第18章『悠久…時の調べの中で』

 

それぞれの探索を終えたレイ達は再びミロワ城の一角にいた。

 

「結局…どこにもあいつはいなかったってわけか。」

 

「うん、いたような形跡はあったけどそれ以外は特に…」

 

「つまりのところ、あいつは極端なまでに他人との接触を避けてるって事か…」

 

そんなカインの呟きに一同は言葉を失ってしまった。

 

いくらそんな形跡を発見しても彼自身を見つけ出さなければ意味がないからだ。

 

「でも…行った場所以外でロディの行きそうな場所なんて…」

 

「それなら、セアラ達も一緒に探せばいいんですよ。」

 

ルフィミアの言葉を遮りセアラがそんな奇天烈な事を口走った。

 

「おまえなぁ…昨日まで散々探し続けた事をもう忘れたのか?」

 

「違うです!みんなで探すんじゃなくてセアラ達が探せばいいんです。」

 

セアラのそんな言葉に首をひねる一行だったが…

 

「セアラ達…?もしかして、獣人の力を借りるってこと?」

 

「その通りです、さすがですルフィミアちゃん。」

 

「ふむ…確かに彼等ならば拙者達よりも行動範囲が格段に広いはずでござるが…」

 

「基本的に私達人間ってそういう人達に嫌われてるからねぇ…」

 

そんな言葉に一同が言葉を失ったかと思うと…

 

「だ〜いじょうぶです。セアラにお任せですよ!」

 

セアラがそう自信たっぷりに応えた。

 

「……何だか不安だな…」

 

「僕もそう思うけど…他に手はないし…それにかけてみようか。」

 

何だか大きな不安を余儀しながらもレイ達は一路ハバリアへと向かい始めたのだった…

 

 

ミロワの北に広がるハバリア大森林…

 

ここは古くより獣人達の領域とされてきた森で大陸に住まう獣人の大多数がこの森で暮らしているという…

 

しかし…平穏を望む彼等は森に迫る不穏分子を嫌い、

 

誤って足を踏み入れた者さえ生きては帰れないと言う森…

 

その森に今、レイ達は静かに足を踏み入れたのだった。

 

 

「ねぇ…セアラ、本当にこっちで道はあってるの?」

 

「大丈夫ですよ、この森はセアラの庭みたいなものですから。」

 

「だといいんだけどね…」

 

「まかせてください!セアラにふかっ!?」

 

『ゴスッ!』

 

はしゃぎながら歩いていたセアラはものの見事に大木と正面衝突をしてしまう。

 

「やっぱり…不安。」

 

「その不安…現実のものになるぞ。」

 

「えっ…」

 

ジェントにそう言われ立ち止まった瞬間、周りを囲まれている事に気が付いた。

 

「いつのまに!?」

 

「…6…8…11…15?って、一体何人いるって言うの?」

 

「くっ…とりあえず応戦しよう。何としても話を聞いてもらわないと…」

 

レイ達は獣人たちを迎え撃つため剣を抜き構えるが…

 

「だ、だめですよみんな!そんな事してはいけないんですぅ!」

 

セアラがそう言い放ち全員を制する。

 

「セ、セアラ…そうは言っても…」

 

「ここはセアラにお任せですよ!」

 

言うが否やセアラが歩み出る。

 

「セアラ、危ないから戻って…」

 

「まぁまぁ嬢ちゃん。ここはあいつに任せてみようぜ。」

 

心配そうな表情をするルフィミアをよそにセアラは中央に歩み出て…

 

「みんなぁ〜、ただいま〜!セアラだよ〜〜!!」

 

そんな言葉を叫び散らした。

 

セアラのそんな叫びに辺りもまた騒ぎ始める。

 

「セアラ…」「セアラなのか?」「いや…だが人間どもと…」「しかし…」

 

しばらくして森の中から数人の獣人たちが出てきた。

 

「ほ…本当にセアラなのか…?それにその人間達は…」

 

「セアラはセアラ以外の誰でもないですよ。

 

 それにこの人達はセアラの新しいお友達です!」

 

「この感じ…その匂い…本当のセアラだ!みんなっ、セアラが帰ってきたぞ〜!!」

 

そんな歓喜の叫びとともに森の中から数十人の獣人達がセアラの元に駆け寄る。

 

いきなりの出来事にあっけに取られていたレイ達だったが、

 

獣人たちの歓迎を受けながら森の奥へと案内されていくのだった…

 

 

獣人の集落に招かれたレイ達はハバリアの長の所に通されていた。

 

「よく来たな、私がこのハバリアの長ラグナだ。」

 

「初めまして、僕はミロワの将軍レイ=クラウディアです。」

 

「それで…人間のお前達が我ら獣人に何の用だ?」

 

「今日ここに来たのは、あなた達の力を貸りに来たからなんです。」

 

ラグナの威圧的な態度に気圧されることなく、レイはそうはっきりと答えた。

 

「我らの力を…だと?」

 

「理由は二つ…一つはこの大陸に平穏を取り戻すため…

 

 そしてもう一つはある人物を探し出してほしいのです。」

 

「???人探し…」

 

「僕達には限界があります…ですからあなた達の力を貸りたいのです。

 

 …何としてでも僕達はロディを探し出したいんです。」

 

「ふむ…良く分からんが…話は理解できた。

 

 だがそう簡単に人間を信用するわけにはいかん。」

 

「そんな…」

 

「確かにセアラを助けてくれた事は感謝している。

 

 しかし…セアラを攫ったのもまた人間なのだからな。」

 

「くっ…」

 

事情を知らないとは言え何だか自分の事を責められているような言葉にカインの呟きがもれる。

 

「悪いが…これ以上の話は…」

 

「ねぇ〜ラグナちゃ〜ん。そんな事言わないでくださいですぅ。」

 

ラグナの言葉を遮りセアラがラグナにそう擦り寄っていった。

 

「セッ、セア…」

 

「こら、セアラ。自分の父親をちゃん付けで呼ぶなと何度も言ってるだろうが。」

 

セアラの行動を止めようとしたレイ達だが今度はその言葉に動きを止める。

 

「ち…父親って…セアラ…獣人の…長の娘なの…」

 

「あれ?言ってなかったですか?」

 

「…初耳だ…」

 

「先程のあの歓迎のされかた…納得がいったでござるよ。」

 

静かにうなづく一同を無視し、セアラは更にラグナに詰め寄る。

 

「ラグナちゃ〜ん、この人達は良い人達なんですよ。

 

 人間も皆が思ってるような人達ばかりじゃなかったんですから〜。」

 

「だ、だがなセアラよ。この森全部の事を考えわしはだな…」

 

「むぅ〜…そんな事言ってるとセアラ、もう家に帰ってやらないんですから!」

 

そんな事を言いセアラはそっぽを向いてしまう。

 

「セ、セアラ…それは…」

 

「分からず屋のラグナちゃんのとこに居るよりも皆の所に居た方が楽しいですから!」

 

「そんな事……わ、分かった。協力するからそんな事を言うんじゃない。」

 

セアラのそんな暴挙にラグナの心はついに折れてしまった。

 

「ラ…ラグナ王…」

 

「…と…言う訳で…セアラの頼みもあるという訳でお前達に力を貸してやろう。」

 

(と言うよりは…それが全てなんじゃあ…)

 

と言う言葉を必死に抑えながらラグナの言葉を聞くレイ達。

 

「ただし条件が二つある。」

 

「条件…ですか。」

 

「そう、まずこの森の自治権は変わらず我等の物だということ。

 

 もう一つは我等が人間に援助を求めた時はそれを断らないことだ。」

 

「…分かりました、ランドゥ伯には僕の方からそう伝えておきます。」

 

「うむ…それで、我等に探して欲しい人物と言うのは…」

 

「名前はロディ=シェルウィザード。それと…これが彼の身に付けていた物です。」

 

レイはそう言いロディの服を渡しながら彼の特徴を簡単に告げる。

 

「…ふむ…分かった、何か分かり次第使いを出す。」

 

「ありがとうございます…それじゃあ、僕達はこれで…」

 

そう告げレイ達がその部屋を後にしようとした時…

 

「セアラ…」

 

「うに?どうかしたですか、ラグナちゃん。」

 

「…お前は…その人間達についてゆくつもりか?」

 

「うん、みんなセアラの大事なお友達ですから。」

 

ラグナのそんな問いにセアラは屈託ない笑顔でそう答える。

 

「そうか…ならばこれを持ってゆくがいい。」

 

そう言いながらラグナが手渡してきたのは一つの爪…

 

しかしその爪は紅く彩られており、中央に紅い宝玉が埋め込まれたどこか神秘的なものだった。

 

「これは…何なのですか?」

 

「こいつは我が獣人に伝わる宝『炎刃牙』だ。」

 

ラグナにそう言われながらそれを腕につけてみると、

 

一瞬蒼白く光ったかと思うとすぐセアラの体へと吸い込まれていった。

 

「い、今のは…?」

 

「お前を認めたのだ…それがきっとお前を守ってくれる。」

 

「そうなのですか?ふみ…それじゃあ、セアラもう行くですよ。」

 

そう言いセアラは足早にレイ達の後を追うために部屋を後にした。

 

「……セアラ…死ぬんじゃないぞ…」

 

セアラが居なくなった後を呆然と眺めながらラグナはそう呟き漏らしていた…

 

 

こうして事実上同盟を結ぶ事になったハバリアの力までもを貸りたロディの捜索は開始される。

 

獣人達のおかげでロディの匂いをパーシルにて見つけたのだが、

 

それ以上の手掛かりは何もつかめないまま3日がたとうとしていた…

 

「くそっ!何故見つからないんだ!!」

 

「ふみっ…ご、ごめんなさいです…」

 

レイのそんな怒鳴り声に自分を責められているようなものを感じセアラがそう謝る。

 

「あっ…い、いや…セアラ達を責めた訳じゃないんだ…ごめん…」

 

レイが咄嗟にそうフォローするが周囲の嫌な空気は晴れる事はなかった。

 

「しかし…一体ロディ殿はいずこへ行かれたのか…」

 

「手掛かりがパーシルってんじゃ手がだしづらいしな…」

 

「せめて…もう少し何か決め手になる情報があれば…」

 

ふとそんな呟きがもれてしまう…

 

そんな場所はもう思い浮かばない…

 

とうに行き尽くした…そこがもっとも危険なパーシルの城下でもだ…

 

「み…みん…な?」

 

「!?」

 

不意にそう呼ばれ振り返って見るとそこにはずっと寝たきりになっていたマリオスの姿があった。

 

「マリオス!…もう…体は大丈夫なのですか?」

 

「からだ…?」

 

「おいおい嬢ちゃん、寝ぼけてるのか?

 

 嬢ちゃんはこの10日近くずっと寝たきりだったんだぞ?」

 

「そうよ。医者の話では疲労が祟ったんじゃないかっていってたけど…」

 

「……違う…別に疲れていたわけじゃなかったの。」

 

二人の言葉に首を横に振りマリオスはそうはっきりと答えた。

 

「違うって…どうしてそんな事が…」

 

「永い…永い夢を見ていたの…」

 

「ゆめ?」

 

「そう…二人の姉弟の夢…二人の永遠かと思える思い出を観ていたの…」

 

「??よく…分からないんだけど…」

 

「そうね…実際の所…私にもよく分からなかったの…何でこんな夢を観ているのかが…」

 

「マリオス…それってやっぱり…マリオスの力の一つなの?」

 

「…そうなんだけど…ここまで長い夢は初めての事よ。」

 

「…それで…その夢にはどんな意味が?」

 

「…分からない…そもそも意味なんて物も存在してないかもしれないし…」

 

「そっか…もしかしたらその夢にロディが関係してるんじゃないかって期待したんだけど…」

 

マリオスの言葉にレイはそう落ち込む。

 

「ロディ…ロディはまだ…」

 

「あぁ…あいつの行きそうな所は全部しらみつぶしたが…打ち止めだ。」

 

「全部って…どこに行ったの?」

 

「まずウィンディアに白の森、神の国にシルバーウルフのアジト…

 

 ハバリアの協力でパーシルが一番の有力候補って分かったけど長時間の探索は危険だし…」

 

「せめてもう少し場所が特定できれば、パーシル軍が動くより先に動けるのに…」

 

「マリオス、パーシル内でそんな場所知らない?」

 

「そう…ロディが無意識のうちにすがろうとする思い出の場所を。」

 

「思い出の…場所…」

 

そう言われマリオスは静かに思い出し始める。

 

ロディと出会い色々な人間と知り合えた事…世界の姿を見て回れるようになった事…

 

そして…ロディと始めてあったあの花畑……

 

「そうだ…花畑…」

 

「花畑?」

 

「ギアの街の南…ラーナの箱庭の花畑…きっとあそこに。」

 

「そこがロディの思い出の場所…よし、早速出発しよう!」

 

レイ達は話を聞くや否やすぐさまに準備を整えラーナの箱庭へと向かい始めたのだった。

 

 

ギアの街の南に広がる森林…ラーナの箱庭…

 

その森の中にひっそりと存在する花畑にやって来た一行だったが…

 

「誰も…いない…か。」

 

レイが呟き漏らした通りそこには人影すら存在していない静かな場所だった。

 

「マリオス、本当にここなのよね?」

 

「えぇ…ここは確かにロディが自分で言ってた思い出の場所なんだけど…」

 

そう言いながら再び辺りを見回すがそこには誰の姿もない。

 

「やっぱりここじゃないどこか別の場所に…」

 

「ふみっ!!」

 

一同が落ち込みかけた時、セアラが何かを感じ取った。

 

「セアラ、どうかしたのか?」

 

「みんな、少し静かにして欲しいのです。」

 

それだけ言い全感覚を研ぎ澄まし嗅覚のみに神経を集中させる。

 

花畑の匂い…森林の匂い…そして風に運ばれてくるそれに…

 

「やっぱり…間違いないですっ!ロディちゃんの匂いがします!」

 

「ほ…本当なの?」

 

「セアラ一度匂った事のある匂いは忘れません。

 

 間違いなくロディちゃんの匂いです!」

 

「セアラ、その匂いはどっちからしてるんだい?」

 

「え〜っと……こっちからです!」

 

そう言いながら駆け出すセアラの後を全員が追いかけ始めたのだった…

 

 

セアラの案内に導かれ一行が辿り着いたのは海岸だった。

 

「…海?こんな所にあいつが居るのか?」

 

「う〜っと…ふみぃ…潮の匂いのせいで分からなくなってしまったです…」

 

「ここまで来てそんな…んっ?あんな所に家…?」

 

レイがそう言いながら見つめたその先には確かに一軒の家が建っていた。

 

「ここに住んでる人かな…ちょっとあそこで話し聞いてみようよ。」

 

手掛かりを失った一行に他に選択肢はなくその家に歩み寄ってみるのだった。

 

 

「あの〜…すいません、どなたかいらっしゃいませんか?」

 

ルフィミアはそう言いながらドアをノックしてみるが中からの返事は全くない。

 

「留守…でござるな。」

 

「みたいだね…仕方ないか、やっぱりこの辺りをまんべんなく探索して…」

 

「あの…お客様…ですか?」

 

レイがそう言い掛けたとき、後ろから突然そう声をかけられた。

 

「えっ…あ、はい。実は…!?」

 

事情を説明しようと振り向いたレイ達はその人物を見て驚きを隠せなかった。

 

いや…正確にはその人物の隣に佇んでいた人物に…

 

「ロ…ロディ…」

 

「ま…まさか…」

 

「ロディーー!」

 

その人物の返事も待たずタガの切れたルフィミアは思わずロディに抱きつくが…

 

「や…やめてよっ!!」

 

ロディはそれを振り払ったのだった。

 

「ロ、ロディ…?」

 

「ち…違う…ぼく…ぼくは……う、うわぁぁっ!!」

 

それだけ言い残しロディはその場から逃げ出すように走り去ってしまった。

 

「ま、待ってよ!ロディーー!!」

 

マリオスがそう必死に呼び止めるが全く効果は見られなかった。

 

「くっ…ここまで来て見失うわけには!!」

 

「ロディ…あの人はまさか…ロディ=シェルウィザードさんなんですか?」

 

その場から駆け出そうとしたレイ達を驚いた様子で女性が呼び止めた。

 

「な…何でそれを…あなたは…?」

 

「あっ…申し遅れました。私…アルマ=ミルノーって言います。」

 

「アルマ…アルマって確かロディが話してくれた命の恩人の…」

 

「命の恩人って…そんな事…」

 

「そのアルマ殿が何故ロディ殿を…」

 

紫苑にそう言われ考え込みながらもアルマはぽつりぽつりと話し始めた。

 

「私が日課の散歩で花畑まで足を伸ばしていたらマールがしきりに吠えるので、

 

 駆け寄ってみたら人が倒れていて…家に連れ帰って看病をする事にしたのです。」

 

「それが…ロディがだった…って事?」

 

「えぇ…それで…意識は戻ってくれたんですけど…酷く脅えてばかりで…

 

 名前も教えてくれず…うずくまってばかりで…気分転換にと…散歩に…」

 

「なるほどね…そういう事ならなおさら放っておけないね。」

 

「えぇ…ロディを追いかけましょう!」

 

「アルマさんはここで待っていてください!」

 

「えっ…あ、あの…」

 

アルマはどうしていいか分からず呆然と立ち尽くしているばかりだった…

 

 

「ふみぃ!こっちですー!」

 

セアラの鼻を頼りにロディを追いかけるレイ達は、そのうちに何だか見た事ある風景が飛び込んできた。

 

「あれ…ここって…確か…」

 

そんな事を思いながらたどり着いた先…そこは…

 

「花…畑…」

 

そう…あの思い出の花畑だった。

 

「ここに…ロディが…?」

 

「あ、あそこ!」

 

マリオスが指差した先…そこには呆然と佇んでいるロディの姿があった。

 

「ロ…ロディ…」

 

今度は刺激しないようにとゆっくりと近づく一行…

 

「誰…お姉ちゃん?」

 

後もう少しという所でロディは静かにこちらに振り向いた。

 

「違う…お姉ちゃんじゃ…ない。」

 

ロディはこちらを捕らえているのかそうでないか分からない瞳でそんな意味不明な事を呟き漏らす。

 

「ロディ…もう帰ろう?私達と一緒に…」

 

「帰る…僕が?」

 

「そうですよ!私達と帰るです。」

 

「帰る……そう…そういう事だね…」

 

そう冷たく笑いながらロディが始めてレイ達のほうへと体を向ける。

 

「ロディ…分かってくれて嬉しいよ。さぁ…」

 

「お前達が…僕とお姉ちゃんを引き離す奴等なんだね。」

 

「えっ…」

 

「僕は行かない…お姉ちゃんと約束したんだ…もう離れないって…お姉ちゃんを悲しませないって。

 

 お前達が…お姉ちゃんを苦しませる奴等…僕は…お前達には従わないっ!」

 

周囲の空気が揺れたかと思うとロディは再び光の魔力を纏い始める。

 

「ま、待って!私達は違うの!!…私達は…」

 

「僕の敵…だろ?大丈夫だよ…お姉ちゃん…僕が守ってあげるから!!」

 

一瞬、魔力が弾けたかと思うとロディは静かに空へと浮き上がり始める。

 

「くっ!…何という魔力…ただそこにいるだけだと言うのに…この威圧感…」

 

「どうやら…何とか落ち着かすまで話なんて出来る状態じゃねえな。」

 

「みんなっ!出来るだけロディを傷つけないように応戦をっ!」

 

戸惑いながらもレイ達は仕方なく各々の武器を構えだす。

 

「お姉ちゃんは…僕が守るから…」

 

 

「先手…」「必勝でござる!」

 

武器を抜き放つと同時にカインと紫苑が同時に飛び掛るが…

 

『バチィィッ!!』

 

その刃はロディの光によって弾かれ届くことはなかった。

 

「どうしたの…?それが君達の精一杯なの?」

 

「これならどうだっ!エア・スラッシュ!!」

 

ジェントの風の刃が物凄い速さでロディへと向かってゆくが…やはり光に阻まれ届く事はなかった。

 

「楽しくないな…精々足掻いて見せてよ!ホーリー・レイ!!」

 

『ドドドドドドッッ!!』

 

光の柱が降り注ぎレイ達を襲う!

 

「くっ!」「きゃっ!!」

 

レイ達は何とかそれを回避してみせた。

 

「やるね…でも…お前達と遊ぶのはもう飽きたんだ…これで…終わりにするよ!」

 

ロディの叫びと共に空気が再び揺れ始めロディの両手に光が集まり始める。

 

「消えろ……バスター!」

 

「!?」

 

光が放たれるかと思った瞬間、その光は一瞬にして消えうせ辺りに静寂が戻ってきた。

 

「…ぁっ………そん…な……ごめんね……おねえ…ん。」

 

それだけを呟くとロディは静かに地面へと倒れこんでしまった。

 

「ロディ!!」

 

そんなロディを放っておけずルフィミアがいの一番に駆け寄っていった。

 

「い…一体どうしちまったんだ?」

 

「多分…力の使いすぎだと思う。」

 

「俺もそう思うぜ。いくら戦争用に作られたとはいえベースが人間だ…

 

 体力は知らんが魔力まで無尽蔵とはいかないからな。」

 

「でもどうするの?こんなに不安定な状態なんじゃ…ミロワに連れ帰ったとしても…」

 

「いや…このまま連れ帰ろう。」

 

「レイ…でも、また暴走してしまったら…」

 

「だけど…あの、アルマって子の所に預ける方が危険だよ。

 

 ミロワに連れ帰って、気休めにしかならないだろうけど魔力を抑える結界を張って様子を見よう。」

 

そんなレイの言葉に反論する者はなくアルマにそう断りをいれロディをミロワへと連れ帰ったのだった…

 

 

ロディを連れ帰ってからはや三日…ロディはいまだ眠りつづけていた。

 

そんなロディの傍らには常にルフィミアが寄り添っていたのだった…

 

ルフィミアは実のところこの三日間ろくに睡眠をとってはいなかった。

 

昼間はロディに一日中付き添い、

 

夜になり他の者と交代した後も礼拝堂で祈りを捧げてはロディの顔を覗きにいっていた。

 

そして…その日もルフィミアは眠り続けるロディの傍らにいた…

 

『コンコン…』

 

「ルフィミア、入るよ?」

 

そんなノックと共にマリオスとカインが部屋へと入ってきた。

 

「ルフィミア…また今日も寝てないんでしょ?

 

 私が代わるから少し休んだ方がいいよ。」

 

「………」

 

マリオスのそんな申し出をルフィミアは首を振り拒絶の意思を見せる。

 

「しかしよ、嬢ちゃん…このままじゃ嬢ちゃんの方が倒れちまうぞ。

 

 ここは俺達に任せて休んだ方がいい。」

 

カインもそう説得するがその言葉にもルフィミアは拒絶の意思を見せた。

 

「ルフィミア…どうしてそこまで…」

 

「……これは…私が犯した罪への…せめてもの罪滅ぼしなんです…」

 

「罪…滅ぼしだって?」

 

「…ロディを苦しめたのは…私の父です……それに、ロディと家族を引き離したのも…

 

 だから…私はその罪を…ロディに償わなければいけないのです…」

 

「どうして…そんなのルフィミアが悪いんじゃないよ!

 

 …ルフィミアだって…被害者の一人じゃないの…」

 

「いいえ…私が父の行いに気付いていたら…私が止めていれば…こんな事には…」

 

「そんな事…」

 

「お、おい見ろ!」

 

二人のやり取りに割って入ったカインがある事に気が付いた。

 

カインが指差した先…そこには……

 

「う……うぁぁ…」

 

そんな呟きを漏らしながらゆっくり上半身を起こすロディの姿があった。

 

『ロ、ロディ!』

 

二人の驚きの声が重なってしまう。

 

「お、俺は全員を呼んでくる!」

 

そんな事実に驚きつつもカインはそう言うと慌てて部屋を飛び出していった。

 

「ロディ、私の事がわかる?」

 

マリオスがゆっくりと近づきながらそう呼び掛けるが…

 

「う…あ…い、嫌だ!…来ないで…」

 

期待していた言葉とは正反対の言葉が返ってきたのだった…

 

数分後…ランドゥも含め全員が部屋にやってきたのだが、

 

ロディはその全員にも拒絶の意思を見せた。

 

そして何度もこう呟き続けた…「お姉ちゃんに会いたい…」と。

 

 

「レイよ…一体、ロディはどうなってしまったと言うんだ?」

 

脅えるロディにこれ以上負担をかけないように別室に移ったレイ達にランドゥのそんな疑問が飛ぶ。

 

「…はっきりとは分かりませんが…力を使いすぎ一時的な記憶の混乱になっているんじゃないかと思います。」

 

「一時的…か。本当そうか分からんがな。」

 

カインのそんな一言が一同を更に落ち込ませる。

 

「それにしても…お姉ちゃん…か。あれは一体誰の事なんだろうな。」

 

「う〜ん…ねぇ、ルフィミア。誰か分からないの?」

 

「お姉ちゃんと言う事はパーシルの人間の可能性が高いですけど…

 

 シェルウィザードの名前を持つ人…ですか。」

 

ルフィミアが頭を抱え悩み始めた時、部屋のドアが突然開き息を切らした兵士が一人入ってきた。

 

「ランドゥ様、大事なお話中失礼します…ランドゥ様にお客様が来られました。」

 

「客人?…しかし今日はそんな約束は…一体何者だ?」

 

「そ…それが……パーシル国…セリシア将軍です。」

 

『!?』

 

そんな兵士の言葉に一同は驚きを隠せなかった。

 

それもそのはずだった…

 

パーシル国将軍セリシアといえばこの大陸では知らない人間はいないと言われるほどの人物で、

 

彼女は自身で出陣した戦いには必ず勝ってしまうと言われる常勝将軍の異名と、

 

剣を修める者の頂点の称号『剣聖』の持ち主であったからだ。

 

「な…なぜセリシア将軍がこのミロワに…」

 

「それが…『ロディ殿に会わせろ』と…」

 

「ロ…ロディに…?」

 

「…ま、まさかギザロフに情報が漏れたのか!?」

 

そんなレイの発言に一同は凍りつく…

 

ギザロフにこの情報が漏れれば最後の一体の戦争人形…

 

そのロディを奪う為行動を起こす事が目に見えていたからだ。

 

「ランドゥ様…いかが致しましょうか…」

 

「…分かった…ここに通してくれ。」

 

「はっ!」

 

ランドゥの言葉を受けた兵士はそう敬礼し部屋を後にした。

 

「ランドゥ伯…」

 

「分かっている…だが、彼女が何かしらの情報を握っている可能性がある…

 

 今はロディに関する情報ならどんな些細な事でもほしい。」

 

「確かにそうですが…彼女がギザロフからの使者の可能性の方が…」

 

「うむ…それについては真相が分かるまでロディの事を隠しておけば何とでもなると思う。

 

 いくら剣聖と言えども他国で大きな事を起こす事はないだろうからな。」

 

そんなランドゥの言葉に諭され一同はセリシアがやって来るのを静かに待つ事しか出来なかった。

 

 

しばらくして再びドアのノックと共に先程の兵士に連れられ一人の女性が入ってきた。

 

「ランドゥ様、セリシア将軍をお連れしました。」

 

「…ご苦労…下がってよいぞ。」

 

「はい…」

 

ランドゥに一礼し男は部屋を出て行った。

 

「ランドゥ伯…この度は私の申し出を受けていただき、まことにありがとうございます。」

 

「いや…それで一体どのような用事でこのミロワに参られた?」

 

「…あの戦争の後、我らの方でもロディの事を探索しましたが全く成果が見られませんでした…

 

 そこで…すでにミロワの方で保護されたのではとここに来ました。」

 

「…それはギザロフの差し金でか?」

 

「いいえ…これは私個人の考えでここに来ました。」

 

そんなジェントの直球の横槍にセリシアは眉一つ動かさず答えて見せた。

 

「…何故あなたほどの者がロディを…」

 

「心外ですね…姉というのは弟の事を心配してはいけないのですか?」

 

『!?』

 

セリシアの突然の告白に一同は言葉を失ってしまった。

 

「あ…ね…セリシア将軍が…ロディの…?」

 

「あら…聖母様は私の名をお忘れでしたか?」

 

「将軍の名前…!?…確か…セリシア=シェルウィザード…」

 

「分かっていただけたかしら。ランドゥ伯…ロディに会わせて下さい。」

 

「……分かった…ついて来なさい…」

 

「ランドゥ伯!それは…」

 

「レイよ…先程言ったはずだ…それにこの接触でロディが正気になるやもしれんからな…」

 

「…で、でも…」

 

ランドゥに気圧され言葉を失ったレイは静かにランドゥに従いロディの元へと足を運ぶのだった…

 

 

「ロディ、入るぞ?」

 

そう断りロディの部屋へと足を踏み入れた一行。

 

「誰…お姉ちゃん?」

 

先程レイ達が入ってきた際もそんな事を聞いては落ち込んでいたロディだったが今回は反応が違っていた。

 

「ロディ…迎えに来たわよ。」

 

「その声…本当にお姉ちゃん?」

 

「そうよ…ほら、こうしたら思い出すでしょ。」

 

ロディに歩み寄ったセリシアはその体を優しく包み込む。

 

するとロディの表情はすっかり安心しきった安らかのものになった。

 

「この匂い…本当にお姉ちゃんだ…」

 

「そ…そんな…う、うそよ!ただロディは混乱してるだけ…

 

 それにあなたがロディの家族って証拠なんてどこにもないじゃない!」

 

そんな光景に懸命に反論するマリオスだったが…

 

「そんなに信じられないの…それならこれで文句ないわね?」

 

セリシアは平然とした顔で自分の首にかけていたペンダントをはずすとマリオスに見せた。

 

「こんな物見せたって…!これは…ロディのと同じ…そんな事っ!!」

 

迷いを振り払うように中を開けて見たがそこにあったのは紛れもない真実…

 

そう…中に入っていたのはロディの物と同じ二人の姉弟の写真だった。

 

「そん…な。」

 

「もうこれで気は済んだでしょう。それじゃこれは返してもらうわよ。」

 

呆然と放心するマリオスから奪うようにしてペンダントを取り戻すと再び自分の首に戻したのだった。

 

「さて…納得をしてもらった所でランドゥ伯…ロディを返してもらえますか?」

 

「なっ!?ばかな、パーシルにロディを渡す事など出来るものか!」

 

セリシアの突然の申し出にランドゥはそう怒鳴り返す。

 

「そうだぜ!手前等にボウズを渡せばろくな事になるわけがねぇ!」

 

「そうよ!ロディを連れ帰り…また戦争人形を作り出すつもりなの?」

 

「…ふぅ…何か思い違いをしてるみたいね。」

 

「なに!?」

 

「初めに言ったはず…この件に関してはギザロフは一切関係ない…

 

 ロディは私個人に返して欲しいといっているのよ。」

 

「あなたに…?」

 

「そう…あなた達には力がない…だけど私にはあるの…

 

 私の手でロディをギザロフから守ってみせる!」

 

セリシアは無意識のうちに拳を握りそう言い放っていた。

 

「だ…だけど!…ここにいるロディはあなたの弟さんじゃ…あなたの家族では…」

 

「そんな事関係ない!…ロディはロディ…私のロディだもの…

 

 それに…もう…本当のロディは…いないのだから…」

 

『えっ!?』

 

「そして…あの子を失って絶望していた私を立ち直らせてくれたのがこの子だった…

 

 私の事をお姉ちゃんと呼んでくれた…ロディと私の記憶を持っていた…だから…この子は私のロディなのよ。」

 

ロディの事をぎゅっと抱きしめながらそう嗚咽を漏らしていた…

 

「だから…私にロディを返して…」

 

そしてもう一度真剣な眼差しでそう言った。

 

「あなたの話は分かりました…けど!あなたにロディが必要なように私達にもロディが必要なの!」

 

そんなセリシアに必死にルフィミアは叫び返した。

 

「…そう…その為にロディの意思を無視するって言うのね…」

 

「なっ…なにをっ!」

 

「それなら…ロディに直接聞いてみましょうよ。」

 

「ロディに?」

 

そう言いセリシアは優しく微笑みながらロディに問い掛けた。

 

「ロディ…ここに残りたい?それとも…私と一緒に来る?」

 

「僕……ボクハ……いく…お姉ちゃんと一緒に…」

 

小さく呟きながらロディはセリシアの腕に抱きついたのだった…

 

「そ……そんな…ロディ!」

 

「ありがとうロディ…それじゃあロディは確かに返してもらいます。」

 

反論するマリオス達を無視しロディをベットから起こすとその場から立ち去ろうとした時、

 

「ま…待って下さい!」「そ、そうです!」

 

マリオスとルフィミアによって阻まれる…が、

 

「……邪魔を…しないで…ロディの前で…私に剣を抜かせないで…」

 

『ぁぅ…』

 

静かなセリシアの威圧に呑まれそれ以上動く事が出来ず、ただ二人を見送る事しか出来なかった…

 

 

二人が立ち去った後、その場にいる人間はそれぞれがどうしていいか…何を話せばいいか分からなかった。

 

そこに残ったのはただ一つの事実…

 

『ロディは自分達よりもセリシアの方を選んだ』という事だけだった…

 

「…ロディは…あの人と一緒の方が…幸せなのかもね…」

 

不意にシスティがそんな事を呟く。

 

「確かにな…あいつにとってはただ一人の家族だからな…」

 

認めざるを得ない事実…だが、

 

「でもでも〜、ロディちゃんと離れるのは寂しいです〜!」

 

セアラが必死にそう反論をしてきた。

 

「だがな、セアラ。あいつがそれを望んだ…俺達がどうこう出来るもんじゃないだろ?」

 

「でもです〜!あのロディちゃんは私達の知ってるロディちゃんじゃないです。

 

 それに、それならどうしてみんなで一生懸命ロディちゃんを探したりしたんですか!?」

 

「それは…その…だな。」

 

セアラにそう言われ反論できなくなるジェント…

 

「……やっぱり……私は…あの人にロディを渡したくない!」

 

不意にルフィミアがそう強く言い放つと部屋を飛び出していってしまった。

 

「ルフィミア!」

 

「…ふふ…そうこなくっちゃな!」

 

「…えっ?」

 

「俺も行くぜ。横から来た奴に『はいそうですか』って仲間を売れるかってんだよ。」

 

ルフィミアに続くようにカインも部屋を飛び出していってしまった。

 

「…ジェントちゃん…レイちゃん!」

 

「…あぁ、僕達も行こう。ロディを連れ戻す為に!!」

 

そんなレイの言葉に後押しされそこに残っていた全員が二人の後を追い始めるのだった…

 

 

その頃…ミロワ城の中庭ではセリシアが自分が乗ってきた馬にロディを乗せようとしている真っ最中だった。

 

「さぁ、ロディ…これに乗って。」

 

「お姉ちゃん…どこに行くの?」

 

「怖がらないで…安全な場所まで連れて行ってあげるから。お姉ちゃんを信じて。」

 

「…うん。」

 

そう頷きロディがその馬の背に跨ろうとした刹那。

 

「待って!!」

 

息を切らせながらルフィミアが二人をそう呼び止めたのだった。

 

「あら…まだ何か用なの?」

 

「…あなたに…あなたにロディを渡すわけにはいきません!!」

 

セリシアに愛用のロッドを突きつけながらルフィミアはそう強く言い放つ。

 

「それで?…まさか私に力づくで挑むとでも言うの?」

 

冷たい笑みを浮かべながらセリシアがそう脅しかかってくるが…

 

「あぁ、その通りだぜ。」

 

「えっ!?カ、カインさん。」

 

負けじと後ろから追いついて来たカインがそう言い返した。

 

「俺だってボウズの事気に入ってるんだ…あんたにゃ悪いが…こっちも引けねぇ訳ってもんがある!」

 

「そう…そっちの皆さんも同じ意見なの?」

 

「え……」

 

気が付けば全員がそこに集まってきていたのだった。

 

「そうです!あなたには悪いですけど…こちらとしてもロディを失う訳にはいかない!」

 

「その通りでござる。ロディ殿は我らにとっても大事な御方…簡単に手放すわけにはいかんのでござる。」

 

「…そう…この大陸最強の『剣聖』に挑むというのね。」

 

「剣聖だが何だが知らねぇが…気にくわねぇ事に従うつもりはさらさらないんだよ!」

 

「多勢に無勢かと思われますが…あなたが相手であればこれもいたしかたない事でしょう。」

 

セリシアに言い放つと同時に全員が各々の武器を構え始めた。

 

「…ロディ…少し離れていて…すぐに終わらせるから…」

 

そう優しく語り掛け自分の馬の手綱をロディに握らせ自分から遠ざけるセリシアだった…

 

 

「さぁ…誰からきてもいいわよ。」

 

剣を抜こうともせずセリシアはレイ達にそうけしかけた。

 

「なっ!?…剣も抜こうともせず…何のつもりでござるか!」

 

「別に深い意味はないわ…別に抜いて構える事が必要だとも感じないもの。」

 

「ふざけるなっ!!」

 

セリシアのその発言にジェントとカインが勢いよく飛び掛る!

 

「ジェント!カイン!」

 

「この思い上がった女に…」「俺達の力、存分に見せてやるぜ!!」

 

二人の閃光のような一撃がセリシアへと襲い掛かる…が、

 

『ガキッ!!』

 

「な…」「にいっ!」

 

瞬時に愛用の一対の剣を抜き放つと同時にその二人の一撃を受け止めていた。

 

「言ったでしょ、剣を構える必要がないってね。」

 

「ぐぅっ!!」

 

「これは御褒美よ…メガ・スパーク!!」

 

『バリリリッッ!!』

 

「う…がぁぁぁっっ!!」

 

セリシアの詠唱した電撃呪文が武器を通じ二人に直接叩き込まれる!

 

「くっそぉっ!!」

 

よろめきながらも何とか間合いを取ろうと飛び退く…だが!

 

「遅いわ…ラプター・ファング!!」

 

その動きすらも読まれており、セリシアの放った光の刃が二人を捕らえた!

 

「がはっ…つ…つええ…」

 

「これが…剣聖の力てやつなのか…」

 

「ジェント!カイン!バラバラに戦ったんじゃ駄目だ…全員で行くよっ!」

 

そんなレイの指示に全員は何も言わず賛同しセリシアを取り囲む。

 

「…………行くよっ!!」

 

「剣聖…お覚悟っ!!」

 

「はぁぁぁっ!」

 

合図と共に一斉に強襲するが、セリシアはそれに対し何をするでもなくただ立ち尽くしていた。

 

「少しは考えたのね…でも…この剣聖にはそんなものは通じないの。」

 

「強がりをっ!」

 

そんな言葉に一瞬セリシアは冷たい笑みを浮かべ…

 

「吹き飛べ…バイパー・バースト!!」

 

刹那…辺りに眩い光があふれたかと思うと何が起きたか理解できないうちにレイ達は弾き飛ばされていた…

 

「な…なにがっ…」

 

「ただの剣気にしか感じなかったが…これが…剣聖の力なのでござるか…」

 

「剣に触れてもいないのにこのダメージ…まるで化け物ね…」

 

その一撃で受けたダメージは大きくレイ達は満足に体を動かすことが出来なかった。

 

「あら…もう終わり?それじゃあ、私がロディを連れ帰ってもいいのね。

 

 安心しなさい…ロディに免じてあなた達の命までは奪ったりはしないから。」

 

そう冷たい言葉を残しセリシアは踵を返しロディ元へと向かいだす。

 

(ダメ…あの人を今止めないと…ロディが…ロディを守らないと…

 

 ロディは私に色々な事を教えてくれた…だから…今度は私がロディを守る番なんだからっ!)

 

マリオスがそう強く思った瞬間、目の前が真っ白になりそして…まどろみの中へと落ちていった…

 

 

気が付いた時、マリオスは真っ白な空間に立っていた。

 

いや…立っているという表現さえも誤っているような錯覚さえ覚えてしまいそうだった。

 

「ここ…は?」

 

(……リオス……マリオス……)

 

辺りを見回していたマリオスの頭の中にそんな呼び声がこだました。

 

「誰…誰が私を呼んでいるの?」

 

『…ポゥ…』

 

そう呼び掛け返したとき、目の前に光の玉が浮かび上がってきた。

 

「…あなたが…私を?」

 

『ヒュォォォッ!』

 

マリオスの呼びかけに応えるかのように光の玉もその姿を変え始めた。

 

それは段々と人間のような形となり、瞬く間に目の前には一人の女性が立っていた。

 

「マリオス…大きくなりましたね…」

 

「あ…あなたは…誰?」

 

「私はラーナ。かつてこの大地を創り出した三神の一人ラーナと呼ばれている者です。」

 

「ラーナ…!?な、何でそんな人が私を?」

 

「マリオス…あなたの他人を守りたいという強い想い確かに感じ取りました…

 

 人を強く思う気持ちこそが、女神の力の源なのです。」

 

「強い…想い?女神の力?…何の事を言ってるんですか?」

 

ラーナの言葉に疑問符を浮かべるマリオス…

 

「今こそあなたの力を解放する時だと…私は思いました。

 

 あなたならば誤った方向には力は使わないだろうと信じて…」

 

「力の…解放?」

 

「目を覚ました時、あなたは力の使い方の全てを思い出しているはずです…

 

 しかし女神の力は強大なるもの…力に酔いしれ、誤った方向へと使うことの無いように…」

 

「ラ、ラーナ様?何の事を言っているのか私には…」

 

「もう時間のようですね……さようなら…私の娘、マリオス……

 

 私に代わり…このグランディアに…平和を…取り戻し…」

 

そこまで言いかけた時、ラーナは再び光の粒子となりだしその姿は不安定な物になってゆく。

 

「え…娘…?私が……まっ、待ってよ!

 

 わ…私…言いたい事いっぱいあるのに!…そんな…お母さん!!」

 

マリオスのその言葉を聞いたラーナは優しい笑顔でマリオスへと応えた。

 

「おかあさ〜ん!!」

 

マリオスのそんな叫びは光の中へと消え、再び白い空間とまどろみが襲い掛かってきたのだった……

 

 

目が覚め現実の世界へと戻ったマリオスの目の前では、

 

今まさにロディを連れ去ろうとしているセリシアの姿が見えた。

 

「待って!…まだ…終わってない!」

 

そう叫び反射的に起き上ったマリオスの傷は消えており、体も妙に軽く感じた。

 

「…何…まだやり合いたいと言うの?」

 

「言った筈よ…ロディは…あなたに渡すわけにはいかないって。」

 

「そう…やっぱりロディを連れ帰るためにはあなた達が邪魔なのね…

 

 いいわ…今度はちゃんと息の根を止めてあげるわ。」

 

マリオスの言葉がよほど頭にきたのか先程とは打って変わってセリシアは剣を抜き構えた。

 

「マリ……オス……ダメ…」

 

「大丈夫…私がロディを守って見せるからっ!」

 

ルフィミアのか細い警告を聞き流しマリオスは静かに構える。

 

「…なんだろう…この光景……僕は…どこかで見たような…」

 

そんな二人のやり取りを目にしてロディはそう呟き漏らしていた。

 

「9人でも敵わなかったのに…たった一人で私に挑むなんて…勇ましいわね。」

 

「…我が名はマリオス…女神の血を引きし者…光よ我に集いて力となれ!」

 

マリオスの言葉と共にいつもよりも強き光が集まり始めた。

 

「この光…いつものとは…違う…マリオス?」

 

「来たれ…神々の刃……ディバイン・ランス!!」

 

マリオスの手に集まった光は瞬く間に収束し鋭き槍を形どった。

 

「光が…槍に!?」

 

「すごい…いつものよりも形がはっきりとしてる…

 

 それにこの力…これがラーナが使いし神器の力なの?」

 

確かにそれはいつものぼんやりとした光の槍とは違いはっきりとした実体を持っていた。

 

「どこまで…どこまでこの剣聖をこけにするつもりなのよ!!」

 

マリオスの行動にきれたのか、その日初めてセリシアは自分から飛び掛っていった!

 

「今なら分かる…私の本当の力の使い方が!」

 

そんなセリシアに対しマリオスは静かに詠唱に入った。

 

「天に眠りし浄化の炎よ…我が敵を喰らい尽くせ……メギド・ブラスト!!」

 

白き炎が辺りを飛び交ったかと思うと、それは瞬く間にセリシアを包み込んだ。

 

「あぁぁっ!!こんな呪文……聞いた事も……!?」

 

「はぁっ!!」

 

まだ炎も止もうともしないうちにマリオスは次の行動に出ていた。

 

『ビュオッッ!!』

 

「くっっっ!」

 

『ガキィィッ!!』

 

唸りを上げセリシアへと襲い掛かってきたマリオスの一撃を何とか弾き返しはしたが…

 

「まだっ!!」

 

『ヒュヒュヒュヒュッッ!!』

 

息もつかせようともしない連続攻撃に出鼻をくじかれたセリシアは後手に回ることしか出来なかった。

 

「くっ…これしきの事…」

 

何とか防いでいたセリシアだったが先程のダメージが酷く次第に押されてゆき…

 

「そこっ!!」

 

「!!?」

 

『キンッ…』

 

一瞬の隙を突いたマリオスの一撃がセリシアの剣を宙へと舞わした。

 

「これで…!!」

 

「しまっ…」

 

「お姉ちゃ〜〜ん!!」

 

そんなロディの叫びと共に中庭に何かを切り裂く音が響き渡ったのだった…

 

 

「………?」

 

恐怖から目を閉じていたセリシアだったが体に全く衝撃が来ない事を疑問に思いゆっくりと目を開けた…

 

「う…ぁっ…どう…して…どうしてなのっ!!」

 

「!!??」

 

今の状況にその場にいる全員が驚愕した。

 

何故ならセリシアの前にロディが立ち塞がっており、光の槍をその身で受け止めていたからだ。

 

「ロ…ロディ!」

 

「ぅ……ぁぁっ。」

 

そんな光景に平常心を保てるはずも無くマリオスの光の槍はその姿を消した。

 

「どう…して…どうしてなの?どうしてその人を庇うの!?

 

 その人だけを憶えていて…どうして私達の事を忘れてしまっているのよ!!」

 

マリオスの嗚咽が響き渡る…が、

 

「……ごめんね…マリオス…みんな……僕のせいで…迷惑をかけて…

 

 でも…耐えられなかったんだ…お姉ちゃんが…目の前で傷つくのを…」

 

「えっ!?」

 

返ってきた返事…それは懐かしくマリオス達が待ち望んだ声…

 

「ロ、ロディ!」

 

その事実に全員が痛む体を押さえロディのそばへと集まる。

 

「お…お姉ちゃん……ここは…退いてくれませんか?」

 

「……ロディ…」

 

「僕は…確かにお姉ちゃんの弟で…家族かもしれない…けど、

 

 今の僕は…ミロワの人間で……みんなの仲間なんだ…」

 

ロディはセリシアに背を向けたままそう告げた。

 

「……いいのね……それで…」

 

「…うん…僕はみんなと一緒にいたい…」

 

「…そう。」

 

そこまで聞きセリシアは自分の剣を納め、馬を引き連れそれに跨った。

 

「…ロディ…今度会う時は戦場ね…」

 

「かも知れないね。」

 

「…さよなら。」

 

そう言い残しセリシアは馬を駆けミロワ城を後にしていった…

 

「ロ…ロディ…君は本当に…」

 

レイが真偽を問いかけようと歩み寄ろうとしたた時、

 

「みんな……ただい…」

 

ロディはそこまで言いかけると地面へと倒れ込みそうになった…が、

 

寸前のところでルフィミアに抱き止められた。

 

「お帰りなさい……ロディ…」

 

その言葉と共に城内に再び静けさが戻ってきた。

 

だが…歴史の終わりもまたすぐそこまで迫ってきているのだった…

 

 

 

to be continued〜

  

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