に突かれたし、国王自らが飛竜を駆け先陣を切ってたから…」
「そうなんだ…」
そうこう言っている内に二人は城へと辿りついた。
システィの言う通り確かにあちらこちらに戦闘の跡があるものの街ほどの損害は見られなかった。
「ここに来るの…本当に懐かしいよ。」
「そうだよね…システィはここの竜騎士だもんね。
…そう言えば…システィはその騎士団でどんな役職を持ってたの?」
「…言ってなかったけ?あたしは…!?」
そこまで口にしてシスティはある異変に気がついた。
「どうしたんだい、システィ?」
「レイ…あそこ…何だかおかしいよ。」
システィが指差した先…そこには幾つかの戦闘跡があるだけ…
ただ一つ違ったのは、その跡は他のどの部分とも一致しなかったのだ。
「これは…一体?」
レイはその場に近寄り詳しく見てみるがやはり明らかに異質なものだった。
えぐれた地面…何か強烈な温度で溶かされた跡…
そして…おそらく交戦していた者が使ったていたと思われる武具達…だがそれらも黒く焼き焦げており、消し炭とかしていた。
さらに驚いたことはそれらに手を当ててみるとかすかに温もりを感じたことだった。
「温かい…ここで起こっていた戦闘はごく最近のものだというのか?」
「多分…だってこの跡は…」
そう…この戦闘後はレイ達も見たことがあるものだった…ごく最近に…
「ロディがやったって訳か…」
「おそらくはね…」
…カラッ…
「!?」
不意にそんな音とともになにかの気配を感じたレイ達は自然と剣に手を当てていた。
「誰だ!」
「…レミントンの手のものか?」
「レミントン…違う、僕達は人を探してこの国にやって来ただけで…」
「その証拠はあるのか?…我等この国の守護者…この国に害を成すものは何人でも容赦はしない!」
「しょ、証拠って言ったって…」
どう答えてい良いか分からず戸惑うレイより1歩踏み出しシスティがゆっくりと口を開いた。
「その声…竜騎士団団長…ガルナね。」
「!?…何故それがしのことを…お主…何者っ!」
「私の声を忘れたって言うの、ガルナ。長年この国に仕えてきたあなたが?」
「……!もしや…い、いやしかし…」
システィの言葉に声の主は明らかに戸惑っていた。
「まだ信じられないって言うの?」
「…それを決定付ける証拠が…」
「じゃあ、私達の姿をその目で確認してみたらどうなの?」
「ぬぅぅ…しかし…もし罠だとすれば…」
「ったく…これなら満足でしょ。」
『ピィィィィッ!』
そんな声に頭にきたのかシスティは懐から竜笛を取り出し吹き鳴らす…
するとその上空を旋回する様にフリードが飛び回りだした。
「あれは…フリード!…それでは…本当に…」
「はじめからそう言ってるじゃない。」
その事実に突き動かされ物陰から人影が三つ出てきたかと思うとシスティの目の前でその膝を付いた。
「お帰りなさいませ、姫様!」
「うん、ただいま。」
システィはその言葉を何ら変わらぬ様子で受け止めていたが隣のレイは驚き立ち尽くしていた。
「システィ…お姫様だったんだ…」
「そうだけど…知らなかった?」
「…聞いてないよ。…でも、なんで隠してたんだい?」
「隠してるつもりじゃなかったんだけどね…だって誰もあたしに『お姫様ですか?』って聞かなかったし。」
「普通はそんなこと聞かないって…」
「姫様…こちらの方は…?」
そんな光景を目にし呆然としていたガルナが遠慮がちに口を挟んできた。
「あぁ…二人は初対面だったね。レイ、この人はウィンディア竜騎士団団長ガルナ。
ウィンディアに30年も仕えていた重鎮の一人。」
「初めまして、ガルナ=ルクシオスと申します。」
「そんでガルナ。この人はレイ、私が今一緒に行動してる仲間の一人なんだ。」
「どうも…レイ=クラウディアです。」
「クラウディア…?それではあの、ライナール国の…?」
「え…えぇ、末弟にあたります。」
「おぉ、そうでございましたか。それはとんだご無礼を…グレック殿には大変お世話に…父上殿はお元気ですか?」
「あっ…その……」
ガルナのそんな言葉にどう言ってよいか戸惑うレイだったが、
「ガルナ…こんなとこで話ってのもなんだし…どこか腰を落ち着けて話せる所ってない?」
そんなレイを見かねてかシスティはそう声を掛けた。
「そうでございましたな。私としたことが気がつかず…ささ、こちらにどうぞ。私達の隠れ屋がございますので…」
ガルナにそう言われ二人は後を付いて行くのだった…
ガルナに連れられついた場所は城の地下に作られた隠し部屋のような場所でそこには他にも何人かの兵士達がいた。
だが…その大半は負傷者達だった。
「ガルナ…これは…」
「はい…あの激戦を生き残った騎士団の者達です。」
「こんなの…どうしてちゃんとした治療を…」
「今の我々には…これが精一杯なんです。薬も底をつき、医者もいません…私達が出来るのはここまでなんです。」
「でも…他の国にでも行けば…」
「レイ殿…わが国を滅ぼしたのはあのレミントンなのです。
レミントンは最早この大陸中に知れ渡った宗教団体…神殿騎士達のいい的になるだけなのです。
それに…私達にはこの国を守らなければならないという使命があるのです。」
「だけど!」
「…すみませぬ…我等にはどうすることも…」
「…それなら、僕に手伝わせてください。」
「レイ殿?」
レイはそう言うと負傷兵のもとに近寄った。
「大丈夫ですか?…今…楽にしてあげますから…」
そう呟きながらレイは負傷兵に回復呪文をかけ始めるのだった。
「これは…生命の呪文!?レイ殿にはこのような力が…」
「うっ!……あぁぁ…」
「大丈夫ですか?」
「は…はい。ありがとうございます、随分楽になりました。」
先程まで動かすこともままならなかった体を起こしながら男はレイに頭を下げた。
「いいんですよ、このぐらい。」
「あ…あの…」
その光景を目にしてか他の兵士達が何かを訴えかける様に声を掛けてきた。
「えぇ、分かってますよ。慌てないで下さい、ちゃんと順番に回っていきますから。」
レイはそう言いながらも二人目の治療に取り掛かっていた。
「レイ殿…生命の呪文は使用者に大きな疲労を与えると聞くのに…」
「ああ言う奴なんだよ、レイって。目の前の不幸をほっとけない…お人好し屋なんだ。」
「…やはり…グレック殿のご子息だけあります…なんとも立派な御方だ。」
二人はそのレイの治療が終わるまでその場を離れようとせず、ただ…じっと見つめていた。
「レイ殿には本当に…なんとお礼を言ってよいやら…このガルナご恩は一生忘れません。」
「い…いえ。いいんですよ、僕には…これぐらいしか出来ませんから。」
治療を終えたばかりで多少ふらつきながらもレイは明るくそう答えた。
「本当にグレック殿はいいご子息を持たれましたな。」
「そんな事ないですよ…僕なんか…」
「いえいえ…ところで…グレック殿はどうしておられますか?元気でいらっしゃるでしょうか?」
「えっ…っと…その…」
再度きたその質問に言葉が止まってしまったレイだったがやがて決心した様に口を開いた。
「…父は…グレックは…殺されました…」
「なっ!?…何ですと!…あのグレック殿が…」
「…そして…その父を殺した相手というのが…僕の兄、レナスとサイレスです。」
「バカな…あの聡明そうな二人が…実の父を…」
「この事実は公表はされてはいないものです。…でも僕は見てしまった…
父が倒れたあの日…兄達が父の食事に毒を盛り…殺したと言っていた所を!」
「………」
「だから僕は逃げたんです…この事実を誰かに話すために、そして…自分の命を守るために。」
「そんなことが…すみませぬ、そうとは知らずなんと無神経な質問を…」
「いえ、いいんですよ。」
「そ、そんな事よりもさ。ガルナ、少し聞きたい事があるんだけどさ。」
「はい、なんでしょうか姫様。」
「ここにいるのって…」
「…はい、先程も言った通りあの戦いの後の生き残りです。」
「あたし以外にもちゃんと生き残っててくれたんだ。」
「…姫様をお逃がした我等は最後まで抵抗を続けたのですが力及ばず…
主も失い一度は死を決意したのですが、姫のことが唯一の気がかりで…今日まで生き延びた次第でございます。」
「そっか…でも、本当によく生き残ってくれたね。あたし…あたし以外皆殺しにされたんだって…」
「ご安心を。我等自国の無念を晴らすまでおいそれと死ぬ訳にはいきませぬ。」
「でも…それにしてはさっきの警戒ぶり…あれは相当なものだったけど…何かあったの?」
「…実は…つい先日の事なのですが…この国に再度神殿騎士達が攻め込んで来たのです。」
「えっ…どうして?ここを攻めても良い事なんて何もないのに…」
「それが…やつらが言うには教会に斬り込んできた竜騎士がいたとかで…
それで、この国に潜伏しているのではないかと侵攻してきたようなのです。」
「教会に…斬り込んできた…竜騎士……あ…あはは…」
「我々の中にはその様な事をした者などおりませんし…一体どこの誰がそんな事を…」
「え…えっとねガルナ…言いにくいんだけど……それ、あたしなんだ。」
「…はい?」
「あたしが一人で教会に斬りこんで…そこでレイ達に出会ったんだ。」
「な……なんと、姫様でございましたか。」
「う…うん。…みんなが殺されたと思っていたから…その仇が討ちたくて…ごめんね、勝手な事して…」
「いいえ。我等の方こそ…本来ならばそれは我等が役目。それを姫様に…申し訳ございませぬ。」
「い、いや…そんな事…私が勝手にやったことだし…」
「…しかし…それならば、なぜ姫様がここに?我等の存在を知らなかったご様子でしたし…」
「あぁ…その事なんだけどね。今日ここにきたのは人探しにきたんだ。」
「人探し…ですか。」
「うん。あたしの仲間の一人なんだけどね…背格好はあたしと同じぐらいの男で…ジャンパーを羽織ってて…後は…」
「姫様と同じような背で…ジャンパーを羽織った青年…?」
「ガルナ様…先日の青年では…?」
その話を聞いていた兵士がガルナにそう耳打ちをしてきた。
「何か…知ってるんですか?」
「…その青年かどうかは分からないのですが…先日、神殿騎士達が侵攻してきたことはお話ししましたね。」
「うん、あたしのせいでみんなが被害をこうむっちゃったみたいで…」
「その時の事なのですが、我等は先程レイ殿が治療を施してくれるまでまともに動けるものはほんの数人でした…
そんな我等に抵抗する力は殆どなく…全滅をも覚悟しました…が。」
「どうなったの?」
「…空が急に光ったかと思うと光の柱が降り注いできて神殿騎士たちを一瞬にして消し去ってしまったのです。」
「光の…柱!?」
「目を疑った我等の前に光をまとった青年が下りてきて…私達に問い正してきたのです…
『お前達も僕と戦いたいのか?』と…我等が戦う事は出来ないというと再び空の彼方に去っていったのです…」
「やっぱり…あの戦いの跡は…」
「はい…姫様たちがいた場所こそ…その戦いの跡だったのです。」
「思った通りだったね…ロディはこの国にきたんだ。」
「しかし…あの青年…本当に姫様の仲間だったのでしょうか?
あれほどまでに強大な力…それに自分の体一つで空を自在に飛べる人間など…」
「…その事なんだけどねガルナ…実は彼は……」
システィはロディの素性を包み隠さずガルナに話した。
記憶を失っていた事、ミロワの為に戦っていた事…そして作られた命であったという事…
「そ、その様な事が…しかし、人の手で命を作り出すなど…」
「信じられないと思うけど…事実だったんだ…それで…ロディは…この世界の全てを否定したんだ。」
「そうですか……それで、姫様たちはこれからどうするおつもりで?」
「ロディがここに来たってことが分かっただけで充分なんだけど…」
「それなら、今夜はここにお泊まり下さい。もう日が暮れてしまいますし…」
「そうだね…レイ、それでいいかな?」
「構わないよ。久しぶりに会ったんだし…積もる話しもあるだろうからさ。」
「ありがと。それじゃあガルナ、お世話になるね。」
「はい、すぐに部屋の方も準備させますので…」
こうしてレイ達は一晩ウィンディアに滞在する事にしたのだった…
皆が寝静まった頃…レイは一人ガルナが話していてくれたあの現場にいた。
「ロディ…君は本当に…この世界を…」
そんな事を呟きながら現場を眺めていたレイの背後に近づく影があった。
「レイ…眠れないの?」
「システィ…うん、ちょっとね。」
「……隣に座ってもいい?」
「え?…別に構わないよ。」
レイにそんな了承を貰ってからシスティはその隣に腰掛けた。
「ロディのこと…考えてたの?」
「うん…僕が…ロディみたいな境遇だったら…どうなってたかな…ってね。」
「ロディみたいな?」
「…以前さ、ロディが言ってたんだ。…自分の中にもう一人の自分がいるみたいだって…
あれって、今思えばロディの中に眠ってた戦争人形としての人格なんじゃなかったのかって思ってさ。
…ロディ、不安だったんだと思う。自分が何者なのか…どんな過去を持っていたのか…」
「…そうだろうね。あたしだってそんな事になったら不安でたまらないよ。」
「だからさ、ロディの過去にパーシルが関係していたって分かったら何が何でもロディをパーシルに連れて行きたかった。
それで記憶を取り戻して不安をなくして欲しかったんだ。…だけど…」
「だけど?」
「パーシルに行き真実を知った時…僕は…驚きと同時に恐怖を抱いた。
人工生命体である事に…そんなのと僕は一緒に旅をしていたのかって事に!」
「レイ…」
「だけど!…だけど…それ以上に…あの時のロディの悲しそうな表情を忘れられないんだ。
信じていたものに裏切られ、全てに絶望したあの顔が…瞳が…僕は…取り返しのつかない事をしてしまったんだ…」
「………」
「なぜ…なぜあの時…僕はロディに声を掛けられなかったんだろう…
一言でよかった…『君が何者であろうと、僕達の大事な仲間なんだ』って…それだけ言えれば…
だけど言えなかったんだ。…僕の胸にはロディに対する確かな恐怖があったから…言えなかった。」
レイは身を震わせながらも切実にそう叫んでいた。
「レイ…そんなに自分を責めないで。…あたしだって…あの時なにも…」
「それでも…僕はロディに謝らないといけないんだ。
そして…今度ははっきりと言ってあげたいんだ。『君は僕達の大事な仲間なんだ』ってね。」
「…うん、そうだね。」
二人はどちらからともなく月を眺めていた…
その日の月は三日月…その回りに輝く無数の星…ロディも今この空を見ているのか…
…キラッ……
そんな事を考えていると不意に空が光ったような感じがした。
「?…今…空が…」
「………!?システィ、伏せるんだ!!」
「へっ?」
なんの事だか分からず戸惑っているシスティを抱え地面に伏せるのと同時に爆発音と共に激しい炎が降って来た。
「くっ!!」「きゃっ!!」
とっさに伏せた事により炎をやり過ごしたレイ達の目の前に一つの影が降り立った。
「ん?…もしやと思ったのだが…やはりまだ生き残っているものがいたのか。」
「な、何者だっ!」
そう言い顔を上げたレイの目の前にはどこかみたことがある異形のもの…
「我はユグドラシア様が眷属…魔人ヴォルケス。ユグドラシア様の命によりラーナ神器を貰い受けにきた。」
「ラーナ神器…だって?なぜそんな物が…この国にあるって言うのか?」
「そうだ。あれらは我等の悲願の大いなる妨げになる。さぁ…素直に渡すんだな。
そうすれば苦しまずに楽に死なせてやろう。」
「ふざけるんじゃ…ないわよ!!」
『シュゴォッ!!』
そう言い放つと同時にシスティの飛翔剣がヴォルケスに向かって行く…が、
『ガッ!!』
ヴォルケスによりそれはあっさりと掴まえられてしまう。
「ふん…この程度のもので我を殺せるとでも思ったか。」
『バキッ……』
そんな鈍い音と共にシスティの剣は粉々に砕かれてしまった。
「私の…剣が。」
「システィ!気をつけるんだ、こいつは…そこらの魔物なんかとは比べ物にならない強さなんだ。」
レイはそう言い剣を抜き放った。
「バカな事を言うな…そこらの魔物どもなんかと一緒にするなよ。
…我等と奴らでは次元が違うんだよ。」
「くっ…」
「…レイ…一体どうやってあいつを倒せばいいんだい?」
「……わからない…あの時はロディとマリオスが撃退してくれたから…
あいつには生半可なダメージは通りはしないんだ。」
「そんな!?それじゃあどうやって…」
「…あの時は…ロディの攻撃力をマリオスの力で爆発的に上昇させて、なんとか相手に痛手を負わせたんだけど…
今の僕達にはその両方ともが実行できないからね。」
「打つ手無しなの?」
「…何か強力な要素があれば…あいつに通用するような…何かが!」
「強力な…何か…」
「だけどそんな事もいってられない。無い物ねだりしてる場合じゃないからね。
もしこの国に本当にラーナ神器があるというのならばそんな大事なもの…あいつに渡すわけにはいかないから!」
「ラーナ…神器…強力な何か…そうよ、それなのよ!」
「システィ?」
「レイ…お願い、なんとかあいつを食い止めてて。私に良い考えがあるから。」
「良い考え…?…分かった、君を信じるよ。」
「絶対…死なないでよ!」
そう言いシスティはその場から走り去ろうとするが…
「逃がすものか!」
魔人はそれを阻止し様と詰め寄る!
「お前の相手は…僕だ!!」
『ドゴッ!!』
しかし…レイの一撃に阻まれてしまった。
「ぐぅっ!…生意気な。……ん?お前のその紋章は…」
ヴォルケスはレイの剣を見るなり考えこみだした。
「な…なんだって言うんだよ。」
「…お前がクラウディアの末弟か。ふふん…聞いていた通りの甘ちゃんなんだな。」
「なっ!…魔人であるお前が…なぜクラウディアの紋章を!?」
「……知りたくば俺を倒してみる事だな。…どだいお前には無理な事だが…」
「あまり…人をなめるんじゃないぞ。」
「ふん…たかが人間一匹に…」
『ズガッ!!』
そこまで言いかけたヴォルケスの脇に飛翔剣が放たれていた。
「レイ殿!姫様の命により助太刀致すぞ!」
同時に数人の竜騎士達がヴォルケスを取り囲む様に現れた。
「…ふ…おもしろい…やれるものならやってみるんだな!」
一方…システィは崩れかけた王城に一人足を踏み入れていた。
「確信はない…けど、父上の話しが本当だったらあそこに!」
そう言いながらシスティが踏み入ったのは玉座の間…
「…たしか…この玉座の後ろの壁が…」
自分の記憶を辿りながら玉座の後ろの壁を調べてみると…
『…ガゴッ!………ゴゴゴゴゴ。』
そんな音と共にゆっくりと壁が開いていった。
「ここが…そうなの?」
半心半疑になりながらもその先に続いている通路に1歩…また1歩と足を踏み入れていった…
もうどれだけ歩き、どれだけ地下に下りたかは分からないがシスティは確かに先に進んでいた。
「いったい…どこまで行けば…」
システィがそんな事を口にした時、目の前の通路が明るくなっている事に気がついた。
「やっと終点ね。」
少し足を速め先を急ぐシスティだったが、明かりの先に出てその光景に驚き戸惑った。
「えっ…なにこれ……地底湖?」
そう…システィの目の前に現れたのは、巨大な地底湖だった。
「こんなの…一体どこに行けば…?」
取りあえず辺りを見まわしてみると地底湖の中央に小さな祠があるのが見えた。
「…あそこに行けば良いのかしら。」
システィはその祠に続く通路を渡り祠へと辿りつくが…
「…何者だ…」
祠を眼前にした時、不意にそんな声が聞こえた。
「…だ、誰?」
「…ここはウィンディア王家の者しか足を踏み入ることは出来ない聖域…早々に立ち去るがよい。」
「わ、私はれっきとした王家のものよ!」
「…ならばその証を見せよ。」
「あ、あかし?」
「貴様が嘘偽り無く王家の者であることを我に示せ。」
「証って言われても…」
そう言い必死に何かないかと探り出すシスティ…
「…え〜と…これしかないんだけど…」
システィはそう言い唯一自分が父から受け継いだ竜笛を取り出した。
「それは…」
「えと…一応父上から貰った物なんだけど…やっぱこれじゃあ…」
「まさしく王家に伝わる『聖竜の笛』…お前が我が力を継ぐ者だというのか…」
「えっ?」
「先に進むがよい…我が力…お前に託そうぞ。」
システィは何だか納得のいかない顔のまま先へと進む…
祠の中央には何も無く、ただ祠がそこにあるだけといった感じだった。
「それで…一体どうすればいいの?」
「ふむ…まずお前に問う…なぜ我が力を欲する?」
「なんでって…守りたいものを守るためには力がいる…それだけよ。」
「お前は…他人の為に力を欲するのか?」
「そうよ。もう一度あって謝りたい人がいる…それに、今私を信じて戦っている人がいる!
そんなみんなを守るために…私には力が必要なの。」
「そうか…その覚悟が本物か…見させてもらうぞ…」
『ゴォォォォッ!!』
そう言い終えると同時に突如祠の中央から凄まじいばかりの炎の柱が現れた。
「きゃっ!…な、なんなの?」
それに驚きながらも目をやると、その炎の中心で何かが揺らめいていた。
「あ…あれって…」
「そうだ…それこそがお前が求めた力…さぁ…手にするがいい…」
「するがいいって…こんなのに手を入れたら…」
「どうした…怖いのか?」
「なっ!?」
「それとも…お前の覚悟というのはこれしきの事で折れてしまうほど脆いものだったのか?」
「………ふざけないでよね。」
「…ほう。」
「システィ=ウィンディア…たとえ人からどう言われようとも、自分の言葉を曲げたりはしない!」
『ドォゥッ!』
気合を入れシスティは勢いよく炎の中に手を突き入れる。
「うぁっ!!……これぐらい…で…あぁぁぁっ!!」
たまらなくなり手を引き抜くが…そこにはあるべきものが無かった。
「わ…私の…右手が…」
「…神の炎に耐えられず消えたか…予想していた通りだったな。」
「あ…あんた、こうなるって始めから…」
「分かっていた…人間の体がその神の炎に耐えれるはずが無いからな…」
「ひ、卑怯よ!こんなの…誰も取れるわけがないじゃない!!」
「…そうだ…だからこの数100年…一人としてそれを手にしたものはいない…
はじめに手にした私以外…だれもな…」
「くっ…そんな…」
「どうする。もう諦め逃げ帰るか?ただ腕が一つ無くなっただけ…なんとか生きる事はできよう。」
「…残念ね…私の辞書に…逃げるって文字は無いのよ!!」
『シュゴォゥッ!!』
そう言いシスティが左手を突き入れると同時に炎が巻きついて来る。
「あぁぁぁっっ!!」
炎による痛みを堪えながらどんどんと手を入れて行き、やがて…
『…コツン…』
その先に何かが触れた。
「やった、これで…」
そしてそれを手にしようと力を入れるが反応は無い…
「ヴッ…ぁぁぁぁっ!!」
遂には両手を失ってしまったシスティに例えない様の無い激痛が走る。
「だから忠告したのだ…両の腕がなくなる前に止めろと…」
「うぁっ……あがぁっ!」
「勇ましき姫よ…諦めよ。人の身に神の炎を退ける力は無い。」
「…い……言った筈……わ、私の辞書に…逃げるって文字は…ない…って。」
痛む両腕の跡…それを堪えながらもシスティは負けじと立ち上がった。
「だがどうするつもりだ?お前にはもう腕が無い…力を手にしてもそれを振るうことは…」
「手がダメなら…口で使うまでなのよ!」
そう言うと今度は自分の体ごと炎の中に投げ入れたのだった。
「ば、バカな!そんな事…体が持つはずが無い!止めるのだ!!」
「言ったでしょ…今外には…私を信じて…戦っている人がいる…会わなければならない…人がいる……
約束したのよ…戻ってくるからって……私は……約束を破るのが大っ嫌いなのよ!!」
そう言い炎の中を進み目の前にそれを捉えた瞬間、不意にバランスを失い倒れこんでしまう。
「そ…そんな…」
見ると足が徐々になくなっていくのが見える。
痛みが重なりすぎて痛みを感じる事も無い…
そして…全ての意識が消え失せようとした時…
「……我の…負けだ…」
そんな声と共に全てが失われていった……
次の瞬間…気が付くとシスティは先程の祠の前に立っていた。
もちろん両の腕も足も揃っている。
「これは……今の?」
「…我が見せた幻だ。」
「まぼろ…し…今のが。」
「そうだ。我が与えし最後の試練…それが今の幻だ。」
「最後の…試練?」
「さよう…この力は手にした者によってその運命を左右するもの…
悪しき心の者に渡すわけにはいかないのでな…」
「でも…今の痛みは…」
「神の炎は人の弱き心に降り注ぐもの…あの時お前が感じたのは自分の弱き心が消えて行く痛みだったのだ。」
「心…の弱さ…」
「さぁ…神の試練に打ち勝った者よ、その力…己が手にするが良い!」
そんな言葉が聞こえた瞬間、目の前に一対の剣が姿を見せた。
「こ…これは…」
「ラーナが与えし12の神器の一つ…双対剣フォースソード。」
「双対剣…フォースソード…」
「持ち手の心の強さを刃に纏わせ力にする剣…今のお主になら使いこなせよう。」
「これが…ラーナ神器…」
そっと手を伸ばしその剣を手にしてみると、どことなく温かく…そして体の奥底から力強さを感じてくる。
「すごい…なんだか…力が溢れてくる…」
「…それこそが継承者のしるし…やっとこれで…我もその役目を終えれる…」
「えっ…」
「この永き時の中での守護者の任からようやく…解き放たれるのだ。」
「どう言うこと?」
「…我かつて聖戦士と呼ばれた者…この国の祖であり剣の守護者となった…」
「そ…それじゃあ…あなたは!」
「さらばだ…新たなる希望の光よ…その力…決して誤った方向には……」
声は段々か細くなりそして…完全にその気配は失われてしまった。
「……ありがとう…今はもう行きます。私を…待っている人のためにも!」
そう呟くと剣を腰に納め急ぎ道を戻りだしたのだった……
「くっ!…やっぱり、僕の実力じゃ傷を負わせる事すらできないって言うのか。」
一方…魔人ヴォルケスと対峙しているレイ達は苦戦を強いられていた。
「どうした?はじめの威勢はどこにいったやら…無駄なんだよ、人間には我に傷を負わす事すらかなわんのだ。」
「レイ殿…このままではとても…姫様が戻られるまでもちそうも…」
傷を負い戦う事のできそうのない兵士達を見つめながらガルナがそう進言する。
「……ガルナさん…僕がなんとかあいつを引きつけます…ですからその隙に逃げてください。」
「そんな!レイ殿を置いて我等だけが逃げることなど…」
「…いいですか…あなた達にはこの国の汚名を晴らすという使命があるんです…
それを志し半ばで諦めるなんて絶対にいけない。」
「それはレイ殿とて同じ事。それに…そんな事をしては姫様になんと言っていいやら…」
「……大丈夫…僕は…そう簡単には、死んだりはしない!くらえ、ギガ・ボルト!!」
『ドガガガガガッ!!』
「ぬあっ!?」
不意打ちに放たれたレイの呪文を避けることなど出来る筈もなくヴォルケスは稲妻の嵐に見舞われる。
「ガルナさん!今の内に!!」
「くっ!…皆の衆、撤退じゃ。戦線より撤退せよ!!」
レイのそんな言葉に後押しされウィンディア兵達が傷付いた体を引きずりながらその場から立ち去って行く。
「よし…後はこいつをなんとか…!?」
そう思いヴォルケスのほうに向き直るがそこに奴はいなかった。
「ど…どこにいった!?」
「考えが…浅はかだったな。」
『ドゴッッッ!!』
そんな言葉が聞こえたの同時に凄まじい衝撃がレイを襲い崩れた城壁まで弾き飛ばされてしまう。
「かはっ……そ、そんな…まるで通じないと言うのか…」
「残念だったな。あの程度の魔力ではめくらましにしかならんぞ。」
ヴォルケスは余裕だとでも言わんばかりにゆっくりとレイに近付いてくる。
(…やっぱり…あの程度の魔力では通じないか…なら…あれを使うしか…)
そんなことを考えながら回りを見渡してみる。
(…ダメだ…ここで使ったら…この城ごと吹き飛んでしまう…ガルナさんも…システィも…だめだ、使うわけには…)
「どうした?もう抵抗することすら…」
「ライトニング・バスター!!」
ヴォルケスがレイに近付くの待ち構え、至近距離から斬り放つ…が、
「遅いぞ…」
『ガシィッ!!』
ヴォルケスにいとも簡単に掴まれた。
「くあっ…」
「閃光とは程遠いな…その体で満足に動けるとでも思っていたのか?」
…そう…先程のダメージもあってか、レイの体は傷付きすぎていた。
満身創痍の状態では普段の二分の一の早さもでなかったのだ。
「お前との遊びは中々楽しめたぞ、クラウディアの出来損ないよ。
だが…お前の力ではこんなものだ。」
「あぐっ……お前は…一体…何を知って…」
「残念だな…これから死に行くお前にはそれを知ることも出来なかったな。」
『ググッ!!』
レイの首をしめつける力が更に強くなってゆく。
「ぐ…あぁっ!」
「終わりだよ…出来損ないの末弟…」
レイの意識が深淵の中に落ちようとした刹那、
『ドガガガガッ!!』
いくつもの衝撃がヴォルケスに放たれていた。
「なんだ!?」
「レイ殿!今お助けしますぞ!!」
そんな言葉と共にヴォルケスに向かって来たのは先程撤退したはずのガルナとウィンディア竜騎士団だった。
「ガ…ガルナさん…なんで…」
「仲間を残し…おめおめ引き下がるのはウィンディア騎士にあらず!
我等…この命尽きるまで戦い通しますぞ!!」
「ダメ…だ、逃げ…て…」
向かってくる騎士団達に向かい、そう必死に呼びかけるが誰一人としてその場から逃げようとはしなかった。
「ふん…ならばまず見せしめに…お前から殺しておこうか…」
『ブンッ!!』
ヴォルケスはレイを空中に放り投げ静かに構えた。
「なっ!?…レイ殿に止めを刺すつもりか!!」
「光栄に思え…このヴォルケスの一撃で…あの世に行ける事をっ!!」
「くっ!?」
「させるなっ!なんとしてもレイ殿を助けるのだ!!」
レイは空中をさまよいながらも剣を握ろうとするが力が思うように入りはしなかった。
「…ごめんね……ロディ…システィ…」
レイに出来る事はもはや…自分の死を悟り目を閉じることだけだった……
自分の最後を悟り全てを諦めたレイだったが…
『ブオンッ!』
「なっ…あれは!?」
…次に聞こえてきたのはそんな風切り音と驚嘆の声だった。
「えっ…?」
そして、自分が何やら固い物の上にいる事に疑問に思い目を開けてみると…
『キシャー!』
レイはいつのまにかフリードの背に乗っていた。
「フリード…?それじゃあ…」
「ごめんね、レイ!遅くなったわ!」
崩れた城の影からシスティが姿を見せていた。
「システィ…戻って来たんだね。」
「えぇ、…あなたに負わせた傷…私が返してあげるわ、このフォースソードで!!」
システィはそう言いいながら先程受け継いだフォースソードを強く握り締めた。
「それが…ラーナ神器…」
「そう…ウィンディアに伝わっていたラーナ神器の一つ、双対剣フォースソード。
これで…魔人であるあんたとも渡り合えるってわけよ!」
「くっ…生意気な…それを手にした程度で…我に勝てるとでも思ったか!」
『ダンッ!!』
ヴォルケスはシスティへと向かい全力で踏み込んだ!
「勝てると…思ったわよ!!」
それに対抗しシスティもヴォルケスに向かい全力で踏みこむ!
『ズバシュッ!!』
そんな何かを引き裂く音と共に膝を付いたのはヴォルケスのほうだった。
「ぐっ…バカなッ!」
「言ったでしょ…レイを傷つけた分…あなたに返してあげるってね!」
そう言い構えるシスティの剣は蒼白い光に包まれていた。
「ば…バカな…始めて手にして…それをもう使いこなしていると言うのか!?」
「今のあたしにはこの剣が力を与えてくれる…あんたを倒すための力をね!」
「くっ!…それならば!」
止めとばかりにヴォルケスに向かってゆくシスティとは裏腹にヴォルケスは空中へと飛んだ。
「しまった!フリード!逃げて!!」
「無駄だ!こうなったら…まずはクラウディアの出来損ないの方から葬り去るのみ!!」
真っ直ぐ向かってくるヴォルケスより逃れようと方向を変えようとしたフリードだったが…
「フリード!あいつに向かって突っ込むんだ!!」
『グルル…』
「早く!!」
レイにそう命じられヴォルケスへと向かい急降下を開始した。
「レイー!」
「ふん…観念し大人しく死にたいと言うのか!!」
ヴォルケスはその腕を振り上げ構える…それに対しレイもまた静かに構えた…
「応急処置はしたんだ……この一撃だけでいい…体…もってくれよ…」
「クズがー!死ね〜!!」
「狙うは…さっきシスティがつけた傷跡……ライトニング・バスター!!」
「なんだとっ!!」
急降下するフリードの背から飛び出し、それ以上の早さで落下してゆくレイ…
『ズガッッッ!!!』
異常なまでの早さにヴォルケスはレイを捉える事は出来ず…また、レイの一撃は正確に狙った場所を捉えていた。
「ぐぅっ!」
「がはっ!!…ばかな…」
「ど…どうだ…」
あまりの加速に受身も取れなかったレイだが、何とか置き上がりヴォルケスへと向き直った。
「に…人間ごときが…我にこれほどの傷を負わすとは…な。」
「安心しなさい。今あんたに止めを刺してあげるわ!」
そう言いシスティはフォースソードを合わせ飛翔剣の構えを取った。
「…そう急くな…今は決戦の時ではない…いずれ…このかりは返すぞ……」
それだけ言い残すとヴォルケスは夜の闇に消えていった…
「なんとか…追い返せたね…」
「レイ…」
なんとか笑顔を作りシスティに笑いかけたレイだったが、システィはそんなレイに抱きついていた。
「シ、システィ…」
「バカ!バカ!…あんな…無茶な事して…死んだらどうするつもりだったのよ…」
「あの状況で何もしなかったらシスティに迷惑がかかっていたさ…
今のシスティと僕じゃあシスティの方があいつに確実なダメージを与えれるんだから…」
「そんな…そんな事を言ってるんじゃない!…あいつを倒しても…レイがいなかったら意味がないのよ!」
「…ごめんね…システィ…」
「…心配…したんだから…」
「…システィ…僕は必ず強くなるよ。…今度は…僕が君を守るから。」
「レイ…」
「約束さ。」
レイはそう言うと自分の小指をそっと差し出した。
「……うん…約束。」
システィもまた自分の小指をそれにそっと絡ませたのだった…
静かに明けゆく闇夜…
だが…まだ彼等には一向に光は見えてはこなかった……