有り体に


道場を譲り受けてから数日後、一馬はある人物とコンタクトを取った。
一馬の従妹で、現在はフリーのレスラーである椎名 蛍だった。
もちろん蛍の協力無しでは、事を運ぶ事は出来ないと、一馬は考えていたからである。
一馬の考えとは、そう、譲り受けた道場を使ってプロレスの団体をつくる事であった。
しかし、見た事はあるにしても、とても詳しいとまでは行かない一馬にとって蛍はこの上ない人物である。
電話口で一馬が、協力をしてほしい旨を伝えた。
「という訳なんだけど……」
「なるほど。 面白そうな事考えてるじゃない」
「まあね。 でも、何にもわかんないんだよね」一馬は、些か決まり悪く言う。
すると蛍は、なにやら考えているように黙り込んだが、やがて「どうしたいのかにもよるんじゃない?」と告げた。
「どうしたいかって、どういう事?」
「そうねぇ。 例えばどんな選手を入団させたいとか」
その一言に、一馬は少しばかり声のトーンが上がった。
「ああ、それなら考えてる」
「なんだ。 あるんじゃない。 で?」
「やっぱり。 ”一ノ瀬 舞”。 彼女しかいないだろう」
「なに? 私じゃないわけ?」蛍は、少々不機嫌気味に言った。
「ほぁ?」素っ頓狂な返事を返す。
「蛍はもう頭数に入ってるんだけど……」
「ああ。 なるほどね」
しかし、一馬には不安なことがあった。
「でも、入ってもらえるんだろうか?」
蛍は笑いながら言った。
「それは一馬さんの交渉しだいなんじゃない?」
「そうか…… 後は俺の人間性って事か」
それを聞いて蛍は「じゃあ、難しいかも」とのたもうた。
さらりとひどい事をいう奴だ。 と、一馬は思った。
「どうせなら、団体が崩壊したりでフリーになった選手とかを集めてつくりたいんだけど」
「そうね。 このご時世で団体の数は激減して、フリーになった選手や戦う場所を失って、辞めていった選手も多いと聞くわ」
「うん。 しばらくは団体としての興行は出来ないだろうから、団体としてマネージメントをして行こうと思うんだ」
「なるほどね。 フリーの選手達にとって、練習が出来る場所を探すのは大変だからね。 いい考えだと思うわ」
「そこで蛍に、フリーの選手や引退した選手を何人かピックアップしてほしいんだけど」
「スカウティングって事ね」蛍はかなり乗り気になっていた。
「!?」
しかし蛍は、あることに気がついた。
「ねえ、一馬」
「ん?」
「もしかして、一ノ瀬選手しか考えてなかったんじゃない?」
痛いところを付かれた。 正直一馬は思った。
一馬は笑ってごまかすことにした。
「ははは。 そんな事あるわけないじゃないか」
その時蛍は思った。
「絶対ウソだ」

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