キャラクターの視線に関する考察
V 必要性に応える
アニメ絵の大きな目は、少ない描写で効果的にキャラクターを描くこと、あるいは幼顔傾向が原因と考えられている。
しかしではなぜ、あるときまでアニメ絵が存在しなかったのか。
少ない描写で効果的にキャラクターを描く、そんな必要性が、ある時突然出現でもしたのだろうか。
おそらく要するに、印刷技術が発達したせいだ。
目が大きくなったのはある必要性に応えるためだった、というのはいい。けれどその必要性は、技術が進歩するまでありえなかった必要性だ。
印刷技術が発達する前、たとえば江戸時代やそれよりも前の頃だったら、紙というのは貴重品だっただろう。絵を描いても、コピーするには手で実物を見ながら模写するしかなかった。
印刷技術や、紙が安くなったことで、本や雑誌のような出版物がいろいろと変化してしまったのだろう。
出版物は豊富で安価となり、出版物を身近にする人間は増え、描き手への道も多くのヒトに開かれた。
だから出版物も、出版物の受け手も、出版物の書き手も、それぞれが変質した。
変質した出版物を雑誌で代表させられるだろう。雑誌、とくにマンガ誌にはこんな特徴がある。
雑誌は、まずなんといっても商品だ。
だから個人的に所有が可能で、個人的に消費することができる。読み方も限りなく自由で、どのページをどんな順番ででも読める。ページを分解して加工してもいい。気楽に読める。それどころか、リラックスために読むことも当然視されている。
それに雑誌は種類が多く、安価である。定期的に刊行されている。
個人で大量に所有することが、誰にでも可能になった。要するに、大量生産・大量消費される商品になった。
出版物は従来から、紙に印刷され、音声はなく、言葉は文字で伝わるしかなかった。それが、大量生産大量消費される商品になった。それが、雑誌の特徴だった。
雑誌というメディアはそれまでに存在したどのメディアとも違っていて、そのせいで雑誌独自の内容ができあがった。
その一番極端なのが、たとえばマンガだったのだろう。
マンガははじめのうちは、それ以前からあったイラストや滑稽本をとかを受け継いでいたそうだ。いまあるようなストーリーマンガは手塚治虫が成立させたのだという。
だとしたら、それまでのマンガにはストーリーがなかったということになるだろう。
漫画にストーリーがあり得るということが、絵画やイラストレーションとの違いだった。
そしてストーリー漫画に登場したのは写実的な登場人物ではなく、アニメ絵キャラクターだった。
ストーリー漫画に出てくるのはアニメ絵キャラクターではなくもっと写実的な登場人物であってもよかった。実際そうした作品はあった。しかしアニメ絵キャラクターのストーリー漫画が勝利を収めた。
なぜストーリー漫画が広がったのか。それはこんなことが理由だとわたしは考える。
当時漫画は、リソースが少なかった。使える時間は締切りに追われて少なく、利用できる人手もマンガ家本人とアシスタント程度で乏しかった。参考にできる作品も今より少なかった。
物理的に時間も人手もない状態で読者が楽しめる漫画を書くのならば、漫画にストーリーをつけるのは悪くない方針だ。
で、ストーリーというからには登場人物の心理描写をする必要がある。リソースが乏しいというまったく同じ理由から、なるべく少ない書き込みで効率的にな心理描写をしないといけなくなった。
キャラクターは、おそらくそのために変化し始めた。
目を大きくし始めたのだ。
目の巨大化の理由が、少ない書き込みでキャラクターの描写に役立つことだとしたら、そんな必要性は、このときはじめて出現した必要性だ。
アニメ絵の特徴は、それまで存在しなかったタイプの必要に応えるためのものだった。
漫画とは大量に製造され、大量に消費さるものだ。
予算も人手もあまりいらないけれど売れるものが要求され、だからストーリー性が必要になった。ストーリーを表現するにも、少ない書き込みで心理描写をしなければならない。
その必要性に応えるテクニックが何でもいいから必要になり、それが目の巨大化だった。
また、アニメの初期にはこんなことがあったという。
初期のテレビアニメは予算がとても少なかったので、コストダウンの方法がいろいろと開発された。
その方法の中には、顔の輪郭だけを描いたセルと、眼だけを描いたセルや口元だけを描いたセルとをそれぞれ何種類も用意し、組み合わせることで、いろんな表情を少ない手間で表現するというものもあった。
このやり方も、キャラクターの眼の巨大化に一役買ったと考えられる。
キャラクターの視線に関する考察
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U リアルと2次元・一考
V 必要性に応える
W 広告が告げたこと
X 可能性を見つける
Y リアルと2次元・再考
Z 後書き
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