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無邪気そうに由希の横で笑っている少女。
彼女の名は、本田透……。
さもあたりまえのように由希の横にいるくせに、そんな資格がないことを彼女は知らない。
それが気に入らない。
おそらくどんなに遠回しに嫌みを云っても、このタイプは気付かないだろう。傷付かないだろう。
――だから、一回で切って、あげる。
もう2度と、由希には近付かないように一回でとどめを刺してあげる。
「だって……」
そっと口で言葉を紡いでみる。
「……由希は僕のものなんだから」
「きみが、欲しいんだ……」
慊人の一言に、その場にいた全員が凍りついた。
透は思いっきり口をぱくぱく金魚のようにさせているし、そばにいた由希はもちろん、少し離れたところに立っていた夾までもが動けずにいた。
慊人も云った後、自分の失言に気付いた。もうなにを云って彼女を傷つけようか、と云うことさえ思い出せない。
だがふと、我に返って由希を見ると、意外にも慊人が望んでいた表情をしていたので、彼は決断した。
「あ、……あのっ、それって……」
透は顔を真っ赤にして慊人に問おうとするが、言葉が上手く出てこない。慊人はすっかり平静を取り戻して、余裕たっぷりに、にっこりと透に笑いかける。
「プロポーズだよ?」
慊人の言葉に、透の顔はますます赤くなる。
「わ、私っ、プロポーズされるのなんて初めてですっ」
そりゃそうだろう。透以外の3人は思った。その若さで、プロポーズは男女交際上非常に猛スピードのまるで台風だ。
「僕は……こんな身体だから、プロポーズする資格なんてないんだけど……できれば、OKしてくれると嬉しい」
伏し目がちに、慊人はこの反応が相手にどう映るかわかった上で、演技をしてみせる。――もちろん、演技には見えない迫真さで。
ぐっ、と、透は慊人の言葉が胸を打たれ、その場で断る勇気をなくした。その様子が手に取るようにわかった慊人は、自分の作戦の勝利を悟った。
「……お時間を頂けないでしょうか?」
戸惑いながら、透が云う。慊人はこっそりほくそ笑む。その場で断れなかった、かといって、あの2人がこのプロポーズに乗じてなにかしようと云う感じはなかった。
一一僕の、勝ちだ。
「ああ、そうだったね。突然でごめん。大切なことを決めるんだものね。僕はほら……こんな身体だから、つい焦っちゃって……、ごめんね、透さん。ゆっくり考えて?」
そっと、透の手を掴んで、彼女の顔を覗き込みながら、慊人は云う。
こくん、と小さく透が頷く。
「出来るだけ……早い内にお返事します」
数日後、慊人に届けられた透の返事は予想通り、承諾の旨を伝えるものだった。
由希を更なる苦痛へ導くため、慊人は早速透を自分の花嫁として、草摩家へ招いた。
そうして、2人の生活が始まった。
END
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