
|
クサナギ、ゼロ、セフィロス、アリスの四人は再びウラノ商会に用人棒として雇われた。今回のルートは以前の反省からか、素直に街道を通って幾つかの村や街を経由して工房都市クラーバへ。商品は一般的な日用品で、主に缶詰や干物などの保存食料。契約は中間の大都市ライバで一度切れるが、再度契約して続行することも可能だそうだ。ゼロとセフィロスはドウドウ鳥を購入して旅に備える。それぞれ購入した鳥に、ゼロは[ピジョン]、セフィロスは[ヌクヌク]と名前をつけた。 だが、気楽な気分のこの旅も、無事には済みそうにはなかった。 夕方、商隊がその日の宿にしようとネラの村に立ち寄った時、一行は村を見て言葉を失った。壊滅。まさにこの言葉がぴったりの光景だった。とりあえず一行は村人の亡骸を集めて弔う。が、妙だ。明らかに数が少ない。残りの村人はどこへ消えてしまったのか……。 「人狩り、というのを聞いたことがある。商隊や小さな村を襲って人をさらい、奴隷として売りさばくのだそうだ……」 一行は村を避けて、近くの森で一夜を過ごすことにした。が、その判断は誤りだった。森に入って間もなく、謎の武装集団が突如奇襲をかけてきた。木の上から一行の頭上に投網をかぶせ、対象の動きを止める。網を避けたゼロとセフィロスが反撃を試みるが、ドウドウ鳥に乗った騎馬戦士による波状攻撃の前に苦戦する。グラーテとカムナも足元を走り回る騎馬の群れに翻弄されて思うように動けない。 その時、グラーテの膝ががくん、と折れた。側には斧槍を構えて不敵に笑う男が立っている。受けた衝撃からして、おそらく斧槍に[気]を込めてその上で、ひざの関節を狙ったのだろう。 だが、一行はひるまない。それぞれが逆転の糸口をつかもうと必死に戦う。その時、クサナギの前に1機の操兵が出現した。それは不思議な操兵だった。装甲は寄せ集めらしくボロに見える。が、その体格は操兵、というより人間、しかも女性のそれだった。しかも、この機体には女性のそれを思わせる長い髪の毛までついている。動きも機械仕掛けとは思えないほどしなやかだ。だが、何よりも驚かせたのはこの操兵がグラーテの感応石に反応しない、ということだ。 その操兵は、目にも留まらぬ俊敏な動きでグラーテに迫り、すかさず拳をグラーテの仮面にたたき込んだ。仮面割り。操兵の動力源と制御装置を兼ねたこの部分は、同時に操兵最大の弱点でもある。まともに受けたグラーテは起動停止、精神的に深く仮面と同調していたクサナギも、激しいフィードバックを受けて気絶した。 グラーテを倒したその操兵は、倒れたグラーテを抱え上げるとそのままきびすを返して立ち去る。そうはさせまいとアリスがカムナを走らせて追いかけるが、後頭部の髪の毛のような第三の腕がカムナを弾き飛ばす。結局、クサナギとグラーテは連れ去られてしまった……。 戦いは終わらなかった。奴等は全員を捕らえるまでやめるつもりはなかった。その時、別の武装集団が参戦してきた。それは一行を襲っている連中に戦いを挑んだ。味方か。敵はろくに応戦もせずに退却した。 戦いは終わった。一行の前に一台の馬車が止まり、中から先の味方、と思われる集団のリーダーらしい男が降りてきた。ウラノはその男を知っていた。彼の名はゼノア。ウラノの友人で、工房都市クラーバの商人だそうだ。飄々としてはいるが信用はできるらしい。が、この男、唯の商人ではあるまい……。 一行の疑問に、やはり飄々とした態度ではあるがあっさりと答えた。彼の本来の身分は、この都市国家郡の工房都市組合の上層部から派遣されたエージェントで、現在の任務は人身売買組織、つまり人狩りの調査および壊滅。彼は一行に組織壊滅とクサナギ救出の為に共闘しないか、と持ちかけた。 あれからどれくらいたったのだろう。クサナギが目を覚ましたところは、暗い天幕の中だった。動こうとするが、椅子に縛られていて身動きがとれない。側では奴隷商人と思われる、ブクブク太った男が手下とクサナギの品定めをしていた。 「人間を商品にして売り買いするなど、許されることではない!」 「フン、需要があるから商売が成り立つんだ!。奴隷によって栄えている町だってあるんだ。憶えとけ!」 そう吐き捨てると、奴隷商人は手下を連れて天幕を出ていった。闇と静寂がクサナギを覆い尽くす。 再び天幕の入口が開く。そして一人の男が入ってきた。フラウの古墳での戦いの時に取り逃がした男だった。男はマディ、と名乗った。その声を聞いた時、クサナギは衝撃を覚えた。自分の国を滅ぼし、ファルメス・グラーテを奪い去った、あの鳥脚操兵の操手……。 「まさかこんな形で再会しようとは……。運命とはわからぬ……」 「お前たちの目的はいったい何だ!。何故私の国を襲い、滅ぼした!」 マディはクサナギをあざ笑うように見下ろした。 「貴様の国の王、つまり貴様の父君があのグラーテとかいう操兵を我々に渡すのを拒んだからだ。だから力づくで手に入れた。滅ぼしたのは証拠を隠す為だ。でなければあのお方の偉業に禍根が残るからな。口封じだ。だが結局、そうやって手に入れた操兵も、我々の求めていた[王家の操兵]ではなかったがな……」 「では……。では何故、何の為にグラーテの谷は滅びたのだ!」 クサナギの叫びにマディも叫び返す。 「貴様の国の滅亡は、我々の偉大な目的の為の小さな犠牲に過ぎないのだ!」 マディはクサナギにグラーテの仮面はどこにやった、と聞いてきた。当然クサナギは知らない。気絶している間に連中が外したのだと思っていた。だが、仮面はここに運ぶ途中で紛失したらしい。 同じころ、ゼロ、セフィロス、アリスはゼノアとともにクサナギ救出作戦を立てていた。こちらの戦力は一行の他にゼノアの手勢二十人。操兵はアリスのカムナのみ。ゼノアの操兵は以前の戦闘で損傷し、修理中だそうだ。 その時、頭上から一枚の紙が降ってきた。その地図には敵の現在の居場所と、大体の配置が記されていた。結局作戦は、この地図を頼りにゼロとセフィロスが敵地に侵入、クサナギを救出しつつ騒動を起こして連中の気を引き、その隙をついてカムナとゼノアの手勢が一気に攻め込む、という単純なものとなった。そしてすべての準備を終えた一行は作戦を開始すべく動き出した。 一行に地図をもたらした密偵は、以前クサナギたちと行動を共にしたこともある雇われ間者、リーヌだった。彼女は顔を見せることもなく再び敵地へと戻っていった。 リーヌは人狩りに化け、クサナギのいる天幕に忍び込む。そして彼女はやはり顔を見せずにクサナギの縄を解いて去っていった。 天幕を出たクサナギは、隣の天幕にあった太刀と銃を取り戻し、その他の荷物とグラーテの仮面を捜して他の天幕をあさって回る。その中で、クサナギはひときわ大きな天幕、というよりほったて小屋の中に大勢の捕らわれた人々を発見した。だが、人々の様子が変だ。部屋の隅に何かを避けるように固まって脅えている。 人々の視線を追って奥を覗きこんだクサナギは驚きを隠せなかった。部屋の奥には一人の少年がうずくまっていた。その少年は半裸ですっかり脅え切っていた。顔立ちはよく、少女と思えるほどだ。髪の毛は、元は長かったようだが今は無残にも切り取られていた。 が、クサナギが驚いたのはそんなことではなかった。その少年の髪の毛の間から三本の角、そして何より、その身の丈が1リートもある巨人だったからである。 茫然としているクサナギの後ろに、作戦通り侵入してきたゼロとセフィロスがやってきた。部屋を覗きこんでやはり茫然としている。が、少年がこちらを見て脅えていると感じたゼロは、少年の頭によじ登って慰める。 と、その時クサナギの頭上から何か盾のようなものが振ってきた。それはグラーテの仮面だった。誰かが投げてよこしたらしい。落下してきた仮面を受け取るとクサナギは、すぐさまファルメス・グラーテの元に駆けつけた。 作戦が再開された。ゼロとセフィロスは天幕に火をつけ手回り、敵地は大騒ぎになった。それを合図にアリスがカムナを前進させた。それと同時にゼノアの手勢も攻め込む。ここまでは予定通りだ。その時、攪乱作戦を続けていた二人は、崖の上に二つの人影を見た。一人は、先の奴隷商人。もう一人は、長衣に身を包み、腰に長い剣を差した長髪の男。 二人は崖を登る道を見つけて駆け登る。その目の前に突如巨大な影が立ちはだかった。振動とともに現れたのは、鳥脚操兵[リグ・アーイン]。マディは操兵で二人に迫る。ゼロはマディを挑発し、注意を自分に向ける。その間にセフィロスは上に向かう。だがそこに第二の障害が立ちはだかった。先の戦闘において、グラーテの膝を砕いた大男、斧槍使いザザンガがセフィロスの行く手をふさいだのだ。 一方、グラーテを起動させたクサナギは例の長髪操兵と対峙していた。両者が動き、大太刀と大鉈がぶつかる。が、操兵は鍔競り合いの最中に顔を近づけて女性の声でクサナギに話しかけてきた。 「このまま走って!。あの建物を壊して、お願い!」 少年がいる建物か!。クサナギはクラーテを操り、そのままの姿勢で小屋の側につける。そして太刀を振るい小屋を取り壊した。捕らわれた人々が開放され、次々と飛び出してくる。そして最後に、巨人の少年が出てきた。操兵は少年に呼びかけた。 「……ス・アキ……!」 「……モ・エギ姉さん……!」 少年は操兵に駆け寄った。それに答えるように操兵は頭部装甲、いや、兜を脱いだ。それは操兵ではなかった。そこには操兵の装甲をまとった美しい少女がいた。その長い髪の間には四本の小さな角が生えている。だが、その身の丈も操兵並み、1.6リートだが……。 セフィロスとザザンガの戦闘は熾烈を極めた。ザザンガの[気]と斧槍の強烈な一撃がセフィロスを窮地に追い込む。だが、セフィロスの反撃の槍がザザンガの腹部を貫き、ザザンガはそのまま絶命した。 痛みをこらえながらも崖の天辺についたセフィロスの前に立っていたのは、あの長髪の男。だがセフィロスは攻撃を仕掛けられない。この状態で戦っても勝ち目はない、と肌で感じたからだ。男はガタガタ震える奴隷商人を置き去りにして、馬車に乗り込みその場を立ち去った。 アリスは見張りの操兵にてこずっていた。[アルキュイル]方の改造と思われるその機体は、鋼線射出器でカムナの動きを封じ、戦斧でその装甲を削る。が、アリスはカムナに鋼線を引きちぎらせると反撃を開始、数回の剣撃の後にアルキュイルを沈黙させた。その他の人狩り達は奇襲をかけたゼノアの手勢にほとんど無力化され、生き残ったものもやがて降伏した。 マディは、挑発しつつ逃げるゼロをムキになって追いかけた。だが、ゼロはただ逃げているわけではない。やがてリグ・アーインはゼロを追い詰めた。が、その時マディの視界からゼロの姿は失せていた。その目の前には、怒りの闘志に満ちたクサナギのファルメス・グラーテが待ち構えていた。 「……クサナギ……貴様だけは……きさまだけわあぁぁ……!」 以前の屈辱を晴らすべく、マディはリグ・アーインの両腕の内蔵武器破砕鎚を繰り出してグラーテを攻撃する。が、クサナギはグラーテを巧みに操作して楽々と交わし、反撃の太刀をリグ・アーインに浴びせかける。 「そなた如きに、爆砕槍を使う必要などない!」 その言葉は、マディのプライドをズタズタにするのに十分だった。だが、どう足掻いても今のマディでは、幾つかの戦いを経て成長したクサナギとグラーテの前になす術もなかった。そして、一方的な戦いの末に機体を破壊され、仮面を押さえられたマディは操兵を捨てて逃亡した。恨みの言葉を残して……。 すべての戦闘は終わった。奴隷商人は手下共々捕らえられ、連中に捕まって商品にされそうになった人々も無事、保護された。 巨人は姉弟だった。少女の名はモ・エギ、少年はス・アキ。彼女たちは[御仁]という種族でその中の[小角]なる部族の族長の子である、という。御仁とは、本来[樹界]の奥に住むという巨人で、その姿はまさに異形ともいうべき恐ろしいもの、と云われている。が、モ・エギの話によると、その姿は成人男性のもので女性と少年は角と動く頭髪を除けば人間と変わらない、と云う。しかも、角が三本以上の御仁は高い知性をもっており、独自の文化をもっている、と云うことだ。 何故二人が樹界を出て、こんなところにいるのか。モ・エギは五年前、不覚にも操兵を連れた人間の集団に襲われて角を一本取られてしまった。それを取り戻す為に操兵に化けて旅に出たのだが、自分を追いかけてきた弟のス・アキが人狩りに捕まって人質(?)に取られ、仕方なく協力する振りをして機会を待っていたのだそうだ。 モ・エギは、御仁の[神通力]を使ってこの場にいる全員の負傷を治療してくれた。その中でもクサナギは両手で抱き上げて、治療しながらクサナギに囁いた。 「クサナギさん……特に、あなたにはひどいことをしたわ……。ごめんなさい……」 捕らえられた奴隷商人は特に何の抵抗もせずに、聞かれたことを答えた。あの長衣の男はサイラスという名で、今から千年くらい前に滅んだ[クメーラ王朝]の再興を目的として結成された組織[王朝結社]の最高幹部らしい。今回は現れなかったが、連中はクサナギと同じくらいの歳の青年を[皇帝]として持ち上げているそうだ。 だがこの組織、掲げる目的は立派だが、実際は裏でかなり悪どいことをしているテロ集団に過ぎない、と奴隷商人は言う。何せ、資金稼ぎの為にこうやって人狩りをしているのだから……。 「需要があるから商売が成り立つんだ……憶えておけ……!」 やけを起こした奴隷商人のこの言葉に、クサナギは心が重くなっていくのを感じた。 |