第15章『白き森の黒きエルフ』

 

ミロワを後にし獣人の国ハバリアとの国境に広がるエルフ達の聖域…『白の森』

 

そこは正にエルフ達の聖域に他ならぬ場所で、人間はおろか獣人…はてはダークエルフ達も足を踏み入れようとしない森。

 

今…その森に二つの人影が足を踏み入れたのだった。

 

「ふみ〜…この森、何だか息が詰まるです。」

 

「そうだな…おそらくはエルフ達の結界のせいだろう。

 

 嫌なら帰ったっていいんだぞ?ここならお前の故郷のハバリアにもそう遠くないぞ?」

 

「それは嫌です。セアラはロディちゃんを探しに来たんですから、途中で帰るわけにはいかないです。」

 

ジェントの言葉にセアラはそうキッパリと反対する。

 

「…あのな…ここがどんなに危険か知ってるだろ?

 

 エルフ達に捕まっちまったら獣人とはいえただで済むはずがないんだぞ?」

 

「それなら、なんでジェントちゃんはそんな危険な所にいくですか?」

 

「………」

 

セアラのそんなストレートな質問に言葉を詰まらせるジェント。

 

「…ロディちゃんの為なんですよね?」

 

「……まぁな。あいつにはかりがある…それを返すまでは地獄の果てにでも追いついて見せるさ。」

 

「やっぱり。ジェントちゃんもロディちゃんの事が心配なんですね。」

 

「…それは…ここに来た理由の一つだ…」

 

「ふにぃ…?それじゃあ、ジェントちゃんにはもう一つここに来た理由があるのですか!?」

 

ジェントはしまったと口を塞ぐがもう遅い。

 

セアラは目を輝かせながらジェントの答えを待っていた。

 

「………もう一つは……自分の存在を確かめに来たんだ…」

 

そんなセアラの視線に負け、ジェントはそう呟きもらした。

 

「ジェントちゃんが…ジェントちゃんを確かめに…?

 

 何だか難しい事でセアラにはさっぱり分からないですよ。」

 

「…そんな事…俺だって分からないさ。」

 

「ジェントちゃんも?でもでも…それなら、一体誰が知ってると言うんですか?」

 

「…だからそれを確かめに来たんだ…」

 

「???」

 

ジェントの言葉にセアラはただ疑問を浮かべるだけだった。

 

「ほら、何してるんだよ。先に行くぞ。」

 

「わわっ…ま、待ってくださいよ〜…」

 

二人は色々な疑問を抱えながらもその森の奥深くへと足を進めるのだった…

 

 

森を進み始めてどれだけの時間が経ったのだろう…

 

その疑問にはじめに気がついたのはセアラだった。

 

「ジェントちゃん…ここ、さっきも通ったはずですよ…」

 

「ん?そんな事はないは…」

 

そう口にしてみてハッと口を紡ぐ。

 

本当にそうなんだろうか?

 

確かに辺りは何度も見たような変わらない風景…

 

でもそれは森特有のどこを見てみても同じ風景にしか見えない現象だと思っていた。

 

だが、セアラに言われてそれが確信めいたものへと変わる。

 

この風景は…先程セアラと会話をした時と全く同じ風景。

 

「…断定は出来ないな…なら…」

 

そう思い立ち剣を腰から抜きおもむろに近くにあった木に数カ所傷をつける。

 

「わわっ!ジェントちゃんそんな事してはいけないんですよ。」

 

「…安心しろ。俺の読みが当たっていれば何ともない事だ。」

 

そう言い静かに剣を納めた。

 

「でも…この木が可哀相ですよ。」

 

「…行くぞ。」

 

哀しそうな瞳で木を見つめていたセアラだったが先に行くジェントに追いつく為にその場を後にしたのだった…

 

 

数分後…

 

「ジェ…ジェントちゃん…あの木って…」

 

ジェント達の目の前に先程ジェントが傷をつけた木が姿を見せた。

 

「あぁ…俺が傷をつけた木だな。」

 

「そ、そんな。おかしいですよ、セアラ達は確かに前に歩いたのに…ここに戻ってくるはずがありませんよ?」

 

「もしやと思ったが…やっぱり、エルフ達の結界に引っかかったみたいだな。」

 

「ふみ?」

 

「セアラ。この森に入ってから息苦しくなったよな?」

 

「はいです。」

 

「今はどうだ?」

 

ジェントに言われ何度か深呼吸してみるセアラだったが…

 

「そ〜いえば…何ともないです。」

 

「やっぱりな…その時にこの結界の中に閉じ込められたって寸法か…」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ、むかし…これと同じ結界に閉じ込められた事があるんだ。」

 

「ふみ〜…その時はどうやって抜けたんですか?」

 

「…この結界はな、幾つかの媒介を中心にして作られた多重空間なんだ。」

 

「たじゅーくうかん?」

 

「そうだ。俺達は実は白の森とは別の空間に閉じ込められてるんだ。

 

 つまり…今目の前に見えているこの森は白の森ではあるが白の森そのものではない。」

 

「白の森だけど白の森じゃない…?」

 

「そう…つまりここで何をしようと白の森には影響はない…

 

 それこそ、ここで俺達が死んでも誰も俺達を見つける事はできはしない。」

 

「そ、それは大変ですよ!ど…どうしたらいいんですか!?」

 

「…言っただろう、この空間は幾つかの媒介によって作られた空間だと。

 

 つまり、今ここに存在するのは俺達…そして、その媒介となっている物だけだ。」

 

「…どう言う事ですか?セアラ…ちんぷんかんぷんですよ。」

 

「お前には言葉で説明するより体験させたほうが早そうだな…

 

 セアラ、目を閉じて何も考えず匂いだけを探る事だけに集中してみるんだ。」

 

「ふみぃ?どうしてそんな事を…」

 

「いいからやってみろ、やってみれば分かる。」

 

「…分かりましたです…」

 

疑問に思いながらもジェントの言う通り目を閉じ必死に匂いを探ってみる…

 

「ふみぃ…ジェントちゃんとセアラと森の匂いしかしないですよ…」

 

「それだけじゃないだろ。それだけに集中しろ。」

 

「うぅ〜…やってみるです…」

 

一切の視覚…聴覚を断ち、嗅覚だけに全神経を集中するセアラ…

 

「…やっぱり…なにも…?」

 

感じない…そう言おうと思った瞬間、不意に森の匂いが消え今までなかった幾つかの匂いを感じた。

 

「感じ取ったみたいだな…セアラ、その匂いはどこからしてくる?」

 

「…えっと…まずあっちの方から一つ…」

 

そう言いセアラはそれを感じた方向に指を向けた。

 

「向こうか…エア・スラッシュ!」

 

セアラの指差す先にある茂みに向かい風の刃を飛ばすジェント…その瞬間、

 

『パリン…』

 

なにかが音を立てて砕けた。

 

「ジェ、ジェントちゃん。今のはなんですか?」

 

「気にするな。セアラ、匂いの元は後何個ある?」

 

「えぇっと…3つです。」

 

「場所は?」

 

「う〜と……まず、こっちに一つ…」

 

『…パリン…』

 

「それに向こうに一つ…」

 

『…パリン…』

 

「後は…あそこに一つです。」

 

『…パリン…』

 

そんな音が響き渡った瞬間…視界が光に包まれたのと同時に再び森の匂いが広がってゆくのが分かった…

 

 

「ふみぃ…何が起こったですか?」

 

何が何だか分からないセアラはゆっくりと目を開いてみた…

 

するとそこには先程と変わらない光景…目の前にはジェント、そして辺りは森に包まれたままだった。

 

「ジェントちゃん…何も変わってないですよ?」

 

「本当にそうか?」

 

「うぅ〜…でも〜…あっ!?」

 

辺りを見渡すセアラだったが、先程の光景との大きな違いに驚愕の声を上げた。

 

「ジェントちゃんが傷つけた木が…元に戻ってるです…」

 

…そう…さっきジェントが幾つかの傷を付けたはずの木が何事もなかったようにそこにそびえていた。

 

「さっき俺が傷をつけたのは結界の中にある実際にはない風景だったからな。

 

 こっちに戻ってきたらそれは無かった事になるって訳だ。」

 

「ふみぃ〜…すごいです〜…」

 

よほど不思議だったのか何度も木に触れてみてその感覚を確かめる。

 

「お前も慣れればこの程度の結界ならすぐ見破れる様になるさ。」

 

「ほんとですか?」

 

「あぁ、これぐらいならな…」

 

「…残念だ…それは、もう二度とこない…」

 

「!?」

 

不意にそんな声がしたかと思うとジェント達はとてつもない眠気に襲われその場に倒れこんでしまったのだった。

 

「バカが…あのまま多重空間にいた方が幸せだったというのにな…」

 

薄れゆく意識の中…そんな声がしたような気がした…

 

 

…まどろむ意識の中…ジェントは遠き記憶の欠片を垣間見たような気がした…

 

暗い部屋の中…二つの人影…一つはエルフの女の影…もう一つの影は……人間……

 

その部屋には最低限の生活の道具しか見当たりはしなかった。

 

見ようによっては牢獄かと思えてしまう空間…

 

だが二つの人影はいつも笑っていた……

 

例えそこがどこであろうともあの二人は幸せなんだろう…そう思えてしまう光景だった…

 

よく目を凝らしてみれば女の影は小さな影を抱いていた…

 

しばらく見つめていて、それが子供の影であることが分かった。

 

…そんな光景がどこか懐かしく…そして…哀しくも感じるのだった……

 

 

「っ!?」

 

ずきりと痛む頭を押さえジェントは跳ね起きた。

 

目の前は先程とはうって変わった光景…

 

暗い木の壁…明かりが殆どさしこんでこない窓…そして何より両手の自由を奪われた自分。

 

「エルフどもに捕まったって言うのか…」

 

与えられた情報からそんな結論に到達した。

 

「ジェントちゃん…気がついたですか?」

 

不意に後ろからそんな声がかけられ振り向いてみるとそこには同じように両手の自由を奪われていたセアラがいた。

 

「セアラ、体は何とも無いのか?」

 

「う〜…手が縛られてて痛いです。」

 

「それ以外は何とも無いんだな?」

 

「はいです。…ジェントちゃん…セアラ達はどうなったのですか?」

 

「多分…エルフ達に捕まったんだと思う。あの時感じた匂いは睡魔香の匂いだった。

 

 あの結界を解いたら発動する様になってた二重トラップだったんだろう。」

 

「ふみぃ…そうなんですか…」

 

「しまったな…あの多重空間の方に気を取られててそこまで頭が回らなかったぜ。」

 

「うぅ〜…セアラがもたついていたからいけないんです…ごめんなさいです…」

 

セアラは本当に申し訳なさそうにジェントに向かい頭を下げてきた。

 

「あっ…いや、そのだな…お前のせいなんかじゃない気にするな。俺だって気が付かなかったんだからな。」

 

そんなセアラを見て慌ててジェントがそうフォローする。

 

「でも…」

 

「だいたいな、元を正せばあいつらが…」

 

そこまで言いかけてジェントは言葉を止めた。

 

「ジェントちゃん?」

 

「静かにしろ…誰か来る…」

 

ジェントにそう言われ耳を済ませると確かにこの部屋に近付いてくる足音が聞こえた。

 

そしてその足音はドアの前で止まるとそれを開け一人のエルフが中に入って来た。

 

「おい、でろ。村長がお前達に話を聞きたいそうだ。」

 

「…ジェントちゃん…」

 

「…今は従うしかない…分かった、それじゃあ案内してもらおうか。」

 

そう強気に反論するジェントに対し男は不気味な笑みを返してきた。

 

「偉そうにしてんじゃねぇよ、エルフ崩れが。魔力を封じられて何も出来ないくせによ。」

 

「くっ…」

 

そう…男の言う通りだった。

 

先程から何度か両手を自由にしようと炎の呪文で焼き切ろうと試みていたのだが全く反応が無かったのだ。

 

「お前のその首に付いてるのは『マナの鎖』なんだよ。出来損ないでもそれぐらいは知ってるだろう?」

 

「マナの鎖…やはりそうだったのか…」

 

マナの鎖とは魔力を吸い取ってしまう不思議な鉱石により作られた鎖の事で、

 

主に魔導師などを無力化させる為に使われる捕縛用の道具なのだ。

 

「両手を縛られ魔法もつかえんエルフなど人間以下だな。

 

 分かったらとっととついて来い。まっ…そこで何を言おうがお前達の処分が変わる事なんてないがな…」

 

そんな男の皮肉を聞き流しながらも二人はその後に付いて行くのだった…

 

 

数分後…男が一つの扉の前でその足を止めた。

 

「ここに我等の村長がおられる。いいか…妙なまねをするそぶりを見せれば…」

 

「この状況でどうやってそんな事をしろと言うんだ?」

 

「ふん…クズなりに玉砕覚悟で飛びかかって来るとも考えられない事もないんでな。」

 

「………」

 

「ジェントちゃん…」

 

「…村長、連れてきました。」

 

「入りなさい…」

 

男はそう確認を取ると、静かに扉を開け部屋の中に入ってゆく。

 

二人もそれに続き中へと入るがその瞬間、無数の視線が向けられてきた。

 

部屋の中は中心の一人とそれを囲む様に十数人のエルフ達が座っていた。

 

ジェント達はその部屋の中心に鎮座しているローブを纏ったエルフの前に連れてこられた。

 

「ガクト…ご苦労でした。下がっていなさい。」

 

「はっ…」

 

二人を案内してきた男はそう言われその者の後ろに静かに腰を降ろした。

 

「さて…あなた達に幾つか聞きたい事があります。正直に答えてもらえると嬉しいです…」

 

そう言いながらローブのフードをはずした時…ジェント達の目に一人の女性が目に入って来た。

 

「あんたがここの村長か…まさか女だったとはな…」

 

「珍しいでしょうか?」

 

「いや…少し意外に感じただけだ。」

 

「ふみぃ…とっても綺麗な人です〜…」

 

「ふふ…ありがとうお嬢さん。…あら、あなた…黒の森の…」

 

村長はジェント達の方に向き直った瞬間、ジェントの姿を始めてそれに気がついた。

 

「あぁ…俺はダークエルフさ。」

 

「しかし…黒の森は何者かに襲われ壊滅したと聞いていましたが…」

 

「そうだ。だが…俺は皮肉にも生き残ってしまったと言うわけだ…」

 

「そうですか…あの、黒の森に…」

 

そこまで言いかけて村長は口を紡いだ。

 

「?…何か…」

 

「いえ…そう言えば、自己紹介がまだでしたね…私はこの森の長…ミントと申します…あなた達は?」

 

「…俺は黒の森のジェント…ジェント=バートンだ。」

 

「セアラは、セアラ=ルーティスです。」

 

「ジェント!?…そんな…はずは…」

 

「??…さっきからなんなんだ?」

 

「い…いえ…ごめんなさい…それでは…質問してもよろしいでしょうか?」

 

「…俺達で答えられる事ならな。」

 

「この森が私達の聖域である事は知っていたはず…なのになぜここに来たのです?」

 

「…人探しさ。」

 

「人探し…?言った筈です。この森は私達の聖域…この森には人間はおろかあなた達すらも入る事が出来ないのですよ?」

 

「…そうさ…俺達が探してるのは人間じゃないからな…」

 

「人間ではない?…それではあなた達が探しているのはエルフの者なのですか?」

 

「そうじゃない。俺達が探しているのは人間であって人間ではない…そんな奴だ。」

 

「人間であって人間ではない…?そんな事が…」

 

「信じる信じないはそっちの勝手だが、俺は嘘なんか言ってはいないからな。」

 

「…残念ですが…そんな者は見た事は無いですね…」

 

「…そうか…なら俺の見当違いだったか…」

 

ミントのそんな言葉に心底残念そうにジェントは答えた。

 

「これであなた達がここに来た意味が分かったのですが…」

 

「俺達を帰すつもりは無いんだろう?」

 

「…その通りです…あなた達を逃がしここの秘密を知られるわけにはいきませんから。」

 

ジェントの言葉にさも当然かの様にミントがそう言い放った。

 

「なるほどな…これじゃあ外界でエルフ達が他の奴らに敵視されるのにもうなずけるぜ。」

 

「なんだと!貴様…村長の前でよくもその様な口を!!」

 

「その態度が何よりの証拠だろう?何様のつもりなんだよ…

 

 純粋なエルフってのはそんなに偉いものなのかよ!!」

 

「ふん当然だろう。ラーナ様により選ばれし民…それが我等だ!

 

 下等な人間との間に生まれた貴様如きとは次元が違うのだ!!」

 

「…そうやって人を見下すことしか出来やしない…それで人から疎まれているのだからお笑いだぜ!」

 

「貴様…どうやらこの場で死にたいらしいな…」

 

ジェントの言葉に相当頭に来たらしくガクトが腰の剣を抜き放つ。

 

「へっ…お前が斬れるのは剣も持たない丸腰と無抵抗な女子供だけなのか?」

 

「ぬかせ…そのへらず口…二度と叩けぬように…」

 

「おやめなさい!!」

 

『!?』

 

一触即発状態だった二人を黙らせたのはそんなミントの怒声だった。

 

「ガクト…ふざけが過ぎます。少し頭を冷やしていなさい。」

 

「し、しかし…村長…こいつは。」

 

「ガクト。…私の言葉が聞けないのですか?」

 

「……はい…失礼致します…」

 

ミントのそんな凛とした一言にガクトは押し黙ったまま部屋を後にしていった。

 

「ジェント…あなたの言う事も分からないでもないです…ですが…」

 

「…あぁ…分かってるつもりだ。人間よりも力も弱く数も少ないエルフが生きて行くにはそうするしかないって事ぐらいな…

 

 だが…俺達ダークエルフはそれ以下の扱いを受けて過ごしてきた…」

 

「…すみません…」

 

「あんたが謝る事は無いさ…だけどよ村長…二つ頼みがある。」

 

「…何ですか?」

 

「一つは俺達が死んだらその事を伝える文書とここには探していた奴はいなかったって事をミロワのレイって奴に伝えてやってくれないか?」

 

「それは…」

 

「頼む…もしあいつらがここに俺達を探しにきて同じ目にあったんじゃ…無駄死じゃないか。」

 

「…分かりました…そのぐらいの事でしたら…何とかしてみます。」

 

「すまない…それともう一つ…こいつの事なんだが…」

 

「ふみ…?」

 

「こいつは俺が私的な理由で連れて来ただけなんだ。

 

 こいつだけはハバリアに帰してやってくれないか?」

 

ジェントはセアラの方を向き直りそう言った。

 

「ジェ、ジェントちゃん!!」

 

「………」

 

「こいつは正直連れてくれば何かの役に立つかもしれないと引っ張ってきただけなんだ…

 

 何も知らないのにこんな所まで…だから…頼む…」

 

そう深々と頭を下げミントに懇願する。

 

「…残念ですが…この森を知った者は例外なく処分する…それが掟です…」

 

「………そうか…いや、無理を言ってすまなかった…」

 

「いいえ…誰か、この者達を元の牢に戻してきてください。」

 

「はっ…」

 

そう呼ばれ側にいた男が立ち上がりジェント達の案内役を買って出た。

 

「…話を聞いてくれて…ありがとな…」

 

ジェントはそれだけを呟き部屋を後にしたのだった……

 

 

「ジェントちゃん!さっきの言葉はどういう事ですか!!」

 

元の部屋に戻され飛んできたのはそんなセアラの怒声だった。

 

「…言葉通りの意味だ…」

 

「間違ってるじゃないですか!セアラは…セアラは全部分かっててついて来たんですよ?」

 

「…だがここを提示したのは俺だ…それに俺にはここにこなければいけない事情もあった…

 

 それにお前が無理に付き合う必要は全くなかった…」

 

「そんな事関係ないです!セアラは…セアラは…ジェントちゃんが心配だったからついてきたんですよ。」

 

「…だがお前は…俺に付き合わされたおかげで殺されるんだぞ!分かってるのか…」

 

ジェントはそう怒鳴りつける…が、

 

「セアラは…別に構わないですよ。」

 

セアラはそう何でもないように答えた。

 

「構わないって…おまえは馬鹿か!?他人の下らない事に巻き込まれて…命を落とすなんて…

 

 誰が好んでするって言うんだよ!!」

 

「……だって…一人で殺されちゃったら…寂しいじゃないですか。」

 

「なっ!?」

 

「一人ぼっちは寂しいですよ。だから…寂しくないようにセアラが側にいてあげるです。」

 

セアラはいつもの調子でそう明るくはっきりと答えた。

 

「……お前……やっぱりただのバカだな…」

 

「そうかもしれないです。セアラ、頭はあんまり良くないですから。

 

 でも…セアラがいっぱい考えて出した答えだったんです。」

 

「ほんとに…ばかなやつだよ……」

 

そう呟くジェントの目からは人知れず一筋の涙が流れ落ちていった…

 

 

「…さ…んな…に!?」

 

「す…あの……しを…」

 

夜の帳が落ちて来た頃…そんな声が廊下からしてきた。

 

「?…なんでしょうかね?」

 

「さぁな…」

 

「し…そん…」

 

「すこ……いい……が…」

 

「……した……を…くだ…」

 

不意に声がやんだかと思うと、今度はこちらに向かってくる足音が聞こえ出した。

 

『…コン…コン…』

 

そしてその足音が扉の前で止まったかと思うとそんなノックが聞こえた。

 

「…誰だ。」

 

「…私です…ミントです。」

 

「ミントって言えば…ここの村長さん?」

 

「えぇ…そのミントです。…もしよろしければ…少しお話してもいいでしょうか?」

 

「……別に構いやしない…どの道、ここから動く事も出来ないんだからな。」

 

ミントのそんな申し出をジェントはあっさりと受け入れた。

 

「…ジェント…と申しましたね?」

 

「あぁ…それがどうかしたのか?」

 

「…つかぬ事をお聞きしますが…黒の森にはあなたと同じ名前の方はおられましたか?」

 

「いや…ジェントって名前は俺一人だ。」

 

「そう…ですか…それではあなたのご両親は?」

 

「……知らん。俺は昔、黒の森に捨てられていたんだ。

 

 そんな俺を見かねてか黒の森の長は俺を保護し今まで育ててくれたんだ。」

 

「そう…ですか…」

 

ミントはジェントにそう言われ少し声のトーンが下がってしまう。

 

「なぜそんな事を聞く?俺の出生なんざ聞いても面白くないだろう?」

 

「いえ…それではジェント、あなたは自分の両親を覚えていますか?」

 

「両親…だと?」

 

「はい…あなたはダークエルフ…それならばあなたにはエルフと人間…その両方の親が存在するはずでしょう?」

 

「そんなもの俺は…!?」

 

「ジェントちゃん…どうかしたですか?」

 

そこまで言いかけて何かを思い出す…

 

ここに連れて来られた時確かに見た光景…

 

あれは…エルフの娘と人間の夫婦だったはず…

 

それに二人が抱いていた赤子…あれは……

 

「…確証はないが…おぼろげには…」

 

「やはり…そうですか…」

 

ジェントの返答にミントはそんな何かを含んだ答えを浮かべた…

 

「あんた…何を知ってるんだ。」

 

「……あなたに一つ…昔話を聞かせてあげましょう…」

 

そう言いミントは一人語り始める…

 

 

昔々…とても仲の良いエルフの姉妹がいました…

 

二人はその集落の長の娘達でその日は長に言われ森の結界の見回りを任され森へと出かけました。

 

森に張り巡らされた結界の見回りをしていた時…その傍らに一人の男が倒れているのを見つけました。

 

男はかなり衰弱しており…このままでは命を落としてしまう危険性がありました。

 

しかし…その男は人間…

 

他の種族と交流をしてはいけないエルフには手を出す事が出来ずにいたのです。

 

『見なかったことにしよう…』そう言い妹がその場を離れようとした時…

 

心優しき女性だった姉は男を抱き起こし助けようとしたのでした。

 

そんな姉を見て『何をするのか』と妹は叫び散らしますが、

 

姉は『この人の体が治るまででいいから…』そう言い懇願してきたのです。

 

そんな姉の懸命の説得に折れた妹は男を一緒に集落へと連れ帰り保護することにしました…

 

村の人間の目をごまかしながら懸命に看病したおかげか男の体はみるみると回復していきました。

 

男の看病をしてゆく内に姉は段々とその男に惹かれてゆき…禁忌を破ってしまったのです…

 

そして…やがて二人の間には一人の男の子が生まれました…

 

幸せな時…それを手にするために破った掟…

 

その代償か…二人は……永遠に引き離されてしまったのでした……

 

 

ミントはそう語り終えた…

 

「これで昔話はおしまい…」

 

「おい…今の話し…どう言うこと何だよ!」

 

「…そうそう…その赤子には娘がお守りになればと青サンゴの指輪を渡していたのよ。」

 

「青サンゴ…だと?」

 

「青サンゴは白の森にしか生息しない陸のサンゴ…青き固体でありながら紅き光を放つ不思議なサンゴなの。」

 

「……まさか……」

 

そう言われジェントがいつも首から下げていた袋を開くと…

 

そこには、今言われたばかりのその不思議な指輪が入っていた。

 

「ふみぃ…これが…青サンゴですか…」

 

「これは俺が子供の頃から持っていた唯一のもの……まさか…あんたが…」

 

「私からは以上です…長々と話に付き合ってもらって…どうもありがとう…」

 

「おい!ちょっと…」

 

『ドゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!』

 

立ち去ろうとした足音を引き止めようと声を掛けたとき、そんな轟音と共に激しい揺れが建物全体に響いた!

 

「なっ!…なんだこれは!?」

 

「こ、これは…まさか…そんな!?」

 

「おい、何が起こったんだ?」

 

「…この森の…結界が…破られました…」

 

「なっ!?…そんな事出来るはずがないだろうが!」

 

「…ですが事実です…この森を守護する結界は代々村長が管理してきました…そして今…それを感じないのです。」

 

「そんな真似…普通の奴に出来るはずが…!?」

 

言いかけてジェントは何かに気がついた。

 

(そう…普通の奴には出来ない…だが…あいつになら・・・!)

 

「おい、ここを開けろ!あいつが…あいつが来たかもしれないんだ!!」

 

「あいつとは…あなたが探していた人物のことですか?」

 

「そうだ。…今のあいつには…この世界は自分が壊すべき標的にしか見えてない。

 

 あいつにはエルフも人間も関係ない…もしあいつだとしたらここが滅ぶのに1時間もかからないんだよ!」

 

「し…しかし…掟を破るわけには…」

 

「掟…掟ってそんな物命あってのことだろうが!早く開けやがれ!!」

 

「……やはりできません…私はこの森の長ですから…」

 

「分からずやがっ!!」『ドガッ!!』

 

怒りをあらわにしジェントは扉を蹴り飛ばす…

 

しかし扉はびくともせず変化が見られなかった。

 

「…あなたは…なぜそんなに怒っているのです?

 

 外で何かが暴れまわっていてもそこにはエルフしかいない…

 

 あなたの嫌う者達が死んでいくと言うのに何をそんなに怒っているのです?」

 

「…俺はな…あれ以上あいつに無駄な人殺しをしてもらいたくはないいんだ!

 

 それに…種族なんか関係ない!目の前で人が死んでいくって言うのに…何も出来ない自分ってのが大っ嫌いなんだよ!!」

 

「ジェント…」

 

「……あんたがここを開けないって言うんなら…俺がここを吹き飛ばしてやる!」

 

「なっ…そんな事が…あなたの魔力はマナの鎖で封じられているんですよ!?」

 

「知るかよ!こんな鎖如き…俺が!!」

 

必死に魔力を練るジェントだがそれは同時にマナの鎖へと吸い取られて行く。

 

「ジェントちゃん!そんな無茶な事止めてください!!」

 

「ぐぅっ!!……がぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ジェント!!お願い…おとなしくそこで…」

 

「うるさい……俺は……もう、黙って見てるだけの自分は…嫌なんだよ!!」

 

鎖の吸う力に対し懸命に抵抗し魔力を放出し続けたジェントだったが…次第に…

 

『…ぴし……ピシシシッ。』

 

「がっ!…あぁぁぁぁっっ!!」

 

『パキンッッ!』

 

鎖の方がジェントの魔力に耐えきれず砕け散ってしまった。

 

「はぁぁっ!!」

 

『ドガァァッッ!!』

 

そしてその勢いのまま扉をも粉々に吹き飛ばした。

 

「そんなっ…マナの鎖を…自力で砕いたと言うの!?」

 

「やったですよ。ジェントちゃんすごいですぅ。」

 

「はぁ…セアラ…部屋から出て俺達の武具を探して来い。近くにあるはずだからな。」

 

「はいです。」

 

セアラはにこにこと笑顔を浮かべながら部屋を出ていった。

 

「ジェント…あなたは…」

 

「…村長さんよ…村人達を避難させろ…奴は俺が止める…」

 

「しかし…あなたは…」

 

「安心しろよ…死にに行くつもりじゃない…もしあいつなら…俺はどうしても止めてやらないといけないんだ…

 

 それと…さっきの話の続き…聞かせてもらうからな。」

 

「ジェント…」

 

「ジェントちゃん、あったですよ〜!」

 

そう言いながらセアラが嬉しそうにジェントの剣を振り回しながら走ってきた。

 

「良くやった。セアラ…行くぞ!」

 

「はいです!」

 

ジェントは素早く剣を受け取り階段目指して走り出した。

 

二人が去った後をミントはただ呆然と見つめているだけだった……

 

 

一方…地上では…

 

「くっ!!これ以上奴を近付けさせるんじゃないぞ!!」

 

ガクトが必死に守備兵を率い抵抗を続けていたが足止めにもなりはしなかった。

 

「なんだい…この程度かい?…すっかりふぬけたねぇ…」

 

「貴様…なんの恨みがあってここを襲うのだ!」

 

「恨み…?そんなもの挙げてたらきりがないさ…もうお前の顔は見飽きた…消えろ。」

 

「なっ…」

 

奴がそう言った瞬間ガクトに向かい黒き波動がほとばしる!

 

『ダゴッッッッ!』

 

黒き奔流が晴れた後…そこにガクトの姿はなかった…

 

「ガクト様ッ!!」

 

「ふふふ…次はお前等の番か…」

 

指揮者を失い気力を失った守備兵たちにその影が忍び寄ろうとした時、

 

「違うな…次はお前の番だ。」

 

「誰だっ!!」

 

それが振り返った先にはジェントとセアラ…その脇にガクトの姿があった。

 

「ロディかと思ってきたが…お前だったのか…魔人ザルエラ!!」

 

「…お前は…あの時のダークエルフ…まだ生きていたのかい?」

 

「生憎な…お前を殺すまで…俺は死にはしない!」

 

ジェントはそう言い剣を抜き構える。

 

「あなたはジェントちゃんの敵…それなら、セアラの敵です!」

 

それに続き構えるセアラの手の爪が鈍く光る。

 

「いいわ…ここの腐ったエルフどもと共にお前達も殺してやるわ。」

 

「お前…なぜそんなにもエルフを憎む?」

 

「お前等は忌むべき敵…あのお方が目覚められたらこの世界はあのお方によって滅ぼされてしまう…

 

 だからその前にお前達だけはこの私の手で根絶やしにしてやるのさ!」

 

「あのお方…?一体何を…」

 

「お前等…なぜここにいる!脱走でもしようと言うのか!?」

 

二人の会話に割り込む様にガクトがジェントに言い寄った。

 

「おい…死にたくなかったら引っ込んでろ。お前は足手まといだ。」

 

「何だと?マナの鎖で魔法を封じられた貴様が…」

 

そう言いながらガクトはジェントの首元に視線を向けるがそこにあるべき物が見当たらなかった。

 

「あれは俺が砕いた。今度はもうちょっと丈夫な物を用意するんだな。」

 

「バカなっ!あれはこの村でも屈指の一品だったんだぞ、それを…」

 

「いいから下がってろ。お前を守ってやる余裕は俺にはないんだ。」

 

「そうです、ここはお〜ぶねに乗ったつもりで任せるです。」

 

「ぐっ…お前等如きに…この俺が…」

 

そう言うとガクトもまた剣を構えザルエラと対峙する。

 

「……好きにしろ…だが、邪魔はするなよ。」

 

「おろかな…何人増えようとこの私には傷一つ付けられはしない。」

 

「やってみれば分かるだろ?言っておくが…以前の俺だと思うなっ!仲間の仇…討たせてもらう!」

 

四人の間に張り詰めた空気が漂い始めたのだった……

 

 

「これで…エア・スラッシュ!」『ゴアァッ!』

 

口火を切ったジェントの一撃は物凄い速さでザルエラへと襲いかかる…が、

 

「ふ…この程度かい?」

 

ザルエラが片手でそれをかき消す。

 

「なっ…」

 

「これじゃあ以前のものと何も…!?」

 

改めてザルエラが目を向けてきた時そこにジェントの姿はなかった。

 

「どこを…見てるんだよ!!」『ズガァッッ!』

 

瞬間、死角から放たれたジェントの一撃がザルエラを弾き飛ばす!

 

「ぐはっ…」

 

「くらうです!すらっしゅ!!」『ザシュッッ…』

 

受身もとっていないザルエラに追い撃つ様にセアラが斬りつけそのまま後方の家屋へと吹き飛んでいった。

 

『ドゴォォッッ!!』

 

そんな爆音と共に先程まで家屋だった瓦礫がザルエラへと降り注ぐのだった…

 

「ばかな…こんな力が…やつらには…」

 

そんな信じられない攻防をガクトはただ呆然と見つめるだけだった。

 

「どうだ…これなら少しは…!?」

 

そこまで言いかけてジェントはその光景に驚愕する。

 

確かな手応え…致命傷となる一撃…無防備な体勢への追い撃ちが決まったはず…だが、

 

「なるほどねぇ…少しは腕が上がってるじゃないか…面白い…」

 

ザルエラは全くの無傷だった…

 

「そんな…確かに決まったと思ったんですが…」

 

「く…やはりあいつの装甲…並じゃないみたいだな…」

 

「以前あいつとやった時はロディ…それにマリオスが援護してようやく傷をつけられたんだ…

 

 俺達に…あの時のような力が出せなければあいつには傷をつけられない。」

 

「それじゃあ…セアラ達じゃ無理なんですか?」

 

「…あの装甲が何とかなれば…簡単には砕けそうじゃないしな…」

 

「…何とか…何とか……そうです!あれがあるです。」

 

考えこむジェントの横でそうセアラが喜びの声を上げる。

 

「何かあるのか?」

 

「はいです。ジェントちゃん、あいつはセアラが引き受けるです。

 

 ジェントちゃんは隙が出来た瞬間に打ち込んでくださいです!」

 

「…いやに自信ありげだな…どんな作戦だ?」

 

「…それは…実践した方が早いです!」

 

『ダッ!』

 

そう言うや否やセアラがザルエラへと踏み込んだ。

 

「ふふ…何を考えたのか知らないが…無駄なこと!」

 

『ガキィン!』

 

セアラの一撃を余裕の表情で受け止める。

 

「ふみみみみみぃっ!!」

 

それでもセアラは怯むことなくザルエラへと一撃を叩きこんでゆく。

 

「くっ…小娘が…生意気なッ!」

 

ザルエラは防戦するがセアラの素早さに翻弄され押され気味だったが、あいも変わらずその体には傷一つついていなかった。

 

(セアラ…何を考えている…そんな事したって……

 

 いや、あいつがああ言ったんだ…俺は…それを信じるまでだ…)

 

その結論をはじき出したジェントは剣を握り締めザルエラの死角側へと回り込み始めるのだった…

 

 

「くっ…小娘…ちょこまかと!」

 

「えい!やぁっ!とぉっ!」

 

ザルエラの一撃を回避した隙をつきセアラの得意の左右の一撃からの回転蹴りが炸裂する!

 

「ぐぅっ!!…なめるんじゃないよ!!」

 

『ドガッ!!』

 

それをものともしないザルエラがお返しとばかりにセアラを殴り飛ばした。

 

「きゃうっ!」

 

ただ殴り飛ばされただけなのにセアラはゆうに数メートルは吹き飛ばされた。

 

「ふん…もうおしまいかい?お嬢ちゃん。」

 

「そうです…あなたはセアラの狙った通りの場所に来てくれました。」

 

「なに…?」

 

ザルエラが回りを見渡すとそこは村の中心なのか家屋もない広い広場が広がっているだけ…

 

「ふん…何かと思えばこんな場所…お前に何が…」

 

「そこなら…大地の網からは逃げれません!」

 

セアラがそう言いながら大地に手をつき何かを呟くとザルエラの周りの大地がかすかに揺れた…

 

「なにをする…」

 

「大地の精霊さん!セアラの呼び掛けに答えてあいつを懲らしめるです!アシッド・ボム!!」

 

『ドォゥッッ!!!』

 

その瞬間…いつものとは比べ物にならないほどの量の酸の嵐がザルエラへと降り注いだ!

 

「バカなッ…エルフの地脈の力を利用したというのか!?」

 

『ジュワァァァッッッ!!』

 

避けることが出来ないザルエラには止めど無いほどの酸の嵐が吹き荒れた。

 

「くぁぁぁっ!!…これ…これしきのことでぇっ!!」」

 

「これで…終わりなんだよッ!!」

 

「!?」

 

驚き振り返ると…そこには眩い光に包まれ剣を振りかぶったジェントの姿が…

 

「くらぇっ!ライト・スマッシュ!!」

 

『ズシャァァァッッ!!!』

 

辺りにそんな何かを引き裂くおとが響き渡った……

 

 

「…やったか…この一撃は…確実な手応えを感じたが……」

 

一撃を受け倒れこんだザルエラを見つめるジェントだったが…

 

「…こ…こしゃくなぁっ!!」

 

不意にザルエラがそう叫んだと思った瞬間、ザルエラはセアラに向かい黒き魔力を打ち放ってきた。

 

「ふみ!?」

 

「セアラッ!」

 

とっさの出来事に体が反応せず立ち尽くすセアラ、

 

ジェントは必死に駆け寄ろうとするが距離があまりにも開きすぎている。

 

『ドゴォォォッ!!』

 

間に合わない…そう思った瞬間とっさに飛び出た影があった。

 

「バカが…戦闘中に気を抜くんじゃない…」

 

「ふみ…?」

 

そんな事を呟きながらセアラを助けた影は他でもないガクトだった。

 

「お前…」

 

「ふん…お前達に借り続けていたのでは俺のプライドが許さん。これぐらい…どうって事はない。」

 

「ぐぅぅっ…おのれ…おのれ…おのれぇぇっ!!どいつもこいつも…目障りな!

 

 エルフが…エルフ如きがぁっ!!」

 

致命傷とはならなかったが痛手を負ったザルエラが発狂するかのように叫びをあげた。

 

「ちぃ…まだ余裕があるってのか…しつこい奴だぜ。」

 

「…こうなっては手段など気にせん…お前達は直接この手で殺そうと思ったが気が変わった…森ごとけし飛ばしてくれる!!」

 

『ゴォォォォォッ!!』

 

ザルエラがそう叫んだのと同時にその周囲に黒い風が巻き起こり始める。

 

「なっ!?」

 

「ふふ…さらば…!?」

 

不敵に笑い手をかざした瞬間、ザルエラは不意に動きを止める。

 

「…?どうしたんだ…」

 

「…何とか…間に合いましたね。」

 

そう言いながら駆け寄ってきたのはミントだった。

 

「村長!?ここは危険です、なぜこんな所に…」

 

「長である私が民を置いて逃げ出すわけにはいかないでしょう?

 

 今あいつを私の捕縛結界に閉じ込めました。今の内にあなた達もお逃げなさい。」

 

「ふみぃ!そんな事出来ませんよ。ミントさんこそ逃げるです!」

 

「セアラ…私にはこの長として森を守る使命があります。

 

 この森を滅ぼすと言うならそれを阻止し、この森が滅びる時私もそれに従うだけなのです…さぁ、早く!」

 

「…断わる。」

 

「ジェント…あなた方までこの森と運命を共にする事はないんです。ですから…」

 

「あいつは俺の敵だ…それにあんたには話の続きを聞かせてもらわないといけないからな。」

 

「そんな事を…」

 

「俺にとっては命なんかよりも大事な事なんだよ…それに…あいつはその程度では止められない様だぜ?」

 

そう言われザルエラのほうに向き直ると徐々に体の動きを取り戻してきたのか、奴を縛り付けている結界の色が薄くなっていた。

 

「そんな…この呪法は普通の者であればその場に立っている事すら出来ないものだというのに!?」

 

「残念だが…あいつには普通ならってものは効きはしないみたいだな…」

 

「くふふ…この程度…足止めにしかならんぞ!」

 

『ボシュゥッ!!』

 

そんな音と共にザルエラを縛り付けていた結界は跡形もなく消し飛んだ。

 

「くっ…セアラ!傷をつける事は出来たんだ…何とかあいつよりも早くあいつを片付けるぞ!」

 

「はいです!」

 

「ふふ…無駄だ…この森はもう…私の手で消え去るのだ…」

 

ザルエラの周囲に再び黒き風が渦を巻く。

 

「させるか…」

 

「ジェント!これを…お使いなさい。」

 

今にもザルエラに飛び掛ろうとしたとき、ミントがそう叫びジェントを呼びとめた。

 

そんなミントが差し出してきたのは見た事もないような細工が施された腕輪だった。

 

「腕輪…?こんなもので何が…」

 

「あなたになら…使いこなせるやもしれません…さぁ!」

 

ミントにそう言われるまま腕輪をはめるジェントだったが…

 

「ふん…観念したのか?ならば、消えるがいい!!」

 

『ドォォォゥッッ!!』

 

その隙をつきザルエラの黒き波動はジェント達に襲いかかってきた。

 

「ジェ、ジェントちゃん!」

 

「くっ…こうなったら…幾分かでも相殺する!メガ・バースト!!」

 

少しでもその威力をそごうと思い呪文を放ったジェントだったがそれはいつもの呪文とは異なるものだった。

 

『ゴァァァァッッ!!!』

 

普段のジェントからは…いや、尋常ならざる灼熱の炎がザルエラの闇を食らい尽くしていたのだった。

 

「なっ!?…ばかな…そんな事が!」

 

「い…今のは…本当に俺が…?」

 

両者ともに驚き戸惑っているところにミントが割り入るように語り始めた。

 

「ジェント…それこそがこの森に伝わりしラーナ様の神器…『月影の腕輪』。

 

 己の内にある潜在能力を引き出しそれを意のままに操ることができる腕輪…あなたはその腕輪に選ばれたのです。」

 

「…ラーナの…神器に…」

 

「ラーナ神器…やはりここにあったのか…ならば…それごと消し飛ばしてくれる!!」

 

怒りをあらわにし再び黒き風を纏うザルエラだったが、その風は先程よりも強き風に感じた。

 

「あいつ…さっきので手加減してやがったというのか!?」

 

「ジェントちゃん!」

 

そんな声を上げ驚愕するガクト、セアラとは別にジェントは落ちついた表情をしていた。

 

「今なら……あれが撃てるかも知れないな…」

 

「出来損ないのダークエルフに…腕輪が答えるはずが…あるわけがないっ!!」

 

『グゴゴゴゴゴッッ!!!』

 

ザルエラが放ったそれは地面をえぐりながらもジェントに向かって飛んでくる!

 

「…炎の精霊よ…我に応え…わが敵を食らい尽くせ!フレア・バースト!!」

 

「ぐ…ばかな…バカな…バカな…バカなぁぁぁっ!!」

 

ジェントが放った炎…いや、もう炎とも呼びつかない紅き奔流は闇を食らい…そしてザルエラそのものも飲みこんだ…

 

 

「や…やったのか…?」

 

「…いや…手応えがなかった…おそらく…」

 

「逃げたんですか?」

 

「多分な…何にしろこれで一件落着…だな。」

 

「ジェント…よくやってくれました。」

 

全てが終わり剣を納めたジェントの元にミントが駆け寄ってきた。

 

「あぁ…そうだ、これ…返しておくぜ。」

 

「………」

 

「あんた達の宝なんだろう?俺なんかが持ってるわけには…」

 

「いえ…それはあなたの物です。」

 

ミントに返そうと差し出した腕輪はジェントに手に戻された。

 

「だが…」

 

「それは前の持ち主がエルフだった為にこの森に伝わっていただけ…この森にそれを扱える者はいません。

 

 それにあなたが選ばれたのです。それは…もうあなたの物なんですよ。」

 

「だがこれは俺には過ぎた代物だ。これを受け取るわけには…」

 

「しかし…あの者と再び戦うにはそれの助けが多いに必要なはずでしょう?」

 

「…分かった…それならこれは借りるだけにする。全てが終わったら返しに来るさ。」

 

「えぇ…それで構いません。」

 

「む、村長!」

 

そんな二人のやり取りにガクトが割りこんできた。

 

「ガクト…どうしたのですか?」

 

「村長…まさかこいつ等を逃がしてしまうおつもりですか?」

 

「逃がすも何も…彼等には彼らの場所に帰ってもらうだけですが…」

 

「なりません!それでは森の掟に…」

 

「ガクト!…あなた…先程の戦いを忘れたわけではないでしょうね?」

 

「…そ、それは…」

 

「彼等は私達を助けるために戦ってくださったのですよ?

 

 言わば彼等はこの森の盟友。盟友をこの森に縛り付ける事が出来ましょうか?」

 

「し…しかし…」

 

「ガクト、くどいですよ。これは村長としての命令です、彼等を以後我が森の盟友として扱いなさい。」

 

「…ぎょ…御意…」

 

ガクトはそう言われとぼとぼと村の被害状況を調べに行ってしまった。

 

「…さて…勝手な事をしてしまってごめんなさいね。」

 

「いや…あぁ言ってもらうとこっちも助かる。ここを出るとき逃げるような印象を与えるのはごめんだからな。」

 

「セアラも構わないですよ。」

 

「ありがとう…」

 

「…俺達としてはすぐにでもここを発ちたいんだが…」

 

「えぇ…ここではなんですし…少しついて来てください。」

 

そう言い歩き始めたミントの後を追いジェント達は森の方へと連れて行かれたのだった…

 

 

ジェント達が辿りついたのは村の外れの森の中…ぽつんとひらけた小さな広場だった。

 

「ここは…?」

 

辺りを見渡すと差し込む月の光に照らされた小さなお墓を見つけた。

 

「ふみぃ…お墓…です。」

 

ミントはその墓に寄りそうに手をかけるとそっと語り始めた。

 

「ジェント…これがあなたの求めていた答えです…」

 

「これが答え…?どう言う事だ。」

 

「先程の話しの…」

 

「話しのって………まさか…」

 

「そう…これはあなたの母であり…私の姉の墓なのです…」

 

ミントの語るそんな事実がジェントの胸に深く突き刺さる。

 

「そんな……どう言う事なんだ!?」

 

「あの話の続きはこうです…

 

 村人に存在が知れた人間の男は掟により処刑される事が決まりました…

 

 それを何とか止めようとした私の姉シスカは村長に男を許してもらう様懇願しました。

 

 しかし…その意見は一向に聞き入れてもらえなかった…

 

 それどころかせっかく生まれた子供さえも男と共に処刑される事になってしまったのです。

 

 そんな事実をつきつけられた姉は男を秘密裏に連れ出し逃がそうとしたのです…

 

 けれど姉のそんな行動は見抜かれており、たちどころに村の人間により包囲されてしまいました。

 

 逃げ場を失った姉は……幼子を男にたくし……自らの命を犠牲にしふたりを逃がしたんです…」

 

そう語るミントの瞳からは止めど無い涙が流れ落ちていた。

 

「そんな……ようやく……俺の過去が分かったら…こんなの……こんなのありかよ!!」

 

「ジェントちゃん…」

 

ジェントは悔しそうに母シスカの墓を眺めていた。

 

「…ジェント…剣を抜きなさい…」

 

「…なに?」

 

「剣を抜きなさいと言ったのです。」

 

そんなジェントを見てかミントは凛としてそう言った。

 

「なぜそんな事を…」

 

「……私を…殺しなさい。」

 

突然そんな事をミントは口走った。

 

「なっ…何を言ってるんだよ!お前…また村の責任は自分の責任だとでも…」

 

「そうではないんです…」

 

「どう言う事ですか?」

 

「…あの時…村長に二人の事を告げたのは…私なのです…」

 

『!?』

 

ミントのそんな言葉に二人は声を失った。

 

「そして…あの人を連れ姉が逃げる事を村長に話したのも…私なのです…」

 

「……なぜだ…なぜそんな事を!」

 

「…あの人が…姉さんを選んでしまったからです。」

 

「なにを…」

 

「私も…私だってあの人が好きだった!…なのに…あの人は姉さんを選んでしまった…

 

 だから…私の手に入らないのだったら姉さんから奪ってしまえば…

 

 あの人が処刑されたら私もそれに続こうと思っていた…だけど…それすらも姉さんに奪われてしまった!」

 

「あんた…」

 

「だから…ジェント、あなたの手で…私を裁いてください…あなたには…その権利があります。」

 

そう言うとミントはジェントの側に歩み出てそっと目を閉じた。

 

「………分かった。」

 

ミントに応えるかのようにジェントは剣を静かに抜いた。

 

「ジェントちゃん…本当に…」

 

「…ふっ!」

 

そして…その刃を振り下ろした…

 

 

………静まりかえる森…辺りには木々のせせらぎしか聞こえてはこなかった。

 

「……なぜ……刃を止めたのです…」

 

そう呟くミントの目の前でジェントの剣は止められていた。

 

「これが俺なりの判決だ…あんたには殺す価値もない。」

 

「な!?…しかし私はあなたの母を…」

 

「勘違いするな、お前を見逃すわけじゃない。…あんたは…生きてその罪を償え。」

 

「生きて…罪を…」

 

「母に犯した罪…それはこの森の奴等に尽くす事で償え…それがあんたの罪だ。」

 

「ジェント……」

 

「俺達はもう行く。…また気が向いたらここに来る。…その時この森が今よりも悪くなっていたら…その時は迷わずあんたを斬る。」

 

「…ふふ…厳しいですね。」

 

「生かされるだけありがたいと思うんだな。…セアラ、帰るぞ。」

 

それだけ言うとジェントはミントに背を向けその場を後にしだした。

 

「…ジェ〜ントちゃーん。」

 

そんなジェントに後ろからセアラが思いっきり抱き着いてきた。

 

「抱きつくな…」

 

「やっぱり、ジェントちゃんは優しいです!セアラ…そんなジェントちゃん大好きですよ!」

 

「……だまれ…」

 

「嫌です〜。」

 

そんなやり取りをしながら森の帳の中に消えて行く二人をミントは優しい瞳見つめ続けていた。

 

「…姉さん…あなたのジェントは…優しい心の持ち主になりましたよ…」

 

…そんな小さな呟きが森の静けさに吸いこまれていく中…もう長い夜は明けていこうとしていたのだった……

 

 

 

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