春・・・

 

それは出会いと別れの季節。

 

今までの生活に別れを告げ、新しい世界が広がって行く季節。

 

多くの哀しみが待ち構えるが、それ以上の喜びがやってくる・・・

 

 

夏・・・

 

人々の魂が集い、燃え盛る季節・・・

 

何故人々はそこを求めやって来るのかは誰にも分からない。

 

だが、そこには全てがあり人々はそれを求め、かの地に集う。

 

 

秋・・・

 

人恋寂しくなる季節。

 

初めてあの人を一人の男として意識した・・・

 

そして・・・自分以外の他人を知りたいと思った季節。

 

 

冬・・・

 

あの人を知り、自分の中にある想いを知った季節。

 

自分の思いを知り、笑ってくれた彼の顔・・・

 

あの笑顔を私は一生忘れはしない・・・。

 

 

そして・・・再び春がやって来た。

 

あの人と出会い、1年が経った今・・・

 

あの人と新しく紡ぐ物語のスタートラインに私は今、立っていた・・・

 

 

「・・・な〜んてね。」

 

少しシリアスにこの1年間を振り返り文章にしてみたが、

 

何だか堅すぎる文章になってしまい妙にむずがゆい文章になってしまった。

 

「ふぅ・・・こんなの恥ずかしくて人には見せられないわね。」

 

そう言いながら南は先ほど自分が書いた物をくしゃくしゃに丸めごみ箱に放り投げる。

 

する事がなくなりしばらくソファの上でごろごろとしていたが、

 

突然思い出したように立ち上がり窓の向こう側を見つめはじめた。

 

「和樹さん、今ごろ何をしているのかしら?」

 

そう・・・南が見つめていた先は和樹の家のある方向だったのだ。

 

実は和樹と付き合いだしてから二人の間には一つの約束事が交わされていた。

 

それは、『イベント前の1週間は極力会わない事』だった。

 

何故なら、和樹は原稿。南はイベントの前準備とお互いに忙しく、

 

二人でいるとお互いに甘えてしまう為にそれを戒めるためのものでもあった。

 

「電話で声は聞く事はできるけれど・・やっぱり直接話したいな・・・」

 

そう自分の中にある正直な気持ちがふとこぼれてしまい慌てて口を塞ぐ。

 

(ばかばか、私のばか。和樹さんの重荷にならないって決めたはずでしょ。)

 

そう自分に言い聞かせ明日のイベントの為いつもより少し早くベットに身を滑らせた。

 

「そう・・・明日は和樹さんと長く一緒にいられるんだから・・・

 

 なんと言っても明日は記念日だもの。・・・一緒に食事して、公園を散歩して・・・・・」

 

そんな考えをめぐらせながら南はまどろみの中へと落ちていった。

 

大切な記念日がどたばたな1日になる事を知る由もなく・・・

 

 

 

南さんの憂鬱

 

 

そして迎えた春コミ・・・

 

南はまだまばらにしか人がいない会場内で和樹の到着を心待ちにしていた。

 

「・・・和樹さん・・・今日はちょっと遅いわね。」

 

時計の針はすでに朝の8時を回っていた。

 

和樹はいつも大志に付き合わされ入場して来る為、いつもならとっくに到着している時間だ。

 

「もしかして・・・スペースを間違えているのかしら?」

 

そう思いサークルチェックをしてみたが、

 

そのスペースには確かに『ブラザー2』の名前が入っていた。

 

「あら、そうじゃないみたいね。それじゃどうしてかしら?」

 

あーでもないこーでもないと、南が考え巡らせていると・・・

 

「おい、大志。お前のせいで余計に時間が掛かっただろうが。」

 

「ふっ・・・何を言うマイフレンド。あの程度の時間の浪費など無駄遣いの内にも入らんよ。」

 

「コンビニで20分間うんうん唸ってただけじゃないか。」

 

「当然の事だな。より良い物を手に入れる為には必要な儀式なのだよ。」

 

「お菓子のオマケに付いてくるピーチのカードを手に入れる事がか?」

 

「それは違うぞ同士よ!お菓子にカードが付いてくるのではない、

 

 カードにお菓子が付いてくるのだ!・・それにあと2種類で完全攻略なのだからな。」

 

「頼むからそんな事に俺を付き合わせるなよ・・・」

 

そんないつも聞きなれた会話が聞こえてきた。

 

「こ・・この声、和樹さん!」

 

和樹の声を聞き自然と浮かれ気味に振り返った矢先、南の目に飛び込んだもの・・・

 

「ホンマやで。今度からはウチの名前もリストから消しといてや。」

 

それは・・・いつもの様にやって来た和樹と大志、そしてその横にいた由宇だった。

 

「あっ、南さん。おはよう、もう見本誌のチェックに来たの?」

 

「え・・・えぇ、め・・珍しいですね、由宇ちゃんと一緒に来るなんて・・」

 

「まぁね、ほら今回合体だからさ由宇の奴が突然記念本作ろうって言い出してさ、

 

 朝までこいつの部屋で合体本作ってたんだ。」

 

「あ・・・朝まで二人で合体!?」

 

「そうやで、まったく・・・和樹ときたら中々ウチを寝かそうとしてくれへんのやもん。」

 

「自分から誘ってきておいて何を言いやがる。」

 

「ゆっ、由宇ちゃんから誘ったの!?」

 

「そうだよ・・と、あった。ハイ、南さん今回の見本誌。」

 

「え・・えぇ・・。はいOKです。」

 

「えっ?南さん、もう読んだの?」

 

「そ、それじゃあ私は他のサークルも回らないといけないから・・・」

 

そう言い南は足早にその場から逃げるように立ち去った。

 

残された3人は何があったか分からず首をかしげる事しか出来なかった・・・

 

 

所変わって会場内救護室・・・

 

「それにしても珍しいですね、牧村さんが朝一番にここに来るなんて。」

 

「え・・・えぇ、ちょっとね。」

 

「それに精神安定剤を下さい。なーんて珍しすぎですよ。」

 

「す・・少しショックな事があったから・・・。」

 

手に持ったコップをわなわなと震わせながら苦笑いで南はそう答える。

 

「もしかして・・・彼氏さんが浮気していたとか?」

 

『パリンッ。』

 

その言葉を聞いた瞬間コップは音を立てて砕け散った。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「あ・・あははは、それじゃ私はこれで・・」

 

そう言いそんな沈黙から逃げるように南は救護室を後にした・・・

 

「・・・あれは重症ね・・・」

 

そんな独り言が誰も居ない部屋に響き渡るのだった・・・

 

 

救護室を後にした南は一人休憩スペースで物思いにふけっていた。

 

「和樹さんが浮気?・・・そんな事ない・・・はずよね。」

 

ふと口にした言葉・・・その言葉が胸に深く突き刺さる。

 

自分にとって一番大切な人・・・その人が自分を差し置いて浮気をする筈がない。

 

・・と言うかホントにしてないんだけどね。

 

だが、この1週間自分を押さえ込んできた南には歪んだ事実しか伝わってこなかったのだ。

 

「このままじゃ埒があかないわ・・よし、和樹さんに直接聞いてみよう。」

 

「あれ、牧村さんじゃないですか。」

 

そう決心し立ちあがった矢先、南はそう呼びとめられた。

 

「あっと・・あら、あなたは運送屋の・・」

 

「はい、風見鈴香です。覚えててくれたんですか、うれしいな〜。」

 

そう・・・彼女の顔には見覚えがあったのだ。

 

確か和樹のサークルによく顔を出す人物の一人だったはず・・・

 

「も・・もしかして、今からブラザー2に行かれるの?」

 

「えっ、良く分かりましたね。そうなんですよ、ちょっと所用で・・」

 

「そ・・・そう。」

 

(も、もしかしてこの人も和樹さんを・・!?)

 

南の胸に一つの言葉がよぎった。

 

『こいつは敵かもしれない』

 

「つかぬ事を聞くけど、どんな用件であそこに行かれるのかしら?」

 

本当に敵かどうかを確かめるためそんな質問をしてみた。

 

「えっ、まぁ仕事ですからあんまり詳しくは言えませんが、

 

 人からの頼まれ事であそこの本を買いに行くんですよ。」

 

「あっ・・・そ、そうなの・・」

 

彼女のそんな言葉を聞きほっと一安心。

 

どうやら彼女は白のようだ。

 

「その依頼人さん、千堂さんの昔からのファンみたいなんですよ。」

 

「えっ・・」

 

そう・・彼女は白だったが、彼女の依頼人は黒だったようだ。

 

「それじゃ私はそろそろ・・・」

 

そう言うと彼女はそそくさと立ち去っていった。

 

一人残された南の心にはある一つの答えが浮き上がってきた。

 

『そいつはいつか消さなければいけない存在だ』・・・と。

 

 

 

取り敢えず事の真相を確かめるために南はブラザー2へと足を運んだ。

 

しかし、いつもならば列ができ混雑している通路があっさりと進めてしまった。

 

おかしいなと思った時、南の前に一つの看板が見えてきた。

 

『ブラザー2及び、辛味亭の本は完売致しました。』

 

「・・・え?」

 

それもそのはず、現時刻はお昼の一時を過ぎたところ。

 

列のできる大手のサークルの本は完売してしまうような時間だったのだ。

 

「そ・・・そんな、それじゃあ和樹さんはどこに・・」

 

そう呟く南の目にサークルの机の影で動く影が飛びこんできた。

 

「か、和樹さん。」

 

「へっ?・・・誰?」

 

そう言いながら影から立ちあがってきたのは今日の売り子をしていた瑞希だった。

 

「あれ・・瑞希ちゃん、どうしてここに?」

 

「どうしてって・・私今日売り子を頼まれてたんだけど・・

 

 そう言う南さんはどうしてここに?」

 

「え、あの・・その・・」

 

瑞希のそんな質問に戸惑いうまく口が回らなくなってしまう。

 

『和樹さんに会いに来たの。』何て言えるはずもない。

 

「なーんてね。南さん、和樹に会いに来たんでしょ分かってるわよ。」

 

「え・・?」

 

「和樹もね、さっき『南さんを探しに行って来るって』どっか行っちゃったんだ。」

 

「和樹さんが・・私を。」

 

「だからあいつ、まだ近くにいると思うから行ってみたら。」

 

「え・・えぇ、ありがとう瑞希さん。」

 

それだけ言い南は思わず顔が緩んでしまうのを感じながらブラザー2を後にした。

 

「・・・あ〜あ、やっぱり勝ち目ないか。」

 

そんな後姿に瑞希に呟き声はかき消されるだけだった・・・

 

 

 

「そっか、和樹さんが私の事を探しに・・・ふふふ。」

 

先ほど知った現実に喜びながら館内をうろつく南の目にふと和樹の姿が映った。

 

「あれは、和樹さん。かーずきさーっ・・!?」

 

そう呼びかけようとした瞬間、和樹の周りにいる人物たちを見て南は凍りついてしまった。

 

「それじゃ、そういう事だから。彩も千紗ちゃんも構わないね?」

 

「はい・・・私は別に構いません・・・」

 

「にゃあ、千紗もOKですよお兄さん。」

 

和樹・・・そして、長谷部彩・塚本千紗の両名だった。

 

(そ・・そんな、私を探していたんじゃないんですか、和樹さん。)

 

耳にした現実と目にした現実・・この2つのギャップにただ愕然と驚く事しかできなかった。

 

「後・・場所なんだけど、イベント終わってから俺の家って事で良いかな?」

 

「・・分かりました。」

 

「はいです。千紗も頑張るですよ。」

 

(何をっ!何を頑張るって言うの!?)

 

「それじゃまた後でね。」

 

「はい、また後でですぅ。」

 

「・・さようなら・・」

 

そう二人に別れを告げ和樹は再び歩き始めたのだった。

 

(そんな・・・私の和樹さんが、四股を掛けていたなんて・・・)

 

その背後には全てを打ち砕かれ、真っ白に燃え尽きた南がいる事を知る事もなく・・

 

 

 

「本日のコミックパーティは終了致しました。皆様どうもお疲れ様でした・・」

 

そんなアナウンスが響く夕暮れ時・・・南は一人黄昏ていた。

 

その目はまるで死んだ魚のようにフヨフヨと空を漂っているだけだった。

 

「和樹さんに捨てられてしまった・・もう終わりよ・・ふふ・・死んだら楽になれるかしら?」

 

そんな恐い事を平気で呟く南の目はあくまでも本気、今の彼女ならそれを実行しかねない。

 

「そう・・母なる海にかえりましょ・・」

 

南がフラフラと海へと近づいていこうとした瞬間、

 

「南さん、やっと見つけたよ。こんな所にいたんだね?」

 

その背後から和樹がそう声を掛けてきた。

 

「か、和樹さん。どうしてここへ?」

 

「どうしてって・・南さんを探していたからに決まってるじゃないか。」

 

そう言い和樹が南に近づこうとした時・・

 

「こ、来ないで!」

 

「南さん?どうしたんだい。」

 

「私は今から海にかえるの、だから邪魔をしないで。」

 

「?・・言ってる言葉の意味がわからないんだけど・・」

 

「和樹さんなんか・・朝まで由宇ちゃんと合体しながら、

 

 四股も掛けるプレイボーイなんだから邪魔しないで下さい。」

 

もう南の言ってる事は無茶苦茶だった。

 

だが、彼女は自分の中にある全てを吐き出さずにはいられなかったのだ。

 

「・・・南さん、もしかしてやきもち焼いてたの?」

 

「だ・・誰が・・そんな事・・・」

 

「あのね、誤解がないようにもう一度言っておくけど、今日由宇とはただ合体スペースで申し込んだだけ。

 

 後、今日は皆と出会って1年目の記念日だから一緒にお祝いする為に皆に声を掛けていたんだよ。」

 

「へ・・?そ、それじゃあ千沙ちゃんの『頑張るです』って・・」

 

「千沙ちゃんは瑞希と一緒に料理担当者だからね。それで張りきってたんだよ。」

 

「そ・・それじゃ・・全部私の勘違い・・だったの。」

 

「そう言う事。・・ひどいな〜、俺ってそんなに信用ないの。」

 

「えっ・・えっ、えと・・」

 

全てを知ってしまった今、自分の今までの行動は恥ずかしいだけで何か言うにも口がうまく回らない。

 

「馬鹿だな、南さんは。」

 

和樹はそんな風に慌てふためく南をそっと抱きしめた。

 

「心配しなくても俺は南さんが大好きだよ。そんな南さんを置いて浮気なんかしやしないよ。」

 

「和樹さん・・・」

 

「それとも、まだ俺の事信用できない?」

 

「えっ・・い、いいえ。・・あなたを・・信じています、和樹さん。」

 

和樹の胸に抱かれながら南はそう小さく呟いた。

 

「・・それじゃ、帰ろうか。みんなもう待ちくたびれているはずだからね。」

 

「はい・・・お祝い、しなくちゃいけませんもんね。」

 

二人寄り添い帰路へとつこうとした時・・・

 

「牧村さん、こんな所にいたんですか!?」

 

そう呼びとめたのはコミパのスタッフだった。

 

「まったく、会場内にはいないし携帯につなげても留守電になるし・・探したんですからね。」

 

「えっ・・どう言う事?」

 

「とぼけても無駄ですよ、牧村さんには今日サボった分片付けの方みっちりしてもらうんですからね。」

 

「えっ・・えっ、ちょっ・・」

 

「問答無用です。片付け作業があなたを待ってますよ。」

 

「わ、私は・・和樹さんと・・1年のお祝いを〜・・・・」

 

そう言いスタッフに連行されていく南を和樹はただ呆然と眺めてる事しかできなかった・・・

 

 

・・・合掌・・・

 

 

 

 

後書き↓

 

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