謎の男
謎の男、ダグラス・マクレイン。
何が謎なのか。
19歳。
7月13日生まれ(蟹座)。
身長177cm、体重68kg。
好きなものは「アツイ奴」、嫌いなものは「冷めてる奴」。
まぁ、この辺りのことは彼とある程度以上親しくなるか、あるいは志を持って調べなけ
ればわからないことかもしれない。まぁ、逆に言えば、調べる気になれば一日以内でわか
ること必至の内容でもある。
あげく、彼がザールブルグにやって来た理由などは、知らない者など国民にはいないほ
どだ。
それほどに、裏がない男。それがダグラスなのだ。
確かに、国民の中で、ダグラスについて謎を覚えているものはほとんどいない。が、ほ
とんどいない。ということは少しはいるということと等しい。
彼と親しい者の幾人かは、確実に彼を謎の男と認識していたりする。
さて。彼の何が謎だと言うのだろうか。
それは、彼の胃。あるいは腸についての謎である。
彼の謎に一番影響を受けているのは、国にやって来てから数年の間にザールブルグで不
動の人気を築いた少女ではないだろうか。まぁ、やって来た頃こそは少女だが、今ではそ
の呼び方も相応しいとは言えなくなっているかもしれないが。
彼女の名前はエルフィール・トラウム。名の知れた錬金術師である。
ちなみに、武術大会や喉自慢で優勝したという過去まで持つ、ちょっと常軌を逸した存
在だったりする。
そんな彼女が何故、一番影響を受けているのか?
それは、彼が妙なものを食べてしまう瞬間を一番見やすい位置にいながら、彼が病気に
なるのを一番恐れているからだ。
ダグラスには、目に付いたものを何でも口に入れてしまう。という特徴がある。
特に幼少期に貧しい生活をしてきた。ということはないらしいが、結構放し飼いの生活
を送っていた、というのが理由になっていなくもないのだが。まぁ、きっと個性というや
つなのだろう。
本人に尋ねてみたところ。
「あぁ?食ってみなけりゃ、平気かどうかなんかわかんねーだろ。大丈夫だって。今ま
でどーってことなかったしよ」
グルグル腕を回しながら言うには、こういうことらしい。
今まで平気だからって、これからそうとは限らない。という思想は彼の中には息づかな
いらしかった………。
そんな彼の鬼門――彼にとっては鬼門ではないのだろうが――それがエリーの工房だっ
たりした。
錬金術とは、様々なものを調合して新しいものを作り上げることと言える。
つまり、エリーの工房には調合前の材料から調合後のアイテムまで。何から何まで、置
いてあったりするのだ。
エリーの慌てた記憶を掘り起こすと、一番深いところにあるのは、月の実の事件だった
りする。
月の実は、食べられない。それどころか、有毒だとさえ言われている。
それを食べたのだ、あの男は。
大雑把に見えながら、やはり女の子であるエリーにとって、彼がそれを食べてしまった
のはかなりの衝撃であった。
病気になってしまってはいないか。城門に立つ彼を見守ってしまったほどだ。
しばらく姿が見えなかったときなどは、酷く心配をした。それが実を採りに行ったせい
だ、と知って一安心をしたわけなのだが。
本来、月の実を食べてしまったら、酷い腹痛にうなされることになると言われている。
なのに、ダグラスは全くその様子を見せなかった。あとから聞いてみたところ、特にそ
ういう出来事もなかったそうだ。
ということで。
エリーを初め。彼に親しく付き合うものはダグラスが謎だ。と感じるのである。
ダグラスが工房に来てくれるのは嬉しい。
でも、目を離した隙に何を食べられてしまうのかと思うと、怖くて仕方がない。
何やら子供を相手にしているような台詞だが、これもまた真実。
それぐらいならいっそ。そうしてエリーは計画を実行することを決めたのだった。
名づけて『胃袋限界調査計画』…結構そのままのタイトルである。
『胃袋限界調査計画』
これが何をする計画なのか。名前を見ただけでピンと来るかもしれない。
簡単に説明すると、ダグラスに工房内のものを食べさせつづけるのだ。さすがに一回で
は食べきれないだろうから何日間かかけて。
幸い、工房には栄養剤からエリキシル剤まで揃っている。何かあっても見守っていれば
大事に至ることはないだろう。
まさに人体実験。こんなのをやる人間がいるのだろうか?いなくても無理にやらせる予
定で、実験開始された。
比較的安全なのが緑。ほどほどなのが青。危険なのが赤と白であろう。
と言っても、外見的に食べられないとわかっているものについては大丈夫なので、爆弾
等は外して、と思ったエリーは甘かった。
実験の話を聞いて怒るどころか、色々食べてみることが出来て喜んだダグラスが、最初
に試してみたがったのが爆弾だったりした。
日ごろ自分が扱うだけに興味があったらしい。恐ろしい男である。
ということで。数日間かけて実験は無事終了した。
密かに心配されたダグラスの体は無事である。少々焦げてるという説もあるが、本人は
問題を感じていないようなので万事オッケーという奴だ。
ちなみに、実験の間に使ったエリキシル剤の個数は10。作るのが大変なだけに、エリー
は簿焼き気味である。
それでも、彼が食べられるものと食べられないものがわかったのだから、実験の価値が
あったと言えよう。
結果は、人より少し許容範囲が広いが、毒薬になるとさすがに危険。といったところら
しい。
とにかく。
彼が食べて平気なものがわかり、一安心のエリーだ。
無事実験が終了したことを祝って、チーズケーキとミスティカティでお茶会の開始であ
る
棚からそれらを出すために、ダグラスに背中を見せたのがエリーの落ち度だろう。
振り向けば、彼が試し飲みしているのはお迎えの薬。
………さっき、それ飲んで臨死体験したのに。
結局、ここ数日で彼が使ったエリキシル剤の個数は11に跳ね上がった。
食べ物について、学習を深めない男、ダグラス・・・・マクレイン。
彼は、わかりやすい性格にも関わらず、やはり親しい者には謎の男。と呼ばれつづける
のであった。