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今日も今日とて、身体が暑さで気だるい気分に襲われる。俺は、自分の部屋を出ると、リビングに行き、ソファーに寝転がった。もちろん、一人きりでほぼクーラーは占領状態だ。さっきまで、熱で汗ばんでいた身体が、クーラーから吐き出される冷たい空気によって冷やされる。その心地よさと言ったらたまらない。もう、ここから離れたくない。この部屋から出たくない、という思考が湧いてくる。しかし、俺の部屋にはクーラーがない。だから、こうしてわざわざ下に降りてきて、ソファーに寝転がり、こうして幸せなクラー・ライフを送っているのだ。俺は思わず心の中で「ビバ・クーラー!」と叫ぶ。 その俺の幸せをぶち壊すかのような、ムカツク声が響いた。 「はぁーっ・・・・・・涼しいね、ピロ!!」 「うにゃあん」 真琴とピロだった。どうやら、こんな暑い中、本屋に行ってマンガ本を買ってきたのだろう。その手には、ガサガサと音を立てるビニール袋があった。しかも、かなりの数を買ってきたらしい。 「こら、俺の花園に無断侵入するな。不法侵入で警察に連絡するぞ。あるいは、入場料金を払ってもらおうか」 「いつから、祐一のクーラーになったのよぉっ! 証拠見せてよ、しょーこ!!」 俺は用意してあった紙切れをポケットから取り出し、それをクーラーの本体にセロハンテープで貼りつける。 「ほれ」 わざとらしく、指を指す。 「何が『祐一のもの』よぉ!! 自分の名前書いた紙を貼りつけただけじゃないのぉー!! もう、真琴のものは真琴のもの。祐一のものは真琴のものーーーっ!!」 「誰がジャイアン様格言を流用していいと言ったーーー!」 「何よーーー! 肉まんドロボウ!!」 「まだ、あン時の事覚えてたんかーーーっ! この、肉まん狂!!」 真琴といつものように口ケンカをしていると、買い物から帰ってきた名雪と秋子さんが、がちゃりとドアを開けてリビングに入ってくる。 秋子さんは汗一つかいていないのに対して、名雪はへと〜っとした表情でフラフラとキッチンへと向かって行った。奥で冷蔵庫を開ける音がした。 「秋子さん、お帰りなさーい」 秋子さんの後ろから、何処かで見た女の子がひょいと顔を出した。赤いカチューシャに、それでも高校生か? と思わせる童顔。成長が止まっているんじゃないかと思われるスタイル。どっから、どう見てもあゆだった。 「あらあら・・・こんなにクーラー効かせちゃって・・・・・・風邪引いちゃいますよ?」 「大丈夫! バカは風邪をひかないっていうからねー」 ニヤリと邪な笑みを浮かべながら、真琴は俺に目線をチラリと向ける。こいつは、とことんバカだと思った。相手をするまでもない。そう思った俺は、麦茶が飲みたくなってキッチンへ向かおうとした瞬間、あゆに声をかけられる。 「ゆ・・・・・祐一君・・・・・・・・」 「ん?」 いつものあゆとは違って、何かぎこちない言いかたをしていた。何事か、と俺が思っているとあゆが手をスッと俺の目の前に出した。あゆの手には、長方形の紙があった。それを見てから、あゆの顔を見る。あゆは、照れくさそうに笑っている。 紙には、「プールご招待券」と書いてあった。 「一緒に行かない? ・・・・・・・プール」 「ああ、いいぜ。どうせ、家でゴロゴロしてたってつまらないしな。うん、今すぐ行くぞ」 あゆの顔がパァッと明るくなる。心から本当に喜んでいるのだろう。 「あーっ、あゆちゃんズルい〜。私も一緒に行く〜っ。ねぇ、いいでしょ?」 突然、名雪が俺とあゆの間から顔を出して、俺たちの顔をぶすっとした顔で睨む。俺がため息をついて、「仕方ねぇな」というと、万歳のポーズをしたまま二階へと走り去って行った。もしかすると、精神的に名雪の方が子供なのかもしれない。 とりあえず、ボーッとしてても何も起こらないので俺も自分の部屋へ戻って、プールへ行く準備をしようと思った。リビングのドアを開けると、ムアッと熱気が冷えた身体にまとわりついてくる。外に出たら、これがもっとひでぇんだろうなぁ・・・・・・・・と、考えながら階段を昇っていった。 自分の部屋へと通じている廊下を歩いていると、名雪の部屋のドアが突然開く。中から、愛用しているスポーツバックを肩から下げた名雪が出てきた。そこまではいいのだが、その腕には、緑の物体が抱きかかえられていた。それに素早くツッコミをいれる。 「・・・・・・・なんで、『けろぴー』なんだ?」 名雪は子供のような純粋な笑顔でさらりと言った。 「けろぴーも水浴びしなくちゃだよ。カエルなんだし・・・・・・」 「だぁぁぁっ!! 直ぐに戻して来い!」 「え〜・・・・・・・」 「え〜・・・、じゃぁない! お前は水瀬家に泥を塗る気かっっっ!!」 「うぐぅ〜」 「パクるなっ!!」 「そう言う事言う人嫌いだよ・・・・・」 「自分なりにリメイクしてもダメっ! それ以上、我が侭言うとイチゴサンデー奢らないぞっ」 その科白を聞いた名雪はびくんと身体を震わせると、マッハで自分の部屋へと戻って行った。これで安心だろう。俺は、暑さに目眩を感じながらもフラフラと自分の部屋へと歩いていった。今の俺を客観的に見ると、「ゾンビ状態」だろう。・・・・・関係は無いが。 自分の部屋は外から差し込んでくる真夏の太陽の所為で眩しく、そして、サウナ状態だった。どーして、俺の部屋にはクーラーや扇風機がないのだろうか・・・・・って、全部名雪の部屋に揃っていたような気がした・・・・・・。後で、クーラー略奪計画を提案しておく事にした。 適当に水着と、それらを入れる物と、タオルを数枚用意してから部屋を出た。階段を降りると、既に準備が整っているのか、あゆ・名雪・真琴・秋子さんが玄関で俺を待っていた。 ・・・・・・・・・・・って、秋子さん!? プールに入るのか!? やっぱり、水着なのか!? ビキニかパレオか!? もしかして・・・・・・ 「祐一君? 早くしないと置いていっちゃうよ?」 あゆの声で、妄想の世界から現実の世界に引き戻される。もう少しで、危険な世界へと飛びこむところだった・・・・サンキュー、あゆ。 「つーか、真琴も来るのか?」 「いいじゃないのよ! 人数は多いほうがいいでしょー」 しかし・・・・・・なんだか、プールに行ったら、さらに人数が増えそうな気がするのは俺だけですか? 「さ、早く行きましょう」 秋子さんの鶴の一声で、全員玄関から出る。 「ぐあっ・・・・・・・・・」 あまりの暑さに、声を漏らしてしまう。じりじりと、真夏の太陽が肌を焼きつける。目を凝らせば、向こうの方に陽炎がぼんやりと見えるくらいだ。 プールは以外と近くにあった。例の商店街からバスに乗り、五分くらいで到着した。 そこのプールは、いつもは温水プールなのだが、夏だけの特別期間で普通のプールになる。俺は、遠出はあまりしないので、こんな所にプールがあった事は知らなかった。 「わーい、プールだ、プールだぁ!!」 真琴はガキ心丸出しで、パタパタと一人で走って建物の中へと入っていった。秋子さんは「あらあら」といった様子で手を頬に添えていた。 その時、俺の予想はドンピシャ。真琴の隣に・・・・・・・ 「・・・・祐一さん? 奇遇ですね・・・・・・・」 美汐がいた。相変わらず、おば・・・・・・物腰やわらかな感じの挨拶をしてくる。・・・このままだと、連鎖して・・・・・・・!! 俺が、勢いよくがばっと振り向くと。「よぉ」と、片手を軽く挙げた北川と、その後ろには美坂姉妹がいた。 そんなっ・・・・・・・・!! 「あーっ、舞、あんなところに祐一さんがいますよーっ」 「・・・・はちみつくまさん」 ああっ、バカなぁぁぁっ!!!??? そ・・・速攻で、全キャラ勢ぞろいだ。なんて、手抜きなSSなのだろうか・・・・・・・。ってか、また気配が!! 「浩之ちゃーん、お待たせー」 ・・・・・・こっちはハズレのようだったぜ。 「とゆーワケで。ここで、皆の水着姿が拝めるってわけだ!! なんていい季節なんだぁ、夏ってヤツは! そう思わないか同士!」 俺と北川は無言でガシッと腕を組む。そして、二人でニヤリと笑う。もう人目の事なんて気にしない。つーか、既に周りでヒソヒソと声がするが。 男性陣はもう着替え終わったが、女性の方々の方がまだだった。やや苛立ちを覚えながら、ザッと辺りを見まわす。客はそんなに多くなく、皆それぞれの時間を楽しんでいる。室内プールなので、空に広がっている筈の青空は見えない。 ボーッと見ていると、不意に後ろから二人の話し声がした。片方はやわらかな喋りかたで、もう片方はバカ丸出しの声。 「ぷーるっ、ぷーるっ。美汐と一緒にプールー!!」 「真琴、もうちょっと落ちつきなさい。まだ時間もたっぷりあるんだから、目一杯遊べるわよ」 まるで、親子の会話のようにも思えた。後ろを振り向くと、白い清潔がする水着の天野に、黄色の水着を着た真琴が並んで歩いていた。 「よぉ、漸く着替え終わったのか? 待ちくたびれたぞ・・・・・・・・」 そう天野に言った筈なのだが、横から空かさず真琴が突っ込んでくる。 「あれ? 祐一待ってなくても、泳いでれば良かったのに」 確かに。でも、自分だけ先に楽しんでいると、なんだか悪いような気がしてくる。真琴は、持っていたビーチボールを俺に向かって投げてくる。考え事をしていたのでボーッとしていた俺の頭に見事にヒットする。軽くだったのでダメージが少なかった。 ・・・・・・仕方ない。童心に返ってみるか。 「真琴、やりやがったな! 食らえ、アイアンボーーール!!」 落ちていたボールを拾い上げると、振りかぶって全力で真琴を狙う。ボールは思ったよりもスピードが出ずに、へろーんと飛んでいく。 真琴が笑いながらそれを躱す。すると、後ろにいた舞がそれをキャッチした。隣にはやっぱり佐祐理さん。 「あははーっ、もう楽しんでいるみたいですねー」 「祐一・・・・・・ずるい」 俺が「あはは」と笑っていると、後ろから北川が首を掴んで引き寄せる。ボソボソ声で俺に言った。 「てめぇ・・・・何時の間にかあんな先輩と知り合ってたんだぁぁぁぁあああ?」 妬んでる妬んでる・・・・・。俺は業とらしく、鼻で笑ってから鬱陶しそうに腕を払いのける。北川が、ヘンな呻き声をあげているが聞こえないフリ。 佐祐理さんのナイスプロポーションと白いビキニがマッチして・・・・グ・・・・・グレイトだぜ・・・・・・・・。舞は、紺色の水着。流れるような黒髪とその水着がマッチ! ・・・・・脳内に映像として永久保存版に・・・・・・・・・。 俺に手を振ると、佐祐理さんは、「行こう、舞」と言うと、プールへと入っていった。多分、舞は泳ぐの速いだろうな・・・スポーツ万能っぽそうだし。 プールサイドでは美汐と真琴がちょっとしたバレーで楽しんでいた。北川は・・・・・・・・言うまでもない。 「わぁーっ、こんなところあったんだねぇ」 「うぐぅ・・・・・・・・」 「たまには、こういうのもいいわね」 一気に、美坂、栞、秋子さん、あゆ、名雪と出てくる。 「おおーい、こっち! こっち!」 俺は出てきた一行に手を振って合図する。・・・・・・・め・・・目の保養っっっ!! 神様、夏を作ってくれて有難う!! 「あれ、北川君は?」 香里が開口一番訊いてくる。俺は、顎で北川のいる方向を指した。 何時の間にやらプールからあがって、真琴たちとバレーをしていた。それに、佐祐理さんと舞も混ざっていた。舞がやたらに強烈なボールを打って、それを美汐が素早く返す。・・・・・・・舞がムキになってるのが良く分かる。佐祐理さんと真琴はついていけず、ただボーッと立っているだけ。北川はプールサイドでうつ伏せに寝転がっている。何かおびただしい赤いモノが広がっているが、誰も気が付かない。 「祐一君、泳ごうよ!!」 「そうだよ〜。プールは泳ぐところなんだから」 あゆと名雪が促してくる。あゆは浮き輪装着。名雪は、カエル型の浮き輪装備。 「・・・・・・・お前等、泳ぐ気あるのか?」 『うん』 「そうだ・・・・・・そういえば、秋子さんはどうした?」 名雪が黙ったまま目線をチラリと変える・・・・・って、秋子さぁーーーん、ナンパされちゃダメっすよぉぉ!! 「ねえ、彼女今一人?」 「はい」 「なんかおっとりしてて和風美人って感じだよねー」 だぁぁぁっ!! ナンパしてるヤツも気付けっ!! 茶髪のいまどきの若者たちは、意地でも秋子さんをナンパするつもりなのだろう。必死になっているのがよく分かった。しかし・・・・・秋子さんはあくまでも子供のいる母親・・・つまり人妻だ。・・・ここは一つ面白いことでもしてみるか。 「おい、名雪」 あゆと一緒に泳ぎに行こうとしていた名雪を強引に引き止める。不満そうな顔をして、渋々オレの方に近づいてくる。そして、名雪に指示を出す。 「えー、自分で呼べばいいのにぃ・・・・・・」 「ダメなんだよ。名雪は『お母さーーん』って言えば良いだけだ。よぅし、名雪中尉まかせたぞ!!」 「分かったよぉ・・・・じゃあ。・・・おかあさーーーん!!」 すると、秋子さんをナンパしていた男たちのグループ全員が身をびくりとさせる。・・・・・最高に愉快だ。しばらく、数人で耳打ちをしているかと思えば、散り散りになりはじめる。最高だ。こんなに面白い事は滅多にないだろう。あとで日記に書こう・・・・・と思ったが日記はあいにく書いていない。 紆余曲折あったが、まとまったところで全員がプールで泳ぐ事になった。勿論、北川は復活していた。仮死状態で放置してあった筈なのに。 オレはあゆに誘われて、一緒に泳ぐ事にした。舞と佐祐理さんは二人で遊んでるし、天野と真琴も同じく。美坂と栞は姉妹で遊んでいる。それがとても微笑ましい光景だった。 そんな光景をほけーっと見ていると、浮き輪でぷかぷか浮いているあゆが手を振っていた。まるで、子供。ヘンなおじさんに誘拐されちゃっても、おかしくは無い。水着のセンスから、「お前本当に80なん?」と訊きたくなる胸。可愛ければどうでもいいのだが・・・・・・・・。 「あれ? 祐一は泳がないのー?」 カエルの浮き輪に掴まって足をバタバタ動かして進んでいる名雪がこちらを向いて言う。 「あ? ああ・・・・・・泳ぐよ、これから」 そう名雪に言うと、適当にクロールをしてみる。プールで泳いだのは何年ぶりだろうか。かれこれ、2,3年は泳いでいなかったような気がする。俺は特に泳ぎが苦手じゃない訳で、ちょっと先にいた名雪に直ぐに追いつく。 名雪は、驚いた顔をしていたが・・・お前はクロールすらできんのか。クロールだけで驚いているということは、泳げない。という事になる。 「祐一く〜〜〜ん」 やや後ろを泳いでいたあゆが声をかけてきたので振り向くと、水がもろに顔面にかかる。 「わーい、ひっかっかった〜〜〜」 さらに後ろに真琴がいた。 恐らく・・・いや、絶対に真琴があゆに俺に声をかけさせるようして、顔に水をかけた。 「ぬううう・・・・なめんな、真琴ぉぉおおおーーー!!」 「ふふん、真琴をなめてもらっちゃ困るわ! あゆあゆバリアー!!」 真琴は俺が水をかけてくることを察知して、あゆを盾にして後ろに隠れる。しまった! と思ったが時既に遅し。バシャアッとあゆの顔面にもろにかかる。 「うぐぐぐぅ!?」 突然の出来事に混乱したあゆはワタワタと慌てると、浮き輪がひっくり返り、沈んでいく。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」 あゆは急浮上すると、俺に思い切り水をかける。しかも、容赦無い攻撃。続いて、真琴も追撃。 「ぐあっ!!」 「祐一君に反撃ー!!」 こうして、ゆったりと流れる時間の中を・・・・・皆と一緒に過ごした。目の保養にもなったけど・・・・・ 夕暮れ。そろそろ、俺の一日が終わろうとしていた。俺の背中には、遊び疲れてぐっすりと眠っている真琴がいた。その表情はまるで、子供の寝顔だ。 沈みゆく夕焼けを見ていると、隣からあゆがぴょこんと顔を出してくる。 「また・・・・来れるといいね」 あゆはそう言うと、うっすらと目を細めて笑う。いつもと違うあゆの表情に俺はどきっとした。と、突如。 「そーいえばさぁー」 名雪が相変わらずののんびりとした声で言う。 「明日って、学校あるよね? 期末テスト・・・・・・・・・・」 世界が凍る。まるで、辺りの風景の色が全てなくなり、音も消え、白と黒のモノクロの世界が広がったような気がした。 「う・・・・・・・うあだああああああああああああぁぁぁぁああぁぁあああ!!!!」 後・書・き♪ ・・・・・・・・・・・・「・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・(うさうさ)」 す・・―――― 「言い訳は無用ですよーっ。さぁ、選んでください。『地の獄! 強制労働体験15年間!』と『アツアツ! 焼けた鉄板の上で土下座! 10秒以上体験』のチケットがありますけど・・・・・・どっちがいいですかー? 因みに、拒否すると・・・・・・・」 (シャキーーーーン) 「・・・・・・・・斬る」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ Chacha ありがとうございます。 夜中、笑いながら拝見させて頂きました。 今後とも、よろしくお願いします。 |