第20章〜後編〜『離別、閃光に消えた笑顔』

 

戦いが続く中、ザルエラと対峙したジェント、セアラ。

 

「てやっ!」

 

ジェントが全力でザルエラへと斬りかかったが…

 

『ガキィン!!』

 

ザルエラの体はその一撃を受け付けはしなかった。

 

「ふふっ…非力だね…」

 

「くっ…やはりこの剣では無駄か…」

 

ジェントはそう呟くと自分の剣を納め、月影の腕輪を利き腕でもある右腕にはめた。

 

「ふっ…やはりそれを使うか…皮肉なものだね…それとこうして向き合うなんてね…」

 

「?…どう言う事だ?お前…何者なんだ。」

 

「お前…何も知らずに私達と戦っていたのか…ふ…あははは!」

 

「何がおかしい!!」

 

「おかしいさ。その腕輪…以前私が使っていたのだからな。」

 

「な…何っ!?」

 

「ふみっ!?」

 

ザルエラの言葉に二人は驚きを隠せなかった。

 

「おや…?本当に知らなかったようね…他の奴等からは何も聞いてなかったのかい?」

 

「お前…一体なにを…」

 

「なら教えてやるわ、私達が何故魔人になったかをね…」

 

「………」

 

「私達は私を除き普通の人間であり、私もまた普通のエルフだった…あの日を迎えるまではね。」

 

「あの日?」

 

「お前達の世界に伝えられている邪神と聖戦士達の最後の戦いの日さ…」

 

「最後の戦いの日…まさか!?」

 

「そう…私達4人はその歴史の中に消えた聖戦士と呼ばれし者よ。」

 

「お前達が…あの…」

 

「ラーナの手によってユグドラシアと共にこの時の狭間に閉じ込められた私達は何度も奴とぶつかった…

 

 だが…たった4人で勝てるほど甘い相手ではなかった…奴はそれほどまでに強かった…

 

 何度も殺されては奴の闇の力によって蘇らせられてはまた戦う…そんな事を何百年と続けていた…」

 

「………」

 

「もう何度死にどれ位の時がたったかも分からなくなったある時、奴はその時のグランディアを私達に見せた…

 

 平和な大陸…そこには私達が求めた平穏があった…だが…あいつらは知らなかった…

 

 その平穏の為に命を捨てた私達の事を!その平穏を手にする為に私達が何をしたのかをっ!!

 

 その瞬間、全てが吹っ切れたさ…何でこんなくだらない事をしているんだろう…」

 

 何の為に今こいつと戦ってるんだろうってね…それを捨てた時、私は私を捨てたのさ…」

 

「ザルエラ…」

 

「お前に分かるか!この苦しみが!痛みが!悲しみが!!

 

 何故私達は命を掛けて戦ってきたのか…その意味を知らない奴らなど…」

 

「…くだらねぇ…」

 

ザルエラの叫びを遮るようにジェントがそう呟いた。

 

「な、何だと!?」

 

「くだらないと言ったんだ。お前のそんなバカな思いなんかな。」

 

「くだらないだと…貴様に…貴様に私達の何が分かると言うの!!」

 

「分かりはしない…だがな、その程度の事で自分の生きてきた意味を捨てるお前は本当にくだらねぇ!」

 

「お前に…お前に何が分かる!私達は…」

 

「お前は…自分も分かりはしない何百年の先の人間の為に戦ったのか?

 

 顔も知らないし分かりもしない…そんな奴等の為に戦ったとでも言うのか!?」

 

「………」

 

「何故誇りを捨てた。何故自分がその平穏を手にする為に命を掛けた意味を忘れた!

 

 その為に戦い続けてのだと何故胸を張って言えない!!その程度の事で折れる信念で戦おうとするんじゃない!!」

 

「…誇り?…信念?…そんな物が何の役に立つ…そんな物があったとしてもあの人はもう戻りはしない…帰ってこない…」

 

「あの人…?」

 

「私は許しはしない…あの人が命を捨て奴に挑み、そのおかげで奴を封印する事が出来た…

 

 そんな事も知らずにのうのうと生きている人間達が!!あの人が…あの人がいたからこそ…私は…」

 

「ザルエラ…お前…」

 

「……おしゃべりが過ぎたようね…所詮私の思いなど貴様に理解する事など出来はしない…そう…誰にも…」

 

「そうか…なら俺がお前を解放してやる…その苦しみからな…」

 

そう言いジェントは静かに歩み出た。

 

「解放するだと…?バカな事を…お前に何ができる!腕輪を使い事すらままならない出来損ないのダークエルフ如きに…」

 

「いや…こいつをはめてその記憶に触れた時、こいつが教えてくれた…自分をこう使えとな!」

 

『シュゴォゥッ!!』

 

ジェントが腕輪に魔力を集中させた瞬間、ジェントの手に光の刃が姿を見せた。

 

「…ほぅ…ただの出来損ないだと思っていたが…そうじゃなかったようね…」

 

「ふん…俺を甘く見るなよ…」

 

「ジェントちゃん、セアラも…」

 

セアラがそう言いながらジェントに加勢しようと歩み寄るがジェントはそれを拒んだ。

 

「セアラ…お前は下がってろ…」

 

「で、でも…」

 

「正直こいつを上手く制御できるか分からない…どうなるか分からん…だから…お前は下がってろ。」

 

「…ジェントちゃん…でも、セアラは…」

 

「大丈夫だ、俺は負けはしない。…信じろ。」

 

「…分かりましたです…」

 

セアラはそう答えジェント達から離れるのだった…

 

 

「行くぜ…月影の腕輪の力…その身で確かめろ!」「来なさい…出来損ないのエルフ!」

 

ザルエラへと向かいその一撃を繰り出すジェント…

 

『…ザシュッ!』

 

その一撃は確かな手応えを感じさせた。

 

「…行ける!」

 

「くっ!!」

 

そう感じたジェントは息をつく間も与えないかのような連撃を繰り出しザルエラを攻め立てる。

 

魔人であるザルエラに対しジェントは優勢を見せた。

 

「くらえっ!イグニード・ソード!!」『ゴォァッ!!』

 

「がぁっ!!」

 

ジェントのその一撃にザルエラは膝をつきその場に崩れる。

 

「止めっ!!」

 

その隙を突きジェントは高く飛翔し腕輪に己の魔力を注ぎ込んだ。

 

「くらえっ!ライト・スマッシュ!!」『カッ!!』

 

凄まじい閃光と共にその一撃はザルエラへと直撃をしたのだった…

 

 

「くっ…はぁ…はぁ…や、やったか…?」

 

ジェントは膝をつき息を切らせながらも己が吹き飛ばしたザルエラの方を見た…

 

「あぐっ!…で……ない…が…」

 

ザルエラは深手を負いながらも立ち上がってきたのだった。

 

「何ッ!?あれだけの攻撃を受けても…まだ…」

 

「やるわね……この傷…では…お前に勝てぬ……ならばっ!!」

 

『ドォゥッ!!』

 

そんな声と共にザルエラの放った黒き波動がセアラへと放たれた。

 

「ふみっ!」

 

そんな突然のことにセアラはどうしてよいか分からずその場を動く事が出来なかった。

 

「セアラ!!」

 

ジェントはそんなセアラに何とか追いつこうと走り出す。

 

(くそっ!俺が…俺があの一撃で仕留めていれば…間に合え…間に合え!)

 

「間に合えーっ!!」

 

一瞬…月影の腕輪が光を放ったかと思うとジェントの体が信じられない速さでセアラの前に躍り出る。

 

そして…その一撃はジェントの切り裂いていた…

 

「ジェ…ジェントちゃん…ジェントちゃん!」

 

セアラは倒れ込もうとするジェントの体を抱きとめそう呼びかける。

 

「この…馬鹿…野郎…これぐらい…しっかりと避けやがれよ…」

 

そう呟きジェントの意識はそこで途切れてしまった。

 

「ジェントちゃん?…ジェントちゃん、しっかりしてくださいです!」

 

「くっ!小賢しい…だがこれでそいつは戦えん…後はお前を…」

 

そう言いながらセアラへと歩み寄ろうとした時、ザルエラは周囲の異変に気がついた。

 

「……さない…許さないです!」

 

呟き漏らすセアラの周囲の空気が何かに共鳴し大気が震え始めていた。

 

「これは…なに…何が…」

 

「あなたなんか…あなたなんか…消えてしまえばいいんです〜!!」

 

『グォゥッ!!』

 

ザルエラがその現象に驚いていた刹那、セアラの炎刃牙から凄まじいまでの火球が繰り出されザルエラを飲み込んだ。

 

「ぐぁっ!!馬鹿な…こんな…こんな小娘に!!」

 

「消えて…消えてくださいですー!!」

 

「認めん…認めるわけには…お前達を…認めわぁぁっ!!」

 

そんな叫びと共にザルエラの体は灰となり消し飛んだのだった…

 

 

「はぁ…や、やったです…セアラ…セアラが…」

 

ザルエラが完全に消し飛んだのを確認したセアラは再びジェントに呼び掛け始めた。

 

「ジェントちゃん…ジェントちゃん、しっかりしてくださいです。」

 

「…うぐっ…あ…セ…セアラか…?」

 

「ジェントちゃん!…良かった…ジェントちゃんが…ジェントちゃんが…」

 

セアラが安堵の息を漏らすと自然と涙がこぼれて来た。

 

「セアラ…奴は…奴はどうなった?」

 

「あの人は…もういないです…だから、安心してくださいです。」

 

「お前が…あいつを?」

 

「はいです。これが光ったと思ったら火が出てきて…あいつを飲み込んでしまったんです。」

 

そう言いながら炎刃牙を見せるセアラ。

 

「そうか…俺はあいつに…勝てなかったのか…情けねぇ…」

 

「そんな事…そんな事ないです!」

 

「セアラ…」

 

「セアラがあの人を倒せたのはジェントちゃんが戦ってくれたからです…

 

 だから…だからこれは、ジェントちゃんとセアラの二人で掴んだ勝利なんですよ。」

 

「二人の…勝利…」

 

「そうです。セアラ…ジェントちゃんの力になるって言いました。

 

 だからセアラは戦えたんです。ジェントちゃんがいたから…ジェント…ちゃん?」

 

そこまで言いかけたセアラはある事に気が付いた。

 

それは…ジェントの瞳から溢れる涙…

 

「ジェントちゃん…泣いてるのですか?」

 

「…俺は…いつも一人だった…両親の顔も満足に思い出せない…気が付いた時には黒の森にいた…

 

 種族は同じとは言え他人…だから俺はいつも一人だった…一人には慣れているはず…なのに…

 

 なんだろうな…お前の言葉を聞いてたら…おれは…おれ…は…」

 

「ジェントちゃん…」

 

そんなジェントをセアラは優しく包み込んだ。

 

「セア…ラ…」

 

「大丈夫ですよ、ジェントちゃんは一人じゃないです。ロディちゃんにマリオスちゃん…ルフィミアちゃんに…みんないるんです。

 

 セアラ…セアラだって…ジェントちゃんの傍にいます…ジェントちゃんにはこんなにも多くに人が傍にいるんですよ。」

 

「…そう…か…俺は……一人で下らない事を…悩んで…」

 

「そんな事する必要なんかないさ、ジェント。」

 

そう呟きながらレイ達が姿を見せた。

 

「レイちゃん!それにみんな…」

 

「ジェント、僕達は仲間だろ?そんな事悩む必要なんてないんだよ。」

 

「…そう…か…」

 

「さぁ、早く治療しなきゃね。ロディ達は先に進んでるんだし。」

 

「あぁ…追いつくと…あいつと約束したからな…」

 

 

一方…ヒュポグリフと対峙したカイン…

 

「どらぁっ!!」「ぬん!!」

 

カインが放った強烈な一撃をいとも容易くヒュポグリフは受け止める。

 

「ちっ…」

 

それを危険と感じたカインは即座に飛び退き間合いを取り直す。

 

「…一つ…お前に聞きたい事がある。」

 

「なんだ?」

 

「…何故…お前は我らと戦う?人間の為に戦った所で貴様には何一つとして良い事などないだろう?」

 

不意にヒュポグリフがそんな事を聞いてきた。

 

「…別にそんな大層なもんの為に戦ってるわけじゃねぇよ。」

 

「…ならば…何の為に…?」

 

「一つはボウズの為…もう一つは俺自身の…クローディアの為だ!」

 

「…ほぅ…」

 

「お前は忘れたかもしれねぇ…だが俺はお前と戦う為だけに3年もの間生きてきた!

 

 あの時貴様に挑み…敗れた俺が今日まで生きてきたのはこの時の為!!」

 

「3年前…!?そうか…どうりで見た事がある男だと…」

 

「そうよ!…そして手に入れた神器…全てはお前をこの手で倒す為に!!」

 

カインはそう言いながらクライブを深く構える。

 

「…強き心の持ち主なのだな…お前は…」

 

「クローディアの敵……ここで取らせてもらうぜ!!」

 

『ドォゥッ!!』

 

瞬間カインの体から闘気が溢れ出しクライブが輝きだす。

 

「…お前のその強さの半分でも…あの時の私達にあれば…」

 

「吼えろ!ドラゴン・クラック!!」

 

『シギャァッ!!』

 

カインの放ったその闘気の一撃は蒼き龍へと姿を変えヒュポグリフを呑み込まんと向かって行く!

 

「………」

 

『ドウォッ!!』

 

だが…ヒュポグリフは動こうともせずその直撃を受けその場に倒れこんだのだった…

 

 

「な…なぜだ!お前ならコイツの直撃ぐらいは避けれただろう!?」

 

「…羨ましくなったのさ…お前達をな…」

 

「羨ましい?」

 

「…私達はかつて聖戦士と呼ばれた者のなれの果て…人として生きる事を諦め…悪魔に魂を売り渡した…

 

 人を憎むあまり…人からかけ離れていく事の寂しさに震えていたのだ…」

 

「ヒュポグリフ…お前…」

 

「お前達のような強さがあれば…私達もこうはなりはしなかったというのに…皮肉なものだ…」

 

ヒュポグリフは寂しそうにそう呟き漏らした。

 

「その気持ち…わからねぇでもないな…」

 

「…ほぅ…お前もか…」

 

「俺はお前に敗れた後、唯ひたすらに力を求めた…初めはクローディアの敵を討つために…それだけだった…

 

 だがどうだ。力を手にした俺は悪事に身を染め…他人からは畏怖の目で見られ…それこそどこぞの魔獣かのようなもんだった。」

 

「………」

 

「そんな俺の目を覚ましてくれたのがボウズだった…あいつに出会ってようやく気付いた…

 

 俺が今日まで生き抜いてきたのは…他ならぬ自分自身の為だって事に…」

 

「そう…か…ならば行くがいい…わが肉体は…もうすぐ果てる…」

 

「あぁ…今度はボウズの力になんなきゃいけないからな。」

 

ヒュポグリフに背を向け歩き出したカインだったが、ふとその足を止め…

 

「…じゃあな、ヒュポグリフ…てめぇの事…一生忘れねぇからな。」

 

そう言い残し再び歩き始めた。

 

そんなカインの言葉に微かな笑みを浮かべヒュポグリフは霧散していった…

 

 

「来たか…人形ども…」

 

ロディ達が広い部屋に出た瞬間、ギザロフの声がこだました。

 

「!?どこだ、ギザロフ!」

 

「ここよ…」

 

その言葉と共にロディ達の目の前にギザロフがその姿を見せた。

 

「ようやく追いついたぞ…お前の企み…ここで終わらせてもらう!!」

 

「くくく…そうか…だが一足遅かったな。邪神ユグドラシア様は間も無く目覚められる…」

 

「そ…そんな…」

 

「だが…今一つ足りぬ物がある…聖なる生き血が…

 

 ルフィミア!お前の生き血…ユグドラシア様へと捧げるのだ!!」『ダッ!!』

 

ギザロフは素早く踏み込みルフィミアとの間合いを一気に詰め鋭く尖った自分の爪を振り下ろす…が、

 

『ガキィン!!』

 

寸前のところでロディによって阻まれた。

 

「させはしない…お前の好きになんかさせるものか!」

 

「ふん…人形風情が…生意気な口を…ルフィミア…お前もそうなのか?」

 

「…はい。私はロディと共に行き…自分の運命は自分で決める、そう決めました。」

 

「そうか…ならば仕方ない…お前達をここで皆殺しにしてやろう。」

 

ギザロフは身を揺るがせ間合いを取り直したのだった。

 

 

「はぁっ!!」「むんっ!!」

 

ロディの剣とギザロフの手刀が激しくぶつかり合う。

 

『ドゴッ!』

 

直後、ロディはギザロフに蹴り込みその体制を崩す!

 

「今だっ!アロー・ストラッシュ!!」

 

『ドゥッ!!』

 

避ける事も出来ずその直撃を喰らうギザロフに追い打つようにマリオスが飛び掛っていた。

 

「やぁぁっ!」『ズバッ…』

 

「ぐぁっ!」

 

その一撃でギザロフは遥か後方へと吹き飛ばされた。

 

「どうだ…?」

 

「くっ…小賢しい奴等が…」

 

「ギザロフ、もうあなたに勝ち目はない。無駄な事はやめて下さい。」

 

「ふふふ…笑わせるな小僧!ならば受けよ、我が魔力…ナイトメア!!」

 

『ゴォァァァッ!!』

 

ギザロフが放った巨大な闇の魔力…それはロディ達を飲み込むかのように包み込もうとしたが…

 

「女神ラーナの名の元に、光よ私達を守って!!」

 

ルフィミアが光の障壁を張ることによりそれを防いだのだった。

 

「な…なんだと、我が魔力が…」

 

「無駄です…この光の障壁がある限りお父様の魔力は通用しません。」

 

驚き戸惑うギザロフにルフィミアは悲しそうにそう答えた。

 

「おのれ…ルフィミア!どこまでも我の邪魔をするか!!」

 

怒りに駆られたギザロフが猛然とルフィミアへと向かってくる。

 

「…可哀相なお父様……私が…解放してあげます。」

 

ルフィミアはそっと目を閉じ静かに詠唱に入った。

 

「聖なる光よ…彷徨える悪しき者を貫け…ホーリー・ランス!!」

 

『シュパァッ!!』

 

放たれた光の槍はただ一直線にギザロフへと向かい…

 

「ぐっ……がっ、グゥァッ!!!」

 

ギザロフの体を貫いたのだった…

 

それと同時にギザロフの体から黒き霧のような物が抜け出していったのだった…

 

 

「がはっ!……ど、どうやら…奴は出て行ったようじゃな…」

 

ギザロフは膝をつくなりそんな不可解な事を呟き漏らした。

 

「えっ…?お父…様?」

 

「ルフィ…ミア…すまな…かったな…」

 

「お父様!!」

 

その声を聞いたルフィミアは急ぎギザロフの下に駆け寄り、ロディ達もそれに続いた。

 

「ねぇ…今の言葉…一体どう言う意味?」

 

「…あぁ…全てを話そう…あの日…ワシの身に何が起こったかを…

 

 あの日…ワシは国からの依頼である魔像の調査を頼まれた。

 

 何でもウィンディアの山岳地帯の奥底にあった遺跡で発見をされたらしいのだが、

 

 どんな物か見当がつかなかったらしくワシの所に来たのだ。…それが…全ての始まりだったとも知らず…」

 

「まさか…それは!?」

 

「そう…その像こそがユグドラシアが封印される際に残した奴自身の分け身…

 

 それはワシの体を自信の体を取り戻す為に利用し始めたのだ…

 

 それこそが…今回の事件の始まりだったのだ…」

 

「そ…それでは…お父様はずっとユグドラシアに…」

 

「うむ…そのせいで多くの者達を悲しませる事になってしまった…特に…ロディ…」

 

「僕…ですか?」

 

「お前には…償いきれないほどの事をしてしまった…許して欲しい。」

 

そう言いギザロフは弱々しく頭を下げた。

 

「そんな…僕はむしろ…感謝してるぐらいですよ。」

 

「感謝…?馬鹿な…ワシは…お前とその家族を…」

 

「いえ…今回の事件で僕は作り出され…この世に生まれました…

 

 そのおかげでマリオスにルフィミア…それにみんなに出会えたんですから。」

 

「ロディ……ありがとう…本当に…ありがとう…」

 

笑顔で応えるロディに堪えきれずギザロフの目から涙が溢れ出るのだった…

 

「ところでお父様…ユグドラシアは…どうなったのですか?」

 

「…おそらく…自分の体と融合しに行ったのだろう…」

 

「さっきのあの黒い霧…あれが奴の精神体だったって事?」

 

「そうだ…この奥には封印された奴の体がある…間違いないだろう…」

 

「…そうか…この先に…奴が…」

 

そう呟くとロディは静かに立ち上がった。

 

「…行く気…なのか…」

 

「はい…あいつを止めなければ…この戦いは終わりはしないから…」

 

「そう…か…ならば…これを…持ってゆけ…」

 

そう言いながらギザロフが一本の剣を取り出した。

 

柄の中心に黒い宝石がはめ込まれた神秘的な剣…

 

「…神剣…エルスレイド…」

 

ギザロフが答えるよりも先にマリオスがそう呟きもらしていた。

 

「その通り…これは奴の分け身を見つけた遺跡の更に奥底に眠っていた物…

 

 そして…奴がこの世でもっとも苦手とする物…これがなければ奴は倒せぬ…ロディ…お前ならば…これを…」

 

ロディがそれを受け取ると一瞬淡く光ったかと思うとそれはすぐに収まった。

 

「ロディを…主と認めた…」

 

「これが…エルスレイド…」

 

「ロ…ディ…頼む……お前ならば……このたい…くに……へい…んを…」

 

そこまで言いかけた時ギザロフの体から力が抜けそれ以降何も言葉を口にすることはなかった。

 

「お父…様?…お父様!!いやぁ〜!!」

 

そんなルフィミアの嘆きだけが部屋中にこだまするだけだった…

 

 

数分後…暫く立ち尽くしていたロディだったが、ルフィミアが落ち着きを取り戻したのを確認すると静かに歩き始めた。

 

「ロディ……行くのね?」

 

「…うん…こんな悲しい戦い…終わらせないとね。」

 

「そう…それなら私も行くわ。…それが…女神の力を持つ私の使命だと思うの。」

 

「私も…私も行きます…」

 

「ルフィミア…」

 

「こんな戦い…あってはならないの…だから…終わらせる為にも…」

 

二人がそう言いながら立ち上がりロディの元に行こうとしたが、ロディはそんな二人の行動を手で制し首を振った。

 

「いや…ここから先は僕一人で行くよ…犠牲になるのは…僕だけで十分だよ。」

 

「そんな!」「ロディ…何を…?」

 

「…分かったんだ…二人には…悲しんでくれる人がいる…待ってる人がいる…

 

 だからいいんだ…僕はもう…一人ぼっちだから…失う物もないし…悲しんでくれる人もいやしないから…」

 

ロディは悲しそうにそう答えた。

 

「そんな…そんな事ない!…ロディを失ったら…みんな悲しむもの。」

 

「でもねマリオス…僕は…作られた人形なんだ…元々この世界には存在してはいけない…異端なる者…

 

 いないはずの者が元に戻り消え去る…ただそれだけなんだよ。」

 

「だ…だめよロディ。どうして…ここまで来て…そんな事…」

 

「そうよ…ここまで人を連れてきて…こんなのずる過ぎる!」

 

「…そう…だね…ずるい考えだったのかもしれない…でも…みんなのお陰でここまで来れた…

 

 それに…今の僕にはこのエルスレイドがある…これさえあれば…僕だって魔人と対等に渡り合える…

 

 みんなを傷つける事もない…傷つき倒れるのは…僕一人で十分なんだ…」

 

「ロディ!」

 

「僕ね…分かったんだよ…自分はこうして戦う為に生まれてきたんだって…

 

 戦う事が僕の生きる意味…だから…ここから先は僕一人で行くよ。」

 

「そんな…そんな事!」

 

「だから…二人はここから引き返してみんなと合流して…もう…戦わなくていいんだ…

 

 僕がいなかった頃の…元の生活に戻っていいんだ…僕が…全てを終わらせるから。」

 

そう言うとロディはゆっくりと歩き始める。

 

『ロディ!!』

 

二人のそんな呼びかけにふと足を止めたロディだったが…

 

「…こんな……僕を信じてきてくれて…ありがとう…」

 

そう呟くとロディは足を速め走り去っていってしまった。

 

二人はどうする事も出来ず…ただ…呆然と立ち尽くすだけだった……

 

 

二人を残し一人通路の先へと進むロディ…

 

進むにつれ強くなってゆく魔の気配…そして…開けた視界に出たその先で待っていたのは…

 

「……来たか……人形…ロディ…」

 

4人の魔人よりも一回り大きな魔人…

 

そう…自分の本当の肉体を取り戻したユグドラシアだった。

 

「ユグドラシア…ここで決着をつけさせてもらうよ。」

 

「…ん?…他の二人はどうした?…ついに見限られたのか?」

 

「…帰って貰ったのさ…僕一人で充分だってね。」

 

「ふ…ふはははは!お前一人で我を滅するというのか?笑止な…」

 

「そうでもないさ…僕には…これがある!!」

 

そう言いロディはエルスレイドの刃先をユグドラシアへと向けた。

 

「エルスレイドか…なるほど…だが無駄だ。

 

 その剣は人間が使ってこそその力を発揮する…人形であるお前には到底使いこなせん。」

 

「僕は負けない!…全てを終わらせる為…そして…この世界を守るために!!」

 

「…そうか…それでも挑むというのか…我も目覚めたばかりで完全に魔力を取り戻してないのだ…

 

 お前の魔力…我が力として使ってやろう。慣らしも兼ねてお前と遊んでやろう。」

 

「慣らし…だと。ふざけるな!!」

 

「ふざけてなどいない…お前と我とでは格が違う。」

 

「その口…二度と叩けないようにしてやるよ。」

 

「…いいだろう…かかって来い。そして大いに後悔しろ…我と対峙したその愚かさに!!」

 

「お前こそ…後悔するなよ!!」

 

エルスレイドを強く握り締め、ロディはユグドラシアへと斬りかかるのだった…

 

 

その頃…ロディに突然の別れを言い渡され呆然と立ち尽くす二人…

 

「………」「………」

 

あれから…二人はまだ一言も言葉を交わしていなかった…

 

どれ位の時間がたったのだろう…10分?1時間?…はたまた数秒だったのかもしれない…

 

二人にはそれほどまでにショックな出来事だったからだ…

 

「マリオス……私達…どうしたら良いのでしょうか…?」

 

そんな沈黙を破ったのは、ルフィミアのそんなかすれた声だった。

 

「………分からない……」

 

「私ね…ロディの力になりたいって…重荷には…なりたくなかった…

 

 でも…今のロディに……私と言う存在は…重荷…だったのかな?」

 

「ルフィミア…」

 

「私…分からないよ……どうしたら良いの?…わた…し…」

 

そうへたり込むルフィミアの瞳からは一筋の涙が流れていた。

 

どうしていいか分からない…帰れと言われた…だけど帰りたくない…そんな思いが二人の頭を駆け巡った。

 

「嬢ちゃん達?…こんな所で何をやってるんだ?」

 

そんな突然の声に驚く二人の視線の先にいたのは、他ならぬカインだった。

 

「カイン…?魔人は…」

 

「あぁ、片付けた。で…何で嬢ちゃん達は二人だけなんだ?ボウズはどうした?」

 

「それが…ロディは…」

 

ロディが一人で先に進んだこと、その時の言葉を…

 

「…なるほどな…」

 

「…ねぇ…カインさん…私…どうしたら良いのかな…ロディは引き返せって…でも…でもわたし…」

 

「…嬢ちゃん…いつまでも甘えてるんじゃねぇぞ。」

 

「えっ…?」

 

助けを求めたルフィミアだったが、カインのその答えは予想していたものよりも遥かに重い一言だった。

 

「嬢ちゃん…いや、ルフィミア。いつまで人に意見を求めるつもりなんだ?

 

 お前がここに来たのは人に頼まれたからなのか?それとも引くに引けない状態だったからなし崩しにきたのか!?」

 

「ち…違う…わたし…わたしは…」

 

「違いやしない。お前がここにいるのが何よりの証拠だろうが?お前は逃げてるだけだ、自分からもボウズからもな。」

 

「ちが…う…わた…しは…」

 

カインのそんな言葉にルフィミアは自問自答を繰り返した。

 

ロディの力になりたい…でも重荷になりたくはない…だけど……傍にいたい…

 

「…あのな…ルフィミア。そんなに悩む事じゃないだろう?」

 

「えっ…」

 

「いいか。ルフィミア、お前自身はどうしたいんだ?」

 

「…わたし…自身…?」

 

「そうだ。ボウズが何かを言ったからじゃねぇ…ルフィミア自身はどうしたいんだ?」

 

「…わたし…私はロディの傍にいたい!どんなに拒否されたっていいの…私は…ロディの傍にいたい!」

 

気が付けばカインのそんな問いかけにルフィミアは叫び返していた。

 

「…そうか…それなら答えはもう決まってるじゃねぇか。」

 

「えっ…?」

 

「俺は何が何でも奴の所に行くぜ。あいつにはまだ借りも返してないからな。」

 

「あ…」

 

「さっ、行くんだろ?早くしねぇとボウズの奴が危ないかもしれねぇからな。」

 

「…は、はい!」

 

「私も行くよ、ルフィミア。やっぱり…ここまで来て引き返すなんて間違ってるからね。」

 

「うん…行こう、ロディの所に!」

 

そう頷き、三人はロディが向かった通路の先へと走り始めたのだった…

 

 

…ロディがユグドラシアと対峙してからもうどれ位の時が経ったのだろう…

 

戦況はエルスレイドを持つロディが断然有利かと思われたが…

 

『ドゴォッ!!』

 

何度目かのユグドラシアの拳がロディを激しく後方へと吹き飛ばした。

 

「ぐっ…あぅ…」

 

「どうした…先程までの威勢は何処へ行ったのだ?」

 

そう…ロディの攻撃は全くといっていいほどユグドラシアの前には効果がなかったのだ。

 

「な…どうして…これの剣は…お前の最大の弱点のはず…なのに…どうして…」

 

何とか痛む体を押さえエルスレイドを支えにして立ち上がる。

 

「言った筈だ。その剣は人間が使ってこそ、その力を十二分に発揮する…お前には使えん…とな。」

 

「そんな…そんな事があってたまるか〜!!」

 

叫び一閃、再度斬りかかるが…

 

『ガキンッ!!』

 

ユグドラシアの体には傷一つも入らなかった。

 

「うざい…」『ゴスッ!!』

 

再びユグドラシアの一撃を受け弾き飛ばされてしまった。

 

「ぐ…ぼく…は…負ける…訳には…」

 

フラフラと立ち上がるロディ…その目は何処か虚ろで気を抜けば意識すらも飛びそうな感覚を憶えた。

 

「…人形…お前とやりあうのも飽きた。そろそろ終わりにしてやろう。」

 

ユグドラシアのそんな言葉と共にロディの足元から見た事も無いような植物が生え出しロディの体に巻きついて来た。

 

「あぐっ!…こ、これ…は…」

 

ものの数秒でロディの体は完全に植物に封じられてしまった。

 

「それは魔界の植物…獲物を仕留める際に動きを封じる為に使うものだ。

 

 今のお前にはそれを抜け出す力も残ってはいまい。」

 

確かにユグドラシアの言う通り普段のロディならいざ知らず、傷付いたロディの体ではその力に抗う事は出来なかった。

 

「く…そぉ…」

 

「悔しいか?…ならば冥土の土産ついでにお前のトドメはこいつでさしてやろう。」

 

ユグドラシアはそう言うと何やら念じ始めた。

 

「…来たれ…我が刃…ミストグランツァよ。」

 

瞬間、ユグドラシアの手に一振りの巨大な剣が姿を見せた。

 

「ミスト…グランツァ…?それは確か…ラーナ神器の名前のはず…」

 

「そう…これが我を封印する際に体の奥深くに突き刺さりし物…

 

 よほど我を嫌っていたのだろう…これを抜くのだけでも100年は要したぞ。

 

 人の思いの力というものは厄介なものだな…」

 

「ど…どうして…ラーナ神器は…持ち主を選ぶはず…お前が…どうして…それを手に…」

 

「…ふふ…こいつを抜いた際に思いついてな…

 

 この空間を抜け、グランディアに舞い戻った時再び神器を持つ物が邪魔をした時にどう言う顔をするか見たくてな…

 

 闇の力に染めてやったというわけだ。」

 

「お前…人を…人をなんだと…思ってるんだ!」

 

「ゴミ…もしくは家畜というとこか…喜べ、お前は生まれ変わったミストグランツァの初めての生贄になれるのだからな…」

 

ユグドラシアは言葉と共にミストグランツァを構えた。

 

(くそ…これで…終わりなのか…僕はまだ…あいつに傷一つもつけてない…まだ…死ぬ訳には!)

 

「せめてもの情けだ…跡形も残らないよう消してやろう…グランド・ウェイブ!!」

 

『ゴゴゴォォッ!!』

 

ユグドラシアの一振りはまるで津波のような魔闘気を作り出し、それは一直線にロディへと放たれた。

 

「……ごめんね……ルフィミア…」

 

そう呟き瞼を閉じたその瞬間、

 

「メギド・ブラスト!!」

 

ロディの体が白き炎に包まれ体を封じていた魔界植物を焼き払った。

 

「えっ…」

 

突如体が自由になったロディだが、目の前にはユグドラシアの放った魔闘気が…

 

「女神ラーナの名の元に、光よ私達を守って!!」

 

直撃するか否かの所で何者かがロディの前に躍り出てそれを防いだ。

 

「そ…そんな…どう…して…」

 

「ロディ…間に合ってよかった…」

 

そう…目の前にいたのはルフィミアとマリオスに他ならなかった。

 

「ルフィミア、早くロディの手当てを!」

 

「は、はい。」

 

マリオスにそう言われルフィミアはロディに近寄り回復呪文を唱え始めた。

 

「…ルフィ…ミア…どうしてここに…?」

 

「わたし…ロディが教えてくれた通りにする事にしたんです。」

 

「僕が…教えた通りに…?」

 

「はい…始めてあった時…自分の人生なんだから自分で決めて生きれば良いと…

 

 だから…自分で決めて…ここに来たの、何があっても…あなたと一緒に戦うって。」

 

ロディの傍でそう言うルフィミアの瞳は揺ぎ無く真っ直ぐなものだった。

 

 

「ふ…ふははは!愚かな…わざわざ自分の死期を早めに来たとはな…」

 

「待ちなさい!ユグドラシア…あなたの相手は私よ!」

 

笑うユグドラシアに槍を向けマリオスがそう言い放った。

 

「…ラーナの分け身か…あいつめ…何処までも我の邪魔をするというのか…小賢しい真似を…」

 

「何とでも言いなさい。お母さんに代わって…あなたの愚行…止めさせます!!」

 

「…そうか…悪いな…お前達如きにそんな時間も掛けてられないのでな…」

 

そう言うと今度はミストグランツァを構え念じ始めた。

 

それと同時に周りの空気が揺れ始め黒き霧がミストグランツァへと集まりだす。

 

「な…何を…?」

 

「見ろ…これが闇のミストグランツァの力…行け!邪龍、グランツァよ!!」

 

黒き霧が瞬く間に形取り黒き龍へと姿を変えた。

 

「ルフィミア、マリオス!逃げてくれ!!」

 

ロディがそう叫ぶが二人は全く動じもしなかった。

 

「ロディ…大丈夫だから。」

 

「そうよ、逃げる必要なんてどこにも無いわ。」

 

「何を言って…!?」

 

そこまで言いかけたロディの目に映ったもの…それは…

 

ロディ達に今襲い掛かって来ようとしている黒き龍と…それの首に噛み付く蒼き龍の姿だった…

 

「ボウズよ…何らしくも無く弱気になってやがんだよ。」

 

「カ…カイン…」

 

龍と共にカインがそんな事を言いながらロディの元へとやって来たのだった。

 

「水臭せえぜ…こんな面白そうな事を俺抜きで進めようなんてよ。」

 

「だ…だけど…カインまで…」

 

「いいかボウズ…俺はお前だから信じてここまで来たんだ。それを忘れるな…」

 

「カイン……ありがとう…」

 

「へっ…いいって事よ。さぁて…早いとこコイツを叩き伏せねえとな!」

 

そう言い槍を握る手に更に力を捧ぐカイン。

 

「…不愉快だ…貴様等が何人来たところで…我に敵うはずがあるかぁっ!!」

 

瞬間、邪龍の力は更に高められる。

 

「カイン!!」

 

「くっ…まだ…まだだっ!!」

 

何とか持ちこたえようとしたカインだったが、力の差に次第に追い込まれていった。

 

「消し飛べ!!クズども!!」

 

「なにを…!?…へへっ…そう簡単には行かないようだぜ。」

 

「!?」

 

追い込まれたカインがそう不敵に笑った時、

 

「カイン!そのまま!!」

 

そんな声と共にカインの背を蹴り何者かが跳び上がった。

 

「遅えよ、馬鹿が…」

 

「うるさいわね……龍の急所は…顎の裏!行け、アストラル・ソード!!」

 

一閃…跳び上がった者が放った一撃は綺麗な弧を描きながらも邪龍の急所を切り裂いた!

 

『グァァッ!!』

 

そして…そんなうめき声と共に邪龍はその姿を消した。

 

「なっ…邪龍…グランツァを…一撃で…」

 

「甘いわね。邪龍だろうがなんだろうが龍は龍。

 

 龍の事で私に分からない事なんて何一つ無いのよ!!」

 

ユグドラシアにそう言い放った人影はシスティその人だった。

 

「システィ…君まで…」

 

「おのれ…おのれオノレ!人間が…人間如きがー!!」

 

怒りに震えたユグドラシアが仕掛けようとしたその瞬間!

 

「やらせはしない…十六夜…月影の太刀!!」

 

「いくですよ〜…すらっしゅ!!」

 

ユグドラシアの左右から二人が動じに斬り込んだ!

 

「夕華…セアラ…」

 

「くはっ…ふざける…!?」

 

「それはお前の方だろう?ライト・スマッシュ!!」

 

「僕の目の前で…大事な人を殺させはしない!ライトニング・バスター!!」

 

「ジェント…レイ…」

 

体勢を崩すユグドラシアに追い打つように二人の強烈な一撃が炸裂!

 

「みな引くでござるよ。皆斬が一閃、天命衝霊破!!」

 

『ゴォゥッ!!』

 

立て続けに攻撃を受けた状態でそれをかわす事が出来る筈も無く、紫苑の放った衝撃波にユグドラシアが飲み込まれた。

 

「紫苑……みんな…」

 

「ロディ…これで大丈夫、体は完治したはずよ。」

 

「あ…あぁ、ありがとう。」

 

そう言い立ち上がるロディにレイがエルスレイドを差し出す。

 

「ロディ…さぁ、行くよ!!」

 

「ロディ。」「ロディ殿。」「ロディ。」「ロディちゃん。」「ボウズ。」

 

「……ぁ…あぁ…行こう…みんな!!」

 

溢れ出ようとする涙を抑え剣を受け取り、ロディは全員と共に今一度ユグドラシアと対峙するのだった…

 

 

「いくぜっ!イグニード・ソード!!」

 

「くらえ…スラッシュ・レイブ!」

 

ジェント、レイの二人が同時にユグドラシアへとしかけるが…

 

「甘いな…」『ガキンッ!!』

 

ユグドラシアは全く動こうともせずその一撃を受け止める。

 

「隙ありっ、月下骨砕打!!」

 

「そこだ、スパイラル・チャージ!!」

 

更にその隙を突き紫苑、カインの二人も斬りかかる…が、

 

「クズどもが…うっとうしい!!」

 

『ドォゥッ!!!』

 

刹那、ユグドラシアが魔力を放出し全てを弾き飛ばした。

 

「くっ…まだだぁー!!」

 

「しつこい…消し飛べ!グランド・ウェイブ!!」

 

何度も斬りかかって来るロディ達に痺れを切らしたユグドラシアは再び津波のような魔気を放った。

 

「させない…光よ私達を守って!!」

 

それに対しルフィミアが先程と同じように光の壁で対抗する。

 

『バチィッ!!!』

 

その二つが激しくぶつかり合い火花さえも引き起こす!

 

「くぅっ!…負けない…わたしは…」

 

「ほう…我の魔力と互角か…だが…これでは耐えられまい!」

 

『ドォゥッッ!!』

 

ルフィミアの光の壁を一撃目が襲う中、さらにもう一撃の追い討ちが襲う。

 

「そ…そんな…だめ!みんな逃げ…」

 

『…パリン…』

 

ルフィミアがそう言い掛けた時、そんな何かが割れる音と共にロディ達はユグドラシアの魔気に飲み込まれていた…

 

全てが止んだ時…そこにいたのは傷つき倒れるロディ達と、不敵に笑みを浮かべるユグドラシアの姿があった。

 

「ふん…人間にしては良くやった方だ。だが我も忙しい身…お前達の相手はここまでに…」

 

「ま…まだ…だ…まだ…終わりは…しない…」

 

ユグドラシアの言葉を遮るようにロディが何とか立ち上がった。

 

「ほぅ…まだ動くか人形。どうやら…お前を止めるには完全に壊すほか無いようだな…」

 

「僕は…誓ったんだ…この世界を……みんなを…僕が…守って見せると!」

 

そう叫んだ瞬間…一瞬エルスレイドの宝玉が光ったかと思った時にはロディの意識は光の彼方に吸い込まれていった…

 

 

「ロディ…私の声が聞こえますか…ロディ…」

 

次の瞬間、白い空間に立ち尽くしていたロディの前にそんな声と共に一人の女性が降り立った。

 

「あ…あなたは…?それに…ここは…」

 

「私の名はラーナ。…この世界の母なる神、ラーナです。」

 

「あ…あなたが…ラーナ様…」

 

「色々お話したい事もあるのですが今は時間がありません…ロディ、残念ですが…あなたではその剣を完全に使いこなす事は出来ません。」

 

「ラーナ様まで…一体僕には何が足りないというのです!」

 

「…人の…心です。」

 

「人の…心?」

 

「エルスレイドを始めとする12の神器は持つ者の想いの力を源としているのです…

 

 すなわち…グランディアに生きる人間たちの為の武器として作ってしまったが為に、あなたには使いこなす事が出来ないのです。」

 

「ひとの…想いを…」

 

「その中でもエルスレイドは『想いの剣』と呼ばれる物…

 

 エルスレイドは神器を持つ12の聖戦士の力を束ね力と代える事で全てを切り裂く刃となります。」

 

「この剣に…そんな力が…」

 

「そうです…しかしここに揃っている聖戦士は10人…そのうちの一人はあなた…

 

 これではユグドラシアを倒すほどの力は愚か、再び封印する為の傷を負わす事も出来ません。」

 

「そ、そんな!?……他に…他に方法は無いんですか?」

 

ロディのその言葉に少しの間踏み止まったラーナだったが…

 

「…ロディ…あなたに全てを…自らの命を捨てる覚悟は…ありますか。」

 

不意にそんな突拍子も無い事を尋ねてきた。

 

「……もし……そんな物と引き換えに全てを守れるなら…」

 

だがロディはその問いに真剣な眼差しで答えた。

 

「…そうですか…それならばエルスレイドに10の想いを集めなさい。

 

 そして…残りの力はあなたのその魂の力で補うのです。」

 

「?…僕の…たましい?」

 

「そう…あなたは人が持てるのモノを持てず、人が持てぬモノを持っています…

 

 それが…あなたの純粋なる魂なのです。」

 

「純粋なる…たましい…」

 

「皮肉なものです…戦争人形として生み出されたあなたはありとあらゆる事に疑いを持つという事を知らない…

 

 それがこのような事の役に立つなんて…」

 

「そうなんですか…良く分からないけど…こんな僕が誰かの役に立てるなんて…嬉しいですよ。」

 

「ロディ…あなたと言う人は…」

 

「それでラーナ様。想いを込めるって…どうすれば良いのですか?」

 

「簡単な事です…心を穏やかにし、強く願うこと…そうすれば、自ずと神器はそれに応えてくれます。」

 

「…分かりました…やってみます。」

 

「……ごめんなさい、ロディ。あなたに…辛い役目ばかりを押し付けてしまって…私自身で何とか出来たら良かったのですが…」

 

「今のあなたは前大戦の時に大半が失われてしまった…からでしょう?」

 

「!?…なぜ…それを…」

 

「今こうして向き合ってみて感じたんです…あなたの力は…自分の分け身でもあるマリオスよりも劣っている…てね。」

 

「その通りです…今の私にはこうして語り掛ける事しか出来ない…本当に…ごめんなさい。」

 

「…いいんですよ。僕がこの世界にいたのってほんの少しの間だけだったけど…

 

 姉さんに出会えて、みんなとも出会えた。僕にはそれだけで充分ですよ。」

 

「…ありがとう……最後に一つだけ…ロディ、あなたの魂を込める事が出来たらすぐに勝負をつけなければいけません…

 

 何故なら…常に剣に魂を注ぐという事は己の命を外へと吐き出すという事…長くは持ちません。」

 

「……分かりました。」

 

「…もう時間のようですね…ロディ…健闘を…」

 

突如空間が歪み始めその先の言葉を聞けないまま、ロディの意識は再び光の彼方に落ちていった…

 

 

気が付いた時、ロディの目の前は元の空間に戻っていた。

 

…一つ違っていたのは自分はおろか、全員の傷が癒えていた事だった。

 

「あ…あれ…さっきまであんなに傷があったのに…どうして…」

 

「私も…何が起こったの?」

 

全員がその事に疑問を抱いていたが、それはユグドラシアにしても同じ事だった。

 

「な…何だと言うんだ…何が起きた!?」

 

(…ラーナ様が…僕達に…)

 

そんな中ロディ一人だけがその真相を知っていたのだが…

 

「みんな…僕の話を聞いて欲しい。…あいつを倒す方法が分かったんだ。」

 

ロディにとってはそれはまたとない好機。

 

それを逃すわけにはいかず即座にそう話した。

 

「倒す方法って…いつの間にそんな事…」

 

「ついさっきだよ…こいつの記憶が見えたんだ…この剣の本当を使い方を。」

 

ロディは先程の出来事を当たらずとも遠からずと言った感じで説明した。

 

「想いを込めるって…どうすればいいの?」

 

「…心を静かにして強く願う…そうすればみんなの神器はそれに応えてくれるはずさ。」

 

「強く…願う…」

 

ロディにそう言われ全員が目を閉じ静かに神器を構える。

 

それに応える為にロディもまた目を閉じ神器を構えた瞬間、不意に神器が暖かくも感じた。

 

『ボウズ…お前には本当に感謝をしてるぜ…お前に出会えたお陰で俺は…自分の生きている意味を知る事が出来たんだ。』

 

『これは…カインの想い…?』

 

『ロディ…あんたって本当に不思議な奴だよ。こう…何て言うのかな…

 

 暖かい…っていうか…優しいとか…とにかくさ、あんたの正体が何であっても…私達は大切な仲間だからさ。』

 

『…システィ…』

 

『ロディ殿…そなたは正しく…拙者のもう一人の主君でござったよ。』

 

『ロディ…あなたに出会えたお陰で…私は本当の私になれたの…

 

 あなたに出会えなかったら私…多分、ただの人形になっていた…』

 

『紫苑…それに夕華…』

 

『…俺は人間を信じた訳ではない…今でも人間は嫌いだ。

 

 だがお前は人間ではない…だからお前を信じると決めた。』

 

『…ふふ…ジェントらしいよ…』

 

『セアラね、ロディちゃんの事大好きですよ。みんなも大好きですから。』

 

『セアラか…』

 

『君は誰が何と言おうと人間で、僕の限りない親友だ。それを忘れないでくれ…』

 

『…レイ…』

 

『あなたに出会えて良かった…あなたのお陰で私は私を見つけたの…』

 

『マリオス…』

 

『ロディ…あなたを好きになって…わたし…本当に良かった…』

 

『ルフィミア…ありがとう…』

 

次第に集まってゆく想いにつれ、エルスレイドの宝玉の輝きも強いものになっていった…

 

 

「みんなの想い…確かに受け取ったよ。後は…僕の…」

 

『僕は…この世界が好きだ…みんなを守りたい!』

 

その想いを込めながら目を開けエルスレイドの宝玉の光を見るが、

 

それは微弱に蒼い光を放つだけだった。

 

「ロディ…本当にそれでいいのかい?」

 

「…うん…だけど…これじゃあ力が足りないんだ…だから…残りは僕の魂で補うから。」

 

そう言いロディがエルスレイドの刃を自分の手に…

 

「ま、待って!…ロディ…そんな事したら…あなた命を落とすわよ!?」

 

だが、マリオスにそれを阻まれてしまった。

 

「……マリオス…今の…どう言う意味?」

 

「そのままの意味…魂を無くした人間はただの抜け殻…それは死と同じ意味を示すわ。」

 

『!!?』

 

マリオスのその言葉で全員がようやくロディがやろうとしていた事の重大さを知り驚きを隠せなかった。

 

「ロディ!…どうしてそんな事を…」

 

「仕方ないんだよ、レイ。この方法は元々12の聖戦士が揃って始めて成功するもの…

 

 ここにいるのは10人…足りない分は何か別のモノで補わないといけないんだ。」

 

「…それが…ボウズの魂…って事か。」

 

カインの問い掛けに静かに頷く。

 

「そんな…そんな事をしたら…あなたは…」

 

「…この世から消えてなくなる…ただそれだけだよ。」

 

「なっ…ロ、ロディなんでだ?お前だって命は惜しいんだろ?何で…何でそんなに冷静でいられるんだよ!?」

 

「いいんだよ、ジェント僕が犠牲になれば…みんなが助かるんだ…

 

 こんな造られた…偽物の命でみんなが助かるのなら…僕は惜しいなんて思わない。」

 

エルスレイドを強く握り締めながらロディはそう答えた。

 

「だ、だめだ!他に…他に良い方法は無いのかい?」

 

「…ない…そうラーナ様が教えてくれたから…」

 

「お母さんが…そんな…」

 

その名が出た事でロディが本当の事しか喋っていないことを全員が痛く痛感した。

 

だとすればこの場を切り抜ける為には…

 

「…やっぱり…そんなの間違ってるよ…ロディ。」

 

「だけど…他に方法が…」

 

「ロディ、僕達が全力でサポートする…だからそのままでやってみてよ。

 

 もし…もし、それでも駄目な時は…」

 

その先は言わなかったがレイが何を言いたかったのは全員も良く分かっていた。

 

そして全員でユグドラシアへと向き直す…

 

 

「どうした?もう作戦会議は終わりか?これが今生の別れになるやもしれないのだぞ?」

 

「……みんな…いいね。この一撃に全力を出してあたって…その後の事なんか考えなくてもいい…

 

 この一撃に…自分を全てをぶつける!!」

 

そんなレイの言葉を合図にロディを残し全員が散開する。

 

「…ふ…どんな悪足掻きかは知らんが、その程度の小細工で…」

 

「お喋りは…終わりにしたらどうだ?」

 

「…なっ!?」

 

紫苑の声がしたかと思った時にはもう遅く、その刃は振り下ろされていた。

 

「コイツの記憶は俺の記憶でもあるんだ…くらえ、皆斬流奥義…無明凍剣!!」

 

紫苑のその一撃はユグドラシアすらも凍りつかせた。

 

「こいつで…砕けろ!ライト・スマッシュ!!」

 

「十六夜が奥義…蛍!」

 

「これがセアラの全力…ねこ・はっけしょーです!」

 

三人の攻撃が氷ごとユグドラシアを破壊せんという勢いで直撃する。

 

「これで…メギド・ブラスト!」

 

「ウィンディア飛翔剣…アストラルソード!!」

 

「ぶっ飛べ、疾空牙!!」

 

「いきます…セイント・フレア!」

 

「女神ラーナよ…僕に力を、アルティミット・バースト!!」

 

色々な力が入り混じりユグドラシアは声を出す暇も無く踊らせ…

 

「これで……終わりだ!ブレイク・スラッシュ!!」

 

気が付いた時にはその一撃は放たれていた…

 

繰り出される刃…その一撃で全てが終わる…誰もがそう願っていた…が、

 

『…カキンッ…』

 

そんな乾いた音が辺りに響いた。

 

「…うそ…そんな…」

 

「ふ…ふははは!お前達の悪足掻きもここまでか?

 

 ならば今度は我がお前達を葬り去ってやろう!!」

 

ユグドラシアはかなりのダメージを受けたようだが行動不能には至らなかった。

 

「やっぱり…これに頼るしかないようだね…」

 

そう呟き自分の掌を少し傷つけ剣に自分の血を滲ませた。

 

「??何を…」

 

「ダメーーー!!」

 

「エルスレイドよ…僕の魂を力と代え、全てを切り裂く刃をここに!!」

 

その瞬間、エルスレイドの宝玉が強く輝きだし剣から力が溢れてくるのが分かった。

 

「ま…まさか…人形如きに…エルスレイドが応えたというのか!?」

 

「これなら…いける!!」

 

そう確信したロディは真っ直ぐユグドラシアへと向かう。

 

「だめ…やめて、ロディ!あなたがいなくなったら…わたし…わたし!」

 

そんなルフィミアの言葉がロディの頭に重くのしかかる…

 

(…ごめんね…ルフィミア…約束…守れそうにないね…

 

 僕さ…ずっと考えてたんだ…自分の生まれた意味って言うのを…

 

 戦争の為とか…戦う為とか…自分がこの世界に生まれてきた意味ってそんなのだと思ってた…

 

 だけどさ…今はこう思えるんだ…僕は……僕は……

 

 君を守るために生まれてきたんだって…)

 

「ユグドラシアー!!」

 

「ありえん…人形如きに!!」

 

ロディの一撃に対しユグドラシアがミストグランツァで受け止めようとするが…

 

『スッ…』

 

それは止まろうとせず、ミストグランツァを切り裂いた。

 

「なっ…ばかな…ラーナ神器が!?」

 

「いける…これで終わり!ジ・エンド・オブ・スレッド!!」

 

ロディが勝利を確信しその一撃を放とうとした刹那…

 

不意に体が軽く感じ…意識が薄れようとした…

 

(…そ、そんな…もう…限界なの…?まだ…終わってない…

 

 こうなったら…僕の存在そのものすらも上乗せして…)

 

(…だめよ…ロディ…)

 

そんな誰かの声がロディに語りかけてきた。

 

(ダレ…?)

 

(ロディ…あなたはここで死ぬべきではないの…あなたは生きるのよ、私の分も…)

 

(だれ…?)

 

(私があなたの魂の代わりになるわ…だから、あなたは生きなさい。)

 

(だれ…聞いた事のあるこえ…)

 

(…大丈夫よ…私はずっとあなたの傍にいるから…愛してるわ…ロディ…)

 

ロディの意識が薄れ行く中…ロディの耳に飛び込んできたもの…それは…ユグドラシアの断末魔の悲鳴と…

 

(おねえ…ちゃ…ん…)

 

姉セリシアの優しく、暖かい声だった……

 

 

「ロディ!!」

 

ユグドラシアが消え去ると同時に倒れ込んだロディの元に全員が駆け寄った。

 

「ロディ…しっかりして…ロディ!」

 

ロディの体を抱きかかえながらルフィミアが何度も呼びかけるがロディは何の反応も示さなかった。

 

それどころかロディの体は息すらもしていないような状態にあった。

 

「マリオス…ロディは…」

 

「…見え…ないの…」

 

「えっ…?」

 

「ロディの魂が…何も…これじゃあまるで…抜け殻…」

 

マリオスが悲しそうな瞳でそう漏らした。

 

「いやぁ…そんな…そんなのって…ロディ、目を開けてよ…これじゃあ意味がないの!

 

 私は…確かに平穏を望んだ…だけど…だけど!…あなたがいないと意味がないの!!」

 

「ルフィミア…」

 

「……だから…私も今…あなたの傍に…」

 

そう呟きルフィミアはエルスレイドを握り自分の喉元に…

 

「バ、やめねえか!嬢ちゃん、そんな事をした所で何の意味もありはしねぇ!!」

 

「いやぁっ!!離して、お願い…ロディの…ロディの所に行かせて下さい!!

 

 ロディのいない世界で生きたって何の意味もないの!」

 

カインに取り押さえられながらルフィミアがそう叫ぶ。

 

「ルフィミア!止めるんだ、そんな事してもロディは…!?ちょ、ちょっと待って…エルスレイドが…」

 

「えっ…?」

 

レイのそんな一言に反応し全員の視線がエルスレイドへと集まる…

 

そこで全員の目に入ってきたものは…

 

「宝玉が…光ってる…」

 

そう…今だに蒼い光を放つ宝玉だった。

 

「どうして…ロディの手からは離れてもう力は失ってはずなのに…」

 

「ま、待って!私の…私のフォースソードも…うぅん、みんなの神器も光ってる…」

 

「!?」

 

全員がそれぞれ神器に目をやってみると確かに神器に埋め込まれたそれぞれの宝玉が光放っていた。

 

「こ、これは…一体どうなって…?」

 

『カッ!!』

 

かと思った瞬間、宝玉達は一際強い光を放ち辺りを白く染めてゆく。

 

そして…光が収まった時、目の前に…

 

「聖戦士達よ…本当に良くやってくれました…ありがとうございます…」

 

「お…お母…さん。」

 

女神ラーナがそこにいたのだった。

 

「あなた達は本当に良くやってくれました。かつての聖戦士達も滅する事の出来なかったユグドラシアを…

 

 本当に感謝の言葉も見つかりません。あなた達のお陰でこのグランディアに再び平穏が…」

 

「ふざけないで…ふざけないで下さい!!」

 

賞賛の言葉を述べるラーナの言葉をルフィミアの叫びが遮った。

 

「ルフィミア…」

 

「良くやった…?再び平穏…?そんなものに…そんなものに何の意味があるんですか!?

 

 あなたが…あなたが何もしなかったせいで…ロディは…ロディは!!」

 

「………」

 

「私は…生まれてきてからずっと…あなたを信じ信仰してきました…ですが…今日…

 

 初めてあなたを憎みます…この大陸の守護神でありながら…何もせず…ロディの命を奪ったあなたを!」

 

ルフィミアは真っ直ぐと…強い瞳でそうラーナを見つめた。

 

「…それに関しては…私は何も返す言葉がありません…彼に神器の使い方を教えたのは私…

 

 それを望んだのも私です…ですが…これだけは分かって欲しいのです…私には…それに頼る他方法がなかったのです。」

 

「お母さん…それ、どう言うこと?お母さんはこの大陸の守護神じゃ…」

 

「えぇ…確かに私はこの大陸の守護神…ですが所詮それは形だけ…私には何の力も残されてはいないのです。」

 

「そ…それは何故…?」

 

「前大戦時…私は人間達を助ける為に下界へと降り立った…しかし、神にとって下界に降りるという事は禁忌に触れる事…

 

 主神ギルティアの怒りに触れ、神としての力の大半を奪われ…私は残った力の全てを私の分け身に託したのです…」

 

「わ…わたしに…」

 

「いえ…正確には違うのです。私の分け身になった人間はそれに気付かぬまま人間としての生をまっとうしました。

 

 ですが…マリオスは女神としての力に目覚めた…つまり…私の力と言うべきものは全てマリオスが持っているのです。」

 

「マリオスが…」

 

「はい…だから私は…守護者としてこの世界を見守る事しか出来ないのです…」

 

「そんな…だけど…ロディは…」

 

「彼は…まだ、生きています…」

 

「えっ…!?」

 

ラーナの意外な一言に全員の視線が集まった。

 

「…彼がエルスレイドに全ての魂をつぎ込まんとした時、何者かの魂がそれを阻み身代わりとなったのです。」

 

「身代わり…一体だれが…」

 

「…常に彼の傍に身を寄せ、彼を守っていた…セリシアです…」

 

「セリシアさんが…」

 

「はい…自らの存在と引き換えにロディを守ったのです。」

 

「だけどよ…それなら何でボウズは目を覚まさないんだ?」

 

「…いくら身代わりになったとは言えロディも自らの魂の力を使ってしまった…

 

 その代償が今の状態なのです…自分の魂を…存在を消さないようにと彼は今も必死に戦っているのです…」

 

「なら…こいつは目を覚ますのか?」

 

「はい…ですがそれがいつになるかは分かりません…どんな事が起こっているのか私ですら予測は出来ないので…」

 

「…良かった…ロディ…本当に…」

 

そう呟き漏らしながらルフィミアは優しくロディを包んだ。

 

「マリオス…今私がここに来たのはこの事を告げる為でもありましたが、もう一つはあなたにお願いに来たのです。」

 

「えっ…?」

 

「マリオス、あなたに私に代わりこのグランディアを守護する者として見守って欲しいのです。」

 

「わたしが…お母さんの代わりに…」

 

「えぇ…無理にとは言いません…あなたが人間として生きたいと言うのならその力を私に戻す事が…」

 

ラーナのそんな言葉に視線がマリオスへと集まる…

 

「わたしね…これでも少しは分かってるつもりだよ…お母さんには…もう時間が無いんだって事ぐらい…」

 

「時間が無い…?どうして、神の身である彼女には時間なんて…」

 

「…多分…私が完全に女神としての力を備えた時に…全ての力を失った…そうでしょ、お母さん。」

 

「……えぇ…こうしてこの世界に繋ぎとめているのは私なりの悪あがき…事実を告げないまま逝く事など出来なかった。」

 

「それじゃあ…マリオスは…」

 

「…うん…わたし…お母さんに代わってこの世界を見守ろうと思う…

 

 別に女神としての責務とかそんなのじゃないけど…ロディが守った世界…今度は私が守っていきたいから…」

 

『……ゴゴゴゴゴッ!』

 

突如、空間が激しく揺れ始めた。

 

「こ…これは…」

 

「…この空間はユグドラシアを媒介とし固定されていた空間…その媒介を失った今、虚無へと帰ろうとしているのです。」

 

「そ、それじゃあ…早く戻らないと!」

 

「大丈夫ですよ…あなた達は私に残された最後の力で送り届けます…

 

 さぁマリオス…こちらに…」

 

「うん…」

 

頷きマリオスはラーナの傍へと歩み寄った。

 

「マリオス…わたし…わたし…」

 

「ルフィミア…そんな顔しないでよ。別に…永遠のお別れって訳じゃないんだから。」

 

「だけど…」

 

「ルフィミアは私の…一番の親友なんだから。」

 

「私も、私もマリオスが一番の友達です!」

 

「うん…離れ離れになるけど…ずっと…みんなの事見守ってるから…ずっと…」

 

「マリオス…」

 

「ルフィミア。ロディの事…よろしくね。大事にしなかったら…わたし…奪いに行っちゃうん…だから…」

 

お互いに涙が溢れてきてそれ以上は言葉にもならなかった。

 

それに追い打つかのようにゆれが段々激しいものへと変わってゆく。

 

「マリオス…皆さん、もう時間が…今から皆さんを転移させます。」

 

「うん…ルフィミア…さよなら…だよ。」

 

「ま、待って!マリオス!わたし…わたし…」

 

ルフィミアの叫びもむなしくマリオス達は光の中へと消えてゆく…

 

そしていつしか自分の目の前も真っ白に染まっていった……

 

 

……気が付いた時…私達は教会の大聖堂に倒れていた…

 

神殿騎士達の軍勢を破ったランドゥ伯達によって私達は発見されたのでした…

 

あの戦いの後、程なくしてグランディア大陸にある6つの国が一つになり、名をラーナ共和国と名を替えました…

 

それからはあまりにも色々な事がありすぎて復旧作業や国家同士の親睦などに追われ、

 

気が付けばもう三年もの月日が経ちました…

 

あれからみんなもそれぞれの生活に戻り、多忙な日々を送っています…

 

レイはクラウディア家に戻り当主として正式に迎えられました。

 

リカルド王に代わりライナールをまとめ上げ名君として民衆からの支持も厚くなりました。

 

システィはウィンディア復興に努め見事に再建を果たしました。

 

その影のレイを始めとする諸国の援助が実を結んだそうです。

 

そう言えばシスティはレイとの結婚話も噂されていましたが、

 

レイの事です…システィさんの気持ちに気付くのはもうちょっと掛かりそうです。

 

ジェントはあの後、白の森の長ミントさんにエルフの族長候補として招かれ長となる為に勉強中だそうです。

 

中にはダークエルフであるジェントに対し反発の声もありましたが、

 

エルフ族の英雄である彼に反論の声も薄れ今ではそれも聞かなくなりました。

 

セアラはハバリアへと戻ったのですが森を抜けてはジェントの所に通っているそうです。

 

口では怒るもののジェントもそれが嬉しいらしく言動と行動が一致しない事もしばしばとか…

 

紫苑さんは罪を許され神へと帰り、新しい主君でもある八代家を盛り上げ頑張ってるみたいです。

 

夕華さんはそんな紫苑さんのそばに常に寄り添っていてその様子はまるで夫婦のようです。

 

…紫苑さんがそう思っているかは随分と謎が残ったりもするけど…

 

カインさんは『俺はこの国には居てはいけない存在だから』と残し海へと出ようとした所をランドゥ伯に止められ、

 

ミロワの親衛隊隊長として、国の治安を守っています。

 

最近は部下の教育に精を出しているみたいなんだけど、

 

その教育は実戦中心のハードなもので負傷者が続出してるみたい。

 

だけどその人柄ゆえ人望も厚く、脱落者は全く出ていないとか…

 

そして…私は…

 

「ロディ…おはよう。今日も良い天気よ…あなたが守ったこの世界は…」

 

毎日の日課となったロディへの挨拶…

 

でも朝は忙しくてそれを告げたら私は自分の仕事へと戻らなければいけない…

 

…私はあの後、混乱するレミントン教会に聖母として戻った。

 

教祖ザルモゥを始めとし神殿騎士筆頭さえも失ったレミントン信者及び神殿騎士達がミロワへの暴動を起こしかねない為、

 

教会の新たな指導者として信者達をまとめ上げなければいけなかったから…

 

だから私はこうしてロディをレミントンの聖霊堂のロディを見守りながら教会の指導者としての日々を送っています。

 

ロディがいつ目を覚ましてくれるかは分からない…

 

だけど私は信じてるんです…あの時のロディの約束を…

 

いつか…いつかロディが目を覚まして、あの時の言葉の続きを聞かせてくれる事を…

 

そういつも願いながらこの聖霊堂へと続く廊下を歩く…

 

今日こそロディが目を覚まし私に笑いかけてくれるんだって…今日もまた私は聖霊堂へと足を進める…

 

 

……誰かが僕を呼んでいるような気がする…

 

…僕を必要としている声…僕のかけがいのない大切な人の声…

 

だから……僕はきっと目を覚まさなければいけないんだ…

 

誓ったから…ずっと僕が守るって…ずっと傍にいるって…

 

…僕は…その人の笑顔が見たいから……だから……

 

 

 

「お帰りなさい……ロディ……」

 

 

〜fin〜

 

 

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