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――幸せと想う瞬間。例えば、自分が、誰かに愛されているとわかる瞬間。
と、ある日。昼休み終了まであと20分。
魚谷ありさは呆然としていた。隣にいた花島咲も表情はわからないが同じだった。少し考えるような沈黙の後、口を開いたのは、ありさだった。
「透はどこ行ったんだ?」
そこにはほんの数分前まで食べていた大きなランチボックスだけがあって、その料理を作ったボックスの持ち主だけが消えたようになかった。
時間は3日前の回想と、ある朝の登校時間に遡る。
この日の、にぎやかな昼食会の発案者は、花島咲と魚谷ありさだった。
「私……久しぶりに透君の手作りが食べたいわ……費用は持つから昼食作って来てくれると嬉しいわ……」
咲の言葉にありさが頷く。
「そりゃいいな、うん、バイトとかで忙しくない日に作ってくれよ」
透の毋が生前の頃は、咲とありさと透と彼女の母の4人で御飯を食べたりしていた。最近、そういう機会がないので透は2つ返事でOKした。
「はい……! では、3日後に作ってきます」
そうして意気込んだ3日後(つまりは『ある日』)、透たち3人分と、同居している由希と夾の分を別々に分けてランチボックスに入れる。「いってきます」と挨拶をして、草摩家を出ると両脇から1つずつ、ランチボックスを奪われた。由希と夾だ。
「今日はすごい御馳走だね……なにかあるの?」
「はい…、今日は花ちゃんとうおちゃんとお昼を食べるのです」
「いっとくけど、俺はそれに参加しないからな!」
夾の言葉に透は少し寂しそうに微笑む。一応声をかけようと思って先手を打たれた。
けれど結局、お昼は中庭で5人で囲むことになった。親友達のおかげだ。
「飲み物買ってくるよ」
昼食後、ありさが立つ。目配せに「私も一緒に行くわ」と咲も同行する。3人のリクエストを聞いて、2人が自販機のある校舎に行った。
それが昼休み終了前、30分のこと。
荷物はそのままに姿だけがない。何も云わずにどこかに行ってしまう――そんな子ではない。
「あいつらは……?」
「そういえば、デザート買ってる時に、校内放送であの2人が呼び出されていたわ……」
「ちっ、透とあいつらを一緒にさせておくんじゃなかった」
2人で飲み物を買いに行っていたのは、今日の礼を透に渡すべく、デザート(他の2人の分はない)も調達してきたためで、今はそれが悔やまれる。
「おまえ、電波でわからないのか?」
ありさの言葉に咲は少し考え込むような仕種をする。
「……透君、意識がないみたいだわ。早く探さないと……」
「――どうかしたの?」
声のした方を2人は同時に視線だけ投げる。そこには草摩由希と夾がいた。
「透君がいないのだけど、どこにいるかわかる?」
一番最後に一緒にいた人に聞くのがいいと判断して、咲が問う。この2人は透のことに関しては信用できる人物だ、と咲にはインプットされている。
2人は顔を見合わせた。夾が口を開く。
「俺ら、5分前に放送で呼び出しくらって、その時はいたよ」
「『遅くなるかもしれないから先戻っていいよ』っていったけど、2人が戻るまで待っているって云ってたし……、なによりお弁当箱を置いていなくなるはずないよね」
「とにかく、手分けして探そう。お前らも手伝えよな」
ありさの言葉で、4人は透を探し始めた。
昼休み終了まで、10分。
まどろんでいたのは、ほんの数分なのに、ずいぶんたくさん夢を見た気がする……。眠りから覚醒までのわずかな時、透はそう思いながら、意識を取り戻した。
――あや、眠っていたみたいです……。
今日はいつもより多めに料理を作る分、朝早く起きた。1人になって、その疲れが出てしまったのだろう。そう考え、透は起き上がろうとした。が、出来なかった。
――ええ!? 身体が動きません〜〜〜〜〜。
周りは暗くて、透は体育座りのような体勢で、どうやら壁に囲まれている。
――ここは、どこですか?
さっきまで中庭にいたはずなのに、どうしてこんなところにいるのか思い出せない。
パニックになっている透の耳に少し遠くから、声が聞こえた。
「おい、どうやって探せばいいんだ?」
「おそらく遠くには行ってないはずだから、このあたりを念入りに探してみよう」
「だからなんでおまえと探さなきゃならないんだよ!」
「夾、これは緊急事態だ。もし本田さんになにかあったら困るし、二手に別れて探すって花島さんとも約束したろ? 1人で探すよりは効率悪いけど……」
声は二つ。夾と由希だ。透は会話を聞いて呆然とする。
――私、もしや行方不明に!? ここにいるのです。
そうして、声を上げる。聞こえるように、もう心配しないで下さい。でも心配してくれてありがとう、という気持ちを込めて。
昼休みはもう10分程過ぎていた。
「中庭の木の空洞に、眠り込んで転がり落ちるなんておまえらしいな」
声を上げて、嵌まっていた穴から助け出され、別の所を探していた咲とありさにも会えて、昼休みもとっくに過ぎてサボリを決めこみ、5人は教室から中庭が見えないところでデザートを食べていた。デザートがない2人は透から好意で分けてもらっていた。夾の言葉に照れたように透は笑う。
「はい……、夾君、草摩君、助けてくれてありがとうございます。花ちゃんもうおちゃんも探してくれてありがとうです!」
不謹慎かもしれないけど、こんなに心配されて、透は嬉しかった。
透以外の4人には少し長い昼休みが、彼女の笑顔でようやく終わりを告げた。
END
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