「おや、あなたも一人でお飲みになってらっしゃる?」
「ええ」
「浮かない顔ですね」
「ええ」
「何かお悩みですか」
「ええ」
「無口な方ですね」
「ええ」
「そうか、これは、私の質問の仕方が悪かった」
「ええ」
「・・・・何を悩んでらっしゃるのか、教えていただけませんか」
「ええっ!!」
「まだ、『ええ』で答えるか」
「ええ」
「いいかげんに本題に入りましょう」
「そうですね。読者がイラついているようですね」

「実は、うちの嫁が疎ましくって、邪魔なんです」
「ほう・・・・」
「殺してやりたい」
「えっ、大胆な」
「いや、ジョークです。でも、そのくらい今の嫁がいやなんです」
「今の世の中は、我慢せず殺す時代ですから、やっちゃえば?・・・・いや、ジョークです」
「あなたには、この辛さがわからないんでしょうなぁ」
「いいえ、実は、私、あなたのような人を探していたんです。もう、半年にもなるでしょうか。
一人でため息をつきながら、酒を飲んでる訳ありの人を探しては、
こうして話し掛けてきたんですけどね」

「あなたも、妻が・・・・・?」
「ええ、邪魔なんです。あなたと同じく、ジョークですけどね」
「そうですか、じゃぁ、交換殺人なんて、どうですか?ジョークですけどね」
「ああ何という幸運、そういう話のできる相手を探していたんです。ジョークですけどね」
「じゃぁ、今から、場所を改めて、一度、綿密に話し合いましょう」
「ええ、幸い、周りに、あなたとの会話を聞かれた様子もないし」
「幸いに、私は、ここの常連じゃない」
「もし、この会話が聞かれていても、さんざんジョークと言っておいたし、
何の問題もないですな。 わっはっは」

「声が大きいですよ」
「お姉さ〜ん、お勘定ね。この人と一緒で良いよ」
「おいおい、思いっきり問題を作ってんじゃン」



「一応、半年以内に決行と決まったが、なんか、心配なんだよな。
第一、あいつの住所とか、本当なんだろうな。俺、嵌められているんじゃないだろうな」



「ねぇ、あなた、さっきからうちの家の前をうろついている人がいるの。
ストーカーじゃないかしら。 怖いから、行って見て来てちょうだい」

「なんだぁ?ストーカーだぁ?・・・
行って、お前がどんな女か説明してきてやる。
くそっ、邪魔くさいな」


「何だ、ストーカーかと思ったら、あんたか、さてはいよいよ決行しにきたな。
それならそうと、あらかじめ、電話でもくれなきゃ。
俺だって、アリバイというものを作らなくっちゃいけないんだから」

「違うんだよ、心配になって来てみた」
「何が心配なんだよ」
「お前がひょっとしてだよ、嘘ついてるんじゃないかって」
「なんで嘘つくんだよ」
「俺だけ殺して、お前はどこの誰だかわかんないってなったら・・・」
「まぁ、立ち話もなんだ、家に入りな」

「スミマセンね、奥さん」
「何だァ、あなたのお友達だったの?どうぞ、どうぞ、まあ、上がってお茶でも」
「奥さん、あまりお構いにならないでください。あまり親切にされると、
・・・・・今度やりにくくなっちゃいますから」

「まぁ、なにがですの」
「いえ、こっちのこと」
「ビールでもどうぞ。あと何か、すぐにでもおつまみをお持ちしますから」
「オイ、いい奥さんじゃねぇか」
「そうしておれもだまされた」
「これが嫁さんなら、俺なら殺さない」
「ところで、あんたこそ嘘ついてんじゃないだろうな」
「じゃぁ、来週は俺のところへ来いよ」
「そうしてやる」

こうして半年後、やたらに親密になっちゃって、
交換殺人ができなくなってしまった二人は、
めでたく、お互いの伴侶を交換して、
合同結婚式をあげることになりました。

さらに半年後

「やっぱりね、あの二人、顔は違っても、中身は同じ様なものね」
「ええ、だから私、考えたの」
「なにを?」
「交換殺人よ」
「わたしと?」
「なんで?そんなことしたら、前夫殺害になるわよ。
違うの、見知らぬ他人で、同じように夫を殺したく思っている人を探すのよ」

「ええ!!」
「いやぁね、もちろんジョークよぉ」
「それ、いいアイデアね、もちろん、ジョーク」

こうして、殺伐とした世の中で、
深淵と平和的に夫婦交換が進むのであった。