
|
……どのくらい時が過ぎたのだろう……。何か揺れている感覚の中、ミオはうっすらと目を開けた。見渡すと、イーリス、セフィロス、ファルス、そしてアリスがいる。どうやら自分たちはグラーテの腕に抱えられているようだ。 (クサナギ、あの土砂崩れを切り抜けたんだ……それにしても、グラーテの額の、あの蒼い輝きは何……だ、ろ……) ミオはまた、気を失った……。 その後、全員が目を覚ました場所は石造りの遺跡の中だった。すぐ側には火が焚かれている。回りを見渡すと、中は割と広く、誰かが生活している痕跡があった。そして何故か、造りつけの操兵整備台もある。いったいここはどこだろうか? アリスは外に出てみた。雨はすっかりやんで、昼間の太陽がさんさんと輝いている。すると、 「やっと気が付いたんだね。よかった!あなた達、昨日からずっと寝てたのよ」 遺跡の屋根の上から少女の声がする。見上げるとそこには、体と頭は人間だが、腕が一対の翼で足に鉤爪をもった奇妙な少女がいる。 彼女はこの山中に住む翼(ヨク)と呼ばれる[ツバサビト]で、名前をリリーナといった。 「……あなたが……助けてくれたの?……」 おずおずと訪ねるアリスにリリーナは違うよ、と答えて遠くを指(?)さす。すると、その方向から六本脚のこれまた奇妙な大型操兵が、かなり損傷のひどいカムナと、かつてギルダームだったスクラップを背部の起重機にぶら下げて、こちらに向かって歩いてくる。 「あの人だよ。あなた達を助けたのは!」 操兵から降りてきた人物は、二十代後半、ボサ髪でサングラスを掛けた白衣の男だった。名は、アーロア・イランド。ミオはこの名前に聞き覚えがあった。アーロア・イランド博士といえば、どこの工房都市にも所属しない流れの天才操兵技師として、その筋では有名人だ。操兵技師見習いのミオにとって、彼はまさに伝説の人だった。 博士は降りてくるなりクサナギのほうに歩み寄る。 「君か。あの操兵の操手は?いい腕だ。あの崖崩れの中で再起動させ、その上仲間を救出してここまでたどり着くとはな。まあ、ここまで来た時点で気を失ったみたいだが……」 博士はクサナギとグラーテをベタボメする。だが、クサナギにはまるで覚えがない。無意識のうちに操縦したのか、それともグラーテが彼の操縦を離れてひとりでに動いたのか……。 崖崩れの影響で、グラーテとカムナの損傷はさらにひどいものになっていた。特に元からひどかったグラーテは、もはや戦うどころか動かすことすら儘ならない。 「いっそ、ここで修理したらどうだ。部品もある程度なら提供できるが。もちろんそれなりの代価は貰うがな」 博士の提案を飲んだクサナギは、今までの戦闘で手に入れた操兵の仮面を代価として博士に手渡し、ギルダームがスクラップになって落ち込んでいたミオに修理を依頼した。 博士が提供した部品は、そのほとんどがこの遺跡からの発掘品を修理、再利用したもので、非常に良質のものだった。さらにこの部品は、グラーテに使われているものと互換性があった。これを使えば修理どころか強化改造も可能かもしれない。 イランド博士が一人呟いた。 「この遺跡は、今から三千年くらい昔の[プレ・クメーラ文明]のものらしい。そのグラーテとかいう操兵、ひょっとすると案外本物の[ファルメス]の生き残りか……」 部品の吟味をした結果、グラーテかカムナのどちらか一機しか改造することが出来ないことが分かった。恐らくすぐに発生するであろうマディとの再戦に備え、ミオはグラーテを改造することにした。クサナギも人手不足から(そして自分の操兵である、ということもあり)作業助手として参加、イランド博士もカムナの修理と、グラーテ改造の手伝いを申し出る。 修理、改造にはどの道かなりの日数が必要になる。その間、イーリスとセフィロスはそれぞれの流派の[技]習得の修行に入った。剣士仲間のゼロの消息が気にならないはずもなかったが、セフィロスは「あいつが死ぬはずがない」と妙に自信があり、イーリスは心配を表に出すほど初心な性格ではなかった。 それから三日後、休息を取ったファルスは今だ行方がわからないゼロおよびウラノ商会の人々の捜索のため、リリーナの案内で土砂崩れの現場に向かった。改めて現場を調べてみると、崩れた土砂が途中で硬い岩にぶつかり、二股に分かれていることがわかった。おそらくゼロ達は、この二股のもう一方のほうに流れていったのだろう。 流れを追って行き着いた地点を二刻ほど探索した結果、ファルスはその土砂から馬車の破片と十個ほどの缶詰、そして北のほうに伸びる数名分の足跡を発見した。どうやらウラノ達は人死にを出すこともなく、恐らくはファルス達を探しに移動したのだろう。だが、それを辿っていくと草深い森の中に消えており、一人で入ったら自分が遭難してしまうかもしれない。 いったん出直すしかない。ファルスがそう思って遺跡に戻ろうとしたその途中、自分がさっき調べた場所を三人の男が何やら調査をしているのを目撃した。三人のうちの一人、長衣を来て破斬剣を下げたリーダーらしい男がファルスに気づいた。だが、ファルスの存在を特に気にもしないのか、一瞥をくれただけで二人の部下を連れて去っていった。その方向は、ゼロ達の足跡の伸びているほうと同じだった……。 ファルスは大急ぎで遺跡に戻り、さっきの出来事を全員に知らせた。だが、グラーテの改造とカムナの修理、技の修行はまだ終わってはおらず、とても動ける状態ではない。仕方がないのでファルス一人で捜すことにした。 幸いリリーナがツバサビトの隣村に話をつけてくれて、捜索に協力して貰うことができた。リリーナの案内で、まずは隣村にいってみる。ツバサビトの村は森の中の高い木の上にあった。彼らの生活は、翼の先の指先が不器用なために、ほかのケモノビトと比べても原始的なものだ。が、自然から学んだ彼らの文化や知性はむしろ高いほうだった。 隣村の長老は快くファルスを迎え、彼にある若者を紹介した。彼は狩猟の途中、森の中で北の方に進む商隊らしき集団を見たらしい。もし、彼らがこのまま進めば樹界に入ってしまうという……。 ファルスは早速、捜索を開始した。上空を飛ぶリリーナを道しるべに、草をかき分けながら森の中をひたすら進むファルス。途中、半リートも跳びはねる兎に出会いながらも日が暮れるまで捜索を続けた結果、商隊の野営の跡を見つけ、彼らが無事に野営しながら、かつ樹界からは離れていくように森の中を迷走していることまでは突き止めた。 翌日もファルスは捜索を続けた。昨日と同じく、草をかき分けながら森を進む。昨日はまだ、商隊が進んだ方向がわかっていたので手がかりを何とか見つけることができた。だが、今日は勝手が違っていた。何せ、商隊があれからどちらの方向に向かったのか、まるで見当がつかないのだ。 それでもファルスは歩き続けた。やがて、太陽が一番高いときに来たとき、自分の位置を確認のためにリリーナの飛んでいる上空を見る。が、木々の間から青い空が見えるだけだった……。迷った!木乃伊取りが木乃伊、とはまさにこのことだろうか……。ファルスは不安になりながらも森をさまよった。 やがてファルスは森を抜け、開けた場所に出た。そして、そこでファルスが出会ったものは! 「……あ、お帰りなさい。ファルス……」 ……アリスだった。見るとこの場所は、自分たちの今いる遺跡。ぐるぐる回った挙句に結局ここに戻ってきてしまったのだ。ファルスは天に向かって叫んだ。 「がーーーーーーっ!」 そして、たった今修理の終わったカムナにアリスを乗せて再び森の中へと向かっていった。 そのしばらく後に、グラーテの改造がついに完了した。破損していた箇所は完璧に修理され、重装甲化した胸部と肩部、脚部に追加された補助駆動機器により、強度と耐久力、そして機動性が強化された。操兵[ファルメス・グラーテ改]。若き女操兵技師ミオの腕と努力、そして幸運(?)の結晶だった。 一方、アリスとともに捜索を続けるファルスの元に、リリーナが慌てて飛んできた。別の場所を捜索していた隣村の若者たちが商隊を発見した、というのだ。だが、それと同時に悪い知らせも届いた。その商隊のいるところに、巨大な[鉄のケモノ]を従えた集団が向かっているらしいのだ。 ファルスとアリスの知らせを受けた一行は、修行を終えたイーリスとセフィロスを加えて態勢を整えると、大急ぎでその集団の元に向かった。ゼロや商隊を助け、マディとの決着をつけるために……。 |