キャンペーン・リプレイ

第 三 話 「 王 家 の 操 兵 」  平成10年3月8日(日)


 ダラーの事件から数日が過ぎた。あれからは特に変わったこともなく、平和な毎日が続いていた。そんなある日、東の門から伸びる街道が原因不明の崖崩れで埋まってしまう、という事故が発生した。これにより、大多数の旅人、商人が足止めを食らってしまった。 
 その翌日、斡旋所にたくさんの旅人や渡世人が列をつくっていた。話を聞くと、昨日の崖崩れで埋まった街道の復旧作業のための人足、そしてそれらの人々の食事などの世話をする給仕係を募集しているのだそうだ。給金は食事込みで一日三銀貨。丁度することがなかったクサナギ、ゼロ、アリス、阿修羅、セフィロスの五人は、この仕事に参加することにした。
 街道が受けた被害は思ったよりもひどいものだった。小さな峡谷に差しかかるあたりで、両側の崖が崩れすっかり道をふさいでしまっていたのだ。だが、集まった50人ほどの人足、そして街が用意したポンコツ操兵、レストアール1型のおかげで(グラーテ、カムナは修理中で使えなかった)土砂の撤去は予想よりも早く進んだ。
 その中で、五人もそれぞれの持ち場でそれぞれの作業に従事していた。セフィロスがツルハシで土砂を細かく砕き、それをクサナギとゼロが手押し車で運んで捨てる。アリスと阿修羅は人足達の食事の支度をする。そして一日が過ぎていった。
 その夜、人足達の宴が始まった。酒が酌み交わされ、アリスの踊りが場を盛り上げる。夜の街道に笑い声が響いた。
 そんな中、クサナギはこんな話を聞いた。
「古くからの言い伝えによるとな、この峡谷のどこかに初代のフラウ王の古墳があっての、何でもそこにはな、王の亡骸とともにあの、伝説に名高い[王家の操兵]が埋葬されているっちゅうことらしいのじゃ……」
 この老いた人足の話によると、ここに埋葬された操兵は、今から約千年くらい前に栄え、この都市国家郡のほぼ全土を支配していた王国[クメーラ王朝]の初代国王の専用操兵[ファルメス・エンペラーゼ]ではないか、と言うのだ。伝説によると、王朝の基礎を築いた王は、国の繁栄を見届けると自分の操兵に乗って一人世直しの旅に出たという。そして数々の伝説を作った後、最後にたどり着いたこの地で、獣人達と盟約を結んでこのフラウの街を創設し、この地にとどまった、と言うことだそうだ。まあ、伝説などというものには常に尾ひれがつくものだが。特に、フラウ創設の下りなど……。
 次の日、五人は朝食を取り作業場に向かった。だが、作業を始めようとした時に一機のレストアールが故障、稼働不能になった。原因は心肺器の故障。夕べ何者かが忍び込み、こっそり部品を抜き取ったらしい。
 仕方がないのでその日は操兵一機で作業を行うことにした。ところがその日の昼頃、崖の上にある大きな岩を操兵で撤去しようとした時、その岩の根元が突如爆発、その衝撃で落下した岩が操兵の胴体に直撃し、操兵は煙を吹きながら仰向けに倒れて動かなくなった。何者かが岩に爆弾を仕掛けたようだ。崖の上に人影らしきものが見えた……。
 これは何者かの妨害か、あるいはこの崖崩れそのものが……。興味を持ったゼロ、クサナギ、セフィロスは崩れた街道を調べるためにその奥へと進んだ。すると、崩れた峡谷の中程で大きな岩に隠れた、地底に続く入口を発見した。どうやらこの崖崩れで出現したものらしい。中に見える通路からすると明らかに人工物のようだ。しかも、既に誰かが中に侵入したらしい。これは何かあるに違いない、と思った三人は作業場に戻り、行商人や監督を通じて装備をそろえ、阿修羅とアリスを連れて地下通路へと挑んだ。
 通路を奥に進むと、そこはちょっとした迷宮になっていた。行商人から購入した発掘品のランプを頼りに十字路を左に曲がり、突き当たりのT字路を左に曲がる。と、その時突如左の通路から大きな丸太が一行に向かって迫ってきた!。それを何とかかわして通路の奥を覗くと、銃を手にした男が二人。やはり何者かが先に入り込んでいた。それも敵意をもったものが……。
 戦闘の末、下っぱと思われる二人を倒した一行は元来た十字路まで戻り、先とは反対の通路を進む。やはりT字路。今度は罠はない。そのT字路を右に曲がり奥に進むと、突き当たりの壁の右側に扉がある。用心しながら中を覗くと、下っぱが三人くらい銃を構えて待っていた。さて、どうしようかと考えていると、通ってきた通路のほうから五人の足もとに黒い玉が一つ転がってきた。その玉からは細い縄が一本伸びており、その先端では火花が散っている。爆弾だ!。思わずそれを部屋に蹴り入れ扉を閉めた。爆発音が響く。おさまってから中を覗くと、そこは燦々たる有様だった。
 気を取り直した一行は、爆弾が投げられた方向から伸びている通路を奥へと進む。行き着いたところは宝物庫だった。だがそこには誰もいない。宝物にも手をつけられた様子もなかった。
 一行はこの迷宮を調べ挙げて大体の構造を把握した。迷宮はそれほど複雑ではなかった。そして今までの状況からもっとも怪しい場所を特定する。調べると、そこには巧妙に隠された扉があった。扉を開けて下に伸びる階段をゆっくり降りて行くと、奥には両開きの扉(おそらくその先は柩の間だろう)があった。
 ゆっくりと扉を開ける。その時、阿修羅が突如扉の中に駆け込んで行き、手下らしい男を特殊手甲でぶん殴る。あらかじめ[練気]してあった[気]が爆発し、手下は絶命した。中にいる残りの敵は呆気にとられた。
 ここはやはり、この迷宮の主の「柩の間」だった。巨大な柱に支えられた広い部屋の中には、数名の手下と、奥の高いところで指揮を取る親玉らしきマント男、そしてその隣には親玉と同格と思われる戦士風の男がいる。だが、一行を何よりも驚かせたのは、部屋の奥の巨大な台座に鎮座する一機の古い操兵だった。その操兵は長い年月の間にかなり痛んで、くたびれていた。確かに風格はある。が、伝説の[王家の操兵]というほどでない。
 驚く一行を眺めて、親玉は高らかに叫んだ。
「見たか!これなる操兵こそ王家の操兵、[ファルメス・エンペラーゼ]。この操兵を復活させ、この墓の主の子孫である私が、このフラウの王となるのだ!」
 クサナギが返す。
「そのために街道を……そなた等に街道を封鎖されて、旅人が迷惑しているんだぞ!」
 セフィロスも叫んだ。
「おれの三銀貨を返せ!」
 論点のずれた論争は行き詰まった。そしてヤケになった親玉が放った銃声が戦闘の口火を切った。阿修羅の剣がうなり、ゼロの剣とセフィロスの槍がきらめく。そしてクサナギの銃が火を吹き、アリスが走る。手下は次々と倒されていく。その最中、親玉は操兵の後ろに消えた。そして戦士風の男は、こう呟いて奥の扉へと消えていった。
「やれやれ、こいつも本物のエンペラーゼではなかったか……」
 戦いの末、手下はあらかた片付いた。その時、鎮座している操兵から蒸気が噴き出した。そして操兵はゆっくりと立ち上がった。全員が散開して身構える。いかに古代の操兵とはいえ、自身にとって小さな人間を狙って攻撃するのは容易ではない。しかも、ここまでポンコツなら弱点を捜せば何とかなる。
 ところが、操兵はそれを知ってか一行を直接狙わず、柱をなぎ倒し、瓦礫を蹴飛ばし、とにかくでたらめに動き回った。これではどうしようもない。ゼロ、セフィロスは崩れる柱や飛んでくる瓦礫を必死にかわす。阿修羅は手下の残した銃を拾って仮面を狙おうとするがなかなか機会は訪れない。アリスは操兵の背後に取りつこうとするが、動き回っている操兵が相手では……。
「そなたも王家の人間なら、正々堂々と操兵から下りて勝負したらどうだ!」
 クサナギの挑発に対し、親玉は背部にある操手槽を開いてクサナギめがけて爆弾を投げつけた。が、クサナギはその瞬間を見逃さなかった。爆発をかわしたクサナギは、操兵から顔を出したままの親玉に狙いを定めてボルトアクションの引き金を引き、必殺の一撃を放った!
 弾丸は親玉の脳天を貫いた。そしてそのまま操手槽に倒れ込み、操縦桿や駆動板をでたらめに倒した。その目茶苦茶な操縦に従い、操兵は狂ったように暴れ出して壁や残っていた柱に激突する。やがて天井が落ち、遺跡は崩壊を始めた。クサナギ、ゼロ、セフィロス、アリスの四人は戦士風の男が通った扉を使って脱出、入口近くにいた阿修羅は元来た道を戻り、何故か宝物庫を回って長箱を一つ引きずりながら何とか無事に脱出した。
 それから数日が過ぎた。復旧作業と並行して、役人による古墳の本格的な発掘調査が行われた。その結果、この古墳はやはりクメーラ王朝時代後期のものであることが判明したが、埋葬されていたのが当時の有力な貴族であったこと以外は、何も判明しなかった。同時にあの操兵の残骸も掘り出されて調査されたが、やはり[王家の操兵]ではなかった。
 ちなみに阿修羅が古墳からもち帰った長箱の中身は、古い安物の装飾品の類で、ウラノの知り合いの古物商が買い取った。
 かくして、街道は復旧し足止めを食らっていた旅人や行商人は先に進むことができ、一行も旅を続けられるようになった。だが、戦いの際に取り逃がしたあの、戦士風の男の行方はついに知れなかった……。